番外編。
if 転生者、百鬼夜行に参加する の最中の話。
2周目に入る前の前日譚がメインとなります。
・伊地知ポジション成り代わり(伊地知の双子の妹)だった転生者、七海建人の双子の妹で、まさかの2週目。
・オリキャラ出ます
・ネタまみれです
・作者の癖が詰まった陰鬱な話
・嫌な部分に刺さる陰鬱な話です。ご注意。
任務帰りの車の中、私は深々とため息をついた。
フロントガラス越しに流れていく夜の街の灯りが、やけに遠く感じる。
私は普段は修復任務が多いけど、今日は祓除任務だった。
その際に、ちょーっとばっかしやりすぎて施設破壊をしてしまった。
「……やらかしたなぁ」
思わず独り言が漏れる。
その後始末として、即その修復にもあたったせいで、すっかり遅くなってしまった。
同行の補助監督は「よくあることですから」と言ってくれたけど、どう考えても自分のミスだ。
その対応に巻き込んで、戻るのが遅くなってしまって本当に申し訳ない。
あの人たちが建物ぶっ壊してくるたびに「またかよ……」って思ってたけど、今日は完全にブーメランだ。
ハンドルを握る補助監督に聞こえない程度の小さな音で、車の中で再度ため息をつく。
この時間だと寮の晩御飯はもうないだろうなぁ。
部屋にあるカップラーメンとレンチンご飯で今日の夕飯は済ませよう。
卵もあったっけ?卵焼き?目玉焼き?
いや、もう面倒だ。卵かけご飯で!
七海潔乃になってから健啖家になってしまったから、あれで足りるかなぁ。うーん。
ほぼ炭水化物オンリーの自炊を思い浮かべて、胃袋がちょっとだけしょんぼりする。
朝まで我慢するしかないか。
そんなことを考えていたら、信号待ちで車が一時停車する。
都心のオシャレな街の交差点。
ガラス張りのビルが並ぶ大通りの一角にある、シックな建物。
明るく照らされた老舗のレストランが目に入った。
あのレストランは──
高専の廊下を足音を立てて歩きながら、該当の人物を探す。
カツ、カツ、と硬い床を打つ音が、いつもよりずっと響いて聞こえた。
すれ違う人間は、みんなギョッとした顔をしている。
私が怒っていることを察したのだろう。
一応、原作の
仲のいい人間には荒い気性はバレてるって?
家族と五条以外には、あそこまでバレてないからいいんだよ。
七海や家入には酒カスでゲーマーでサブカルオタクで、意外と気性が荒いのは知られてるけどさ。
宝石の件は知られてないからね。アレあるなしで私への印象はだいぶ変わるだろう。
そういった部分もあり、五条ほど深く理解はしてないはずだ。
──まあ、とにかく。
表向きは温厚な私が、ブチギレを隠さず廊下を歩くと、皆がギョッとするのは当然なわけで。
そして私の足が向かう先を見て、すれ違った高専関係者や生徒たちが「あっ(察し)」みたいな顔をする。
みんなよくわかってるね。空気読み能力高くて助かるよ。
すれ違った1年生たちが、
「伊地知ガチギレじゃん」
「バカ目隠しが何かやったに決まってんだろ」
「うん、五条先生のところに行くの後にしようか」
「しゃけ」
なーんて話してるけど、気を使わせてごめんね。
──実際ガチギレなんだわ。
そのまま、珍しくローファーの靴音を立てて廊下を歩き、ノックもせずにダンっと扉を開ける。
「五条さん!!! 何勝手に仕事増やしてくれてんですか!!!」
そう、私がキレ散らかしていた相手は五条悟だった。
五条の執務室に入り、扉をバタンと閉めてから、ツカツカと五条のそばへ。
「これから繁忙期になるから、仕事受けられないっていったでしょう!」
お高いバルセロナチェアに深々と腰掛け、珍しく真面目に書類仕事をしてた五条が、ペンを止めて顔を上げる。
「えーでも、それ急ぎなんだよね」
私が来ることがわかってたのだろう。
ニヤついた表情で、私が抱えているタブレットを指差す。
無言でタブレットのスリープを解除し、一覧を突きつける。
「この案件は来週以降にリスケ、これは五条さん一人で行ってください。
んで、この件は他の補助監督を同行させます。
こっちはしょうがないので私がやります──これでいいですか?」
「んー、この同行は潔乃が来てよ。この補助監督、仕事遅いんだよね」
「新人なので我慢してください」
「3ヶ月も経ったら新人とは言えないよ」
即答。
はい出ました。パワハラ上司みたいな発言。
五条は、本気でなんでもできるタイプの人間だ。
初見でもすぐにコツを覚えて、だいたいのことは器用にこなしてしまう。
そのうえで、ちゃんと「他の人は自分ほどはできない」ってことも理解している。
──理解しているくせに、一定以上のレベルはきっちり求めてくる。
その「一定以上」がまた厄介で、その人間が120%頑張ればギリギリ達成できるくらいのラインを、当たり前みたいな顔して設定してくるのだ。
KPI設定かよ。あれ嫌いなんだよね、私。
頭では「成長のためには必要」とか分かってても、心がついていかないやつ。
人間、毎日120%で働いていたら普通に疲れる。
というか、どこかで必ず潰れる。
60から70%くらいの出力で働いて、いざという時に120%で短期間ガッツリ勝負を決める。
くらいの方が、長期的に見ても絶対働きやすいと思うんだよね。
……そういう話をしたところで、この
「とにかくそれは、その補助監督を同行させます。
特級や1級が扱うような祓除任務の同行経験を積ませたいので。
五条さんが一緒なら死なないでしょうし」
「チッ」
舌打ちしつつも一定の納得があったらしい。五条から反論はなかった。
それにしてもガラ悪い。
学生時代より温厚になったとは言え、私や家入、七海の前だと、昔のガラの悪さが垣間見える。
五条にとって、私たちは“取り繕う必要のない相手”なんだろう。
だからこそ素が出るし、そのぶん遠慮なく無茶振り発言も飛んでくる。知らんけど。
「年末調整の時期なので、私は高専を離れられないんですよ」
書類の山をタブレットで示しながら、改めて釘を刺す。
この時期の経理と調整を誰がやっていると思ってるのか、ほんと一回真面目に考えてほしい。
「他の職員雇いなよ」
「夜蛾学長に私からも言っているのですが、呪霊を認識できて事務仕事をしたい人がいるかというと、なかなか……
五条家の優秀な人、回してもらえません?」
「うちの家業が滞るからダメだね」
即答。食い気味。
はい出ました、自分のところが最優先マン。
五条は優秀な人材は、基本的に自分で囲い込む。
そりゃー高専やらに出して、他家やら上層部に取り込まれたら最悪だからな。
理屈はわかるが、ちくしょう。
こっちの人手不足も、少しは真剣に考えてほしいんだけど。
……まあ、だからって仕事を勝手に増やしていい理由にはならないからね?
肩の力を抜くように、ひとつ息を吐く。
吐いたところで怒りゲージはほとんど減らないけど、何もしないよりマシだ。
ため息をつきつつ、さらにタブレットのページをスライドして、十二月の予定を表示する。
画面に色分けされた案件名や任務コード、術師や補助監督名がずらっと並ぶ。
見慣れたはずのスケジュール表なのに、今日は見てると血圧が上がる気がする。
──で。
その中に、やたらと洒落た横文字の店名が、一件だけぽつんと浮いていた。
「あと、なんですかこの予定! 十二月七日、なんでレストランで食事の予定入ってんですか」
思わず声が一段階、鋭くなる。
「え、だって僕誕生日だし」
悪びれゼロのニヤニヤ顔。
ほんと五条は、罪悪感という感情をどこに置き忘れてきたんだろう。
親の顔が見てみたい。
「誕生日なのは知ってます。今年は繁忙期が早くなりそうという分析が出てましたよね?」
淡々と事実を並べながら、タブレットの画面をくるりと五条の方へ向ける。
任務予定で染まったカレンダーを、現実をいい加減ちゃんと見てほしい。
「うん、でもワンチャンあるかもしれないし。そこのデザート美味いんだよね。
仮に僕がいけない場合は、東京にいる五条家の誰か行かせるから無問題」
グッと親指を立てる五条。
こっちは無言で、それを見下ろす。
無問題じゃねーんだわ。
問題だらけなんだわ、その“代打誕生日ディナー”システム。
五条のわがままに付き合わされる五条家の人間に同情する。
「で、なんで私も一緒に予定に入ってるんですか」
落ち着いた声を心がけてはいるけれど、語尾だけほんの少し刺々しくなる。
指先で予定表を拡大すると、しっかり「五条悟+伊地知潔乃」の名前が並んでいた。予約名義五条、人数二名。
「だってその日、僕の任務同行予定でしょ? ちょうどイイじゃん。美味いよこの店」
五条は、当然のような口調で言う。
その言い方だと「いつもの任務の帰りにファミレス寄ろうよ」くらいのノリなんだろうけど、こっちはそのあとが地獄なんだよ。
店名を見るだけで、「あ、絶対ワインたくさんあって、高いタイプのところだ」と分かる。
ラインナップ見てみたい!
行きたい。正直めちゃくちゃ行きたい。
でも、その前に現実が重い。
「行きたいです! 行きたいですが!!! 絶対ワインの種類も豊富な店だし!!!!!」
思わず本音が前のめりで飛び出す。
一瞬、五条の口元がにやっと上がったのが悔しい。
「ただですね!さっきも言ったように今年は早くも繁忙期が来そうなんです!
術師の繁忙期=補助監督の繁忙期。同行任務が終わった後は事後処理で無理です!」
今度は現実を叩きつける番だ。
現場で呪霊片付けたあと、その裏で飛び交う事後処理と書類の山を誰が捌いてると思ってるのか。
私だよ!!!
ほんと一回、徹夜で付き合わせてやりたい。
いや、五条も任務で飛び回ってて、元々ショートスリーパーなのにさらに睡眠時間減ってんだけどさ!!!!
「誕生日だってのに、移動の合間のコンビニ飯は寂しいじゃん?
ま、だいたい毎年そうだけど。
潔乃と二人で飯食うのは楽しいんだけど、たまには席ついて食べたいじゃん?」
ほんと性格が悪い。
“コンビニ飯”や”誕生日”というパワーワードを出されたら、こっちの良心がチクッとするに決まってる。
去年もその前の年もその前の年も、その日は一緒に任務だったから知ってる。
五条は朝から晩まで任務だった。
五条も誕生日くらいは気安い人といたいのか、毎年この日の任務は私が必ず担当していた。
あとは任務同行に来る術師がいる場合は、七海とか。
とにかくこいつは意外と、一人が嫌いな寂しんぼなんだよね。
……そうやって情に訴えかけてくるの、ほんとやめてほしいんですけど。
私がなんだかんだ五条に甘いってのを当人も知ってて、これ言ってきてるのがわかる。
唇を一度キュッと噛み、バルセロナチェアに座る五条を見下ろして、ため息をついた。
「わかりました。行けたらいきましょうか……行けたらですよ?」
念押ししながら苦笑してそう言うと、五条がニパっと笑った。
あー、包帯越しでもニコニコなのがわかる。
珍しい、学生時代の時のような笑みだ。
この笑顔は同じ時を高専で過ごした私たちだけにしか見せない、特別なもの。
「代行頼むから、潔乃ワイン飲んでもいいからね!」
「はいはい、たっかいの奢ってくださいね」
「僕誕生日なんだけどなぁ。まぁいいけどさ」
「んで、話戻しますけど、この任務ですけど」
「あぁ、それね……」
軽口を交わしながらも、タブレットの画面には現実的な任務一覧がずらりと並んでいる。
その後は、いつものように五条と仕事の打ち合わせをした。
その日の夜、高専の誰も知らない、飛ばしのスマホが震えた。
無機質な振動音だけがやけに大きく響く。
画面は見ない。
着信相手の名前を確認するまでもない。
どうせ、この番号に電話をかけてくるのは一人しかいない。
ベッドに横たわったまま、スマホの通話ボタンをタップする。
「はい、伊地知です」
耳に当てると、すぐに聞き慣れた声が落ちてきた。
「私だけど、予定を早めることになったよ」
柔らかいけど淡々とした口調。
雑談も前置きもない、用件だけの内容。
「なるほど、いつですか?」
「明日だよ」
自分の喉がかすかに鳴ったのが、やけに大きく聞こえた。
「…………また、急ですね」
「明日、高専に宣戦布告を行う。潔乃もそのつもりで」
「承知しました。ではまた明日」
通話を切る電子音が耳に残る。
スマホを伏せて机の上に置き、小さくため息をついた。
信号が青になり、車が動き出す。
後ろに流れていくレストランから視線を逸らし、車の天井を見上げてため息をついた。
最悪だ。嫌なこと、思い出しちゃった。
あの翌日──高専に宣戦布告に来た夏油について行き、私は高専を──五条を裏切った。
胸の奥が、じわりと重く痛む。
今さらどうにもならないと分かっていても、あの選択を思い出すたびに、同じ場所がきゅっと締め付けられる。
そんな私の気配に気づいたのか、補助監督が声をかけてくる。
「どうかしましたか?」
「いえ、昔行こうと約束して行けなかったレストランがあったので……」
言葉を選びながら、できるだけ感情を乗せないように答える。
補助監督は総じて地理に詳しい。
どのレストランか、おおよそ思い当たったらしい。
「この仕事をしていると、ご家族の記念日とかに行けないことも多いですからね。
でも、七海さんはまだ学生なので、学生らしくしていていいんですよ?」
この補助監督は優しい。学生たちに寄り添ってくれるタイプだ。
──
そんなことをぼんやりと思いながら、高専へ向かう車の中で、私はただ車窓の景色を眺め続けた。
「おい! 誕生日空けておけよ!」
数日後、高専の寮の自室で、五条がいつものようにノックもなく部屋に入ってくるなり、いきなりこう言い出した。
誕生日?
私の誕生日はとうの昔に終わった。
なので、この「誕生日」というのはおそらく──
「五条さんの誕生日ですか?」
「そうに決まってんだろ」
定位置の座布団にどっかり座る五条に、淹れたてのミルクコーヒーを出してやりながら尋ねると、
当たり前だろ、という顔をされた。
「……繁忙期ですけど」
「今年は夏の繁忙期が長かった分、冬は遅くなりそうって分析出たらしいぜ」
「え、そうなんですか」
そうなんだ。
最新の分析が出たのをまだ聞いてなかったので、思わず目をぱちくりさせた。
「というわけで、飯食いに行くぞ。このレストラン」
五条が懐から雑誌の切り抜きらしきものを取り出し、テーブルの上に広げてみせる。
それを見た瞬間、息を呑んだ。
「このレストラン……」
都心のあの交差点。
ガラス張りのビルが並ぶ大通りの一角にある、シックな建物。
──数日前に車の窓から見たばかりの、あの店だ。
「この店、デザートが美味いらしいんだよ。だから行こうぜ」
五条は何でもないことのように言う。
こっちは胸の奥を、前世の記憶がちくちくと針で突いてくるのに。
「学生が行くにしては、だいぶ敷居が高い店だと思いますけど」
「関係ないだろ。俺だぜ?」
出たよ、金持ちの家のボンボンっていう最強カード。
そういうところだけ無駄に説得力があるから困る。
前世で「今度行こう」と約束して、結局行けなかった店。
その翌日に私は五条を裏切って、二度と戻れないところまで行ってしまった。
流石にちょっと居心地が悪くて言葉を濁していると、
五条がすっと距離を詰めてきて、当然のように私の肩を抱き寄せてきた。
「俺の誕生日だぞ。その日くらい付き合えよ」
唇を尖らせて拗ねた表情。
これ、ガチで拗ねてるやつだ。演技じゃない。
あーもう、めんどくさい。
「なんでこの店なんですか?」
至近距離で五条の顔を見上げる。
キラキラと開く六眼が、青い光を細かく乱反射させている。
その目を嬉しそうに細めて──
「なんか、これ見た瞬間ビビッときたっていうか?
これ潔乃と行きてーって、なんか思ったんだよな」
さらっと、そういうことを言う。
こっちは心臓に悪いんですけど。
これも魂に刻み込まれた記憶なのかな。
前世の「行けなかった約束」が、どこかで引っかかっているのかもしれない。
苦笑しながら口を開いた。
「任務の状況にもよりますけど、行けたら行きましょうか」
それを聞いた瞬間、五条の表情がムッと曇る。
「行けたらじゃなくて、絶対に行くんだよ。ばーか」
私の額に、べチンと遠慮のないデコピンをよこした。
「いった……!」
額を押さえながら睨み上げると、五条はどこか満足そうに笑っていた。
主人公
よりによって百鬼夜行の前日に約束しちゃって守れなかった。
ごめんねとは思っていた。
まさかまたそのレストランに誘われると思わなくて動揺した。
罪悪感をちくちく突かれ、デートにOKをだした。
五条悟
誕生日はいつもコンビニ飯など。
誕生日くらい気持ちよく仕事したくて、既知のメンバーとしか仕事しないようにしてたけど
たまには席に座って食事くらいしたってよくない?
と、同日に一緒に仕事に入ってる主人公を誘った。
主人公といると落ち着くし楽しい、ので真っ先に誘う人として思い浮かんだ。無自覚。
翌日に主人公が高専を去っていって、その約束は叶えられることはなかった。
2周目にて誕生日にかこつけて、主人公とデート行こうと思ってた。
たまたま高専の控室に置かれてた雑誌でこの店を見つけて、ビビッときた(死語)
ここいいじゃん!と。主人公の罪悪感をちくちく突き、珍しくデートのOKをもらって歓喜した。
一応、これ2025年五条ハピバ小説として描いてたんだ……