とある転生者、2周目   作:kotedan50

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かつて、伊地知潔高の双子の妹に生まれた転生者。
兄のなり代わり人生を歩んでいたが、渋谷事変を以降の悲劇を発生させないため、
最終的に夏油につき高専を裏切った。

夏油の死体と共に焼身自殺をして生涯を終え、北に向かった彼女。
新しい自分はどんな自分だろうか

if 転生者、百鬼夜行に参加する https://syosetu.org/novel/408095/47.html からの分岐。

・伊地知ポジション成り代わり(伊地知の双子の妹)だった転生者、まさかの2周目
・オリキャラ出ます
・激しい捏造、妄想含みます
・ネタまみれです


転生者、2周目開始に慄く

高専を裏切った。

──そう見えた。別にそれでいい。

実際、裏切っている。

 

百鬼夜行の宣言があった日、私は高専を離れ、夏油傑の傍に立った。

あの時の皆の表情は、あえて見なかった。

というか、見れなかった。

誰も知らない。誰にも、分かるはずがない。

私の目的は、ただひとつ。

 

『羂索に、夏油の死体を渡さないこと』

 

原作では、五条が夏油の亡骸を処理したことになっているが、

おそらく呪術的な処置は何もしていない。ただ、静かに──あの人なりに、丁寧に弔っただけ。

その結果が、最悪の未来だ。

 

最悪の未来──渋谷事変──

その遠因は、夏油傑の死体が悪用されることにある。

夏油傑の姿を利用して五条悟は封印され、

渋谷の地にて特級呪霊と宿儺が暴れ、七海や大勢の一般人が死亡する。

夜蛾も渋谷事変は生き残ったが、結果としてはそれが遠因で死んだ。

夏油傑の呪霊操術により、取り込まれた真人の無為転変で、さらなる混沌をもたらされ──

そして、死滅回遊が幕をあける。

 

夏油傑の死体を家入に任せていれば…

あるいは五条悟がしっかりと、呪術的に処置を施してから埋葬すれば…

たらればでしかないが、その時点で介入できればしたかった。

だが、 同期の家入の忠告すら聞かない彼が、私の進言など耳を傾けるわけがない。

 

私は、五条とは仲が良かった。けれど、それだけだ。

私は、術師としての力がなかった。

ただの補助監督で、いくら親しくしてもらっていても──

こういう時、私の言葉には何の重みも、説得力もなかった。

 

だったら、手段は一つ。

高専を裏切り、最悪の呪詛師・夏油傑に付くこと。

高専側にいる限り、あの死体には触れられない。

ゆえに、私は高専を──五条を裏切った。

 

夏油と共に戦場に立ち、かつての生徒たちを傷つけた。

宝石を使えば、意外と私でも戦える。

壁に叩きつけられて呻いているパンダと狗巻を見下ろしながら

 

……ああ、私、意外とやれるな。

 

とぼんやり考えた自分がいた。

夏油も認める強さだった。

──効率厨の五条らしくない。

なんで、私を補助監督にして、第一線から退かせたんだろう?

これ以上考えてはいけない気がして、思考を中断した。

 

その後に見たのは、どこかの怪獣映画やアニメじみた──

夏油と乙骨の、呪術バトル。

純愛と大義がぶつかり合い、周囲を巻き込んでいく戦場を前にして、ドン引きする。

特級って怖い。やっぱこいつらバケモンだわ。

荒れ果てた高専の様子を見て、もう関係ないのに補助監督時代の気持ちを思い出して胃が痛む。

これは事後処理が色々と大変だぞ………

 

その後、夏油を探し出し、肩を貸して歩いてる最中に五条と出会った。

はい、これで詰み。

私も夏油も、もう抵抗する気はなかった。

原作と同じように、二人きりの最後の会話をしてもらうため、

私は少し離れた場所で、慣れないタバコに火をつけた。

 

その煙の味が、最高に美味かった。

ほぼ私の狙い通りの結果に、笑いが止まらなかった。

 

そして──

 

五条悟本人と、術式と呪力だけを弾く結界。

咥えていたタバコを地面に落とした瞬間、それは発動した。

 

そのまま、私は五条の目の前で、夏油傑の死体を焼却する。

 

青く燃え上がる宝石の炎が、静かに、確実に、夏油の身体を包み込む。

六眼の彼には見えるはずだ。炎の中に張り巡らされた、緻密な術式の構造が。

ただの火葬ではない。“この世から消し去る”ための火だ。

 

手も足も出せないまま、五条はその場で立ち尽くす──はずだった。

 

彼は“筋力&呪力ゴリラ”だった。

 

縛りによって対五条仕様に強化された結界を、拳でぶん殴る。

それだけで結界を破壊しかけた。

無造作なその行動、自分のスペックだけでそれ。

 

……マジで勘弁してほしい。

 

自分自身のスペックの低さが嫌になる。

ため息をつきながら、私は最後の手段を使う。

自分自身の命を“縛り”に加え、結界の防御を更に強化した。

 

炎は、夏油だけでなく、私の足元にも広がっていた。

自分の身体が、静かに壊れていくのが分かる。

 

五条が、悲鳴のような声をあげた。

 

あの彼が、そんな声を出すなんて。

「やめろ!」と、まるですがるように叫んでいた。

切羽詰まったあの表情──忘れられそうにない。

そんな顔をさせてしまったことに、少しだけ、申し訳なさを覚えた。

 

けれど、もう、これで全部終わる。

私の存在も、私の罪も、未来の地獄も。

 

かつて五条から貰ったスターサファイアを投げ返し、私がもうやることは何もない。

両面宿儺の指の動向には、常に注意して。

そして──額に横一文字の傷を持つ人間は、敵だ。

迷うな。即座に脳を破壊しろ。

 

最後にそれだけを伝えた。

 

私は一言も言い訳をせず、

五条の悲痛な叫びに、背を向ける。

 

静かに、誰にも知られず──

ただの“裏切り者”として、燃え尽きた。

 

青い炎に包まれて。

 

 


 

 

気がつくと、私は巨大な空港のターミナルに立っていた。

 

どこかで見たような気がする。けれど、はっきりとは思い出せない。

記憶のどこかに、あるようなないような。とにかく現実味が薄い。

 

ガラス張りの窓の外には、驚くほど綺麗な青空が広がっていた。

雲ひとつない澄んだ空。

 

「……なるほど!死後の世界!」

 

納得がいきポンっと手を叩く。

なるほど私も空港 (ここ)に来るのか。

転生者のイレギュラーだから、関係ないと思い込んでた。

 

それにいても、周りを見回しても誰もいない。

無人の空港って不気味だ。

でも『人のざわめき』が聞こえる。

足音、荷物を引くキャリーの音とかきこえるのに、人っこ一人いない。

 

「うーん、よくわからないな」

 

とりあえず、近くの自販機でお茶を買い、ベンチに腰掛ける。

ちびちびお茶を飲んでいると

 

「や?さっきぶりだね」

 

声をかけられて見上げると、夏油傑がいた。

 

「あ、はいお疲れ様です」

「君、相変わらずだね……」

 

呆れたように苦笑しながら私の隣に座る夏油。

彼も近くの自販機で買ったらしいコーヒーを飲み始めた。

うん、色々と言いたいことはあるが先ずはこれから。

 

「夏油さん、なんで高専の制服なんですか?」

「君もそうなってるよ」

「え?は?ちょっと待ってください。アラサーで制服はきついですって!!」

 

パンツスーツだったはずの装いが、いつの間にか高専時代のパンツ型学ランに変わっていた。

まるでタイムスリップでもしたかのように、すっかり十代当時の格好だ。

見た目は問題なくてもメンタルがついていかない。落ち着かない。

その様子を見て呆れたような夏油。

 

「ほんと、君緊張感ないよね。ここどこかわかってるの?」

「え?死んだんでしょう?慌てたってしょうがないじゃないですか」

「…………君もそういえば呪術師でイカれてたんだったね」

 

私のこと舐めすぎじゃないですかね?

そう思って軽く睨むとクスッと笑われ、頭をくしゃくしゃと撫でられた。

あーこの人女たらしだったわと思いながら手を引っぺがす。

 

「酷いな。悟には好き勝手させてただろう?」

「アレはめんどくさいから放置してただけです」

「悟が聞いたら泣くよ」

「どうでもいいです」

 

ポンポンと穏やかに会話する。

そういや高専時代も、車移動で手持ちぶたさな時など、こうして話付き合ってくれたっけ。

あの時は離反直前で精神が疲れてただろうに、優しい人だったなと思い出す。

 

「んで、何を話したいんです?」

 

この人とはそれなりの付き合いだった。それなりの。

私が高専1年の9月には、呪詛師落ちして高専からいなくなってしまったし、

ほんの半年弱の付き合いしかないのだ。

死んでから顔を合わせるほど、親しくはなかったつもりだ

 

「冷たいね。私は結構君のこと買ってたんだよ?」

「呪力だけの術式なしの猿側ですよ私は」

「はは…手厳しいね」

 

私の辛辣な返しに困ったように笑う。

私が知っている学生時代の夏油の笑い方だ。

ここ1ヶ月ほど行動を共にしてたけど、この笑いは出なかったなと思いだす。

死んだことで、夏油もスッキリしたのかな。原作でもそうだったし。

ぼんやり考えつつも会話は続く。

 

「でも非術師じゃない。

高専時代は君のことは雑魚と思ってたけど、嫌いじゃなかったよ」

 

あまりにもハッキリいうもんだから嫌味にすら感じない。

これだから真面目系クズは。

 

「実際は強かったし。悟と君に騙されてたよ」

「いや、騙されたって……」

 

反射的に返すと、

 

「だってそうじゃないか!」

 

重ねて投げつけられたその大声に、思わずびくりと肩を震わせて振り返る。

 

「灰原先輩……」

 

その名前が口からこぼれ落ちた。

 

懐かしい顔が、そこにあった。

あの頃のままの太陽のような笑顔で、まっすぐこちらを見ている。

記憶の中にしかいないと思っていた人が、今、目の前に立っている。

頭が追いつかなくて、思わず涙が滲んだ。

呆然としたまま、ただ見つめてしまう。

 

そんな私を見て、横で立っていた夏油がふてくされたように肩を落とし、ぼやく。

 

「………私の時と反応が丸っきり違うじゃないか……」

 

不機嫌そうに視線をそらすその仕草が、やけに子どもっぽくて笑いそうになる。

だが──悪いけれど、呪詛師堕ちしたバカと、私が青春を過ごした、まぶしいままの先輩とでは、さすがに話が違う。

勝負にならない。

 

袖でそっと目元を拭って、涙の痕を消しながら一礼する。

 

「お久しぶりです、灰原先輩」

「うん、久しぶり伊地知! 死んだ後だけど、元気そうでよかった!」

 

いつも通りの明るさでそう言って笑う先輩に、思わずこちらも笑ってしまう。

変わらない。

この人は、あの頃のままの“灰原先輩”だった。

 

「んで、さっきの話に戻すね!」

 

ぐいっと私の顔の前に身を乗り出してくる。懐かしい距離感だ。

 

「伊地知は、五条さんと内緒事が多すぎ!実はそこそこ強いのも隠してたし。

ずっとイチャイチャしてたじゃないか」

「イチャイチャ???どこが?」

 

本気で意味がわからず、思わず困惑してしまう。

なんならセルフ無量空処を喰らったみたいな混乱だ。

 

「伊地知の強さ隠してたでしょ。宝石の件は、二人の秘密だったでしょ?」

「あれは……身バレするとマズいという判断だったので……」

 

言い訳じみた声で弁明するが、灰原はまったく納得していないようだった。

 

「他にも、五条さんと伊地知、ツーカーすぎて、ほぼ二人で全部解決してたじゃないか。

仕事も、プライベートも、何でもかんでも伊地知にぶん投げてたでしょ? 五条さん」

 

さすがに否定できず、少しだけうなずく。

 

「あー、そうですね。あの人、効率厨だから……私が早いと思ったら、だいたい私でしたね」

「いや、ほぼ全部伊地知に投げてたよ」

 

他の人に振られた仕事がどれくらいあるのか、私の方では把握できないからな………

──でも、たしかに、信頼されてた、ってことなのかもしれない。

けれどそれを「イチャイチャ」と言われると、なんだか違う気がするけど。

 

「伊地知の部屋で、五条さんくつろいでたけど、本当に心の底から落ち着いてたみたいだよ。

自室にいるより落ち着いているように見えたよ!」

「いや、知らんがな」

 

苦笑しながら答える。

自分が見ていない時間帯のことなんて、知らないし、わかるはずもない。

そもそも、他人の部屋でのくつろぎ方の違いなんて、比べたこともない。

ん?さっきからなんで灰原は知ってるんだろう?

 

「ほら、アレ見てよ」

 

不思議に思った私を察したのか、灰原が指を刺す。

その方へ視線を向けると、さっきまで、何の変哲もない風景を映していたテレビが、

いつの間にか違う映像へと切り替わっていた。

 

画面に映っていたのは──五条だった。

 

見慣れた室内。あれは、おそらく五条の執務室だ。

無機質で広すぎる空間に、ぽつんと置かれた高い背もたれの椅子に、珍しく六眼を晒した彼が静かに座っている。

 

彼は、ただ黙っていた。

何も言わず、何もせず、

大きな手のひらの上に置かれた、小さな黒い宝石箱を開いて見つめている。

 

そこにあるのは、私が最後に遺した──スターブルーサファイア。

映像の中の彼は、一言も発さず、ただあの宝石に視線を落とし続けている。

思わず、呼吸が止まりそうになった。

 

「……………………」

 

目を逸らせずにいると、隣から、灰原の静かな声が落ちてきた。

 

「五条さんね、暇があればああして、伊地知が残した宝石を見てるんだ」

 

ぽつり、と。

 

「伊地知が全部燃やしちゃったから、形がある物で残ったの、アレだけだから」

 

自分で決めて、実行して、それで終わったと思っていた。

燃やして、消して、それで消えるのは物体だけだ。

記憶も感情も、たぶん五条の中では何一つ消えていなかった。

それを突きつけられた気がした。

 

「……ねぇ、なんで高専、裏切ったの?」

 

その問いに重なるようにして、

画面の中──五条の執務室のドアがノックされた。

 

その音と共に、映像の彼がふっと顔を上げる。

 

さっきまで宝石箱に注いでいた静かな眼差しが、

一瞬で、いつもの軽薄な仮面へと切り替わった。

 

黒い宝石箱を内ポケットにしまい、さっと包帯を巻く仕草は、あまりにも自然で、

それが彼にとって“日常”になってしまっていることを物語っていた。

 

数秒後、扉が開く。

乙骨が一人、部屋の中に入って来た。

五条はいつもの様子で、声をかける。

飄々としていて、軽い笑顔で。

 

それを見届けてから、

私はそっと息を吐いて、映像の五条から目を逸らした。

 


 

深く、肺の奥までため息を吐いてから、ようやく口を開く。

 

「……みんなには黙ってましたけど、私にはちょっとした未来視があります」

 

静かな告白に、少しの間だけ沈黙が落ちた。

 

「──あぁ、やっぱり」

 

そう言ったのは夏油だった。

驚いて視線を向けると、彼は淡く笑いながら続ける。

 

「東京駅でもらった物が、あまりにもピンポイント過ぎたよ。特に……バレッタとお守り」

 

言いながら、どこか懐かしむような目をしていた。

あの頃、逃亡者として生きる彼らに手渡した、いくつかの小物。

 

「……正直、助かったよ。ありがとう」

 

夏油の口からこぼれたその一言に、胸がわずかに揺れる。

 

あの時渡したものは、本当に小さな効果しかなかった。

極端に効果が大きなものは、呪詛師落ちした夏油には渡せないし、他の人にバレたら大変だった。

ただの宝石の欠片──

それでも、心を少しでも和らげるよう、願いを込めて呪力を注いだものだった。

 

小さな、本当に小さな心の安らぎ。もっても1、2年で効果が切れてしまうほどの力。

呪詛師として追われ、隠れて生きるしかなかった彼らにとって、少しでも“人間らしさ”を保てるようにと願った、せめてもの気休め。

 

「本当は……呪詛師落ちする前に渡したかったんですけどね」

 

唇が震えるのを感じながら、それでも言葉を紡ぐ。

 

「すべてが後手に回って……灰原先輩の時も、間に合いませんでした。すみません」

 

言いながら俯くと、やはり胸の奥がズクっと痛んだ。

 

「あやまることはないよ」

 

不意に、優しい声がかけられる。

 

顔を上げると、灰原が笑っていた。

あの頃と変わらない、太陽のような笑顔。

 

「伊地知は、自分がやれる精一杯のことやったじゃないか」

 

「……はい」

 

胸の奥が、じんと熱くなる。

涙腺がゆるみそうになって、ぐっと堪えた。

ずっと溜まっていた何かが、じわりとほどけていくような気がした。

 

灰原の言葉は、あまりにさっぱりしていて──だからこそ、余計に心に刺さる。

泣かせにくるのは、やめてほしい。本当に。

 

ここまで言われたら、私も──精一杯、やらなければならない。

グッと手のひらを握りしめ、気合いを込めて、言葉を絞り出す。

 

「私が高専を、五条さんを裏切ったのは──貴方が原因ですよ。夏油さん」

 

一瞬、灰原が小さく息を呑む音がした。

その横で、夏油もゆっくりと目を細める。

 

「……私が?」

 

「ええ、正確には貴方の死体がです」

 

正直、夏油にとっては酷な話だと思う。

けれど──この話は、伝えずにはいられなかった。

 

ゆっくりと語り始める。

 

夏油の遺体を、五条がおそらく呪術的な処理をせずに埋葬したこと。

その結果、羂索に奪われたこと。

脳を入れ替える術式を使い、千年以上も暗躍してきた呪詛師──それが羂索という存在。

 

その羂索が目論んだのは、日本人総呪霊化という意味のわからないこと。

そしてハロウィン、渋谷で起きた呪術テロ。

あの戦いで五条が封印され、七海と夜蛾が命を落としたこと。

 

死滅回游の開幕。

日本全国の結界内で、術師たちの殺し合いが始まったこと。

死滅回游の最中、五条をなんとか復活させたこと。

けれど──

 

12月24日、新宿での最終決戦。

両面宿儺との戦いで、五条は──命を落としたこと。

 

残されたメンバーで、必死に戦って、なんとか宿儺と羂索を打ち倒したこと。

だが、代償はあまりにも大きく──

 

残ったのは、壊滅した東京と、日本全体に溢れた呪霊たち。

崩壊した呪術界の仕組み。

それでも、五条が命を懸けて育て守った“若くて聡い世代”だけは、確かに残った。

 

希望は……たしかに、あった。

でも、それにしても──あんまりだ。

 

「だから、私は……夏油さんあなたの死体を確実に処理するために、

高専を、そして──五条さんを裏切ったんです」

 

口にしてしまえば戻れない。

でも、ここまで言っておいて──もし“未来視”が信じてもらえなかったら、

全部が茶番じゃないか。

 

いや、そもそも。

未来視? 死体の処理? 五条悟を裏切った?

……どう考えても、ただの危ない人じゃないか、私。

 

ふと我に返って、一気に不安が押し寄せる。

静かに焦りながら、恐る恐る視線を二人に向けた。

 

──夏油も、灰原も、沈黙したまま。

 

まるで苦虫を噛み潰したような顔で、こちらを見ていた。

ただ……真剣に、この現実離れした話を受け止めようとしている。

 

「……あの、嘘くさいとか、与太話だとか……思わないんですか?」

 

その問いに、先に口を開いたのは灰原だった。

 

「……真面目な伊地知が、命をかけてまで、こんなくだらない嘘を言うわけない」

 

続けて、夏油が静かに言った。

 

「……あの伊地知が、悟を裏切った理由に納得がいったよ。

そして君ならこんな手段を取ることだろうことも」

 

その言葉を聞いた瞬間。

胸の奥が、きゅっと締めつけられるように熱くなる。

ほんの少しだけ、救われた気がした。

 

「……それにしても酷いな」

 

夏油が少しだけ肩をすくめた。

 

「伊地知は私についてきてくれたと思ったのに、私の死体(からだ)が目当てだったんだね

私の死に待ちとか酷いじゃないか」

 

「……ええ。言い方に問題はありますが、その通りですね。否定しません。」

 

あっさりと肯定する私に、灰原が小さく笑って、それから溜息をつく。

 

「それにしても伊地知……やり方が、ちょっとエグすぎるよ。

なんか……五条さん、可哀想すぎるっていうか……」

 

言われた瞬間、胸の奥がちくりと痛んだ。

ああ、やっぱりそう思うよね。いや、当たり前なんだけど。

 

私はそれを受け止めるように、ふっと目を伏せて呟いた。

 

「……ですよね」

 

ほんの一瞬だけ、視線を空に投げた。

どこまでも透き通る、死後の中継地点の空。

どんなに弁解しても、どれだけ理由があっても──

 

“裏切り”は、“裏切り”だ。

 

──私は、もう決めていた。

私はゆっくりとベンチから立ち上がる。

 

「伊地知?」

 

夏油が訝しげに呼び止める声に、私は小さく振り返った。

 

「私、もう行きますね」

「え、五条さん待たないの!?」

 

慌てたように言う灰原に、私はかすかに笑って首を振る。

 

「……会わせる顔がないですから、五条さんには」

 

自嘲のように笑って、視線を逸らす。

 

「伊地知はここに来なかった。見てない、何も知らない。

たぶん、もう先に一人で行った──そう誤魔化しておいてください」

 

そう言って、微笑んだ“つもり”だった。

けれど、口元がうまく動いていたかは、わからない。

 

「伊地知、待って。せめて……少しだけでも」

「そうだよ。伊地知。悟と一目だけでも」

 

灰原が立ち上がり、手を伸ばす。

その横で、夏油もそれに続く。

 

私は、それには返事をせず、ただ一歩、彼らから離れる。

彼らの声が、急速に遠ざかっていく。

視界からも、その姿がすうっと消えていった。

 

──ああ、なるほど。

だから人の気配はするのに、人の姿は見えないのか。

 

もう彼らの姿は見えない。

私が、彼らとの“縁”を拒絶したからだ。

 

──そのとき、遠くから電子音とアナウンスが響いた。

 

「お呼び出しします。7番ゲート・North行き、イジチ・キヨノ様。お急ぎください」

 

あまりにもタイミングが良すぎて、少しだけ笑ってしまいそうになる。

どうやら、私の“搭乗”が始まったらしい。

 

目的のゲートへ歩き出しながら、思う。

 

やっぱり私、この世界じゃない場所へ行くんだ。

 

ターミナル駅の改札内にある、小さな駅ナカカフェ。

夏油と組んだ、あの午後から。

すべては、もう決まっていたのだ。

 

さよなら、夏油さん。灰原先輩

 

心の中でだけ、そう呟いて──私は、ゲートをくぐり、飛行機へと乗り込んだ。

 

ゆったりとしたシートに身体を預けながら、新しい自分のことを考える。

今度はどんな風に生きよう。

どうせなら、次も女がいい。

そして、もう少し、派手な見た目になりたいな。

できれば、スタイルも良くなりたい。

あ、でも頭の回転は今のままがいい。伊地知潔高なり代わりのこの頭は実に優秀だった!

 

そんな、贅沢すぎる未来のことをぼんやりと考えていると、

飛行機が動き出し、その小さな揺れに身を任せるように──

意識が、真っ白に、静かに溶けていった。

 

 

 


 

 

 

私は双子の兄と家の中で無邪気に追いかけっこをしていた。

兄が鬼の番だ。捕まりたくない!

広い我が家を存分に使って、1階から2階へと駆け上がり、子供部屋へキャッキャと駆け込む。

 

──瞬間、子供部屋に転がっていたレゴブロックを踏みつけて、悲鳴をあげた。

レゴブロックを踏んだことがある人いる?

いたらわかると思うがアレ、かなり痛いんだよ。

金玉はないけど、たぶん金玉を蹴られたくらいの痛みなんじゃない?知らんけど。

 

────アレ?なんでそんなこと知ってるんだ?

 

そう思った瞬間流れ込む、かつて存在した記憶。

 

伊地知潔高の妹として生まれたこと。

呪力がない一般人に生まれた兄に変わり、高専に入学したこと。

五条に目をつけられ可愛がられ、なんだかんだとよくしてもらったこと。

そして、その五条を裏切り、死んだこと。

 

情報量に頭を抑えてしゃがみ込む。

最悪だ……なんで思い出しちゃったんだよ。思わず涙が浮かんだ。

 

レゴブロックを踏んで悲鳴をあげた瞬間までは、部屋の入り口で笑って見ていた兄。

私の様子がおかしいことに気がつき、慌てて駆け寄る。

が、彼もレゴブロックの犠牲になった。レゴブロック最強伝説。

痛みに悶絶していた兄の顔を覗き込むと、涙浮かべた翠の瞳と視線が重なる。

と、いきなり頭を抱え始める。

次第に表情が消え、チベットスナギツネのような無表情になった。

 

「…….きよの…潔乃?」

 

私の名前を繰り返し、呼ぶ兄の顔を見つめる。

兄は私と同じ、金髪翠眼の天使のような可愛らしい顔をしている。

母方の祖父はデンマーク人。

我が家の苗字は七海……

 

——あ、やべ。

 

「伊地知潔乃?」

 

兄はポツリと名前を呟いたあと、子供らしくない鋭い表情になる。

あ、これは記憶ある奴!

かつての前世のフルネームを聞いた瞬間、慌てて逃げようと身を翻した。

 

「ぐえ!!!!!!」

 

が、襟首を掴まれて引き戻された。

四歳児相手に容赦なさすぎる!!

 

「そういう反応をするということは、あなたも記憶がありますよね? 伊地知さん」

 

潰れたカエルのような呻き声をあげる私を、兄が見下ろす。

天使みたいに可愛い顔をしてるのに、口調はどう聞いても四歳児じゃない。

それどころか、そこにいたのは──かつて私が裏切った1級術師、七海建人その人だった。

 

今度は七海の妹かよ!?

心の中で大絶叫する。嘘だろ……!? 二周目とか聞いてないんですけど!!

 

「説明、していただけますか?」

 

声は可愛らしい子供、見た目も可愛らしい子供。

でも中身は“前世記憶持ちの七海建人”。

──こんなん無理ゲーでしかないだろ。

 

キャパオーバーした私は、意識が遠のくのを感じた。

兄──いや、七海建人が再び慌てる声が聞こえる。

その声を背に、私はゆっくりと意識を沈めていく。

 

……次に目が覚めたときには、記憶が消えていればいいのに。

 

願った瞬間、視界がブラックアウトした。

 

 

 


 

 

主人公(4歳)

 

本編で百鬼夜行ifにて、夏油側についた世界線の主人公。

本人的には目的を全うして死んだつもりが、まさかの2周目。しかも七海の妹で大混乱。

聞いてねぇ。こんなの聞いてねぇ。

レゴブロックさえ踏まなければ!!!!

 

どうせなら、次も女がいい。→ はいはい女ね。

そして、もう少し、派手な見た目になりたいな。 → 西洋人の血が入ってたら、派手になるよね

できれば、スタイルも良くなりたい。 → 西洋人の血が入ってたら、よくなるよね

あ、でも頭の回転は今のままがいい。伊地知潔高なり代わりのこの頭は実に優秀だった! → 記憶継げばいいかな?

 

意図せず、願いが全部叶えられてることを、主人公は気づいてない。

 

 

 

七海建人(4歳)

 

本編で百鬼夜行ifにて、夏油側についた主人公がいた世界線の七海。

苦労人枠が確定した人。

妹が出しっぱなしのレゴブロックを踏んだ時は笑っていたが、いきなり苦しみ出して様子がおかしい。

慌てて近寄ったら自分もレゴを踏んで記憶を取り戻した。

は?は?

見た目は違うが、名前が「潔乃」で同じだったためすぐ気がついた。

見た目は天使、中身は前世持ち七海建人。次回徹底的に詰めます。




二匹目の泥鰌すぎるけど、書いた。
こちらは完全不定期。かけるときに書くスタイルで現在も連載中
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