とある転生者、2周目   作:kotedan50

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if 転生者、百鬼夜行に参加する https://syosetu.org/novel/408095/47.html からの分岐。

星漿体任務後から玉折までの間の日常回その③

・伊地知ポジション成り代わり(伊地知の双子の妹)だった転生者、七海建人の双子の妹で、まさかの2週目
・オリキャラ出ます
・ネタまみれです
・通常より、激しい捏造、妄想含みます
・今回も激しいオリジナル解釈や展開になります。苦手な方は要注意
・ファンパレのイベントシナリオの内容を一部含みます。


転生者、頭をかかえる

「ウケる。相変わらず潔乃好きすぎだろ五条。さっさと本命って認めたら?」

「潔乃ちゃん大変そうだね」

 

寮の談話室でニヤついた家入と夏油に話しかけられた。

 

「助けてください」

 

私は死んだ目で答える。

そう、私は今日、授業と任務以外の時間、五条から盛大なウザ絡みをされている。

いや、ウザ絡み?というか、廊下で会えば抱きつかれ、食堂でご飯を食べていれば、肩を抱かれ腰に腕を回さている。

昨日、電車の中でセクハラはやめろと言った。

“奥さん”とか、“好きになった人”とか“恋人”とかにしろと。

それを言ってなお、相変わらず距離感がとてつもなく近いんだわ。

 

「自覚とか本命とかそれ以前に、もともと最初から好きだっつーの」

 

死んだ目をする私の肩を抱き、当然のように言い放つ五条。

 

いや、どの口が言うんだこいつ。

周囲の空気が一瞬固まって──

 

家入と夏油が、ほぼ同時にヒューっと口笛を鳴らし、ケラケラ笑い出した。

 

「いや、違いますからね!? 勘弁してください!助けて兄さん(建人さん)、灰原!」

 

ちょうど談話室に入ってきた七海と灰原に助けを求める。

が、灰原はニコニコ笑顔で「頑張れ潔乃!!!」と祝福モード。

七海はというと、かわいそうなものを見る目で私を見た後、首を横に振ってスルー。

 

灰原はともかく、事情を知ってる七海!なんでスルー!?

ちくしょう私の味方がいない!肩に回された五条の手を外そうとしながら睨みつける。

 

「だいたいこういうの、やめてくださいって言いましたよね!?

セクハラですって言いましたよね!?なんでこうなるんですか?」

 

必死に抗議する私をよそに、五条はというと、

 

「だって好きならこうしていいんだろ?俺オマエのこと気に入ってるし好きだし」

 

と、どこまでも堂々としている。

 

──ああもう。

この人、根本的に反省する気がない、というか根本的に理解してない。

私は今朝のことをぼんやりと思い出した。

 

 


 

 

カーテンの隙間から差し込む光が、まぶたの裏をかすめた。

意識がゆっくりと浮上していく。

瞼を開けると、視界は白に満たされていた。

 

……焦点を合わせると、それは柔らかな白い髪の毛。

光を受けて透けるように輝くその髪の向こう、私の胸に顔を埋めて、五条が静かに寝息を立てている。

 

──ああ、そうだった。

昨日、五条が乗り込んできたんだ。

 

昨日の夜の五条はひどく情緒不安定で、必死な様子で私を抱きしめてきた。

……いや、アレは拒めないでしょ。あんな五条見たことない。

あの巨体を小さく振るわせながら、私をしがみつく姿。

性欲なんて一切なかった。

あの時の彼は、ただ、母親に縋る子供のようだった。

 

結局、私はそのまま寝かせてやったのだ。

 

昨夜、私がタバコを吸ったときの、五条のあの反応を思い出す。

あれは明らかに異常だった。

 

記憶がないはずなのに、魂の奥に刻まれた何かを刺激したのだと思う。

そして、一度刺激してしまったがゆえに、

本来は閉ざされていたはずの蓋が、開いてしまった。

 

普段は思い出せなくても、

無意識下──きっと夢の中では、それが強く影響する。

 

きっと五条は、夜、部屋に戻ったあと、夢の中で見たのだろう。

あの時(前に私が死んだ時)に関する何か”を。

 

はぁ、とため息をついて、気持ちよさそうに眠る五条をもう一度見下ろす。

おーおー、人の胸を枕にして、頬擦り付けて、気持ちよさそうに眠りやがって。

昨日、セクハラについて説教したばかりなのに。

 

ふわふわの髪にそっと手を添え、指先ですく。

柔らかくて、ツヤツヤで、キューティクルまで完璧。

 

……畜生、男のくせに。そのツヤ私によこせ。

 

そのまま、なんとなく頭を撫でていると、五条の長いまつ毛がかすかに震えた。

……あ、起きる。

 

そう思った次の瞬間、瞼がうっすらと開く。

世界一貴重な青──六眼が、ゆっくりと現れた。

まだ寝ぼけてるな。

青の粒がグラデーションになった瞳は、ぼんやりしてて焦点が合ってない。

……と、再び目を閉じ、私の胸に顔を擦りつけたあと──ピタリと動きが止まる。

 

ギギギッ、と音がしそうなゆっくりさで顔を上げ、

 

「……潔乃?」

 

あ、やっと状況を把握したな、こいつ。

目を見開いて、若干顔が引き攣ってる。

ノンデリのこいつでも流石に、付き合ってもいない女の胸を枕にしてたのはマズイと思ったか。

最低限の常識はあるんだな五条?

私は思いっきり氷点下の笑みを浮かべた。

このセクハラ野郎。

そんな気持ちをたっぷり込めて。

 

それを受けて五条がビクッと小さく体を震わせるのを睨みつけ、ため息をひとつ。

 

「んで? なにがあったんです?」

 

なかなか離れない五条の頭を、胸からぐいっと引き離しながら尋ねる。

大人しく顔を離したかと思えば、今度は私の体を抱き寄せるように腕を回してくる。

 

「ちょっと、五条さん!」

 

「わりぃ……なんか、すげー悪夢見た。オマエが酷い目に遭う夢」

 

……やっぱりか。

正直、そんな気はしていた。

 

腕を突っ張って、なんとか抜け出そうとするが、五条はまったく離す気がない。

結局、一つため息をついて、諦めて彼を見上げる。

 

「私は酷い目にあってないし、今こうして元気ですから。ね?」

 

トントンと、軽く五条の腕を叩きながら言う。

少しでも落ち着いてくれないかなー?

そして早く解放してくれないかなー?

そんな期待を込めて五条を見つめる。

 

「夢の内容よく覚えてねーけど、ほんと最悪の気分だった」

 

抱きしめる腕の力を強めて私の髪に顔を埋めてくる。

 

「だーかーらー五条さん距離が近いですって。セクハラです。

昨日も話しましたけど──」

「好きな女とか、恋人とか、奥さんにやれって?」

 

私の髪の毛に顔を埋めたまま不機嫌そうにいう五条。

 

「そうです。だから──」

「あの後、冷静に考えたんだけどよ。

そもそも俺、オマエのことずっと好きだけど。だから問題なくね?」

 

……あちゃー、そういう思考に行き着いたのか。

こいつの情緒小学生だった。畜生……

例えが悪かった!くそ電車の中で神妙にしてると思ったのに!!

 

それにしても、髪に埋めたまましゃべるもんだから、五条の熱い呼吸が首筋に掛かってくすぐったい。

五条の使うシャンプー、そして彼自身の匂いが混ざり合った香りがする。

この頃はまだ香水は使ってないのかとふと気づいた。

大人の五条はいつの間にか香水をつけ始めてたから。

ぼんやりそんなことを考えながら、ドヤ顔をしている五条に釘を刺すことにする。

 

「はぁ…五条さんの“好き”と、私の言う“好き”は多分違いますよ?」

「うるせぇ。好きは好きだろ。違いなんてわかんねーよ」

 

縋るように抱きついてくる腕の力が、さらに強まった。

はーっとため息をつく。

 

……性欲っていうより、これはもう、過去への執着の方が強いんだよなぁ。

何かにすがるように、何かを確かめるように抱きしめてくるから。

欲まみれだったらいくらでも拒否できるんだけど、こうくると強く言い辛くなる。

五条がこうなってるのは私のせいだから。

 

「いや、どっちにしろセクハラですからね?」

 

とりあえず、やんわりと注意してポンポンと腕を叩いて訴える。

 

「好きなやつ相手ならセクハラじゃねーんだろ?

ま、オマエが嫌がるならこれ以上しないから安心しろって。

流石に処女相手に無茶はしねーよ。それくらいの常識は俺だってある。

胸とかはなるべくさわらねぇ。オマエがいいっていうまで」

 

いや、色々狂ってるからな?

なんと言うか、もうどこから突っ込んでいいかわからない。

 

「えぇぇぇぇぇ、これ今後もあるんですか?ていうか、根本的に違いますからね???

いや、そもそも私に彼氏とか出来る可能性が……」

 

「そんなん許すわけねーだろ!!」

 

即答。早すぎる。

怒鳴った五条の声が、部屋に反響して耳が痛い。

思わず顔を顰める。

 

「……拒否権ないじゃないですかそれ」

「当たり前だろ」

「勘弁……」

 

呆れたように呟いて、天井を見上げる。

狭いシングルベッドの上、離れようにも身動きが取れない。

五条の白い髪が頬に触れて、くすぐったい。

 

──まったく、朝から何やってんだろう。

 

「だから、これはセクハラじゃねーの」

 

五条が私の頭にすりすりと顔を擦り付けてくる。

まるで猫のマーキングみたいだ。

……いや、どちらかというと大型犬か。

 

満足そうなその顔を見て、私は心の底からため息をついた。

 

どうしてこうなった……

 

 


 

 

「へー、なら潔乃ちゃんと付き合うの?」

 

完全に面白がって夏油が言ったのに対し、五条はあっさりと答えた。

 

「まだ付き合ってねーよ。許可もらってねーから。許可出たら付き合う」

 

「誰の許可?」

 

家入がタバコの煙をゆっくり吐き出しながら尋ねる。

 

「潔乃の」

 

その瞬間、全員の視線が私に集中する。

……いや、私見るなよ。見られても困るわ。

 

思わず舌打ちがこぼれるのは許してほしい。

 

「チッ……私は認めてないですし、許可出さないですよ」

 

「舌打ちとかガラ悪っ!いい加減、諦めて許可出せよ」

 

「いやです!」

 

五条がアイアンクローを仕掛けてくるのを、身を捩って避けながら、抗議する。

私は本気で逃げてるけど、五条は本気じゃなくて私が逃げ回ってるのを楽しんでるので、

側から見たら、完全にじゃれついて見えるんだろうなぁ。

 

「距離感近くなったようで、変わんないね。もう付き合ってるようなもんじゃん。」

 

家入がが面白そうに笑う。

七海も肩をすくめて、呆れ半分の笑みを浮かべた。

 

「諦めたらどうですか、潔乃さん。」

 

「諦めません!」

 

叫んだ私の声が談話室に響く。

その横で五条が「オラ!大人しく諦めろよ!」と騒いでるのを、あしらいながらため息をついた。

 

 


 

 

あれから、五条は相変わらず私にウザ絡みをしてくる。

まぁ、これは出会った当初からのいつものことなので、まだいい。

 

肩を抱かれ、腰に手を回され、その綺麗な顔をやたら近づけて笑ってくる。

でも、ほんとにそれだけ。

キスをしてくるとか、そういう行動には出ない。

……それが逆に厄介なんだけど。

 

相変わらず、露出の多い服を着ると胸やお尻を軽く叩かれて、

パーカーをかけられたり、外に出るのをとめられたりする。

組み手の時に地面に転がされた後は、パンパンと尻を叩かれる。

ちくしょう、多少は控えるんじゃなかったのか。

 

そして、いちばんの問題。

五条が定期的に、私の部屋に泊まりに来ることだ。

 

うん、前世の五条も、部屋に入り浸ることはあった。

と言うか、今世の五条も既に何回かやってる。

だから、前回と同じく、女子寮なのに五条用のマットレスを買おうかと思い始めてたところだ。

んで、そんな前世の五条でも、添い寝まではしなかった。

そう添い寝つきなんだよ!

 

今世のこいつは、寮の私の部屋──

狭いシングルベッドにずかずかと入り込んで、

「ほら寝るぞ」

と、堂々と横になった。

 

その瞬間、私は本気で頭を抱えた。

 

……いや、なんでそうなるの。

どの思考回路を通ったら「一緒に寝る」が正解になるんだ。

 

まぁ、私が頭を抱えているうちに、五条は躊躇なく私をベッドに引きずり込んだ。

一瞬、貞操の危機を感じて体がカチンと固まる。

 

……が、五条は何もしてこない。

 

本当に、ただ抱きしめてきただけだった。

 

ぽかんとする私に、五条は目を細めて笑って言った。

 

「オマエがいいって言うまで何もしないって、言ったろ?」

 

その言葉と同時に、緩く回らせた腕がトントンと背中を叩く。

そして、私をゆるく抱きしめたまま、五条は本当に寝てしまった。

 

エ、エェェェェ……マジすか……

 

……ちょっと待って、何この状況。

体温も呼吸も近すぎるし、寝顔もやたら綺麗だし、

なんかもう、色んな意味で落ち着かない。

 

──っていうか、寝たの!?嘘でしょ?

 

前世で五条を裏切って、勝手に死んだ結果。

そのツケとして、今こうして五条の執着と甘えたがりが炸裂してるのだとしたら──

まぁ、自業自得なのは確かなんだけど!!

 

再度、五条の顔を見る。

かつての五条より少し若い五条。

身長も少しだけ低くて、体も出来上がってない。

顔もまだ少年のそれが残ってる。

眠る横顔は穏やかで、無防備だった。

 

こんな自分をさらけ出せる人だったっけ?

いや、確かに前も泊まりに来てて、この寝顔は見たことあるけど、ここまで距離は近くなかった。

……かつての五条は、ここまで甘えてくることなんてなかったよな。うん。

 

そんなこと思ってると、五条が無意識で私の後頭部に手を添え首筋に埋めさせてきた。

私の頭をポンポンと2度叩いて、さらに唇を綻ばせ、再度深い眠りに落ちていく。

 

……マジすか(本日2度目)

はぁ。仕方ない。

 

飽きっぽい五条のことだ、抱き枕も数ヶ月、長くても数年もすれば、どうせ飽きるでしょ。

前の五条は、女遊び激しかった。

高専時代から、とっかえひっかえ。

高専卒業後、個人的に五条の経理を処理するようになってから、その爛れたプライベートが漂う領収書の数々にドン引きしたもんだ。

はい、女とホテル。はい、これ女と飲みに行ったね。飲めないのに。ってのが、領収書からわかるんだよね。

控えめに言って女性関係はクズの代表格で、伏黒と正直どっこいどっこいだと思ってる。

原作者も呪術師になってなかったらヒモって言ったしね。

天性の女たらしなんだろう。

 

先ほどは落ち着かないと言ったけど、いっそのこと開き直ってしまえ。

この若ゴリラの腕力からは逃げられないし。

女たらしなら酷いことはしないだろ。

 

そう思いながら、私はそっと五条の首筋で収まりのいい場所を探す。

私より高い五条の体温は、正直暖かくて気持ちいい。

顔面だって、見目麗しいから目の保養だ。

近すぎる体温と心音が、妙に落ちつく。

 

ほんの少しだけ、まぶたが重くなっていく。

──まぁ、今だけはいいか。

 

そうして私は、五条の腕の中で静かに眠りについた。

 

 


 

 

「だから言ったでしょう? 五条さんはあなたに執着してるって。諦めなさい。」

 

七海がコーヒーを啜りながら、冷たく言い放つ。

場所は私の寮の部屋。

PCを立ち上げ、今日は「記憶持ちの定例会・第9回」の開催日だ。

 

伊地知と伏黒がオンラインで入ってくるまでの間、私は七海に“最近の五条のウザ絡み事情”を説明していた。

……ら、バッサリ切られた。

 

「さっさとくっ付けばいいんです。遅いか早いかの違いでしょう。

あなたが死んだ後の五条さんを見た人間としては、もう、早くくっ付いてあげればいいのにとすら思ってます」

 

「兄なのに冷たい!

くっ付いていいんですか? 下手したら五条さんが義弟ってことになるけど!」

 

「そこはもう諦めました。

コネとしては強力ですし、使い倒しますよ」

 

「そこで諦めんなよ!!」

 

「修造のモノマネですか? 似てないですよ。」

 

冷たい。うちの兄貴(七海)、ほんと冷たい。

ブツブツと文句を言っていると、ちょうどその時、PCの画面にピコンとアイコンがと表示された。

 

メガネのアイコン──伊地知。

続けて、お肉のアイコン──伏黒。

 

『こんばんは』

『待たせたな』

 

相変わらず、どこかの女の家にいるらしい。

画面の背景は見慣れない室内が映り、フランス語で女性が伏黒に何か話しかけている声が聞こえた。

伊地知はというと、いつものように自室から参加。

風呂上がりでスッキリした顔をしていて、髪の毛がまだ濡れている。

……風邪ひくぞ。

 

「揃いましたね。

第9回・記憶持ちの定例会、本日のファシリは私、七海建人が担当します」

 

『五条と夏油はどうした?』

 

「家入さんも含めて、朝から出張です」

 

『電話かかってきたりしませんかね?』

 

数回前の会議の終わり軽い雑談をしてたら、私の携帯が鳴った。

出たら、いきなり「怖い話を教えろ」ときたもんだ。

めんどくさくなって「あー電波がー」と言いながら電源を落とし、そのまま会議を強制終了。

 

──結果。

七海のところに電話がいき、灰原と二人で深夜遅くまで“怖い話提供会”をする羽目になったらしい。

呪霊を出す条件が「百物語をやること」だったそうだ。

 

私はというと、早々に部屋に戻って寝たので無事に回避。

……ちなみに、帰ってきた五条には「なんで電話切ってんだ」とアイアンクローをかけられた。

 

その後、五条の発案でなぜか花火大会が開催されたけど、

その間もずーっとネチネチ言われ続け、結局、五条の機嫌を取る羽目になった。

 

正直、面倒だった。

今思えば──あの時はまだ“添い寝”が始まっていなかったのが救いだ。

添い寝が始まってたら、ベッドの中でぐちぐち言われてたに違いない。完全に事案だ。

 

「今回はすでに電源を落としています。

ちょっと早いですが、“ゲームしながら寝落ちした”ってことにしますよ」

 

アイアンクローの痛みを思い出して顔をしかめつつ、対応は万全だと伝える。

伊地知が小さく笑って、「それ、結局怒られるやつですよ」とぼそり。

 

「確か今日は、“灯りで人を誘き寄せて襲う呪霊”の祓除でしたね」

 

『条件付きの呪霊の祓除はめんどくせぇ』

 

ある意味フリーランスの伏黒の言葉には、実感がこもっている。

そして画面越しに、どや顔。

 

『呪霊より人の方が楽だ。急所を攻撃すれば、それで終わりだ』

 

「「「……」」」

 

暗殺者の豆知識を誇らしげに言うな。

しかも「良いこと教えた」みたいな顔すんな。

そもそも人の急所を的確に狙うって、普通に高等技術だからな?

肉体を極め切ったフィジギフ基準で話すな。

──頼むから五条や私の依頼、そして呪詛師の暗殺以外の仕事はしないでね。

 

「話を戻しますね。潔乃さん、お願いします」

 

七海が咳払いをして、さらっと仕切り直す。

 

「五条さん、記憶は取り戻していませんが──前のことが、なんらかの形で魂に刻まれていますね。

メールでも報告しましたが、私がタバコを吸った時の反応は異常でした」

 

「あれは直接見ましたが、錯乱状態に近かったですね」

 

『お前、タバコで何したんだよ』

 

あー、伏黒には詳細まで話してなかったっけ?

七海と伊地知がすこぶる嫌な顔をしている。はいはい、私が説明しますよ。

 

「あー……五条悟だけを弾く結界を作る時、その起点にタバコを使ったんですよ。

で、その中で夏油傑の死体を燃やしたら──素の力で結界破られそうになりまして。

しょうがないので命の縛りで結界を強化して、一緒に焼身自殺しました」

 

『人の心とか無いのか?』

 

伏黒に呆れ顔で言われる。

いや、自分も他人も命軽いアンタに言われたくないんだよなぁ。

 

「とにかく、これで注意すべきことが増えました。

当人にとって魂を強く揺さぶるような記憶が前世にあった場合、

今世でも影響を及ぼす可能性がある──ということです」

 

七海が、私の言いたかったことをきっちりまとめてくれる。

 

『だとすると要注意は、夏油と灰原か。

それ以外は、そこまで気にしなくてもいいだろう』

 

『その他の人を気にしない理由はなぜでしょうか?』

 

伏黒の意見に、伊地知がすかさず質問を挟む。

 

『今回の記憶を取り戻した全員は、潔乃と視線を合わせた後に記憶が戻っている。

そして今、記憶を取り戻して“やり直している”原因が五条のせいじゃないか?

という仮説を前提にすると──

潔乃か五条に強く関わりがある人間ほど、その影響が大きいんじゃないか?』

 

禪院家で冷遇されながらも教育だけは受けていたのか、

それとも自分で学習したのか──

伏黒は呪術的な知識や思考が、一般家庭出身の私たちよりよほど洗練されている。

ほんと、ただのクズと思いきや本当に頭がキレる。

味方サイドに巻き込めてよかったと思うのは、こういう瞬間だ。

 

「なるほど。一理ありますね」

 

『…………』

 

「仮説ではありますが、いい線だと思います。

潔乃さん。五条さんの地雷は、貴方と夏油さんでしょうから、気を付けてください」

 

さらりと無茶振りをする七海。

いや、地雷がわかったら苦労しないんだよなぁ。

それも夏油の分までフォローとか。

無茶振りされたテーブルを指でコツコツ叩きながら、私は七海を睨みつける。

 

『質問なのですが、夏油さんと灰原さんの地雷の心当たりはありますか?

七海さん、潔乃』

 

伊地知の質問に、七海と顔を見合わせて首を傾げた。

 

「灰原は……地雷らしい地雷……あるとしたら、産土神の任務でしょうかね」

 

七海にとっての一番のトラウマを思い出したのか、いつも以上に眉間に皺が寄っている。

私よりも七海の判断の方が正しいだろう。

 

「夏油さんは、いくつかポイントがありますが、星漿体の任務に関してはギリギリアウト寄りなセーフ」

 

画面の伏黒に視線を向けると、“俺は関係ないし悪くありません”みたいな顔をしている。

お前に負けたことも原因の一つだからな。

軽く睨みつけたあと、続ける。

 

「次にやばいのは、灰原が死んだ時。そして──あの呪詛師堕ちの直接の原因になった村」

 

私の発言に、七海がはぁっとため息をつく。

灰原は絶対に救うつもりだから、それ自体を回避すれば夏油の魂を揺さぶることはないだろう。

問題は、あの因習村だ。

 

「私や建人さんが、その任務に同行できればいいんですけど、おそらく難しいでしょうね。

アレは上層部の嫌がらせの一つでしょうから。ワンチャン潔高が同行できればいいんですけど」

 

上層部──おそらく羂索による、夏油に対する削り。

私たちは上層部や羂索に違和感をもたれない程度に立ち回らなければならない。

それゆえに、極端な行動は難しい。

こういう時に頼りになるのは……

 

「となると、やはり伏黒さんが頼りですね」

 

『最悪、ぶん殴って拘束して連れ帰ればいいんだろ?』

 

「それは最終手段にしてください」

 

『非術師の世界も大概だが、呪術界の最悪さを語らせたら、俺ほど暗部を見てる奴はいねー。

うまいこと絶望させて、戦意喪失させてやるさ』

 

「両方の世界に絶望して、ヤケクソになられても困ります」

 

七海と伏黒の噛み合わない会話に、思わずため息をつく。

このまま放っておくと、キレやすい七海を揶揄うのが好きな伏黒が調子に乗って、喧嘩になるパターンだ。

 

「ひとまず、夏油さんのメンタルケアは私と建人さん、灰原で対応します。

伏黒さんは当日、よろしくお願いしますよ」

 

二人の漫才のような会話に介入し、強引に方向性を修正する。

 

『産土神信仰の件に関しては、前回話した内容から変更ないですよね?

では、本日の議題はこれくらいで終わりということで。いいですよね?』

 

伊地知が、私の意図を察してすかさず会議の締めに入った。

本来の進行役は七海だが、それをさりげなく奪い取ってる。

ナイス、伊地知。完璧な流れだ。

 

『──ちょっと待て』

 

その締めを、鋭い声で伏黒が止めた。

妙に真面目な顔をしている。

さっきまで喧嘩寸前だった七海、さっさと会議を終わらせようとした伊地知も、つられて姿勢を正した。

 

『潔乃。今日これだけは聞いておきたい』

 

え、私?何か重要なことでもあったのか?

 

『来週の凱旋門賞に来る馬はどれだ?』

 

「「「……」」」

 

無言でバタンとノートPCを閉じた。

ディープインパクトの馬券を抱えて溺死しろ。

 

 


 

 

寮の自室。風呂上がり。

五条からなぜか贈られたジェラピケの室内着──完全にオフの姿。

 

だらしなく座布団にあぐらをかき、テーブルの上の呪霊玉を睨みつける。

うーん、うーん、と唸る。

夏油のメンタルケアの一つとして、この呪霊玉のゲロ不味さをなんとかしたい。

みんなにゲロマズなことが伝わって、五条や家入など夏油と任務に行く人たちはいろんな飴やマウスウォッシュなどを用意し始めた。

それだけでも夏油には救いになってると思う。

でもどうせなら、味をなんとかしてあげたい。そう思う。

 

その時、寮の部屋がノックもなく開いた。

今日の宿泊代代わりの手土産なのか、

五条がポテトチップとチョコパイ、ハリボー、そしてコーラのボトルを抱えて立っていた。

 

 

 

「傑の呪霊玉? 何してんだ?」

 

テーブルの上に並ぶ小さな呪霊玉を見て、五条が不思議そうに眉をひそめる。

 

「いえ、ちょっとね……」

 

勝手知ったる私の部屋。

勝手に棚からグラスを2つ取り出し、持ってきたお菓子を無造作にテーブルの上に開けて起き、

当然のようにコーラを注いで出してくる。

 

──この光景、もう慣れた。

 

最近の五条は、私の部屋に来て、

私が宝石に呪力を込めていようが、ゲームに集中していようが、

お構いなしに勝手にくつろぎ始める。

 

最初こそ追い出そうとしたけど、もう諦めた。

 

「ふーん……」

 

チョコパイの個包装を開けてパクりと齧る五条。

あー美味しそう。チョココーティングされてるお菓子って、なんであんなに美味しんだろうね。

それを横目で見ていて、ふと気がつく。

ハリボーをひとつ取り出して、指先でフニフニと遊びながら、テーブルの上の呪霊玉のそばに置く。

五条が「また変なこと始めたな」みたいな顔で見ているのを無視して、術式を展開。

 

ハリボーが溶けるように変質し、呪霊玉の外郭を包み込むように薄い膜を形成していく。

そのまま、出来上がった“ハリボーコーティング呪霊玉”を──ぺろり。

 

「!!!!!!!」

 

だめだ!くっそまずい!!!テーブルの上のコーラ流し込む。

 

「負の呪力そのものの味だから、物理的なコーティングで防げるわけないだろ」

 

私が何をしようとしいたのか察してたらしい。

何やってんだ?と言わんばかりに、自分のグラスに注いだコーラを差し出してくる。

 

「ウゲー……いやワンチャン行けないかなって」

「それで行けたら傑も苦労してねーだろ」

「ですよねえ……」

 

コーラを飲みながら、ふとさらに気づく。

 

「五条さん、反転術式に使うプラス化した呪力って、指先に集めることってできます?」

「そりゃできるだろ。反転術式はその呪力を傷に集めて治療すんだから」

「ちょっとやってもらえます?」

「別にいいけど」

 

五条が軽く人差し指を上げ、そこに反転した“プラスの呪力”を集中させる。

白く柔らかな光が灯り、それを私の目の前に差し出してくる。

私は五条のその人差し指に触れる。もう片手で呪霊玉を持ち──

そのまま再度、術式を発動。

五条のプラス呪力を、先ほどのハリボー膜に纏わせていく。

正の呪力が、負の呪力の外郭に混ざり、滑らかに融合していく。

 

「は?」

 

五条が固まったまま見ている。

その視線を無視して、合成を完了。

一度深呼吸してから、再び──ぺろり。

 

「…………ハリボーの味がする」

 

五条が無言で呪霊玉を奪い取り、ぺろり。

 

「……マジだ」

 

呆然としたあと、かつてない厳しい目で私を睨みつけた。

 

「おい……」

「あ、はい! これ今思いついてやりました! 五条さんしか知りません!!!」

 

私だってわかってる。

他人の呪力を掠め取って合成とか、どこかの世界で言うなら──封印指定まっしぐら。

 

五条がガシガシと自分の頭をかきむしり、うめく。

 

「あー……マジでオマエさ。どこまで俺の寿命縮めるの?

どんだけ上層部や御三家に監禁されたいの?」

 

「そんなつもりないです。ただ、やれるかなぁって思っただけです」

 

五条が珍しく、迷ったような視線をこちらに向けた。

その目に浮かぶのは、いつもの茶化しではなく、純粋な躊躇。

 

──言わなくてもわかってる。

 

五条、あの時、夏油の呪霊玉のことを知って、

本当に心を痛めてた。

文献を漁って、夜遅くまで解決策を探してたのを私は知ってる。

 

今回、ようやく一つの糸口が見えた。

でも、この方法が外に漏れたら、

私の身が危険に晒されるのも確かだ。

 

だからこそ、五条は迷っている。

 

なら、背中を押すのは私の仕事だ。

 

「夏油さんに、これ話しましょう。──夏油さんなら大丈夫ですよ」

 

迷いなくそう言い切る。

五条が一瞬、目を見開いた。

 

五条には言えないけど、私たちは、夏油が呪詛師落ちしないように動いてるんだ。

効果が高いなら、多少のリスクは取る。

 

「……夏油さんなら、秘密も守ってくれますし。

いざって時は五条さんに“助けてー”って言います。守ってくれますよね?」

 

いつもの調子で、少し軽く笑って言うと、

五条は驚いたように瞬きをして──そして、ふっと笑った。

 

「当然だろ。俺に任せろ

……悪ぃな。でも、ありがと」

 

冗談でも軽口でもなく、静かな五条悟としての本音の声だった。

 

そして、次の瞬間、

心底嬉しそうな顔で、私を抱きしめた。

 

 


 

 

深夜、0時を少し回った頃。

そろそろ寝ようとしていたところに、携帯の着信音が鳴った。

画面を見ると──悟。

 

なんだ?

用事があるなら、隣の部屋なんだから直接来ればいいものを。

 

電話に出ると、低く真剣な声が返ってきた。

 

『今すぐ潔乃の部屋に来い。誰にも見つからないように、早く』

 

……やけに切迫している。

潔乃ちゃんに何かあったのか?

 

嫌な予感を振り払うようにして、私はすぐに寮の部屋を出た。

女子寮に向かう途中、悟の言葉を思い返す。

 

“誰にも見つからないように”。

 

とはいえ、学生寮なんて元々が無法地帯だ。

男子禁制?──誰も守っていない。

悟も私もあの七海ですら女子寮に出入りしてる。

夜蛾もその場を目撃すれば注意はするが、基本黙認だ。

流石に今日のような深夜だと指導はされそうだが、今夜は任務で外に出ているはずだから問題ない。

あとは、見つかるとしたら硝子くらいか。彼女も何も言わないだろうけど。

それでも禁止事項には違いない。

足音を殺して素早く歩く。

 

潔乃ちゃんの部屋の前に立ち、ドアノブを握る。

……鍵はかかっていない。

 

そういえば、潔乃ちゃんの部屋に入るのはこれが初めてだな。

そんなことを一瞬だけ考えて、そっと扉を開けた。

 

中には、テーブルの前に座る悟と潔乃ちゃん。

 

部屋は女の子の部屋というより、どこか男兄弟の部屋みたいだった。

インテリアもさっぱりしていて、棚には少しの漫画とゲーム、テレビ。

必要最低限で、飾り気がない。

 

……ただ、潔乃ちゃんがやけに可愛い室内着を着ている。

ジェラピケ。あー悟が潔乃ちゃんにプレゼントするって言ってたっけ。

悟いい趣味してるな……

 

そんなことを考えていると、悟が短く声をかけてきた。

 

「傑、早くこい」

 

どうやら本当に急ぎのようだ。

私は肩をすくめ、「お邪魔するね」と家主の潔乃ちゃんに声をかけてから室内へ入った。

 

潔乃ちゃんが、きちんと座布団を差し出してくれる。

素直にそれを受け取り、テーブルの前に腰を下ろした。

 

テーブルの上には──チョコパイ、ポテトチップス、そしてコーラ。

……お菓子パーティーでもしてたのか?

 

この時間にコーラとチョコパイ。美味しそうだな。私ももらえるかな。

それにしても、彼女が「嫌だ」と口で言いつつ、悟の距離を強く拒まないあたり、

……仲良いよな、ほんとに。

 

「あの、夏油さん。これなんですが」

 

恐る恐る。と言った表情で、丸いピンポン玉くらいの球体を出してくる。

先日渡した呪霊玉かな?何かブヨブヨしたのでコーティングされてるけど?

 

「潔乃が術式を使って、特別に“ハリボー”でコーティングした呪霊玉だ。飲んでみろ」

 

悟がいつになく真面目な声で言う。

 

ハリボーでコーティング──お菓子や別の物質で味を誤魔化そうとしたのか。

それは、以前私も試した。

けれど、あの吐瀉物を拭いた雑巾のような味は、どうにも変えられなかった。

 

……もしかして、この二人、

私が呪霊を取り込むときの苦痛を気にして、

色々実験してくれていたのか。

 

──本当に、私はいい親友と後輩を持ったな。

 

「わかったよ」

 

寝る前で歯磨きも済ませていたから、

正直、今はあまり呪霊玉を飲み込みたくはなかった。

けれど、この二人の気持ちには応えたい。

 

私は静かに呪霊玉を手に取り、

そのまま口に含んで──飲み込んだ。

 

……

 

「……ハリボーの味がする」

 

私は呆然としていた。

 

「……なんで……?」

 

言葉が出ない。

あの地獄のような味が、まるでしなかった。

 

「おい、取り込んだ呪霊は使えそうか? ペナルティとかは発生してねぇか?」

 

悟の声にハッと我に返る。

言われた通り、取り込んだ呪霊の反応を探る。

 

──問題なし。

 

「……特に問題はなさそうだ」

 

そう答えた瞬間、部屋の空気がふっとやわらいだ。

 

「よっしゃ!!」

「いえーーい!!!」

 

悟と潔乃ちゃんが、目の前で勢いよくハイタッチを交わす。

そのまま、抱きしめ合う。

 

……は?

 

「悟!! 潔乃ちゃん!!! これ、どういうことなんだい!!!」

 

思わず声が裏返る。

悟はまったく動じず、得意げに笑って言った。

 

「ほらな? 防音の結界、先に貼ってて正解だったろ?」

「ですね」

 

2人してケラケラと笑い出す。

嬉しそうにお互いを見ながら、どこか誇らしげに私を見つめてくる。

 

いや、そういうのは後でいいから。説明が欲しい。

 

私の混乱を察したのか、悟がようやく口を開いた。

 

「呪霊玉は呪霊を球体にしたもの。つまり──負のエネルギーの塊だ」

 

潔乃ちゃんがテーブルの上に、コーティングされていない呪霊玉を置く。

小さく光を反射するその表面は、“負”の呪力が渦巻いている。

 

「だからこそ、物質的なもので覆っても意味がない。

オブラートとか、お菓子とかでコーティングしても、負のエネルギーは防げない。

そのままダイレクトに伝わっちまう」

 

悟はそう言いながら、人差し指を立てて呪力を練り始めた。

その質──反転術式。

 

潔乃ちゃんがその指先を掴み、もう片方の手で呪霊玉とチョコパイを持つ。

すっと息を吸って、術式を発動。

 

みるみるうちに、チョコでコーティングされた呪霊玉が出来上がった。

艶のある表面が、まるで本物のお菓子のようだ。

 

「はい、どうぞ」

 

潔乃ちゃんがそれを差し出してくる。

恐る恐る手に取り、再び飲み込む。

 

……甘い。

 

「……チョコパイの味だっ……」

 

その一言に、悟が満足そうに笑った。

 

「反転術式は“プラスのエネルギー”。

負のエネルギーを中和して打ち消す。

潔乃の術式でお菓子──今回はハリボーとチョコパイにな──に俺のプラスの呪力を注ぎ込み、

それを外郭として呪霊玉を包んだ。

負の呪力を外に漏らさず、同時に味覚刺激も打ち消したんだ」

 

私は、それを呆然と聞いていた。

悟の言葉が、すぐには頭に入ってこなかった。

 

目尻がじわりと熱くなる。

……情けない。

ただの味の問題じゃない。

あの呪霊玉を、取り込む苦痛を悟と潔乃が自分ごとのように、

本気で考えてくれたたことが、その行為自体が。

何よりも心に沁みた。

 

そんな私の様子を見て、潔乃ちゃんがそっと立ち上がる。

 

「甘いのばかりで辛いので、コーヒー入れてきますね」

 

そう言って、静かに席を外していった。

 

残された部屋の中で、悟がチョコパイの袋をひょいと手投げしてよこす。

 

「この案、思いついたのは潔乃だ」

 

悟の声は、いつになく低かった。

 

「俺の反転術式の呪力を使って物質を加工した。

正直、傑にもこれを伝えるのは迷った──このヤバさ、わかるだろ?」

 

もちろん、わかる。

あれは術師として、触れてはいけない領域だ。

 

悟はそれでも、静かに続けた。

 

「でも、潔乃のやつ、即答だった。

“夏油さんに、これ話しましょう”ってよ。

あいつに感謝しろよ」

 

悟の言葉が、胸に沁みた。

 

私は黙ってチョコパイの包みを開け、

手の中で少し温めてから、ゆっくりとかじった。

……甘い。

けれど、それ以上に、優しかった。

 

 


 

 

主人公

 

五条の解釈に頭を抱えた。

五条のいう”好き”と、自分で言う”好き”は違ってると思ってる。

五条の好意が1/3も伝わってない。

まぁ、五条に甘く、完全拒否はしないので、ずるずると距離無し生活が始まる。

そしてこの度、また上層部にバレたらやばい、術式の拡張方法を見つけた。

夏油の呪霊玉の味変改革成功だぜ!

 

 

五条悟

 

セクハラするなって言われたけど、好きなら問題ないんだろ?

うん、俺潔乃のこと好きだけど?とダイスロール成功してしまった人。

俺の”好き”と潔乃のいう”好き”多分同じだと思うけど違うの?

好意感情1/3も伝わってないことに首を傾げてる。

この度、主人公がまたやばい術式の使い方して頭抱えた。

なに?一般出身の術師って実は思考回路おかしいのか?と思い始めている。

そして、主人公に危険が及ぶ可能性があるのに、あっさりと夏油に伝えようと言いきる主人公に

人が良すぎると感じたりするが、素直にありがとうと思った。

 

 

夏油傑

 

主人公の術式であの地獄の味から逃れられると知って泣いた人。

最終的には主人公の術式での解決にいたったが、五条もかなり文献などで調べてた。

また、同じように家入や七海や灰原、まだ高専生ですらない伊地知も似たようなことやってたと知って、

またひっそり泣いた。

私は、良き友、良き後輩。良き仲間達に恵まれた!

 

 

七海建人

 

五条と主人公はさっさとくっつけばいいのにと思ってる。諦観した兄。

理由としては、前世で五条の様子を見ていたこと、主人公が本当に嫌なら全力で拒否るはずが、生ぬるい拒否しかしてないので、悪い気はしないと判断。

破れ鍋に綴じ蓋なんですから、さっさとくっついて五条さんのメンタルを安定させてください。

主人公から呪霊玉の解決方法を聞いて頭を抱えた。

 

 

灰原雄

 

作中はなかったが、夏油のメンタルフォローで陽キャっぷりを炸裂させてた。

五条と主人公は、五条が本当に嬉しそうなので、早く主人公は付き合ってあげればいいのにと思ってる。

夏油の呪霊玉の件は色々調べてたが、後日もう大丈夫と言うことだけ聞いて、五条さんあたりがなんとかしたんだなと察してにっこり。深くは聞かない。

こう言うバランス感覚は一番上手い。

そして次は自分が救済される側なのは、当然まだ気づいてない。

 

 

家入硝子

 

五条の好意1/3も伝わってないのウケる。

主人公も本気で嫌そうではないので、静観。

夏油の呪霊玉については医学的アプローチから進めてた。

五条から何とかなったと聞いて、こちらも特に深く聞かなかった。

良かったじゃん。

 

 

 

伏黒甚爾

 

凱旋門賞のレースの答えを潔乃にあのあとしつこく聞きまくって、なんとか教えてもらってボロ儲けした人。

あぶねぇ、ディープインパクト買うところだった。

 

 


 

 

 

あのあと、

呪霊玉のコーティングのタイミングや、どの味にするか、見た目をどうするか、夏油が取り込むタイミングなどを、五条と夏油と三人で取り決めた。

呪霊玉コーティングは私と五条がいないとできないし、お菓子コーティングがいつまで持つかわからない。

その調査が終わるまでは、当分は夏油が即取り込む必要がある。時間が持てばいいけど。

そして、毎回私たちが同じ場所にいるわけもいかない。

対外的に見せるためにコーティングなしのまま、取り込む必要があることもあるだろう。

それに関しては本当に申し訳なく思ってたんだけど……

 

それでも、夏油は、目尻を赤くしたまま、本当に嬉しそうに笑っていた。

……本当に、苦痛だったんだろうな。

日本人って、食べることが好きだから。

あんな“吐瀉物みたいな味”を、何度も飲み込むなんて、

どれほどきつかったか、考えるだけで胸が痛くなる。

 

そんなことを思っていると、

夏油が、にこにこと笑いながらこちらを見た。

 

「潔乃ちゃん。悟と別れたら、私と付き合おっか?」

 

「……は?」

 

一拍置いて、部屋の空気が凍る。

 

「オイ!! 何言ってんだ傑テメェ!!!」

 

悟が瞬時に立ち上がる。

テーブルがガタンと音を立て、空気が一気に修羅場モードに突入。

 

「いやいや、だからさ、悟が完全に振られたら──

私が彼氏に立候補しようかなって」

 

満面の笑みで言う夏油。

完全に遊んでる。

これは夏油の照れ隠しだろうなぁ。小さくため息をつく。

 

「俺は振られねーよ!!! おい表出ろ!!!」

 

五条が袖をまくりながら怒鳴る。

いつものようにキレ方が豪快すぎる。

 

「仮の話なのに。怒りっぽい男は嫌だねぇ。

……ま、校舎を破壊しない程度に付き合うよ」

 

涼しい顔で立ち上がり、ドアの方へ向かう夏油。

その背を、五条が真っ赤な顔で追いかけていく。

 

バタン、と勢いよく閉まるドア。

 

──嵐が過ぎ去った。

 

「……校舎の破壊、少ないといいな」

 

私は頭を抱えながら、コーヒーをすするしかなかった。




深夜にチョコパイが食べたく……
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