とある転生者、2周目   作:kotedan50

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if 転生者、百鬼夜行に参加する https://syosetu.org/novel/408095/47.html からの分岐。

・伊地知ポジション成り代わり(伊地知の双子の妹)だった転生者、
 七海建人の双子の妹で、まさかの2週目
・オリキャラ出ます
・激しい捏造、妄想含みます
・ネタまみれです


転生者、星漿体の任務に参加する

庵と冥冥が静岡県の浜松市の祓除任務に行って戻ってこない。

 

「歌姫だけならともかくとして、冥さんが一緒にいるのにおかしい」

 

五条の主張は間違いないだろう。この時期の庵歌姫はまだ2級呪術師だ。

術式もサポート寄りで、けっして強いとは言い難い。

今回の任務は昇級試験も兼ねて、冥冥の補佐として任務についていたはずだ。

 

冥冥は守銭奴で金のためなら命も平気で賭けられるイカれた女だが、自分の実力を分かっている。

冷静に状況を判断し、“絶対に死なないための逃げ道”を複数用意するタイプでもある。

そんな彼女が二日も音沙汰なし。異常事態以外の何物でもない。

 

上層部もそう判断したのだろう。追加派遣の指示が下りた。

顔ぶれは五条悟、夏油傑、そして家入硝子。

 

「五条さん、夏油さん、お願いですから今回は極端な破壊やめてくださいね?」

 

思わず釘を刺した私に、五条がニヤッと笑い、夏油はやれやれという仕草。

 

「えー? 廃屋だし、もう持ち主いないんでしょ? なら、いくら壊しても問題ないじゃん」

「悟と一緒にしないでほしいな。私は悟よりは壊してないはずだよ」

 

五条の口から“壊す”って言葉が出るだけで胃が痛い。

実際ここ最近、私の任務の八割は“五条悟と夏油傑が破壊した建築物や道路、抉れた森林などを元に戻す作業”だった。

本当は一瞬で直せるけど、総監部や他の人の手前それはできない。

 

ダラダラと無駄に呪力を循環させて汗をかきながら、「いかにも大変そうに」破損箇所を修復する。

五条は私の本当の能力を知っているため、ニヤニヤしているのが腹立たしい。

 

「廃屋でも建物修復して使うとかってあるんですよ。修復依頼が来たら間違いなく私に話が来るので、ほんとうにやめてくださいよ!」

「そしたら、最初から任務について来いよ。そうすりゃ早いじゃねーか」

 

ほら一緒に行こうぜ!と肩を組んでくる。重いし鬱陶しい。

 

「五条、デートじゃないんだから」

 

家入の冷静なツッコミに「ほんとだよ」と内心で頷く。

基本的に家入もクズ側の人間だが、それでもこの破壊魔二人よりはだいぶマシだ。

 

そう思ったところで、五条の表情がふっと真面目に切り替わる。

あの飄々とした顔から一転、術師としての冷酷な顔だ。

 

「冗談抜きでマジで来ない? 冥さんがいてもこうなってるつーことは、結界術が強い呪霊だと思うんだよね」

 

私の顔を覗き込みながら話を続ける。

 

「んで中と外の時間が違う系。外部から介入するには、何かしら破壊しないと救出できないんじゃねーかって思ってんだけど」

 

五条が真剣な目でこちらを見据えてくる。

──その予想、ドンピシャすぎて怖い。

五条の術師としての勘が優れているのか、それとも“前回の記憶”がうっすら残っているのか。

いや、これは純粋に能力の高さだな。

原作でも「ああ〜やっぱ呪霊の結界で時間ずれてた系?」なんて軽口叩いていたし。

五条の術師としての勘の良さに内心で舌を巻く。

 

「すみません。私これから別任務で夜蛾先生に呼び出されてるんですよ」

 

そう答えると、五条はほんの一瞬だけ残念そうに表情を曇らせ、私の肩を解放した。

 

「お前も任務ならしゃーねぇか。そっちも任務頑張れよ」

「じゃ行ってくるね、怪我しないでね。すぐに治療できないから」

「潔乃ちゃんも気をつけてね」

 

五条、家入、夏油と、三者三様に声をかけて任務へ出かけていく。

それを手をひらひらと振ることで見送った後、私は夜蛾の元へ向かった。

 

 


 

 

夜蛾の元で指示された任務は、要するに星漿体任務への参加要請だった。

 

「天元様の術式の初期化……すなわち星漿体との同化が行われるのは知ってるな?」

「はい」

「そこで潔乃、お前に任務だ。同化の儀式まで星漿体の少女の側につくように、天元様直々の指名だ。

星漿体──天内理子とは同じ中学の先輩後輩。そして去年一年間、その護衛を勤めていた。その実績からだろう。

なるべく今まで通りに側にいてあげてほしいとのことだ」

「承知しました」

 

話の内容からして、まだ天内理子の居場所は漏れていないらしい。

 

「……天内理子と親しかったと聞いている」

 

なんとも言えない複雑そうな表情で、夜蛾が私を見つめていた。

この人、ホント人格者すぎだろ。

任務なんだから割り切れるばいいのに、まだ入学したてで深い付き合いでもない私のことを心配してくれている。

 

「可愛い後輩です。でも全て承知の上で付き合ってきました。

未熟ですが、私も術師です」

「……そうか。重要な任務だ。心してかかれ」

「はい」

 

わざと神妙な顔をして答える。けれど私は──天内を同化もさせなければ、殺すつもりもない。

今後のことを見据えるなら、本来は同化させた方がいいのだろう。羂索の野望の阻止にも繋がる。

でもそんなことはしない。

 

……これが私の悪い癖で、付き合ってしまうと情が湧いてしまう。

もう天内も黒井も“救いたい枠”に入ってしまっているのだ。

 

意外と表情豊かで私を気にかけてくれる夜蛾に対して、内心ぺろりと舌を出して謝った。

 

 


 

 

重低音の振動と轟音が窓の外から響き渡った。

ガラス窓がわずかに震える。

 

「……爆破されましたね」

「さすが潔乃先輩なのじゃ」

「七海様、ありがとうございます」

 

私たちは天内のマンションで、まるで何事もないかのように優雅なティータイムを楽しんでいた。

 

夜蛾と別れたあと、七海と電話で参加の伊地知と軽く打ち合わせをして、私は天内の住むタワマンへと向かった。

星漿体の情報が外に漏れるのは翌朝。そこから五条と夏油が追加派遣されるのは確定事項。

そして真っ先に仕掛けてくるのは──呪詛師集団Q。

コークンとバイエルとかいう、どこかのウィンナーみたいな名前のやつらだ。

 

──襲撃が来るのが分かってるのに、素直に部屋にいるわけないじゃん。

星漿体襲撃の日程は分かりきっている。

だから事前に、別のマンションの一室を偽名義で契約しておいた。

インターフォンはガムテで通話ボタンを押しっぱなしにし、そこに通話状態の携帯を三台設置。

私は同じく通話状態の携帯を持って“別室”で待機。声は黒井さんにお願いして、インターフォン越しに「はーい」と返事させる段取りだ。

この部屋自体も高専を通さず、私が勝手に借りたもの。絶対にバレない。

 

そして冒頭の爆発。

外を呪力で視力強化して覗けば、案の定。夏油が呪霊に乗って飛び出し、マンションの外へ落下していく“少女”を抱き止めていた。

 

おーおー、夏油が混乱してる。

そりゃそうだろ。星漿体の少女だと思って受け止めたら──ラブドールなんだから。

 

……ラブドールだと悟った瞬間の夏油の表情は、正直、笑いを堪えきれなかった。

 

そのラブドール(天内の身代わり人形)は、私が術式で本気を出して遠目には天内に見えるように改造した自信作。

昨夜のうちに本人と黒井には説明しておいたが、二人とも本気で驚いていた。

「……ラブドール以外、なかったんですか?」と黒井に言われたのは痛かったけれど。

手頃でリアルに仕立てられるのって、結局これが一番だったんだよ。ごめんね。

 

ちなみに黒井そっくりのラブドールも置いておいた。

でもコークンは気づいてないらしい。ラブドール(黒井の身代わり人形)の襟首を掴んで夏油と何やら言い争っている。

……たぶんお互い話が噛み合ってないんだろうな。側から見てると、めちゃくちゃ面白い。

夏油は『これはQが仕込んだもの』と思い込んでいて、コークンは『生身の人間』だと信じて夏油に脅しをかけているんだろう。

滑稽すぎて、思わず紅茶を噴き出しそうになった。

 

……が、その次の瞬間。

あっという間に夏油がコークンを沈め、チュー太郎こと、キスをねだるだけの呪霊で拘束していた。

あの呪霊ほんと、嫌がらせでしか使えないんだけど、どこから拾ってきたんだろう。あのキス魔。

そんなことを考えていると、夏油はすぐにどこかへ電話をかけはじめる。

 

──と、私の携帯が鳴り出した。あ、気づいたか。

ラブドールに私の残穢がべったりこびりついてるもんね。

内心で笑いながら通話ボタンを押す。

 

「星漿体の先発護衛って君だったんだね。潔乃ちゃん? 説明してくれるかな?」

 

……あ、やっぱり怒ってる。

声のトーンが胡散臭い声(櫻井ボイス)になってる。

 

笑いを噛み殺し、こちらも真面目な声に切り替えた。

 

「襲撃に備えて、身代わりを置いて別室にいたんですよ。──大正解でしたね」

 

「その身代わりを抱き止めて混乱した私の身にもなってほしいな……絶対笑ってたでしょ?」

 

「今、そのタワマンから見える向かいのタワマンのxxxx号室にいるんですけど、こちらに来れますか? 追加の護衛は夏油さんだけですか?」

 

夏油のツッコミは華麗にスルー。

護衛が来るのは聞いていたけど、何人で誰が来るかまでは知らされていない。

──だから、知らないふりで質問する。

 

「はぁ……悟もいるよ。今から向かう」

 

心底疲れたような吐息と共に返事が返ってきて、そのまま通話は切れた。

 

「頼りになる護衛が来ます……性格はアレですが、腕はピカイチなのは保証します」

 

通話を黙って聞いていた天内と黒井が、同時にこちらへ視線を向ける。

……そして、なんとも言えない微妙な顔。

 

うん。事実をストレートに言いすぎたかな。

 

 


 

 

Qのソーセージ呪詛師二人を高専職員に引き渡したあと、しばらくして五条と夏油がやってきた。

ロビーで合流。お互い「初めまして」と軽く挨拶を交わす。

 

──が、その和やかな空気も束の間だった。

 

「潔乃先輩。この人ホストなのか? 胡散臭いのじゃ」

「……は?」

 

五条のひたいに青筋が浮かぶ。

 

「理子ちゃん、悟はホストじゃないよ。確かに見た目は派手だけど」

「こいつも笑顔が胡散臭いのじゃ。前髪も変なのじゃ!!!」

 

「…………」

 

沈黙。五条の六眼がじわりと光り、夏油が横でニコリと笑みを深める。

 

次の瞬間、原作とは違う展開のはずなのに──天内は五条と夏油に手足を掴まれ、引っ張られたり捻られたりしていた。うわぁ原作で見た景色。

黒井が慌てて止めに入るも、止まる気配なし。

 

私はため息をひとつ。

……地雷を踏んだ天内が悪い。

 

適度に天内をいじめ抜いたあと、解放する2人。

 

「おい、潔乃。お前の後輩なんだろ?躾けとけよ」

 

五条がダラっと私の肩に腕を回してだる絡みしてくる。

 

「私に言わないでください」

 

だる絡みしてくる五条の腕をペッと払って、お手上げのポーズ。

 

「いやそれにしても、同化でおセンチになってんだろうから、どう気を使うか考えてたのに」

 

這われた腕をプラプラ振ったあと、頭をボリボリかきながら呆れ顔。

……まぁ確かに、天内は空元気で突っ走るのが得意だからな。

 

「フンッ!!いかにも下賎なものの考えじゃ」

 

天内が胸を張り、芝居がかった口調で声を張り上げる。

 

「いいか天元様は妾で、妾は天元様なのだ!!!

貴様のように”同化”と”死”を混同してる輩がおるが、それは大きな間違いじゃ。

同化により妾は天元様になるが、天元様もまた妾となる。妾の意思!!心!!魂は同化後も生き続け──」

 

「待ち受け変えた?」

「潔乃の幻の学園祭、HOOTERS.ショット」

「え、なんで持ってるの!何待ち受けにしてるんですか!」

 

五条と夏油のくだらない話に、私まで巻き込まれてしまう。

七海か?伊地知か?それとも母さんか!!!なんで五条にその写真渡してるんだよ!

 

「聞けぇ!!」

 

天内が必死に叫んでいるが、もう場のペースは完全にクズ二人──五条と夏油のものだった。

 

「……あの喋り方だと友達いないじゃろ」

「快く送り出せるのじゃ」

 

「学校じゃ普通に喋ってるもん!!」

 

その言葉に、あーあー……と私と黒井は同時に天井を見上げた。

 

「学校!!!黒井、今何時じゃ!?」

「まだ昼前…ですがやはり学校は」

「うるさい!!行くったら行くのじゃ!!」

 

バタバタと学校へ行く準備を始めた天内を見つめ不思議そうに首を傾げるクズ2人。

私と黒井は顔を見合わせ深々とため息をついた。

 

 


 

 

「はぁ!? さっさと高専戻った方が安全でしょ!!」

 

五条が思わず声を荒げる。

天内理子の我儘により、現在一行は廉直女学院に来ていた。

命を狙われている現状、ここにいるより高専に戻った方が安全なのは確かだ。

苛立ちを押し殺して夜蛾に電話をかけて訴えたのだが、返ってきた返答は予想外なものだった。

 

『天元様のご命令だ』

 

「……」

 

短い一言に、五条は舌打ちすらできず、言葉を失う。

 

『天内理子の要望には全て応えよと』

 

淡々とそう告げた夜蛾は、それ以上何も言わず携帯を切った。

通話の切れる電子音だけが静かに響き、空気が重くなる。

 

五条はつまらなそうにプールの水面をつま先で蹴り上げ、立ち上がった。

 

「チッ……ゆとり極まれりだな」

 

「そういうな、悟」

夏油が静かに制す。

その声音には苛立ちよりも、天内を案じる声色だった。

 

「ああは言っていたが──同化後、彼女は天元様として高専最下層で結界の基となる。

友人、家族、大切な人たちとは、もう二度と会えなくなるんだ」

 

夏油は神妙な顔のまま続ける。

 

「……好きにさせよう。それが私たちの任務だ」

 

「理子様にご家族はおりません」

黒井が静かに口を開いた。

その横顔には、長年寄り添ってきた者だけが知る深い影が落ちている。

 

「幼い頃、事故で……それ以来、私がお世話してまいりました。

ですからせめて、ご友人とは少しでも──」

 

天内のことを憂いているのだろう。

黒井は深々と頭を下げた。

 

そんな彼女に対し、夏油は柔らかく人のいい笑顔を浮かべ、告げる。

 

「それじゃあ、黒井さん。アナタが家族だ」

 

「……はい」

 

黒井の短い返事を最後に、場に静けさが落ちる。

 

はぁ、と息を吐きながら五条が立ち上がり、夏油の肩に肘を置いた。

 

「それにしても……潔乃のやつおせーな。まだ戻ってこねぇのかよ」

 

「潔乃ちゃんはこの学校のOGだからね。話が盛り上がってるんだろう」

 

夏油が苦笑混じりに答える。

 

潔乃は廉直女学院の卒業生。しかも当時はバスケ部のエースで有名だった人物だ。

女子校の王子様。みんなの憧れの先輩。

学校に着いた瞬間、後輩たちに囲まれ、そのまま職員室へと連行されてしまった。

本来なら家族以外は立ち入れない女子校だが──彼女の顔とコネ、そして校長が呪術界に繋がりを持っていたおかげで、特例として許可が下りた。

おかげで今、五条たちは堂々と敷地内で待機できている。

 

「人気すぎて戻ってこれねーとか。任務のやる気あるのか?」

 

「悟。潔乃ちゃんのおかげで楽に校内で待機できてるんだから、文句を言わないの」

 

「チッ……」

 

五条は顔をしかめ、つまらなそうに視線を逸らす。

次の瞬間、話題を変えるように声を低めた。

 

「……傑。監視に出してる呪霊は?」

 

夏油はこめかみに指を当て、先ほど学園の敷地内に配置した、監視用の呪霊数体に意識を向ける。

 

「あぁ……冥さんみたいに視覚共有ができればいいんだけどね。それでも、異常があればすぐに──」

 

言葉の途中で、彼の表情が鋭いものになった。

 

「悟。急いで理子ちゃんの所へ」

 

夏油は五条の腕を外し、すぐさま歩き出す。

 

「あ?」

 

「……二体、祓われた」

 

 


 

 

私は、校長室で校長相手に談笑をしていた。

 

この女校長はなかなかのやり手で、学校経営だけでなく、政財界にまで顔が利く人物だ。

見える側の人間でもあり、呪術界とのパイプも持っている。

星漿体の天内理子の存在も把握しており、その素性を承知の上で入学を認めた。

そして高専入学予定の私のことも把握しており、天内理子への在学中の護衛として推薦したのも彼女だ。

外見は穏やかな老シスターなのに、剛腕、辣腕すぎてちょっと引く。

それでも校長には世話になったし、私自身も嫌いではないので、軽く近況報告をしていたのだが…

 

けたたましくなりだす携帯に断りを入れて開くと、五条からだった。

どうやら久しぶりの談笑は終わりのようだ。

校長に断りを入れて電話に出た。

 

 

五条との通話を終え、私もUnknown (呪詛師)の追跡に回った。

だが──現場に辿り着いたときにはすでに、夏油の呪霊操術によって廊下は半壊状態になっていた。

 

壁は抉れ、外の光がむき出しに差し込み、床は無惨に割れている。

天井の蛍光灯は火花を散らしながらぶら下がり、漂う埃と焦げ臭さが鼻を刺した。

呪詛師は床に転がされ、呻き声すら出せずに拘束済み。

 

「……あーもう」

 

こめかみを押さえ、内心で半ギレになる。

わかっていた。だから真っ先に止めに来たのに──結局間に合わなかった。

 

私の嫌そうな顔に、夏油は「悪いね」と軽く謝ったあと、呪詛師御用達の闇サイトで天内に賞金がかけられていると告げてきた。

……原作通りだ。

 

私はこの呪詛師を高専に引き渡す手配を済ませ、廊下の修復を担当することにする。

夏油にはもう一人のUnknown (呪詛師)を追うよう話をつけ、一旦別れた。

 

そして──破壊された廊下に視線を戻す。

 

「ちくしょう……」

 

悪態をつきながら、小さな帳を下ろして術式を展開する。

掌を壁に這わせると、崩れた破片が吸い寄せられるように元の形を取り戻し、砕け散った窓ガラスがきらめきを取り戻して枠にはめ込まれていく。

壊すのは一瞬。直すのは手間。

……いや、本当はすぐ直せるけど、わざとタラタラと時間をかける。

本当は一瞬で直せる。が、それを見せると都合が悪い。

──ほんと、割に合わない。

 

全てを治し切ったタイミングで帳を解除する。

校長には「生徒を近づけるな」と通達しておいたおかげで、人っ子ひとり現れないのは救いだった。

 

ふぅ、と肩を落とした瞬間──嫌な考えが頭をよぎる。

 

……そういえば、ここは漫画じゃなくアニメの世界線。

ってことは──次は五条がビルをぶっ壊す番。

あの無駄にガラスをキラキラさせた見せ場のシーン。うん、アニメで見る分にはかっこいいね。

で、直すのは誰? 

 

はい、私。

 

死ぬほど嫌な予感しかしない。

慌てて五条に電話をかける。

呼び出し音が途切れた、その瞬間。

 

『潔乃、黒井さんが攫われた。こっちに合流しろ。

あと、ビル壊したから修理頼むわ』

 

五条の無神経な声に、私はその場に膝から崩れ落ちた。

 

 


 

「まさか、盤星教信者…非術師にやられるとは。自分が情けない」

「不意打ちなら仕方ないですよ。私の責任でもある」

「不意打ちだったんですかね。

『Q』の一件で気をつけてたつもりだったんですけど、イマイチ襲われてた時の記憶が…」

 

夏油と黒井が並んで話しているのを、私は隣でなんとなく聞き流していた。

──まぁ、襲ったの伏黒甚爾だからな。気づけるわけないよね。

そんなことを思いながら、マンゴージュースをズズッと啜る。

 

今は護衛二日目。場所は沖縄。

強い日差しに白い砂浜、潮風に混じって漂う砂の匂い。

 

昨日、ビルを修復して五条たちに合流したときには、黒井の救出に天内も同行する──ということで話はまとまっていた。

念のために確認を入れたが、天内は強い瞳で「黒井を助けに行く」と言い切った。

……そこまで言われて却下するほど、私も人の心は捨てていない。

 

その後、夜九時ごろ。拉致犯から連絡が入り、取引場所が沖縄に指定される。

ここまでは原作通りの流れ。

 

そして今。

私たちは──沖縄のビーチにいた。

 

……いや、正確には「黒井救出のために沖縄に来た」のだが、救出が終わった今となっては、天内は、いやみんなすっかりバカンス気分だ。

フリルのついた可愛いビキニを着て、波打ち際ではしゃいでいる。

黒井さんは逆に日焼け対策を徹底して、ラッシュガードにバッチリ紫外線対策。

 

五条と夏油も揃ってビーチパーカーにハーフパンツ姿。

──ただし、そこに至るまで一悶着あった。

 

五条が最初に手に取ったのは、ド派手なブランドロゴがドーンと胸に載ったパーカーだった。

思わず二度見した。いや、ほんとに。

 

他の一般人ならまぁ「若者ファッション」で済む範囲かもしれない。

けど五条は顔が派手だ。

その顔に、さらに派手なロゴを前面に押し出した服を合わせたら──似合いすぎて逆に悪目立ちする。

パリコレモデルか? それとも怪しい芸能人?

 

どっちにしても、私は絶対に隣を歩きたくなかった。

 

「……悟、それはやめとけ」

 

夏油がさっと軌道修正してくれたおかげで、最終的には無難なチョイスに落ち着いた。

夏油、GJ。

あんな格好の五条と並んで歩くとか、想像するだけで地獄だった。

 

……まぁ、夏油も夏油で、派手なハイビスカス柄のパーカーに耳の大きなピアスをぶら下げている。

その姿はリゾートどころか、深夜のドンキホーテにいそうなヤンキー感が漂っているけど……それはまぁ、許容範囲だ。

 

で、私の格好?

去年、マイクロビキニを着ていたのが五条にバレてうるさかったので、今回はおとなしめにした。

ハイネックのビキニに、ショートパンツタイプのお尻をすっぽり覆うデザイン。露出は控えめ。

日本のサイズは合わなくて探すのに苦労したけど、まぁこれなら五条も文句は言わないはず。

 

……そう思っていたのに。

 

チラと視線を送ると、五条は肩を落とし、妙に残念そうな顔をしていた。

ため息までついている。

 

──なんだよ、結局文句あるんじゃん。

 

残念そうな五条は無視してビーチに繰り出したのだが──天内が本当に楽しそうに遊んでいるのを見て、少し和んだ。

五条とは馬が合うらしく、二人でビーチを走り回り、ナマコを投げ合ってキャッキャと笑っている。

 

ちなみに原作通り、七海と灰原は別行動で待機中だ。

五条や夏油が送る定時連絡とは別に、私は自分の視点で状況をこっそり七海にメールしている。

つまり──今この瞬間、私たちがビーチでナマコ投げに興じていることも筒抜けというわけだ。

……今ごろ七海の額に青筋が浮いている光景が目に浮かぶ。

 

「いいんでしょうか。観光なんて……」

「言い出したのは悟ですよ。アイツなりに理子ちゃんのことを考えてのことでしょう」

「夏油さん。そろそろ飛行機の時間です」

 

マンゴージュースを飲み干して、携帯で時刻を確認した私はそう告げた。

夏油が頷き、立ち上がる。

 

「悟!! 時間だよ!」

 

夏油の声に、ナマコとヒトデを投げ合っていた五条と天内の動きがピタッと止まる。

 

「あ、もうそんな時間か」

 

フライト予定は15時。空港から程近いビーチとはいえ、そろそろ出発しなければ間に合わない。

しゅんと肩を落とす天内の様子に気づいた五条が、原作通りの言葉をかける。

 

「傑、潔乃。戻るのは明日にしよう」

 

私はあえて呆れたポーズをとり、「作戦系は五条さんに任せます」とだけ告げ、二人から距離を取った。

──五条と夏油のアオハル友情シーンに割り込む気はない。

 

「……だが」

「天気も安定してんだろ。それに、東京より沖縄の方が呪詛人(じゅそんちゅ)の数は少ない」

「もう少し真面目に話して」

飛行(フライト)中に天内の賞金期限が切れた方がいいっしょ」

「悟、昨日から術式を解いてないな。睡眠もだ。今晩も寝るつもりないだろ。本当に高専に戻らなくて大丈夫か?」

「問題ねえよ」

 

五条がドンと夏油の胸板を叩く。その笑みは、信頼の証そのものだった。

 

「桃鉄99年やった時の方がしんどかったわ。

それに──オマエがいる」

 

いいな。五条からの、全面的で絶対的な信頼。

真正面から「任せられる」と言われるその重さ。

私や七海や伊地知は、仲間だけど──実力的には、結局“庇護対象”に回されてしまう。

……ちくしょう。今に見てろ。絶対いつか顔面ぶん殴って、鼻っ柱へし折ってやるからな。

 

「潔乃! 七海と灰原に連絡しといて」

 

五条のその言葉に「はいはい」と返事をしながら、私は携帯を取り出した。

すぐに七海へメールを打ち込む。

 

『滞在1日延長。バカンス継続。言い出しっぺは五条。殴るなら五条へ。』

 

送信完了。これくらいなら、ちょっとした悪戯の範疇だろう。

内心でぺろっと舌を出す。

 

数秒後──携帯が震えた。

 

画面に表示された返信は、たった一文。

 

『……帰ったら覚えてろ』

 

うわ、怖っ。思わず携帯を遠ざけながら、私は苦笑いを漏らした。

 

 


 

 

マングローブをカヤックで下り、アジサイで有名な公園に行き、有名店でソーキそばを食べる。

まさに沖縄満喫ツアーだ。

 

水族館からは真正面にいくつもの島々が見える。

「あそこは橋で渡れるんだって」「あっちはフェリーだな」と観光パンフレット片手に話すと、天内と五条が同時に目を輝かせた。

「行こうぜ!」と騒ぎ出す五条に、「今日はもうフェリー終わってますよ」と現実を告げると、天内と仲良く舌打ち。

……ほんと、馬が合うなお前ら。

 

館内を天内に合わせて歩いていると、マナティの水槽エリアに差しかかった。

巨大な水槽の中を、マナティがのんびりと旋回している。

人懐っこく、人影が立ち止まるとスイーッと近づいてきて、ガラスに「ボヨヨン」と頭をぶつける。

跳ね返ってはまた旋回し、また人に突進して「ボヨヨン」その繰り返し。

 

そのあまりの愛嬌に、思わず一分ほど見入ってしまった。

 

「行くぞ」

不意に五条に声をかけられ、慌てて水槽から離れる。

 

「アレ、好きなんか?」

「なんか癒されません?」

「いや、全然分かんねーわ」

 

軽い会話を交わしながら先へ進むと、目の前に現れたのは巨大なメイン水槽。

数匹のジンベエザメが悠々と泳ぐ光景に、天内は言葉もなく釘付けになっていた。

 

──圧巻だ。滅多に見られない景色に、天内が惹きつけられるのも当然だろう。

 

私は少し離れた位置から、その横顔を静かに見守った。

 

その後は、水族館の近くの海岸沿いの道路を歩き、沈む夕陽を見て、満点の星空を見てからホテルへ戻る。

ホテルでの騒がしい食事、主に天内と五条が原因だけど、楽しく過ごし、大浴場で天内にスタイルについて文句を言われたり、と楽しく過ごした。

黒井と天内と私は同じ部屋で、両サイドを五条と夏油が挟んでる配置だ。

ベッドに入た天内が楽しそうに話しかけてくる。

 

「潔乃先輩と旅行行けるとは思わなかったのじゃ!」

「旅行ではないんだけど……まぁ、楽しかったならそれでいいよ」

 

一緒の部屋だけど、私は護衛としてもう少し起きているつもりだと伝え、炭酸水を手にベランダへ出る。

窓を静かに閉め、夜風に吹かれながらガーデンソファに腰を下ろす。

波音と虫の声が混じり合う、沖縄の夜。潮の匂いが鼻先をかすめた。

 

炭酸水を一口飲んでだらっとしていると──隣の部屋から五条が出てきた。

天内と黒井はもう眠っている。私は人差し指を立てて「シーッ」と合図を送る。

五条は無言で頷くと、こちらに歩み寄り──

 

「っ!!」

 

ふわり、と『蒼』で私の体が引き寄せられた。

そのまま五条のソファの隣に座らされ、腰を抱かれる。

 

「いきなり何するんですか!」

小声で抗議すると、五条は涼しい顔で囁いた。

 

「暇だから、お前が寝るまで話し相手に付き合え」

 

そう言う彼の目の下には、隈がくっきり浮かんでいる。

疲労が蓄積しているのが分かる。

 

「えぇ……術式を少しでも解いて仮眠した方が……」

「うるせーよ。その話題はつまらねーから却下」

 

私の頭を強引に肩へもたれ掛けさせる。

こう言い出したら五条は聞かない。

……まぁ、肩を貸されて話すくらいならいいか。

 

「うーん、マナティ可愛かったですよね」

「あのブッサイクな動物のどこが可愛いんだ?」

「なんか行動がツボで。平和でいいじゃないですか。時間があったら1日中眺めていたいレベルです」

「……今度来たら1日中見てりゃいいじゃん」

「来る機会あるかなぁ……」

「俺とまた来ようぜ」

 

五条が顔を覗き込み、真っ直ぐな瞳で言う。

 

「いいですけど、来る機会ありますかね?」

「作るに決まってんだろ。約束な?」

 

──あーあ。絶対また無理やり何かする気だ。補助監督が泣くぞ。

 

そんなこんなで、他愛もないおしゃべりを交わしているうちに、心地よい海風と五条の体温に包まれて、瞼が重くなっていく。

 

「すみません、ちょっと眠いんで……部屋に」

 

立ち上がりかけた瞬間、五条に腕を引かれ、そのまま彼の腕の中に戻される。

気づけば、五条の膝枕に収まっていた。

 

「ここで寝てけって。隣の部屋だから護衛も大丈夫だろ。明け方に起こしてやる」

 

ほんと眠いので勘弁してほしい──そう文句を言おうとしたが、五条が髪を梳く指先があまりにも心地よくて。

潮風と彼の体温に包まれるうちに、抵抗する気力も溶けていき……結局、私は素直に瞼を閉じてしまった。

 

──そして夜明け前。

 

五条は本当に約束を守り、私を起こしてくれた。

まだ半分寝ぼけている私は、ぼーっとしたまま隣室のベランダへと術式で送り返される。

……助かったのは確かなんだけど。

普通に最初から部屋に戻してくれれば、こんな妙な“二度寝”をする羽目にはならなかったのに。

 

ぼんやりとそんなことを思いながら、私はベッドへ潜り込む。

柔らかなシーツの感触に、すぐさま意識は再び闇に沈んでいった。

 

 


 

 

護衛3日目の朝。朝食を終えると、私たちはすぐに那覇空港へ向かうことになった。

空港近くで待機していた七海と灰原と合流し、天内と黒井を紹介する。

 

昨日は私にメールでキレ散らかしていた七海だが──さすがに護衛対象者たちの前では表情一つ崩さない。

……その代わり、物陰で私だけ頭をパシンと叩かれた。

いやいや、五条を殴れよ。

 

その後、天内の「やってみたい」という希望で、空港の隅に置いてあったプリクラ機で記念撮影。

シール写真を一枚もらって、私は携帯のバッテリーケースの内蓋にペタリと貼りつけた。

さらにデータを転送してもらったけど……これ、意外といい写真だな。

 

七海と灰原は一時間ほど早い便で羽田へ戻っていった。

到着後は今度は羽田側で警備に当たるとのこと。

──ほんとお疲れ様です。

 

空港内を歩いていると、天内がA&Wに興味津々の様子を見せた。

ならばと天内と私で購入。ホテルで朝食を食べたばかりなのに「別腹」で食べ始める。

 

食べるならやっぱり──The A&Wバーガー!

ビーフにトマト、フリルレタス、オニオンフライ、濃厚なクリームチーズ、黒糖ペッパーポーク。最高なんだよなぁ。

サイドはカーリーポテト。これがまたクセになる美味しさだ。

 

飲み物は定番のオレンジジュース……そして、ルートビア。

正直、初めて飲んだときは「サロンパスの味がする」と思った。けど不思議なもので、慣れるとクセになる。

無料でサイズアップできるし、なんと無料でフロートにもできる。初心者にはそっちの方がおすすめ。

 

ちなみにスーパープーティンは空港店には置いていなかったので、代わりにチリチーズカーリーフライを注文。これも間違いなく美味い。

 

そんな感じで天内と夢中になって食べていたら、最初は「ホテルで朝食食べたろ」と呆れていた五条と夏油、そして黒井まで、結局は列に並んで買っていた。

 

──うん、素直になった方がいいよ。日本じゃ沖縄にしかない店なんだから。

 

満腹になったところで、いよいよ羽田行きのフライトへ。

「食べすぎて血糖値スパイクが……」と、私以外の全員がぼやいていたけど──そんなの知るか。自業自得だ。

自分のキャパを考えて食べればいいのに、と指摘したら「オマエが大喰らいすぎるんだよ!」と怒られた。理不尽。

 

機内で時間が過ぎるうちに、天内にかけられていた賞金期限がついに切れる。

その瞬間、皆が一斉に小さく息を吐いた。

張り詰めていた空気がわずかに緩み、窓の外の青空がより青く澄んで見えた。

これで少なくとも、露骨な襲撃のリスクは減った。

 

──でも、ここからが本番なんだよね。

胸の奥で小さく呟く。けれど今はまだ言えない。

 

飛行機は定刻通り羽田に到着。

降機すると一気に空気が変わる。沖縄の陽気さは消え、東京の都会特有の張り詰めた匂いが肌を刺した。

そのまま都心を抜け、真っ直ぐに──都立呪術高専・筵山麓へと戻ってきた。

 

「皆、お疲れ様。高専の結界内だ」

 

「これで一安心じゃな!!」

 

「…ですね」

 

長い階段を登って息を切らしている天内に黒井がハンカチを渡している。

 

「長い階段疲れたでしょ?大丈夫ですか?」

 

「問題ないのじゃ!」

 

「七海様、問題ありませんありがとうございます」

 

天内と黒井に自然に近づく。

万が一に備えるのと、五条との間にいると私も巻き込まれかねない。

 

「悟、本当にお疲れ」

 

夏油が満面の笑みで、トリガーとなる労りの言葉を発する。

 

「二度とごめんだ。ガキのお守りは」

「お”?」

 

夏油の言葉に軽く肩を叩き、五条が術式を解き、天内がガラ悪く声を上げた、その瞬間だった。

 

──鈍い音。

 

五条の腹部から、冷たい刃が突き出していた。

背後から一息に貫かれ、鮮血が滲む。

五条は顔だけを振り返り、挑発めいた笑みを浮かべていた。

 

「…アンタ、どこかであったか?」

 

背後の男は刃を押し込んだまま、低く答える。

 

「気にすんな。俺も苦手だ──男の名前覚えんのは」

 

淡々と告げる声音に、ぞっとするほどの殺気が滲む。

 

ここからが本番だ。

私は二人を睨みつけながら、小さく息を吐いた。

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