玉折②
・伊地知ポジション成り代わり(伊地知の双子の妹)だった転生者、七海建人の双子の妹で、まさかの2週目
・オリキャラ出ます
・ネタまみれです
・これまでで最も、激しい捏造、妄想含みます
・今回も激しいオリジナル解釈や展開になります。苦手な方は注意
九十九と別れたあと、夏油から“ねっっっちり”とした説教を受けた。
いやほんと、あの男、最近どうした?
まるで五条のような説教だった。
夏油、お前も
五条がいないときくらい自由にさせてほしい。
まぁ、とにかく翌日の“産土神信仰案件”の任務準備を終え、
早めに寝ようと布団に潜り込んだ。
そのまま睡魔に身を委ね──
枕元の携帯がけたたましく震えた。
……壁の時計を見ると夜中2時過ぎ。
名前を見るのも面倒だ。そのまま画面も見ずに通話ボタンを押す。
「……はい」
『おい! オマエ外部進学まじですんの?』
耳がキーンとなった。
ハンズフリーにしなくても部屋中に響き渡るほどの声量。
……五条だ。
だと思ったよ。
こんな非常識な時間にかけてくるのは、五条か伏黒か、任務連絡くらいだ。
夏油、お前絶対チクっただろ。
「まだきめてないですけど、かのうせいはありますぅ……」
寝起きで溶けた脳味噌のまま答える。
『オマエさぁ! そんだけ才能あるのに呪術師辞めるわけ?』
「さいのうとかどうでもよくないです?」
『カーーー! これだから
呪術師は才能が8割っつったろ。
最終的にはフィジカルだけど、才能あるかないかでスタートラインが違ぇんだよ!』
「どーでもいいのでねていいですか?」
『よくねーよ!! いい加減寝ぼけてないで目覚ませよ!!』
スマホの向こうで五条が本気でぶち切れている。
深夜2時にぶち切れるなよ。眠いんですけど。
頭はぼんやりしたまま、意識だけが漂っている。
『おい、あと九十九さんのところ行くなよ!!』
「どーでもいいじゃないですかそんなこと」
『よくねぇわ!! とにかく行くなよ!
それなら俺んちで雇うから!』
……ん?
五条の発言の突飛さに、さすがに目が醒めた。
「真面目にそれは嫌ですね」
布団に潜ったまま、即答した。
一瞬、通話口の向こうが静かになる。
『……何でそれで目覚めるんだよオマエ!!!』
チッ、気づいたか。
五条って、目がいい以外にも耳もいいんだよね。
そして叫ぶな。夜中なんだよ。
「五条さん関連のところに就職したら、
外堀埋められてお嫁さんコースとかになりそう……なーんて」
『……チッ』
「…………え、マジで? うわぁ引くわ……」
『何でだよ! 俺オマエのこと好きだし、金持ちでイケメンだぞ!』
「あーはいはい、嫌なもんはいやですー……ふぁ……」
そこでふわっと大欠伸。
やっぱり眠いものは眠い。生理現象には勝てない。
『おい、寝そうになってるだろ! 俺の話聞けって、おい!』
「はいはいきいてますよー……ごじょさんは、かねもち、いけめん……どこが?」
『おい!!』
眠いなぁ……明日朝早いんだけどなぁ……
五条の怒声を子守唄代わりにしながら、そのまま意識が沈んでいく。
──そして、気づいたら朝だった。
通話履歴を見ると、通話時間は20分ほど。
どうやら五条は、私を起すため話し続けていたらしい。
……すまんね。
ほんと、耐えられなかったんだよ眠気に。
夜中に五条に叩き起こされたわりに、その後はしっかり眠れた。
ぐっすり寝たおかげで、体も頭もすっきりしている。
さっと身支度を済ませ、まだ薄暗い高専の廊下を食堂へ向かって歩く。
今日は朝食を食べたら、そのまま任務に出発だ。
食堂に入ると、七海と灰原がすでに朝食をとっていた。
おはようと声をかけて席に混ざり、私もご飯を食べ始める──が。
……灰原の顔色が、明らかに悪い。
「灰原さん、顔色悪いですけど……」
「七海にも言われたんだよねぇ。そんな酷い顔してる?
昨日さ、夢見が悪くて……」
“夢見”。
その言葉に、無意識に七海へ視線を送ると、小さく頷かれた。
──ああ、やっぱり。
灰原にとって産土神信仰の任務は、ほぼトラウマ案件。
過去の記憶を刺激したんだろう。
「よく覚えてないんだけど、最悪だったんだよね……」
と、灰原がため息混じりに言う。
灰原が翳るなんて、解釈違いなんだよ……。
「ふーん……じゃ、助手席座ってくださいよ。任務先までゆっくり寝ててください」
普段は、女性の私に気を遣って二人が譲ってくれるから、私が助手席に座ることが多い。
でも今日は、休ませるべきはどう見ても灰原だ。
「えー悪いなぁ。ありがとうね。お礼に、はい卵焼き一個あげる!」
「ありがとうございます。でもお礼に明太子ひとかけらあげますね!」
「えーそれもらっちゃったらお礼の意味がないなぁ」
「行儀が悪いですよ、二人とも」
きゃっきゃとやっていたら、七海にしっかり怒られた。
相変わらずだなぁ、七海は。
「七海もはい。僕のシャケをあげる」
「いりません」
「そんなこと言わずに! はい!」
「……はぁ……ありがとうございます」
七海の皿に、ぽとりと置かれたシャケ。
ため息をつきながらも、ちゃんと箸をつける。
その様子を見て「美味しいよね!」と笑う灰原。
とうとう七海の鉄面皮が崩れ、小さく笑って「そうですね」と返した。
──やっぱ、陽の者の力ってすごい。
一目見たときから、今日の任務を考えて七海がピリついていたのは分かっていた。
それを、灰原はあっさり解してしまう。
二人のやり取りを横目に、ご飯を食べ進めていたら、気づけば茶碗が空になっていた。
今日はこれから大勝負だ。しっかり食べておいたほうがいい。
「ご飯お代わり入れてきますけど、二人とも入ります?」
「大盛りで!」
「お願いします」
二人とも本当に食べるよねぇ。
いや、私も人のことは言えないけど。
「じゃ、入れてきますね」
そう言って笑いながら、茶碗を持って立ち上がった。
楽しい食事の後は、いよいよ産土神信仰の任務だ。
補助監督の運転する車に乗り込み、目的地へ向かう。
遠方のため、片道は三時間弱。
それなりの長旅になる。
助手席では、灰原が早々に熟睡していた。
昨日の夢見のせいか、すぐにコトンと落ちた。
あの様子なら無理に起こす必要はない。
私と七海は、交代で短い睡眠を取りながら休む。
とはいえ、二人同時に寝ないのは当然だ。
警戒のためだ。
──というのも、今日の補助監督が“要注意人物”だからである。
本来、私たち学生に同行してくれる補助監督はだいたい決まっている。
力量も分かってて、信頼関係が構築されている顔ぶれだ。
だが、ここ数回ほど、急に“新人”が担当するようになった。
最近補助監督になったばかりらしい。
よくあることと言えばそうなのだが……
時期が時期だけに怪しすぎる。
七海に確認すると、前回の任務でも同じ新人補助監督だったらしい。
そこで、時間に余裕のある4級術師の伊地知に調査を頼んでみたところ──
この補助監督、上層部の分家出身だと分かった。
しかもその分家、かなり落ち目で資金難らしい。
……なるほどね。
というか、やっぱりか。
もうほんと、さすが
短期間であっさり裏まで取ってきた。
原作で五条が一番信用するわけだよ……と妙に納得してしまう。
話が逸れたけど、とにかく今日の補助監督は
“何か”仕掛けてくる可能性が高い。
こちらからすれば、完全に要注意人物だ。
とはいえ──
何をされても即応できるように、こっちも布石は打ってある。
出発前、見送りに来た伊地知の顔を思い出す。
「任務ですか?」なんて、いつもどおりの控えめな笑顔で言っていたが……
心配で見送りに来たんだろうな。
灰原と出会って、良き先輩として懐いているから。
──大丈夫。任せてよ、
そう心の中で呟きながら、隣で目を覚ました七海に軽くアイコンタクトを送る。
七海も静かに頷き返す。
その確認を終えると、私はそっと瞼を閉じた。
補助監督から任務説明を受け、配られた資料に目を通す。
……産土神の“う”の字もない。
必要な情報もほぼゼロ。
廃村情報がひとつでもあれば、前回の七海たちも産土神を疑えたはずなのに。
内心でため息を吐きながら、補助監督が張った帳をくぐり抜けて数歩進んだところで──
「あ、すみません。携帯を車の中に忘れてきました」
「何やってるんですか、潔乃さん」
「ごめんごめん。ちょっと取ってくるね」
これは、七海と事前に決めていた“確認のための行動”だ。
ここで私が確かめたいことはただひとつ。
「あれ? 帳、抜けられない……?」
手を伸ばしても、空間が拒むように固い。
透明な壁があるかのように、一歩も戻れない。
──はい、あの補助監督、黒確定。
普通、帳は“呪霊は通れないが術師は通れる”。
実力以上の呪霊が出たり、予期せぬ事態が起きたとき、術師が撤退できなくなるからだ。
なのにこの帳は、術師の退路すら塞ぐ設計になっている。
「……補助監督さん新人だから、設定間違えたのかな?
ま、早く倒しちゃおっか!」
灰原が、困ったような、でもあくまで明るい声で言う。
この状況でも空気を和ませるあたり、さすが陽の者だ。
「携帯は諦めてください。先に進みましょう」
七海は無表情だった。
けれど、その硬さは彼なりの“怒気”のサインだ。
補助監督が真っ黒だと確信したのだろうが、表に出さないところが七海らしい。
「うん」
私は小さく頷き、七海の後へ続いた。
七海、灰原、私の並びで、山道を歩く。
登山客などまず来ない里山だ。
林業関係者がたまに通る程度の道で、整備もされていない。
足元が不安定で、踏みしめるたびに小石が転がる。
それでも三人で一定の距離を保ちながら、静かに進んだ。
……いや、静かすぎる。
今のところ呪霊の気配はない。
ただの山のはずだ。
でも──
さっきまで見えていなくても“いた”はずの鳥や獣の気配が、ひとつもない。
風も止み、葉擦れの音さえしない。
山でこんな“完全な静寂”はあり得ない。
同じことを感じたのだろう。
七海と灰原の背筋がわずかに伸び、警戒の色が濃くなる。
周囲に目を走らせた瞬間──
木の袂に、朽ち果てた小さな社が見えた。
それは、黒ずんで傾き、崩れかけている。
放置された年月の重さと、どす黒い気配が染み付いたような……そんな異様な佇まい。
「建人さん! 灰原さん!! アレ!!!」
私が声を上げ、社を指さした瞬間──
空気が“ひっくり返る”ように、禍々しい呪力が満ちた。
肌がざわりと粟立つほどの濃密で、重い気配。
三人は同時に構えた。
「……最悪だ」
鉈を構えた七海が、低くつぶやいた。
現れた呪霊は──ギリギリ“1級”。
いや、正確には 特級に片足を突っ込みかけている。
そのクラスが、よりにもよって 2体。
前回こんなの出てないよね????
七海に聞きたいが、灰原がいるため言えない。
……が、七海の気配を見れば答えは分かる。
完全に想定外 の強さだ。
灰原も瞬時に判断し、ペットボトルの水を撒いて自分を中心に水の結界を張る。
眉間に皺が寄っている。
「僕は……これは撤退した方がいいと思う。
1体ならともかく、2体は厳しい!」
灰原の声が震えているのは恐怖ではなく、冷静な危機判断だ。
現在、実力を“隠している”七海は2級。
灰原も2級。
そして私は準1級。
実際は──
七海も灰原も私も 1級レベル の力は余裕である。
だから、1体なら協力して倒しました、で通る。
だが、特級なりかけ2体はさすがにきつい。
私の術式だと今の実力では特級は祓えないが、呪力宝石を使えば特級でも屠れる。
ただ、威力の高い宝石を使えば、上層部に「本来の実力」がバレる。
それは現時点では絶対に避けたい。
命には代えられないけど、あれは最終手段だ。
「帳は抜けられなかった。こんな時に!」
「くそ!時間で帳が解けるまで逃げ回れって?」
七海と私の会話は、あわてて苛立って聞こえるかもしれないが──
正直、ここまでは 想定内。
最悪のパターンを踏んだだけで、この会話もある程度想定済みの会話。
最悪、帳が解けなくてもいい。
一定時間が経ったら、伊地知から
「五条悟と夏油傑」
に連絡が入る手筈になっている。
『任務そろそろ終わったかと思って電話したけど、
誰も出ないし全員圏外でおかしいです!』
と。
そうなれば、五条は──
原作通り、問答無用ですっ飛んでくる。
それに加えて、こちらにはもう一枚、隠しカードもある。
だから私たちが今すべきことは、ただ一つ。
「散れ!!!」
七海の怒声が山に響いた瞬間、
2体の呪霊が同時に襲いかかってきた。
私たちは一斉に散開し──
命懸けの鬼ごっこ が始まった。
命懸けの鬼ごっこは続く。
3人とも基本は逃げに徹しているが、まったく攻撃しないわけではない。
誰かが軽く殴り、蹴り、呪力をぶつけ、
呪霊の意識を自分へ引きつける。
その“数秒”で、ほかの誰かが息を整える。
休憩をつなぎ続ける──ただ、それだけで命が繋がる。
私と七海は、この山の地図を頭に叩き込んでいる。
動きやすい斜面、隠れられる大岩、足場の悪い崖。
私たちに有利なルートへと誘導するように、逃げながら走る。
ただ──
呪霊と異なり、私たちには体力の限界がある。
呼吸が荒くなり、足が重くなり、
徐々に動きが鈍くなる。
被弾も増えてきた。
私が作った防御宝石は、3人とももう全部砕け散っている。
くそ、こんなことになると思ってなかったから、1つずつしか作成しなかったのが悔やまれる。
……そろそろ本格的にまずい。
そう思った矢先だった。
灰原の回避が一瞬遅れ、
呪霊の一撃をモロに受けた。
「──ッ!」
横に吹っ飛び木へ叩きつけられ、そのまま動かない。
失神だ。
追撃に飛びかかった呪霊を、七海が呪力を込めた鉈と拳で殴り飛ばす。
その隙に私は灰原の身体を抱え、必死で駆け抜ける。
くそ……そろそろ本当に全員限界か。
宝石を使うしか──
それを覚悟して、私は灰原を七海に向かって投げ渡した。
懐から宝石を取り出す。
……その瞬間だった。
目の前の2体の呪霊が、一拍の猶予もなく吹っ飛んだ。
「待たせたな──ズタボロじゃねぇか」
あの余裕が滲み出た落ち着いた、低い声。
視線を向けた先には──
呪霊を素殴りで吹き飛ばした伏黒甚爾の姿があった。
「はー……遅いですよ、伏黒さん」
胸の奥が、脱力でゆるんだ。
ようやく、助けが来た。
「監視がいねぇか、この辺り全部見て回ったんだぜ?
褒めてほしいもんだ。ボーナス出せよ!!!」
いつものニヒルな笑みを浮かべ余裕の表情。
しれっと追加ボーナスを要求してくる辺り、いつもの伏黒甚爾だ。
伏黒に吹き飛ばされた後、起き上がってきた2体の呪霊は、
完全に“敵の格”を悟ったようで──
私たち雑魚ではなく、伏黒に狙いを定めた。
同時に飛びかかっていくが、
伏黒は あっさり素手で殴り飛ばす。
……ほんと、何なんだこの人。
灰原を抱えたままの七海が、疲れ切ったため息をつきながら歩いてくる。
「相変わらずの規格外ですね」
呪具も使わず、素のフィジカルだけで特級なりかけ2体を翻弄する伏黒を見て、
七海は心底うんざりした顔をしていた。
そっと灰原を地面に下ろす。
「そりゃー、天与呪縛のフィジカルギフテッドですから……」
私は灰原の怪我を確認する。
横っ面に呪霊の触手を受けて吹き飛ばされたが、
咄嗟に水で防御したらしい。
脳震盪は起こしているが、命に別状はなさそう。
宝石で回復をかけるまでもない。
──よかった。
「伏黒さん、地形はあまり壊さないでくださいねー」
私が声をかけると、
伏黒は「分かってるよ」と言わんばかりに手をひらひら振り、
そのまま呪霊を長い足で蹴り飛ばした。
呪霊は木にぶつるが勢いが止まらずそのまま薙ぎ倒し、さらに何本か倒した先で止まった。
……えげつない威力。
呪力がないから呪霊は倒せないけど、
素の身体能力だけで特級なりかけ2体を完全に玩具にしてる……
──そう。
今回の“隠しカード”は、この伏黒甚爾だった。
当初の予定では、夏油傑の呪詛師落ち任務のサポートに伏黒を同行させるつもりだった。
しかし、いつもの定例会で“万が一の案”について話している時──
「産土神の任務こそ、俺の独壇場じゃねぇか?」
と、まさかの伏黒本人が提案してきた。
たしかに、補助監督が黒で帳が解けなくても、
呪力がない透明人間の伏黒ならフリーパス。
そして、呪力の痕跡を残さないから、
呪具を使わない限り、
全力で呪霊と殴り合っても証拠が残らない。
合理性の塊。
こうして伏黒甚爾の参戦が決まった。
ただし問題はひとつ、
任務の監視者が補助監督以外にいないかどうか。
そのため伏黒は、
まず監視者の有無をエリア全域で探索し、
もし居た場合は“いい感じに”排除。
山だしね。滑落とか怖いよね。あと、熊とかいるしね?
まぁ、そんな感じ。
で、その後こちらに合流して、
五条悟のヘルプが来るか帳が解けるまで、
ステゴロで呪霊をあしらってもらう。
──まさに脳筋戦法。
でも効果は絶大。
そして今、その作戦が成功しつつあるのだった。
伏黒が特級なりかけ2体を素手で翻弄しているその最中、
ふいに──
パッと辺りが明るくなり、空気が軽くなる。
帳が上がった。
「お前らは手筈通り撤退しろ。
俺も五条が来る前に撤退する。
……ボーナス忘れるなよ???」
余裕すら感じる伏黒の声。
本当に、規格外すぎる。
「了解です!」
返事をするより早く、七海と私は動き出した。
伏黒の言葉に従うのが最善だ。
私たちが安全圏に逃げれば、伏黒も撤退できる。
五条はまだ伏黒が日本にいること知らないしね。
あーーーーほんと助かった。
ありがたい。伏黒を味方につけた過去の私に、
全力でキスしてやりたい気分だ。
命からがら必死に逃げてきました、という雰囲気を作るため、
わざと息を荒くして山道を駆け下りる。
私は意識を失った灰原を抱え、
七海は鉈で藪や枝を薙ぎ払い最短距離で、補助監督の元へ向かった。
──演技じゃなく、本当にギリギリだったけど。
「死にかけ」を装うことに関しては、まったく苦労がいらない。
補助監督の待つ地点へ、泥まみれのまま戻っていった。
「なんてことはない2級呪霊の討伐任務のはずだったのに……‼︎
クソ……‼︎ 産土神信仰……アレは土地神でした……1級案件だ‼︎」
ガンッ!
七海が怒りに任せて椅子を蹴り飛ばした。
金属脚が床を引っかき、甲高い音が医務室に響き渡る。
私は横目でそれを流し見て、
そのままイライラを隠さずに声を重ねた。
「特級なりかけ2体とか、等級見極めの調査どうなってるんですか?
この前、潔高の3級任務でも1級出てきたんですよ!!」
もちろん、七海も私も演技だ。
いや、言ってる内容は本気の愚痴だけどね。
怒りの矛先は上層部だ。
帳の異常、呪霊の格の誤報、そして補助監督の黒さ。
どれも無視できる問題じゃない。
非術師より、こっちの方がやばいよ?というのをさり気なくさり気なく、夏油に刷り込んでる。
ちょっと険悪だけどしょうがない。実際こっちは命懸けだったし、
ちょっとくらい愚痴らせて欲しい。
そんな険悪な空気の中で、夏油だけが穏やかな声を出した。
「今はとにかく休め、七海、潔乃ちゃん。
任務は悟が引き継いだ」
医務室のベッドの上──
小さく寝息を立てる灰原を見て、夏油はホッとしたように微笑んだ。
「君たち3人が無事戻ってきて、本当に良かった」
その穏やかな声に、嘘はひとつもなかった。
本心からの安堵。
……その表情に翳りはない。
私はその顔を見て、
張り詰めていたものが一気に緩むのを感じた。
そして、内心で深く、深く息を吐いた。
ひとまず良かった。3人無事に帰って来れて本当に良かった。
主人公
頑張って頑張って産土神の任務を乗り越えた。
伏黒甚爾がいなかったら、宝石を使う羽目になってたので死にはしないけど
御三家や上層部に目をつけられて大変なことになるところだった。
この後、伏黒にはお高い焼き肉を好きなだけ奢るし、ボーナスも払う。
なんなら1回くらいなら寝たっていい。あ、五条がうるさいからやっぱなしで。
とりあえず、全部がうまくいって高笑い。
五条悟
主人公が外部進学、さらに九十九のところに行きそうでキレて夜中に電話してきた。
が、寝落ちされた。あれやこれやと声かけたけど、主人公はすやすや寝てるので諦めた。
ただ、あまりにも気持ちよさそうな寝息が聞こえてきて、ちょっと和んだのは内緒。
任務に行った3人と連絡がつかないと伊地知から電話が来て焦った。
3人とも無事との連絡は入ったが、山に入って五条がついた時には、特級になっていた呪霊をサクッと払った。
山の荒れ方をみてよく生き残った。よく耐えたと心の底から安堵した。
なお、その山を荒らしたのは伏黒甚爾なのは気づいてない。
今回の状況を聞いて、上層部にだいぶ不信感を持っている。
夏油傑
灰原が死ななかったので、メンタルは平常値を保っている。
ただ、上層部に対する不信感はチラチラ出てきた。
七海建人
産土神信仰の任務でピリピリしてたが、前回と同じなら大丈夫と思っていたら、
補助監督が真っ黒でキレ、特級なりかけが2体出てきて、脳みその血管がマジでキレそうになってた。
なんで前回と違うんだ。クソが!!!
灰原が吹き飛ばされた時は焦ったが、伏黒が乱入してきて一気に形成逆転。ため息が出た。
やっぱフィジカルを鍛える必要があると痛感してゴリラ化が進む。
灰原雄
生き残った!!!生き残った!!!
呪霊の攻撃で顔に傷ができてしまった以外は、元気。
現在保健室でまだ眠っている。
伏黒甚爾
今回のMVP
この人がいなかったらこんなにうまく行ってない。
自分から作戦を提案する程度には、主人公たちを気に入ってる。
この後、主人公から高級焼き肉を奢ってもらい、さらに競馬場に行って、ボーナスまでもらった。
あれこれってデートじゃねぇか?五条の坊にバレないようにしとくか。流石にウルセェ。
夏油には二人とも休めと言われたが、灰原が目を覚さないと落ち着かない。
「無理しないでね」
といい夏油は退室して行った。
家入も急患が出たため、今は席を外している。
入れ替わりで伊地知もやってきた。
私と七海と伊地知は保健室に留まったまま、眠っている灰原の顔を眺めた。
「本当に良かったですね。建人さん」
「えぇ……本当に……」
「顔に傷は残っちゃいましたけど、全員無事でよかった」
七海の声がかすかに揺れていて、鼻声だった気がする。
私も伊地知も見ないふりをした。
ずっと心配してたもんね。
記憶を取り戻してからずっと気にしてたもんね。本当に良かったね。
そんなことを考えていると、灰原が小さく呻いた。あ、目が醒める。
「ん……アレ?僕……って、呪霊!!!」
しばらくぼーっと天井を見つめていたが一気に覚醒したらしい。
ガバッと飛び起きた灰原をみて、七海が苦笑する。
「落ち着いてください。ここは高専です」
七海の言葉にぽかんとしてた灰原がよかったーとベットの上で脱力する。
「私たちは無事逃げ切りました。呪霊討伐が五条さんが引き継いでます」
冷蔵庫からペットボトルの水を取り出し、灰原に差し出しにこりと笑う。
「ありがとう。潔乃ちゃ……」
灰原は、私からペットボトルを受け取り、
にこりと笑った──その次の瞬間、表情を固めた。
ん?
「…………」
どうしたんだろう?
困惑というより、“理解が追いつかない”という顔だ。
それどころか、視線を私と七海と伊地知のあいだで忙しなく往復させ、
混乱の色をどんどん濃くしていく。
「伊地知潔乃じゃなくて……七海潔乃?
伊地知が……男???え?知らない。
────ねぇ、何がどうなってるの?」