・伊地知ポジション成り代わり(伊地知の双子の妹)だった転生者、
七海建人の双子の妹で、まさかの2週目
・オリキャラ出ます
・激しい捏造、妄想含みます
・ネタまみれです
目が覚めた瞬間、見慣れた天井が視界に広がった。
──ああ、また、戻ってきたのか。
夢ではない。
体に重くのしかかる倦怠感と、ズキズキと脈打つ頭痛が、嫌でも現実を突きつけてくる。
今の私は七海潔乃だけど、前世では伊地知潔乃だった。
子供の頃に呪術廻戦を読んでいた前世を思い出して、伊地知潔高ポジションに成り変わってることに気がついて慌てた。
原作通りに話を進めねばと、しぶしぶ高専に入ったら、予想以上に先輩達がいい人で情が湧いた。
でも、灰原は死んで夏油は離反して──
五条に意外と気に入られて、ずっとそばにいた。
暴君だったけど、一度懐に入れた相手には甘く、意外と面倒見のいい奴だった。
そのうち、これ以上この人たちを死なせたくない。という気持ちが強くなってきて、
手段を選ばない方法を取ることを決めて、裏切って死んだ。
全部──覚えている。
「起きたの? 潔乃」
優しい声に視線を向けると、そこには母。そして、そのすぐ隣に──見覚えのある、あの顔があった。
……金髪の、こちらを睨みつけるような目をした幼児。
──あ、これ完全に七海建人だ。
絶望した。
脳が理解を拒否しそうになった。
けれど、もう遅い。すべてを思い出してしまっている。
「頭が痛い……だるい……」
「ちょっと待って、熱測ってみよう」
母が体温計を持ってきて、額に当てる。ピピッという電子音とともに、数字が表示された。
「……40℃!?うそでしょ!?」
絶叫する母の声が、やけに響く。目の奥がガンガンして、さらに痛い。
その隣で、低く唸るような声がした。
「……頭が痛い」
「建人も!?」
慌てて母が七海にも体温計を渡す。間を置かず、またピピッと鳴った。
「こっちも40℃!?なにこれ!?」
今度こそ母が卒倒しかけた。思わず、ふたりで視線を交わす。
……完全に知恵熱だ。
……記憶が戻ったショックが、物理で来るとは。
心の声が噛み合って、ふたりとも無言で頷いた。
そのまま双子を片脇にかかえ、母は悲鳴まじりに車へ向かう。
搬送先は救急外来。即入院が決まり、二人部屋の並んだベッドへと寝かされた。
しばらくして、母が入院手続きのために部屋を出ていく。
静まり返った病室。
その瞬間、空気が変わった。
隣のベッドから、高い子供の声なのに、子供らしくない口調。
「……一つ確認させてください。あなたは、高専を裏切って夏油傑の死体と共に焼身自殺した、”伊地知潔乃”で間違いないですか?」
目を閉じ、深く息を吸う。そして──
「はい、それであってます。あなたは、その時、私の一つ上の先輩だった七海建人で間違いないですか?」
「……あってます。その“七海”です」
「………………」
「………………」
並んだベッドで、気まずすぎる沈黙が落ちた。
「なんで七海さんの妹」
「それはこっちのセリフです」
「なんで記憶あるの? 無かったらよかったのに……」
──なんで思い出してしまったんだろう。
私は頭を抱える。
点滴のチューブが引っ張られ、点滴スタンドがカチャカチャと音を立てたが、それどころじゃない。
せめて、これが夏油のそばだったらよかったのに。
なんで、私がかつて裏切った側の人の──その隣なんだ。
……罪悪感が、パナイ。
あーもう転生するってわかったから、どこか違う世界への転生を願えばよかった。
そこの窓から飛び降りて仕切り直してやろうか。
病院の窓をぼんやり見つめ考える。
「……説明してもらえますか?」
唐突に落ちた静かな声に、ピクリと肩が跳ねた。
ほんと子供の可愛らしい声で、七海の口調はやめてほしい。しんどい。
「嫌と言ったら?」
返す声は、かすかに震えていた。
「あなたの性格上、それは耐えられないでしょう。さっさと吐いてください。
今の私たちは双子で家族なんですから」
「っ!!」
言葉に詰まり、思わず枕に顔を埋めた。
その背に、追い打ちをかけるように七海の声が落ちてくる。
「今のあなたは何もしていない。何もしていない人を責めませんよ」
優しさじゃない。それは、ただの事実の提示だった。
だからこそ、逃げ道がない。
喉がつまって声が出ない。
泣くつもりなんかなかったのに、視界がじわりとにじむ。
……畜生。やっぱり七海だ。容赦なくて、手厳しくて、優しい。
どうして、そんな顔をするの。
どうして、そんなふうに私を「許す前提」で話すの。
「……本当に、“七海さん”は変わらないですね」
かつて私に失望したであろう、あの理性と冷静の塊なフリして激情家な先輩が、いま──
“妹”として、真正面から私に向き合っている。
……その事実が、なによりもしんどかった。
枕に顔を埋めたまま、ぽつぽつと昔話を始める。
体感的には、ついさっき空港でも同じ話をしたばかりだ。
夏油と灰原に。だから、なんか……連続で話してる気分。
──未来視があったこと。
──夏油傑が百鬼夜行で命を落とすこと。
──おそらく五条が夏油の遺体を、呪術的処理をせずに埋葬してしまったこと。
──その結果、羂索(脳を入れ替える術式を使い、千年以上も暗躍してきた)に身体を乗っ取られたこと。
──ハロウィン。渋谷で起きた大規模呪術テロ。
──あの戦いで、五条が封印され、七海が命を落とし、夜蛾が死んだこと。
──死滅回游。日本中の結界内で、術師たちが殺し合いを強いられたこと。
──その最中、五条をなんとか復活させたこと。
──けれど――
──12月24日、新宿での最終決戦。
──両面宿儺との戦いで、五条は命を落としたこと。
──残されたメンバーで必死に戦い、どうにか宿儺と羂索を倒したけれど、
──代償は、あまりにも大きかったこと。
言葉を選びながら、すべてを語り終えた。
「だから私は──
夏油さんの死体を、確実に処理するために、高専を裏切ったんです」
グッと拳を握り締める。一番犠牲を少なくするにはそれしかなかった。
「……確実に、そこがターニングポイントでしたから」
そう締めくくって、ゆっくり枕から顔を上げる。
横を向くと、隣のベッドの上から、七海がこちらを見ていた。
……子供の顔なのに、あの“七海建人”の面影そのままの、不機嫌そうな表情。
それに気づいたら、思わず笑ってしまった。
「笑い事じゃないです」
ツッコまれて、「すみません」と謝った。
言うつもりはなかったのに。
話したら、スッキリした。驚くほどに。
罪を告白するって、こんなに気持ちが軽くなるんだ。
懺悔筆の必要性、ちょっとわかった気がする。
やっぱり、七海には……話せてよかった。
そんな私から目を逸らし、天井を見上げる。
「状況はわかりました。空港で夏油さんと灰原から聞いた話と一致します」
「えっ、七海さんも空港に行ったの!?いって!!」
思わず体を起こしかけて、点滴チューブに引っ張られて悶絶する。
「ええ。夏油さんと灰原から、あなたの話を聞きました」
悶絶する私に呆れた視線を向けながら七海が続ける。
「腹が立ったので、とりあえず夏油さんを殴っておきました。
あなたのことも殴りたかったですが、当時は居なかったのと女性だったので……代わりにもう一発、夏油さんを殴っておきました」
「……あ、はい……ありがとうございます……?」
理不尽なようで筋の通った怒りが、一番怖いタイプだと思う。
いや、筋通ってるか?
そのとき、病室のドアが開いた。母が看護師さんを連れて戻ってくる。
私と七海は一瞬で目を合わせ、「続きは後で」と無言のアイコンタクト。
そして、即座にモードチェンジ。
「おかーさん。頭痛いのなおった。おうちいつ帰れるの~?」
「おかーさん、ぼくもなおった。おうちかえりたい~」
双子で息ぴったりのユニゾン。声色もバッチリ、かわいい子供モード発動中。
大人の喋り方のままだと怪しさMAXだ。
私はこの演技も二回目なので、切り替えは慣れたものだ。
……そして、七海もやるじゃないか。死んだ目をしてるけど、ちゃんと可愛い子供になってるぞ!
アイコンタクトを送ってみたら、「覚えてろ」と言いたげな目を返された。
あー怖い。今のうちに看護師さんの後ろに隠れておこうかな。
看護師さんに熱を測ってもらったところ、まだ二人とも39℃あるらしい。
残念ながら、今日は退院できないとのこと。
「え〜〜〜〜〜〜!!!」
「おうちかえる〜〜〜〜!!」
双子そろって、ベッドの上でジタバタと駄々をこねる。
……からの第二形態へ移行。
「じゃあ、アイスたべたい……」
「テレビみたい……ポカリものむ……」
ちょっとわがままを言って、ぐずってみせる。これが4歳。
私がリードしてやれば、七海も自然と乗ってくるあたり、仕事がやりやすくて非常に助かる。
「今日はおうち帰れないけど……」
母が申し訳なさそうに言う。
「一回家に戻って、アイスとポカリ買ってくるから。
それまでおとなしく寝てられる?」
そう優しく言われて、私はすかさず布団をめくり、母にぎゅっと抱きつく。
「わかったーおかーさん、だいすき〜」
全力で甘えると、母は「も〜可愛い〜」と笑いながら頭を撫でてくれた。
隣のベッドを見ると、七海が無言でこっちを見ている。
『はよやれ』と目で訴えたら、明らかに戸惑っていたけど──
ぎこちなく、それでもちゃんと母に抱きついていた。
……よし、合格。
母と看護師さんが病室を出て行くのを確認して、私はこっそりガッツポーズ。
ミッション・コンプリート。
すると隣から、子供らしくない疲れた声。
「……伊地知さん、やりすぎです」
「子供はね、やりすぎくらいの方がちょうどいいんだよ」
そう返すと、七海は信じられないものを見るような顔で私を見た。
「……そうでしたね。あなた、演技派で……離反するまで全然顔に出さないタイプでした」
おっと。いきなり痛烈な嫌味をぶち込まれたぞ?
結構、ぐさっときたが、顔には出さない。
表情筋は制御できる。伊地知時代に鍛えたスキルだ。
けれど、七海の顔つきがふっと変わった。
子供の顔をしているのに、まったく“子供らしさ”のない真顔。
「……あなたが死んだ後のことを、話します。
私だけあなたの告白を聞いているのはフェアじゃないので」
別に、いいのに。
みんなのその後のリア充話とかは、家でじっくりお茶でも飲みながら聴きたい。
家入さんと歌姫さんのその後とか、あんだけ結婚から逃げてた五条の話とか………
そう言いかけて、
七海の表情を見て、私は言葉を飲んだ。
この表情見覚えある。七海が話しづらい事を話す時は、普段以上に無表情になるんだ。
なんか――嫌な予感がする。
「結論から言うと、おそらくですが……
伊地知さんの話していたものと“同一”かはわかりませんが──
渋谷で、テロは発生しました」
「つ……!」
心臓が、跳ねた。
「2018年10月31日、19時ちょうど。
東京都渋谷、東急百貨店東横店を中心に、半径およそ400メートルの帳が下ろされました。
多数の一般人が閉じ込められ──」
私の顔色が変わったのを見て、七海は一拍だけ間を置いて、静かに言う。
「……同じテロのようですね。話を続けます」
子供の声で、まるで報告書を読むような口調で話す。
「私は、その帳の中で“陀艮”という特級呪霊と戦いました。負傷しつつも、共闘してそれを倒すことに成功。
その直後、“漏瑚”という特級呪霊が現れ、体を燃やされ瀕死に。
さらに“真人”という特級呪霊い遭遇し──殺されました」
声が淡々としているぶん、言葉が刺さる。
一語一語が、静かに、心臓を殴ってくる。
「夏油さんの死体は、私が処理した!!
だから、“渋谷のテロ”は起きないはずだった!!
だって、だって、五条さんを封印する手段が……!」
七海は一瞬だけ黙った。
まぶたを伏せ、何かを呑み込むようにして、それから静かに口を開く。
「……五条さんも、封印されかけました。失敗に終わりましたが、紙一重でした」
「──えっ……?」
空気が、一瞬で凍りついたように感じた。
「これは、五条さん本人から聞いた話ですが」
七海の声が、ほんのわずかに低く、重たくなる。
「五条さんは、獄門疆によって封印されかけたそうです」
頭の中で警報が鳴った。
──いや、違う。おかしい。そんなはずはない。
獄門疆による封印は、術式発動時に
“対象を、半径4メートル以内に脳内時間で1分間、足止めすること”が絶対条件。
だからこそ、羂索は五条を削り、判断力が鈍った隙を狙った。
そして、“夏油傑”の姿で現れた。五条が一瞬でも“迷い”を見せるように。
だから私は──だから私は、夏油の遺体を燃やしたのに!!
「……封印を実行したのは、あなたの記憶と同じく“羂索”です」
七海の言葉が、鋭く突き刺さる。
「そのとき羂索が取っていた姿は、伊地知さん。
“あなた”の姿だったそうです」
「………………っ」
息が詰まった。
「後ろから『五条さん、お疲れ様です』と声をかけられて、
振り向いたら、伊地知潔乃が笑って立ってたそうです」
なにそれ。
どういうこと……?
七海は淡々と、けれど静かに続けた。
「五条さんの予測ですが……百鬼夜行であなたが裏切る“直前”まで、あなたは高専に所属していた。
そのため、遺留品が多く残っていたそうです。特に、髪の毛など“個人を特定しやすいもの”が」
「…………っ」
言われた瞬間、背筋がぞくりと凍った。
確かに私は、最後まで高専にいた。
部屋もそのまま。荷物も最低限しか持ち出さなかった。
ある程度の情報は残ると分かっていたけど、それが“術式行使に使われるほど残ってる”なんて、思ってもみなかった。
「呪術の発動には不十分だった、そう思ったのなら……それは誤算でしたね」
七海の声は相変わらず淡々としている。けれど、それが妙に鋭く感じられた。
「真人の術式、“無為転変”は魂を知覚するもの。
魂の情報が込められた毛髪一本でもあれば、“再現”は可能だったそうです。
その情報をもとに、羂索があなたの姿を模倣した。
呪力反応も、声も、体格も……すべて“あなた”だった、と五条さんは証言しています」
「………………」
「そして羂索は、五条さんにとって“最も隙を見せる相手”として、
あなたを選んだのだと……五条さんは言っていました」
……そうか。
だから“私”だったんだ。
最悪だ。最悪すぎる。
でも──
「……まぁ、封印は失敗しましたが」
それを聞いてほっとため息をつく。
「私じゃ……やっぱり、五条さんを押しとどめるには足りなかったんですね。
それだけは、ちょっとホッとしました」
自嘲気味に呟いた。
そこだけは、唯一の救いだった。
けれど、七海は否定した。
「違います。
獄門疆の条件は、すべて満たされていました」
「──え?」
なら、なぜ封印されなかった?
七海は、一拍置いて静かに言った。
「あのとき、あなたが遺していった呪力を込めた宝石。
……スターブルーサファイアが、身代わりになったそうです」
時が、止まったような気がした。
「……あのスターブルーサファイアは五条さんを守るように設定してありましたね?
それが発動し、獄門疆の“対象”を五条さんではなく、あの宝石と誤認させた。
それで、空振りに終わった──そうです」
私は、呼吸を忘れていた。
「五条さんは言っていましたよ。
『潔乃が僕を守ったんだ』って」
胸の奥で、熱いものがじわりと広がる。
そうか。
あれを遺したことで、五条さんを守れた。
よかった──
──でも、ふと気づく。
……あれ? おかしい。
さっきから七海は、「五条さんが言っていた」と何度も口にしている。
まさか……
私は、息を飲んだ。
「……その後、五条さんは羂索と真人を含む、残っていた呪霊や呪詛師たちを殲滅しました。
そこまでは、良かったんですがね」
“良かった”という言葉が、やけに遠く聞こえた。
現実離れしているというより、“手の届かなさ”を思い知らされるようで。
「──ただ、そのタイミングで、両面宿儺が“宿主”を変えました。
虎杖悠仁から、伏黒恵へ」
「……っ」
言葉が、喉に詰まった。
その流れは、私も知っている。 時期は違うが。
確かに、かつての未来でも──そうだった。
「その後の流れは、あなたの記憶とほぼ同じですかね?
“死滅回游”こそなかったですが、最終決戦は12月24日。
──場所は、新宿」
七海の声は静かだった。
でも、その静けさが、逆にすべてを物語っていた。
「……そこで、五条さんは死亡しました」
胸の奥が、ぎゅっと小さくなる。
止めたはずの未来。変えたはずの歴史。
でも、私は──どこかでまた、見落としていたのかな。
「その後、空港に来た五条さんから、いろいろ話を聞きました」
七海はぽつりと口にして、ふっと目を細めた。
「空港に来た瞬間、夏油さんを認識した時の顔は……面白かったですよ」
穏やかに笑うその顔は、どこか懐かしさをにじませていた。
「その後、私たちとも話をして、『潔乃は?』と。あなたを探してましたよ」
一瞬、胸の奥がひくりと痛む。
あの人が、私を。
「……まぁ、その後、あなたは先に行ったと夏油さんと灰原が言うと──」
くすっと笑いながら、七海は続けた。
「キレて、ベンチ蹴り飛ばしてましたね」
「…………ああ~……」
思わず、額を手で覆う。やりそう。あの人なら。
特に空港はみんな若い頃に容姿が戻って、メンタルも引っ張られてたっぽいし。
想像以上の暴れっぷりだった。
「本当に、あの人らしいですね」
七海はそう言って、肩を揺らして笑った。
「五条さんは、怒っていました。私や夏油さん、灰原が、何故あなたが裏切ったのかの話をしようとしても……
『潔乃がどうして裏切ったかは、絶対に聞かない』と、そう言ってました」
その言葉に、心がきゅうっと締めつけられる。
「でも……察していたようです」
七海は少し視線を落とし、わずかに口元をゆるめて言った。
「どうやら、羂索が言ったそうです。
『伊地知潔乃がジョーカーだった。あの子が夏油傑の死体を燃やすから、態々この姿をとるはめになったし
別の呪霊操術使いを探す羽目になった』と」
「…………」
「だから五条さんは、こう言っていました。
『次に転生したら、潔乃から直接聞く。
そして、絶対見つけて説教する……僕の側を離れるな、って言ったのに』って」
ぐらりと視界が歪む。
怒っているというより、拗ねてる。
置いていかれたことが、寂しくて仕方ないみたいな言い方だ。
私は裏切り者なのに。
──まったくもう。
「はは、五条さんが言うとシャレにならない……呪われてそう」
苦笑しながら言うと、七海は真顔でうなずいた。
「間違いなく呪われてますよ。
だからこうして、私たちは記憶を取り戻してるんじゃないですか?」
冗談のような会話なのに、どこか納得してしまうのが悔しい。
「……勘弁してくださいよ。
まあでもそれなら、なんで私、“伊地知潔乃”じゃなかったんでしょうね?」
ふと浮かんだ疑問を口にすると、七海はわずかに目を細めた。
「あなたが、“北に行った”からじゃないですか?」
「……なるほど」
ぽつりと呟いて、私は天井を見上げた。
「北に行ったから、新しい自分になれた。
でも、呪われてたから……こうなってる、ってわけだ」
冗談のようで、笑えない。
しばらくの沈黙のあと、私はさらに首をかしげる。
「じゃあ、なんで“七海さんちの子”になってるんでしょう、私」
七海はわずかに肩をすくめて、目を逸らした。
「私なら、絶対に高専に来るだろうと思われたんじゃないですか? ……誰かさんと違って」
その“誰かさん”が誰か、言わずとも分かる。
「……はいはい、悪かったですね」
思わず口を尖らせながら言うと、七海が小さく笑った。
二人して顔を見合わせて──同時に、ため息をつく。
本当にこの呪い、ありそうで怖い。
二人で重い話をしていたせいか、また熱が40℃を超えていた。
母親が悲鳴を上げ、慌ててナースコールを押す声が響く。
結果、私たちは三日間の入院を言い渡された。
家に帰れたのは四日目の朝。
病み上がりの私たちに、母は「部屋でおとなしくしてなさい」と言って、自分は洗濯機を回しに行った。
私はそのまま、自分の子供部屋に引っ込む。
七海もついてくる。
母と、あとはたぶんデンマーク人の血のせいか、日本人の感覚にしてはちょっとドライで、
私と七海の部屋は最初から別にされていた。まだ四歳なのに。
ありがてぇ……。
いくら子供とはいえ、いくら兄になったとはいえ、同じ部屋で着替えとか本気で勘弁してほしい。
クッションを抱えて床にぺたりと座り、七海と向かい合う。
──さて、作戦会議だ。
「七海さんは高専に入ります?」
私が問いかけると、七海は迷いのない声で頷いた。
「ええ、そのつもりです。
……伊地知さんは、どうします?」
「……私たちのアドバンテージは、“未来を知っている”ことです。
それを私が動くことで、崩してしまいそうで……」
少しだけ、視線を伏せる。
「確かに。それは……ありますね」
七海も真剣な表情になる。
「術式があるかどうかもわからないですし。
伊地知潔乃のときはなかったので、多分ないんじゃないですかね?」
「でも──あなた、術式がなくても戦えますよね?
宝石の件、百鬼夜行の後に大騒ぎになってましたよ。
……五条さんも、査問受けてました」
「……え?なんで?」
「意図的に、宝石の件を高専に“報告していなかった”からですね。
まぁ……あれは五条さんの自業自得です」
肩をすくめる七海に、私はふっと笑った。
「……まぁ、宝石で戦えるのは事実です。
ただ、今の体でそれができるかは、わからなくて。
──というわけで、実験」
そう言って私は、スカートのポケットから小さな布包みを取り出した。
「恒例、母親の宝石箱から拝借してきたシリーズです」
「……伊地知さん」
呆れた声で七海が呼ぶ。けど止めはしない。
「今なら、“子供のいたずら”で済まされます。
ちゃんと、安いやつから選んできたので。
怒られても軽傷です」
「……あなた、本当に五条さんに似てきてますね。
“手段を選ばない”ところが」
「うるさい。これは元からの性格です」
ぶつぶつ言いながら、私は布の中から小さなガーネットのピアスを取り出した。
伊地知潔乃の時も同じことやってるので、元々五条と似てると言われてるみたいで腹がたつ。
いかんいかん。集中しないと。かるく深呼吸。
そしてそっと、両手で包むように持って、呪力を込め始める。
──おっ。やりやすい。全然違う。
七海潔乃のこの身体、呪力量が多い。
普段ならギブアップしていた量を流し込んでみたが、それでもまだまだ余裕がある。
石にも私にも負荷は感じられない。
……いける。まだ込められるけど、今日はお試しだから。
そう判断して、そっと手を離す。
顔を上げると──七海が驚いたように目を見開いていた。
「……すごいですね。
……五条さんが、隠してでも側に置いてた理由が、わかりました」
低く、呟くような声だった。
そこに驚嘆と、少しの納得が滲んでいる。
私は、完成した小さなガーネットのピアスを見下ろし、ふっと笑った。
「うん。これは、秘匿しておいた方がいい」
石を指先でくるりと転がすように持ち直しながら、静かに言う。
「これ、使って戦うこともできますけど……」
七海が視線を向けてくる。その瞳は真剣そのものだった。
「術式がないなら、高専に入学せず、裏からのサポートに回ってください。
……これは、諸刃の剣すぎる」
「術式があるなら……?」
「そのときは、高専に入った方がいいでしょうね。
制御や訓練を考えると、それが一番安全です」
私は小さく頷いた。
「……五条さんに会うのはあまり気が進まないんですけど。
術式が“生えて”きた時は……諦めます」
「そうしてください」
七海が素っ気なく返す。が、微かに口元が緩んでいる気がした。
ふと、七海が再び手元のピアスに目を落とした。
「ところで……この宝石。どれくらいの威力があるんですか?」
手のひらにのせたピアスを、七海がしげしげと眺める。
「以前の感覚で言うと……そうですね。
この呪力量なら、2級呪霊なら倒せると思いますよ」
評価としては控えめなつもりだったが──その言葉を聞いた七海は、ふいに天井を見上げてぽつりと呟いた。
「……………五条さん」
その声には、若干の脱力と、呆れ混じりの敬意がにじんでいた。
「……あなたのことを、今初めて尊敬しました」
私は思わず吹き出す。
「何言ってるんですか?」
「こんな無自覚天然、よく押さえてましたね……」
心底しみじみとした声だった。
「ちょっと、私が五条さんのストッパーだったんですからね!」
ぷくっと頬を膨らませて抗議したその瞬間──
タイミングを計ったように、部屋の扉が開いた。
「建人、潔乃。おやつの時間よ」
母の優しい声が響く。
扉の向こうからは、ふわっと甘い焼き菓子の匂いが流れてきた。
私たちの様子をちらりと見た母は、小さく首を傾げてから、いつもの穏やかな微笑みを浮かべる。
「「はーい!」」
瞬時にスイッチを切り替えて、4歳児の仮面を被る。
さっきまでの緊張感はどこへやら、二人して勢いよく立ち上がる。
お互いに呆れた視線で目配せし合いながら、それでもちゃんと母にじゃれついて、ダイニングへ向かった。
主人公(4歳)
知恵熱出した4歳児。
七海に全部話して、スッキリした。
七海から自分が死んだ後聞いて、後悔した。結局ラストは同じだった……
自分の姿を騙ったメロンパン許すまじ!!
前回は1人だったけど、今回は2人。非常にメンタル的には助かってる。
北に向かったので、新しい自分になって伊地知から別人になった。のは納得。
でも、七海になったのはなんでだ?と思ってる。
相変わらずの、天然無自覚で七海に苦労をかける。
ちなみに、宝石は母親にダメでしょ!と言われるも、この子も宝石に興味があるのかと母親が勘違い。
伊地知家と同じように誕生日に良い宝石をもらえるようになってラッキーこれが運命の修正力か!
なお、2度目の子供時代のやり直し。慣れたもんで羞恥もなく全力で楽しむ。お遊戯楽しいなー
七海建人(4歳)
知恵熱を出した4歳児
主人公から説明を受けて、空港で聞いた話と一致することを確認した。
主人公が死んだ後の説明をした時の、4歳児が本来は浮かべられない絶望の表情を見て、申し訳ない気持ちに。
七海的にもあの未来は受け入れられないので、協力してやっていこうと思ってる。
主人公が自分の妹に生まれたのは、絶対に五条の呪いだと思ってる。
そして、主人公の無自覚天然っぷりに、五条を初めて尊敬。自分が苦労する未来を悟った。
主人公のやらかし以前に、お遊戯などでメンタルが死ぬ。