小逆転!ベレリアンド戦争! ~if キャメロット王国参戦す~ 作:koe1
「くるな・・くるな・・・くるな・・・」
だんだんと近づいてくる音楽を聴きながら、俺はずっと呟いていた。
回りの私が率いている小隊の兵も同じことを呟いている。
「小隊長殿、まずいです。やはりこちらに向かってきています」
頼りになる…いや頼り切っている軍曹が私にそう告げる。
くそ!くそ!くそ!
なんで俺達が当番の時にやってくる!
どうして俺達のところにやってくる!
どうしてだ!!
俺は先日、他の小隊が総軍参謀から直接『指示』・・・命令ではなく『指示』されたという話しを思い出しながら、奴らがルートを変えて別な部隊のところに行くように豊穣の大地に祈り続けた。
先日、ここの守備に当たっていたその時の当番だった別の小隊がエルフィンド軍の軍使から『撤退勧告』なるものを受け取ったそうだ。
で、その内容に総軍参謀達が激怒して『二度と受け取るな!』となったらしいのだが、どうしてか中隊を通さずに直接参謀が『撤退勧告』を受け取ったここにやってきて、たまたまその時に当番に着いていたさらに別な小隊の小隊長に
「総軍作戦部長殿がいたくご立腹だ。以後エルフィンド軍の軍使からの文書は二度と受け取るな」
と『指示』したそうなのだが、その時の士官学校出の小隊長が『軍使の文書は受け取らないのはまずいのでは?』と思い、「もし文書を受け取ってしまったらどうなりますか?」と尋ねると、そのコボルトの参謀はニヤリと笑い「おそらくご立腹されるだろうし、そのせいで部隊の名誉にも傷つくだろう・・・そうなると名誉挽回で敵のもっとも堅い陣地への一番槍をして貰うことになるかもしれんな〜。まぁ冗談だがな」と言って笑いながら去って行ったそうだ。
それからここの陣地とその周辺陣地の守備に就いている俺の小隊も含めた各小隊に話しがすぐに広まった。
何人かの小隊長はそれぞれが所属している中隊に連絡して、師団司令部に本当に軍使がきても追い返してよいのか、文書を受け取らないでよいのかを確認すべきではないか?と主張したが、俺も含めた予備将校の小隊長達は下手に問合せをして作戦部長殿の怒りを買ったらどんな目に遭うかわからないと主張して、そちらの意見が勝り、師団司令部への問合せはしないことにした。
そして白旗と赤星十字社の旗を先頭にしたエルフィンドの軍使達がこちらに・・・俺の小隊の方にやってきた。
俺は向こうが何かを喋り出す前に壕から身を乗り出し
「戻れ!戻らねば射殺する!」と拳銃を片手に持ち警告を発したが、向こうにいる人間族が「待て!捕虜になったお前達の戦友の名簿と家族への手紙を持ってきただけだ!」と言ったので、それならば受け取ってもよいのではないかと一瞬思ったが、それも『文書』だとされたら…。
もし受け取って総軍参謀達の怒りを買ったら・・・と考えると怖くてたまらなかった。
俺は、俺達は一人でも多くの部下達を故郷に連れて帰らなきゃならないんだ!!
そう考えた瞬間、指が勝手に引き金を引いていた。
部下達もそれに釣られて一斉に射撃を開始した。
エルフィンドの軍使一行はすぐに物陰に隠れ、隠れながらも「打つな!捕虜名簿と捕虜の家族宛の手紙を持ってきただけだ!捕虜名簿と手紙だ!!それを渡しに来ただけだ!!打つな!!」とオルクセン語で叫んできたが、無視する。
どんなものであれ、文書は受け取れない!
受け取ってはいけない!
早く戻っていくように祈りながら更に射撃をくわえさせたが、戻って行かない。
そうしている内に白旗と赤星十字社の旗を物陰に隠れたまま振り始めた。
まずい!まずい!まずい!
このままだと受け取る羽目になる!
旗がなくなれば!!旗さえなくなれば!!
「旗を打て!旗を打つんだ!」
俺はそう命令すると、兵達はそれにすぐ従い、白旗と赤星十字社の旗を狙いだした。
隣接する陣地の他の小隊もエルフィンドの軍使が来たと知り、自分達の方に来ないように必死の射撃を始めた。
そうしている内にエルフィンドの奴らはようやく転がるように逃げ帰っていった。
俺は心底安堵した。
そしてこれだけ打っておけば、少なくともここの陣地にはもう二度と来ないだろうとも思った。
キャメロットの参戦並びに海軍主力艦隊である荒海艦隊の壊滅を受け、我が王が一時的にヴィルトシュヴァインにお戻りになられて、各閣僚や有力官僚出席の元で御前会議が開催されている。
海軍最高司令官であるクネルスドルフ大将が、今にも自決しそうな顔で、海軍の新たな防衛計画を我が王を始めとする会議参加者に説明している。
「現状において把握している範囲ですが、キャメロット海軍並びにエルフィンド海軍はネブラス沖海戦(キャメロット・エルフィンド側呼称ベレリアンド半島東方沖海戦)後、艦隊としての活発な活動はしておらず、ベラファスト湾内とファルマリア~タスレン間の航路警戒、ファルマリア防衛支援を重点的におこなっております。しかしネブラス沖海戦の直前にエルフィンド海兵隊がベラファスト湾沿いにある村とリントヴルム岬監視哨を上陸の上で襲撃しております。なので我が国の沿岸警備をより厳重にしないといけない状況ですが、残存している荒海艦隊艦艇は少ない上に、残存各艦ともにベラファスト湾海戦並びネブラス沖海戦にて損傷している艦ばかりとなっています・・・。荒海艦隊所属艦で戦闘力を辛うじて維持しているのは第1水雷艇隊の水雷艇4隻と第11戦隊の砲艦3隻とのみです・・・」
「その砲艦の性能は?」
誰かが質問をした。
「3隻共にコルモラン型砲艦で排水量は750トン。武装は12センチ砲2門、4.7センチ砲2門、魚雷発射管1門、そして衝角です・・・」
我が王を除いた会議参加者からため息が出る。
まともに戦ったのでは二等巡洋艦にも勝てないのではないか?
クネルスドルフ大将は言葉を続ける。
「海軍と致しましては大変に申し訳ありませんが、ファルマリアを占領したとしてもそこに至る航路を維持するのは困難であり、残存戦力全てを我が国の沿岸警備にのみ集中したいと考えております。しかしベレリアント半島の存在とエルフィンド・キャメロット海軍の艦艇が跋扈しているため、西部と東部間の海路での連絡はほぼ不可能と考えております。よって残存艦艇を持って『西部防備隊』と『東部防備隊』に再編成し、『西部防備隊』は西部方面に元から配置していた旧式艦である練習艦や海防艦、そして西部方面の港に帰港していた補助巡洋艦を主力として編制致します。なおその際、練習艦は武装を強化した上で海防艦と致します。『東部防備隊』は第1水雷艇隊と第11戦隊、東部の港に帰港した補助巡洋艦を主力と致します・・・。戦力再建と致しましては損傷艦の修理を急がせ、新型装甲艦を始めとする建造中艦艇の工事を促進以外にはない状況です・・・」
そう言ってクネルスドルフ大将は席に座ったが、もう体力気力共に使い切ったという表情をされていた。
つまり陸軍が定めた占領したファルマリアに物資を本国より海上輸送し、そこを第一軍の策源地とするという戦争計画は崩壊したと言うことだ。
次は陸軍の侵攻状況についての報告だった。
とはいえ陸軍も状況は良くない。
第一軍はファルマリア攻略に主として政治的理由で手間取っている。
なにせ周辺から逃げ込んだ避難民やファルマリア市民に犠牲がでれば、また虐殺と決めつけられるだろう。
なので一般市民が避難しきったあとに攻撃を開始する方針だという。
それに先ほどクネルスドルフ大将が説明した通り、早期に占領しても海上輸送がほぼ不可能な状況では無理に早期占領しても意味はないと判断されて、北方の警戒並びに包囲、そして嫌がらせ的な攻撃のみを実施しているとのこと。
そしてその時間を利用してシルヴァン河の渡河点に浮橋だけではなく、木製仮設の軌間720ミリの軽便鉄道用橋梁を建設中とのことだった。
先日のような嵐が来ると浮橋同様に保たないとのことだが、少しでも補給状況を良くするために致し方ないと判断しているのと説明だった。
続いて第三軍の方はモーリア攻略時に鉄道橋を破壊され、2本ある一般橋梁も1本が一部損傷して通行量が落ちているとのこと。
鉄道橋に関しては橋脚は無事なので、早期復旧が可能だと工兵隊はみていたそうだが、鉄道技師がやってくると、落下している橋桁の撤去もしくは再利用だけでもかなりかかると言われ、関係各所と検討した結果、落下した橋桁は撤去し、国内の鉄道橋から桁長のあう橋を見つけてきて移設したほうが良いのでは?移設元には木製の仮橋を架け直せばという意見も出たそうだが、エルフィンドの橋梁はヤードポンド法で建設されており、メートル法の我が国の鉄道橋梁とは桁長が合わないことがわかり断念され、落下した橋桁の修理再利用の方向になっているとのこと。
そして一部が損傷した一般橋は間もなく修理が完了するとのことだった。
最後の第二軍だけがほぼ計画通りで侵攻しているとのことだったが、突出しすぎると危険なため、侵攻速度を緩めているとのことだった。
会議は続いて『モーリアの虐殺』の件になった。
第三軍の報告と陸軍省と外務省、法務省、赤星十字社の合同調査団により、確かに市内に誤射だと言い張るには少々多い砲撃と市民の被害があったことが確認された。
そして同時に確かに『モーリアの城壁内』には軍事施設がないことが判明したが、やはり『内包』をどう解釈するかで私達ですら意見が分かれている。
そもそもモーリア市は現役の防備施設も兼ねている城壁に囲まれており、市域そのものが軍事施設と解釈できると軍は主張するが、そうなると我がオルクセンでも、軍事施設はないが城壁をいまだ有している都市も『軍事施設』と解釈されてしまうので、最悪な未来的なこと考慮し、法務省と内務省は猛反対している。
もっともこの辺はまずは法学者達の領域であるし、それ以前に不明瞭なままにしておくのが良いという意見すらある。
なので現状では報告にとどまっていて、どう対処すべきかまでの妙案は誰からも出てこない。
『不幸な誤射による悲しい犠牲』と言いなるしかないのではないか?というのが私の考えだが。
続いての議題は『ファルマリアの虐殺』こと『キャメロット艦誤射疑惑』となった。
しかし現状に至っても未だに誤射自体を確認ができない事項となっているので、報告のみとなっている。
それ以外に関してはファルマリア占領後に沈底している『リョースタ型』2隻の潜水調査を実施するということが伝えられた程度にとどまった。
続いてキャメロット軍の動向について概略的なものが報告されたが、陸軍はようやく動員令が下令されたとのことで、未だにベレリアンド半島にはやってきていないとのこと。
ただし即応性が高い海兵隊はファルマリアに増援部隊を送っているらしいとのことだが、規模等は未だ不明とのこと。
艦隊に関しては先ほどクネルスドルフ大将が報告した通りだが、キャメロット海軍は現役艦艇をさらに増強しようとしているのとことで、なんとも言えない空気が漂う。
そして最後の議題が第一軍から報告のあった、あのおぞましい『レラーズの森事件』についてだが、現状の判明している状況で大々的に発表することに関して私は明瞭に反対した。
「ビューロー、なぜだ?」
我が王が御下問された。
私は立ち上がり口を開いた。
「現状で判明していることを発表したとしても、諸外国は『モーリアの虐殺』と『ファルマリアの虐殺』ことファルマリア誤射疑惑に対抗して発表したと思われかねず、事件が矮小化される危険があります。現場の調査をさらに進め、確たる物証が蓄積した時点で大々的に発表すべきかと。とはいえ全く発表しないこと自体も危険であり、まずは『墓地以外の場所にて死因不明の大量の闇エルフ達の遺体が発見された』に発表は留めるべきかと。なお、私が直接闇エルフ族長であるアンダリエル少将殿にはこの件に関する謝罪文をしたためさせて頂きます」
そう言って着席すると、我が王は
「ビューロー、アンダリエル少将をはじめとする闇エルフ達への謝罪文は私が書く。決断するのは私だ。ならば私が責任を取る」
と仰った。
我が王よ…
周りから激しい射撃音がする。
うちの装甲帯巡洋艦から上げている『海軍実験気球小隊』の気球をオルクセンの大鷲族とそれに乗っているコボルト族が撃ち落とそうとまとわりついてライフルでガス袋を狙って射撃しているが、ガス袋はバカでかいのになかなか当たらない。
港や他の艦から、かなりの対空射撃を加えているので射撃に集中できないというのもあるんだろうな。
『対空射撃諸元』はかなり有効で、未だに飛来する大鷲族に対しても、最近は落とせていないが行動を妨害するには十分といえる効果をあげているようで、今では飛んできてもかなりの高さにいる。
最初のうちは上の連中はなんとかしようと考えていたらしいが、『海軍実験気球小隊』の連中がやってきたとき、空高く飛ぶ大鷲族をみて
「あの高さでは望遠鏡を使っても地上が小さくて観測しにくいのではないか?」
と言ってからは、専門家の言葉を信じてかなりの高さのときは無視するようになった。
そしてその気球小隊の連中は、こちらも向こう側を覗く為にやってきたのだが、港や街から上げると間違いなく砲撃で吹き飛ばされるということで、オルクセン側が設置していると推定される重砲の射程外と推測された水域に係留した装甲帯巡洋艦から上げることとなった。
元から艦上から上げるのを前提としている気球だったそうなので、艦の上からでも問題なく上がり、オルクセン側からの砲撃もなかったのだが、問題は300フィート(約91m)の高さにいる気球と地上や艦上との通信だった。
勿論、気球には反射式発行信号器や喇叭、メガホン等を積んではいるが、距離がある地上はおろか、係留している艦との連絡さえも、予想通りにいま一歩という演習でも導き出された結果だったそうだ。
気球小隊の連中は、やはり何とかして気球に電信を積み込むしかないのでは?と考え始めたとき、高度判断の参考にと気球を観ていた"Eagle killer"のキザ歯そばかすのじょーちゃんが下との通信に四苦八苦しているの様子を観て「私達を乗せればいいのに。人間族はクソ」と言ったのを、たまたまアブール語がわかる親善交換訪問艦隊の生き残りの士官が聞きつけ、キザ歯そばかすの元に行き『今のはどおいう意味だ!?』と、もしかしてなにか他の通信方法があるのか?と思い、聞き出そうとしたらしいんだが、キザ歯そばかすや周りで一緒に気球を見ていた『特設対空射撃隊』のエルフィンド兵達は当然『めっちゃ叱られる!』と思ったらしく、誤魔化そうするが士官は何とか聞き出そうとする。
なので話が進まない。
だがどうもキャメロット士官の様子がおかしいとエルフィンド軍の伍長が気が付き、キャメロット士官は叱るためではなく、純粋に他の通信方法があるのか知りたかっただけどわかり、魔法について教えたらしい。
で、その魔法とやらはなんと白エルフは誰でも使えて、1と1/2マイル(約2.4㎞)もの距離で他のエルフと会話することができ、さらにその倍ぐらいの距離でその魔法で喋っている奴がいることがわかるという。
その士官はすぐに気球小隊の連中にそのことを伝え、気球小隊の連中は派遣部隊司令部を通してエルフィンド軍に協力を要請。
エルフィンド側としては誰でも使えることなので適当な兵を6名ほど派遣して、気球小隊は気球に白エルフも1人乗せて、他の白エルフは船の上や港や街に中継役として配置してから観測情報の伝達実験を開始。
その結果は気球小隊の連中が「今まで俺たちがやってきたことは…」と頭を抱えるほどの効果だったと、その気球小隊の変わり者で有名な、俺の同期だった小隊長が頭を抱えたまま言っていた。
だがその白エルフを乗せた実験開始からオルクセン軍の連中の気球への興味が『無視』から『大鷲族のライバル』に変わったらしく、気球を撃ち落とそうと躍起になった。
どうも魔法で覗き見を伝えられるのがよほど嫌なようだ。
つまりそれほどの効果があると。
最初はこちらから観測できない位置に据え付けた重砲で砲撃し、装甲帯巡洋艦ごと沈めようとしたが射程圏外で何発か打った後に断念したようで砲撃はやんだ。
そして次の手が、大鷲族とその背中に乗ったコボルト族による襲撃だ。
とはいっても、既に『対空射撃諸元』はファルマリアの印刷所に缶詰やキャメロット通貨での支払いで印刷をお願いしたら、店じまい前の最後の大仕事ということで張り切って大量印刷してくれ、地上部隊や艦艇にも配布済み。
相変わらず高度判定が問題として残っているそうだがそれでも効果は高いようで、その証拠が俺が乗っているボートに繋いである結び目を沢山付けたロープを嘴で加えて沈まないようにしている打ち落された大鷲族と、別なボートに大鷲族の背中から乗り移ろうとしているコボルト族だ。
奴ら2羽で襲撃しに来やがったが、砲撃の次は大鷲族で攻撃するのではと予想したエルフィンド側が、一部艦艇を装甲帯巡洋艦の近くに移動させたところそれが的中。
水兵達の射撃で1羽目はすぐに落とされて海に。
溺れている大鷲族という貴重なものを見て大笑いしてから、助けないと!と気が付き、慌てて周りにいた連中に声をかけ、俺自ら救助のボートを出し、大鷲族が溺れ死ぬ寸前だったところに咥えやすいように結び目をつけていたロープを投げ、それを大鷲族が何とか咥えて溺死は免れた状態。
そしてもう1羽はまだ飛んでいるが、銃弾を回避するために激しく飛びながらの状態で背中に乗っているコボルト族がライフル銃に弾を装填したり、狙いを定めるのは大変なようで、まだ3発しか打っていない。
そして肝心の気球は間もなく巻き上げが完了し、装甲帯巡洋艦の甲板に到着寸前。
そろそろ諦めるかなと思っていたらやはり断念したようで、飛び去って行った。
戦争は本当にクソだな…。
俺はあと1日もあれば終わる避難民輸送と飛んでいく大鷲族を見ながら、唐突にそう思った。
なぜそう思ったのかはわからないが。
軍使射撃事件の真相が明らかに。