とある転生者、2周目   作:kotedan50

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if 転生者、百鬼夜行に参加する https://syosetu.org/novel/408095/47.html からの分岐。

玉折⑤終

・伊地知ポジション成り代わり(伊地知の双子の妹)だった転生者、七海建人の双子の妹で、まさかの2週目
・オリキャラ出ます
・ネタまみれです
・これまでで最も、激しい捏造、妄想含みます!!


転生者、因縁にとらわれる

傑が担当した、古い因習に囚われた村の任務。

アレは伏黒のおっさんを同行させて、潔乃と伊地知を近くに待機させてたのは正解だった。

 

傑から話を聞いたが、キレやすい傑ひとりだったら村人殴り飛ばして問題になってただろ。

傑自身も「伏黒がいて助かった。先に村人たちを殴り倒してくれたおかげで、私は冷静になれたから」と言ってるくらい、酷いもんだったらしい。

 

そして、近くにいた潔乃と伊地知。

偶然を装って近場に置いといたあいつらのおかげで、証拠の捏造みたいな小賢しい手を潰せたのはデカい。

残穢を後から偽装されて、「村の破壊は夏油がやった」ってハメられる可能性もあったからな。

 

──破壊したのは同行してた伏黒だから、犯人の一人なのは間違いねーけど。

 

ついでに言うと、任務に同行してた補助監督がまた上層部の家系出身だったのも最悪。

村に入る道が一通の狭い道路しかなくて、1キロ手前で傑と別れて、任務が終わったら連絡を取る手筈だったらしい。

 

で、連絡を入れたら圏外で、なかなか繋がらなかった、と。

……潔乃と伊地知の携帯にはすぐ連絡できてたのにな?

補助監督ありえねーだろ。わざと連絡が取れないようにして、傑を疲弊させる嫌がらせだったんだろ。

 

さすがの傑も抗議を入れた。

ついでに俺からも「これ職務怠慢じゃないか?」って圧をかけといたら、高専から消えてたな。

しばらくは信頼できる補助監督とだけ仕事できそうなのは、俺としてもラッキーだ。

 

で、その村から保護した双子──枷場美々子と菜々子は、今は高専で保護されてる。

ただ、救出時にいた面々……傑、伏黒、潔乃、伊地知から離れるのを嫌がったのは困った。

 

特に、伏黒と傑から離れたがらない。

牢をぶち壊して村人を昏倒させた伏黒。

村人の“家畜同然の扱い”に抗議して、牢が壊れた直後、真っ先に双子を抱き上げた傑。

 

あの姿は、あいつらからすれば救世主なんだろう。

「伏黒様」「夏油様」ってまとわりついてたのは、正直ウケた。

 

子供ってのは危機感がないのか?

あんなカタギに見えないやつと、ボンタンのヤンキーに懐くとか、普通なら怖がるだろ。

 

傑の方は見た目はともかく、外面がいいからまだ分かる。

でも伏黒の方は邪険にするかと思いきや、肩車したり、意外とまともに相手してたのは驚いた。

……そーいや、あいつ子供いたし、ヒモだった。ガキでも女ってね。

 

夏の繁忙期も終わって、年末の繁忙期までの空白期間。

全員の任務数が落ち着いてきて、毎年恒例の「学校行事詰め込み期間」が始まった。

 

学園祭に体育祭。

学園祭には歌姫や冥さんも来てて、珍しく浴衣姿だったからカメラマンをやらされた。

硝子と3人の決めポーズを前に、何枚も写真を撮らされた。

「大して変わんねーよ」と言ったら、歌姫がキレてたっけ。めんどくせぇ。

 

潔乃も浴衣着りゃいいのに、既製品だと身体に合うのがないからって制服のままだった。

もったいねぇ。

冥さんに聞いたら、オーダーで作ったらしい。

そりゃそうだよな、あの人も体型合う既製品ほぼ無いだろ。

 

潔乃も自分で作りゃいいのに……って思うけど、潔乃はめんどくさがってそういうことはしねーからな。

自分の体型に合う“吊るし”の服ばっか買う。

最近は、体型が分かんねー中性的な服装ばっかで、さらに勿体ねぇ。

露出しすぎはアレだけど、もう少し女らしい格好してもいいだろ?……似合うんだから。

 

服、買いに連れて行くか。

俺の誕生日にレストラン行くし、その時用の服どうせ買うだろ。

ついでに俺好みのワンピース、今度こそ買ってやろう。逃げられねぇように。

 

あと来年、浴衣プレゼントしてやるか。

京都の実家に連れてって採寸して、ちゃんと仕立てさせよう。

あいつの写真送っといて、あの綺麗な金髪に合う反物探しとけって実家に言っとくか。

 

そして交流戦。

もちろん東京校の勝利だ。俺と傑がいて負けるわけがないだろ?

 

……って言いたいところだけど、今回は二年を中心に動いてもらった。

後輩に活躍の場を譲ってやる、俺たちって優しい先輩だよな。

え? 俺と傑が動いたらすぐ終わるからつまんねーって?

当たり前だろ。

 

七海は十劃呪法の拡張術式「瓦落瓦落(ガラガラ)」を使って、京都校の連中を生き埋めにしてやがった。

容赦なくてウケる。

それにしても、いつの間に拡張術式なんて仕上げてたんだよ。淡々とした顔でやるから余計に怖い。

 

灰原なんてさらに容赦なかった。

水を操って、戦ってる相手の頭部を包み込み、酸欠で気絶させやがった。鬼かよ。ウケる。

灰原のやつ、いつの間にあそこまで水の操作覚えたんだ?

……普段あんなに朗らかなのに、術式だけ無慈悲なのギャップ強すぎだろ。

 

あいつらほんと、外部行くのもったいねーだろ。クソが。

 

潔乃はどうしたって?

あいつは不参加だった。

 

理由は、交流戦で荒れた敷地の修復が必要だから。

同じく救護活動がメインで不参加の硝子と二人、仲良くお茶飲んで本部で待機だ。

あはは、ふふふ、って和菓子つまみながら茶を飲んでたらしい。……余裕かよ。いや、平和でいいんだけどさ。

 

学生の楽しみ奪うんじゃねーよってヤガセンに抗議したけど、

「去年、お前らの破壊を修復するのに潔乃が疲労で寝込んだの忘れたのか?」

で却下された。

 

……あー、アレは。悪かった。

忘れてない。忘れられるわけがない。

 

潔乃もため息ついて受け入れてるし。

去年の俺らのせいだから気まずくて、誤魔化すみたいに「覇気がねぇな!!」って肩を抱き寄せたら、手のひらに骨の感触が妙に残った。

 

 

あれ?

潔乃って、こんなに骨ばってたっけ?

 

 

もっと柔らかくて、でもちゃんと筋肉がついてる肩だったと思う。

繁忙期の間、潔乃とはすれ違いばっかで、最近は添い寝もしてなかった。

だから、いざ触れた瞬間の感触が予想と違って、妙に驚いた。

 

「潔乃、ちょっと痩せた?」

「あー夏バテ気味で少し痩せたかも。あと、修復任務が多くて……」

 

上層部や御三家向けの対策で術式を効率悪く回してる潔乃は、燃費が恐ろしく悪い。

いつも沢山食ってるし、間食もよくしてる。

そうしないとすぐ体重が落ちるって、本人が言ってた。

 

最近、潔乃とデートどころか、寮の食堂で潔乃と会うことも少なかった。

会ったとしても、蕎麦屋だのうどんだの、さっと食えるものを流し込んで、すぐ出て行くことが多かった気がする。

祓除任務は減っても、修復任務は一年中ある。地味で終わりがない。そりゃ削られる。

 

「今さら夏バテかよ。美味いもん食いに行くぞ。何がいい? 焼肉?」

 

顔を覗き込むと、顎のラインが前より少しシャープになってるのが分かる。

ちっ。学生にここまでさせんなよ。

修復任務の量、調整しろってヤガセンに言っとこう。

上がゴチャゴチャ言うなら、俺からも抗議して特級&五条家次期当主(俺の権限)で押し通す。

 

「んー……蕎麦がいいかなぁ」

「蕎麦な。美味い天ぷら蕎麦食べようぜ。カツ丼もつけてよ」

「夏バテって言ってるのに油物食べようとか鬼ですか。

……とにかく、今年も交流戦勝ってくださいよ? あと、施設破壊はなるべく最小限に!!!」

 

そう言ってたのに、灰原はともかく、七海が拡張術式で思いっきり破壊してたから。

七海を正座させてぶちギレてたのはウケた。

兄貴にも容赦ねーのな。

 

傑と二人で写真撮ってたら、七海に睨まれたし。

やめろ、こっち見るな。

笑いすぎると、潔乃の怒りがこっちに飛んでくるんだよ。

 

 

交流戦の後、夜蛾に潔乃の件で抗議したからか、任務の量が少し減ったみたいだ。

 

寮の自室に行くと、潔乃は汗をかきながら毎回のように宝石に呪力を込めていた。

俺が部屋に入ると、一旦中断。まず甘いミルクコーヒーを出してくる。

それで、しばらくどうでもいい雑談をする。

潔乃の汗が引いた頃に、黒いハンカチを畳んでポッケにしまい、当たり前みたいな顔で言う。

 

「反転術式、出力お願いできます?」

 

──はいはい、って出した瞬間から、今度は傑用のオブラート作りが始まる。

あいつ、手が止まらない。

あまりにも量が多いから、さすがに聞いた。

 

「……これ、こんなに作る必要ある?」

 

潔乃は手を止めずに、さらっと返した。

 

「繁忙期になったら余裕がなくなるから、今のうちに作りだめです。ストックって重要ですよ?」

 

だってさ。

真面目だね、潔乃は。

宝石も同じ理由で作ってるらしいし。

 

……その真面目さを、もうちょい自分の飯と睡眠にも向けろって話なんだけど。

つーか最近、ゲーマーのくせにゲームもしてねぇだろ。

少しは気晴らししろって言った。

 

「ちょっとは遊べよ。ゲームとか」

「んー……今はいいです」

 

淡く笑って、手だけは止まらない。

その横顔が、妙に落ち着いて見えてムカつく。

 

「五条さんと話してるの、楽しいから。気晴らしなってますよ」

 

は?

 

……いや、嬉しい。嬉しいんだけどさ。

その言い方、ずるいだろ。

俺がいくら「好き」だって言っても暖簾に腕押しのくせに、こういう時だけさらっと甘い返事してくんの、反則だ。

 

「おい、いい加減、俺と付き合えよ」

「嫌でーす」

「ちっ」

 

即答。間ゼロ。

迷いも照れも、まるで無し。

思わず舌打ちしたけど──なんだよ、らしくて笑ったっけ。

 

11月に入って、木枯らしが吹き始めたころ。

任務から戻ってきたら、ちょうど任務に出かける潔乃と鉢合わせた。

 

寒くなってきたからか、潔乃の吐く息が白い。

俺は術式を回してる間は基本的に寒さは感じないけど、白い息を見て身震いした。

見てるだけで寒いわ。

 

「任務?今日はどこだよ」

「久々に祓除です。東北に出張」

 

この時期に東北。寒いところじゃん。

そう思いながら、ふと以前から思ってたことを口にする。

 

「戻ってきたらさ、一緒に服買いに行こうぜ」

「え、めんどくさ……」

「めんどいとか言うな。行くからな!」

 

押し切るように言うと、潔乃はいつもの苦笑を浮かべた。

断るのも、面倒くさいのも、本音だろうけど――それでも、その顔は嫌そうじゃない。

 

「……分かりましたよ。帰ったら、ですね」

 

補助監督の車のドア開けて、潔乃が乗り込む。

俺はその姿に向かって手を上げた。

 

「じゃ、約束な」

「はいはい……行ってきます」

 

手を振り返す潔乃を、車が角を曲がって見えなくなるまで見送った。

いつも通りの軽い返事。

……だから、その時は何も疑わなかった。

 

その後、潔乃は高専に戻って来なかった。

 

帳が解除されても、任務終了の連絡が来ない。

補助監督が待機している車にも戻って来ない。

 

最初は山間部での任務だったから、奥地まで入って電波が届かないんだろうと補助監督は判断したらしい。

時間が経てば連絡が入るか、車に戻ってくる、と。

――現場ではよくある話だ。だからその時点では、誰も“異常”として扱わなかった。

 

ただ、何時間経っても潔乃は戻らない。

 

痺れを切らした補助監督が現場に乗り込んだのは、日が落ちる前だったらしい。

対象の呪霊は、すでに祓除されていた。

痕跡も残穢も、仕事としては綺麗すぎるくらいに“終わって”いた。

 

けど、肝心の潔乃の姿がない。

そこに残っていたのは、二通の封筒だけだった。

 

一通は、「退学届」。

もう一通には、短い手紙。

 

『お世話になりました。探さないでください』

 

……それだけだった。

 

 

もちろん高専は大騒ぎになった。

 

話を聞いた七海は半狂乱で、補助監督に詰め寄っていた。

幼馴染の伊地知も普段の温厚さをかなぐり捨てて、潔乃の携帯に何度も電話して、繋がらないコール音にキレ散らかしていた。

伊地知の怒声なんて、初めて聞いた。

 

灰原は黙り込んで、何も喋らない。

硝子は舌打ちして、無言でタバコをふかしていた。

夜蛾もそれを注意しない。

傑は呪霊玉をじっと見つめて、何かを考え込んでいた。

誰もが沈んでいた。誰もが、言葉を失っていた。

 

後日――傑のところには大量のオブラートが届いた。

俺のところには、呪力を込めた宝石が、段ボール箱いっぱいに届いた。

……あぁ。あの時にはもう、そのつもりだったのか。

そう察してしまって、喉の奥が苦くなった。

 

貴重な「修復術式」持ちの生徒の失踪だ。

高専としては事件性を疑って調査に入ったが、いくら調べても事件性は確認されなかった。

 

寮の部屋はいつものように片付いていて、不審なものもない。

日記等も特になく、趣味のゲームや漫画にも異常なものはない。

 

失踪場所の調査には、俺も現地に赴いて六眼で直接見た。

そこに残っていたのは、呪霊と、潔乃の残穢だけ。

余計な混ざり物がない。妙な切れ目もない。

……なんの異常もなかった。異常が無いのが、いちばん異常なのに。

 

結果として、最終報告書はこう締められた。

「一般家庭出身者が呪術界に耐えられず失踪した」

 

……ふざけんな。

そんな一行で片付けられるわけがねぇだろ。

 

とはいえ貴重な術式持ちだ。失踪者としての探索は続いた。

五条家にも、伏黒にも探索を命じた。

でも、潔乃は見つからなかった。

 

そのまま十二月になり、年が明け、季節が変わっていく。

桜が咲いて散って、青葉が茂るころ。

 

「あ、五条? 潔乃いたよ」

 

硝子から、連絡が入った。

 

 


 

 

「っ……」

 

羂索が発した『▪̴͋̃̎̀̉̓̊̇͊́͌͐̏́͠️҉҇̒̃̌̓̄̄͆̇͐̏̎̑▪̴̛̅̉̽̀̓̊̿̅̽̌̓̄̓️҈̛̈̀͗͛̔̔́̒̓̎͛̌̃̚ 』を耳にした瞬間、頭蓋の奥を釘で抉られたみたいな激痛が走った。

思わず顔をしかめ、額を押さえる。

なんだ、この頭痛。羂索が目の前にいて、私を“認識している”というのに、こんなヤバい状況だっていうのに。痛みのせいで視界がぐらつく。

 

そんな私を見て、羂索は――虎杖香織の、美しい顔を心配そうに歪めた。

 

「転生体だから記憶はないけど、魂には刻まれてるみたいだね。よかったよ」

 

……何を言ってる。転生体? 誰が、何が?

 

私の腕を掴む羂索の手を無理やり払いのけ、少しでも距離を取ろうとする。

でも、そんなことを許す相手じゃない。羂索は再び私の腕を掴み、引き寄せた。

 

「あぁ、ごめんね。中途半端は苦しいね」

 

両頬に手が添えられる。覗き込むように視線を合わせられ、逃げ道が塞がる。

振り払おうとしても、女の細腕とは思えない力で固定される。

虎杖香織(羂索)の瞳の奥に、苦しげな私の顔が映っているのが見えた。

 

「思い出せ──白菊」

 

その言葉を聞いた瞬間、脳内に“情報”が雪崩れ込んできた。視界が白くなる。

っ……そういうことか。

流れ込む本流を、必死に咀嚼する。

数分ほど経って、ようやく情報量が落ち着いた頃──私は顔を上げた。

 

「どうして放っておいてくれなかったんですか、羂索!」

 

睨みつける私に、羂索は薄らと笑う。

本当に嬉しそうに楽しそうに。

 

「死ぬ前に言ったじゃないか。君の転生体を絶対に見つけるって」

 

私は『呪術廻戦』を一読者として読んでいた前世の記憶と、伊地知潔乃としての記憶がある。

伊地知潔乃として死んだあと、すぐに七海潔乃として生まれた――そうだと思い込んでいた。

疑いもしなかった。

 

私はかつて、死後の空港で。

五条たちとの縁を拒んで、次の人生へ向かった。

転生先でも、絶対に会いたくないと思った。

申し訳ないから。

合わせる顔がないから。

自分が許せないから。

だから、新しい人生を、新しい世界を願った。

 

その結果――伊地知潔乃として死んだあと、まさか平安時代に転生していたなんて。

それを、今の今まで“すっかり忘れていた”なんて。

 

「千年前の戯言の結果を伝えるために、こんなことやるんですか」

「1104年8ヶ月と16日ぶりだよ」

「数えてたんですか? さすがにきっしょ……」

「酷いねぇ。君が呪物化を断固拒否するから、君の魂に呪いをかけたんだよ」

「呪い?」

 

「そ、呪い。君の魂さぁ、元々なんか呪いやらで雁字搦めだったから苦労したよね」

 

心底苦労したんだよ。というように肩をすくめる羂索。

元々なんか呪い?あーそれは五条の呪いな気がする。

 

「今、いきなり記憶が戻ったのは、そのせい?」

「そうだよ。私が視線を合わせて“かつての名前を呼べば”記憶が戻るようにしたのさ。

 我ながらすごくないかい? 褒めてくれていいよ。白菊?」

「余計なことを……」

 

平安時代のあれやこれやが蘇って、頭が痛くなる。

平安でも――とあることがきっかけで伊地知潔乃時代の記憶が戻り、そのせいでこいつに目をつけられたんだった。

 

そして合点がいった。記憶を取り戻す条件。

 

私が前回の記憶を取り戻したのは、本当の本当に例外処理だろう。

呪術廻戦を読んでいた前世持ちなんて、おそらく私だけだ。

羂索も流石に想像がついてないはずだし、それに介入できると思えない。

 

他のみんなが記憶を取り戻す条件。

死の運命を覆したから——って理屈は、まだ分かる。

でも、それに加えて「私と視線を合わせた瞬間に」記憶が戻る。意味が分からなかった。

……今なら分かる。羂索が私にかけた術の副作用に違いない。

 

目の前でニヤニヤ笑う羂索を睨みつける。

虎杖香織の顔なのに、その表情は――原作で見た“夏油傑の皮を被っていた時”と同じだ。

くっそ腹立つ。

 

「私は君の転生体と会う日を楽しみにしてたのに。私の大親友は冷たいやつだ」

「親友になった覚えはありません」

「大親友だよ。ずっと会うのを楽しみにしていた。白菊が言ってた通りの未来に心が躍るよ」

「……ちっ」

 

平安で記憶を取り戻した私は、現代の知識をちょいちょい漏らしてしまっていた。

よりによって当時使えてた主人が羂索と交流があったのが致命的だった。

額の傷で羂索と気づいてから、なるべく目に留まらないようにしてたけど、どうしてもそこらの平安の人間とは違う。

そりゃ目をつけられるに決まってる。羂索なんて、“面白そうだから”で色々やらかす化け物だ。

 

原作知識は隠しつつ――でも“未来視みたいなものがある”って部分だけ、結局ゲロった。

いや、だって平安の時点で羂索は上澄み中の上澄みで、私は呪力はあったけど、術式なしのへっぽこだったんだよ!!

 

知らないふりして誤魔化してもよかった。

そして主人も面白がって「吐け」って言う。

それでも黙ってたら拷問フルコースだったし!!! 最悪。

殺されかけて反転かけられて、さらに殺されかけるとか──平安、治安が悪すぎだろ!!!!

 

これ以上やられたら原作知識までゲロると思った。

だから最低限だけ、吐いた。

そしたらもう、知識欲の塊みたいな羂索に気に入られた。

 

ちなみに、大層なことを教えたわけでもない。

適当に“当たり前の一般常識”を話しただけだ。

 

地球は丸い、とか。

太陽はガスが燃えてる、とか。

人間はいつか月に行く、とか。

 

……平安の人間にとっては全部、妖言だけど。

 

その時、羂索は目を輝かせて言った。

「その未来を、一緒に確かめよう」

そして当然の流れで、呪物化を提案してきた。

 

全力で断った。死ぬほど断った。

あれに乗ったら終わりだ。絶対に“私”じゃなくなる。

 

すると羂索は、さらっと別案を出してきた。

 

「じゃあ、君の転生体を探すよ。魂は巡るからね。

記憶を取り戻させたら──一つお願いを聞いてもらう」

 

そんなの出来るわけないと思ってた。

めんどくさくなって、主人が許可を出すならと頷いた記憶がある。

 

……いや、マジかよ。そんなの嘘だろ。

普通は言葉遊びで終わるだろ。千年単位で律儀に実行するとか、どんな執念だよ。

 

とにかく白菊だった私は、その後、流行病でぽっくり死んだ。

あっけない。本当に、笑えるくらい呆気ない。

 

死んだあと、また空港に行って。

その時、思ったんだ。

 

平安は懲り懲り。

次は現代に生まれて楽したい。

派手な美人で女がいい。

頭の良さはもちろん引き継ぎで

 

……で。

その結果がこれか。七海潔乃かよ。

 

ちくしょう。

“呪術から離れたところ”って願っときゃよかった!!!

 

頭の中は平安の記憶でぐちゃぐちゃで、胸の奥には今さらどうにもならない後悔が渦巻いてる。

なのに目の前のこいつは、まるで、最初からこうなるのを知っていたみたいな顔をしていた。

 

羂索は、私がキレ散らかしているのを止めるでもなく。

虎杖香織の美しい顔を、わざとらしいほど柔らかく緩めて、ただ楽しそうに眺めている。

 

私が睨み返しても、羂索は一切動じない。

むしろ、嬉しそうに口角を上げる。

「やっと会えた」って言わんばかりの、満足げな笑み。

千年分の執念を、堂々と“成果”みたいに誇っている。

 

そして、私が息を吸うタイミングまで待って――

羂索は、楽しげに、わざとゆっくり口を開いた。

 

「私のお願い事はね──」

 

 


 

 

「説明しろ、潔乃」

 

新宿で偶然、家入に会った時点で察してた。こうなるって。

新宿に買い物なんて来るんじゃなかったな。

 

現在地は、新宿西口。思い出横丁のあたり。

夕方の雑踏はやたらと騒がしくて、油と煙の匂いが鼻につく。笑い声も、呼び込みの声も、やけに遠い。

その喧騒を、ひとりだけ無音にする存在が目の前に立っていた。

 

どう考えても場違いな白髪。

……五条。

 

私は内心でため息をつく。ほんの少しだけ。

悟られないように、胸の奥に押し込んでから、口を開いた。

 

「家入さんから聞いてますよね? それ以上でも、それ以下でもないです」

「だから、高専やめて失踪したって?」

 

本当は好きで失踪したわけじゃない。

だからそこを突っ込まれるのが一番きつい。

なのに──会話の型がもう決まってるみたいで、逃げ道がない。

原作の焼き直しみたいだな、と自分で思ってしまって、余計に胸が痛い。

 

「がんじがらめな高専にいたら、絶対できないことだから」

「は? みんなが死なないで、笑える世界を作りたい? 意味わかんねーよ!! 宗教かよ!」

 

……ほんとそれな。

言ってる自分でも、宗教だと思う。

でも本当の理由なんて言えるわけがない。

だから家入に適当なそれっぽいこと言ったけど、ちょっと失敗したと思った。

とりあえず適当な言葉で、言葉を塗り固めていくしかない。

 

「意味はあるし意義もある。私にとって、大義なのかも」

 

これは嘘じゃない。

私は高専を離れる必要があった。

それに意味も意義もある。大義もある。……ただ、その大義の中身を言えないだけだ。

 

「ねぇよ‼︎ どんだけ心配したと思ってんだ! 家族にすら、七海にすら言ってないってなんだよ‼︎

そもそもなんでそんな夢見てんだよ。無理に決まってんだろ‼︎」

「……」

「できもしねぇことをセコセコやんの、意味ねぇっつーんだよ‼︎」

 

ほんと、原作の焼き直しみたいな会話が続く。

違うのは、私が“夏油”じゃないってことだけ。

でも今の私は、似たような顔をしてるんだろうな。自分でも分かる。

 

「傲慢ですね」

「あ゛?」

「あなたなら出来るでしょう。五条さん。

自分にできることを、他人 (ひと)には『できやしない』って言い聞かせるんですか?」

 

……ここはもう、申し訳ないけど、五条の心を折らせてもらう。

原作通りに。

ごめん、五条。ほんとに。

 

「あなたは五条悟だから最強なのか? 最強だから五条悟なのか?」

「何が言いてぇんだよ」

「もし私があなたになれるのなら、この馬鹿げた話も地に足がつくと思いません?」

 

言いながら、私は背中を向ける。

五条が必死に私を引き留めようとしてる顔を──正面から見ていられなかった。

 

……いや、原作の夏油の気持ち、ちょっと分かる。

あの顔は、真正面から見たくない。

見たら、戻ってしまう。引き返してしまう。

 

「生き方は決めました。あとは自分にできることを、精一杯やるだけです」

 

そう言って、歩き出す。

背後で五条が近づく気配がするのを無視して──私は呪具を発動させ、その場を立ち去った。

 

喧騒が一気に遠のいていく。

五条の悲痛な声だけが、いつまでも耳の奥に残っていた。

 

 


 

 

羂索は、楽しげに首を傾げてから、まるで世間話でも切り出すみたいな調子で言った。

 

「私のお願い事はね──五条悟から離れてくれるかい?」

 

ゆったりとした口調。丁寧で、優しい。

その優しさが、逆に気持ち悪い。

 

「白菊、知らないだろうけど、君は私の策を邪魔してくれててさ。ちょっと邪魔かなって。

今世では五条悟とも友達みたいだけど、私とも大親友だしね?」

 

“邪魔”と言いながら、口元が笑っている。

面白がってる。きっとずっと、こういう瞬間を待ってた。

 

 

「嫌だと言ったら?」

 

羂索は、目を細めて嬉しそうに笑った。

叱るでも怒るでもなく、ただ“試す”みたいに。

 

「縛ってるからね。何が起きるかわからないよ。

それに──君は親友だから殺さないけど、他の人はどうなるだろう。ね?」

 

脅しのはずなのに、声色は穏やかだ。

柔らかい声色で砂糖漬けにしながら、一番嫌なところを刺してくる。

 

私は羂索を睨みつけ、視線を外さずに言った。

 

「だからこのタイミングなんですね。

……本当は私が転生体だって、もっと前に気づいてたでしょ?」

 

「正解!やっぱ白菊は頭が回るね。

高専の関係者と接触したあたりから気づいてたよ。君だってね!」

 

わざとらしいほど褒める。

クソが、その頭の糸引っこ抜いてやろうか。

羂索は、楽しそうにカップを指で回しながら続けた。

 

「本当はもっとドラマチックなタイミングで、記憶取り戻してもらおうと思ってたんだけどさ。

君どんどん五条悟と仲良くなっちゃうから。

それはそれで面白かったけど、流石にもう邪魔。限界」

 

面白かった。

その一言が、いちばん嫌だ。人の人生を劇として見ている。

ほんとこいつ嫌い。

 

このまま拒否しても、状況が悪くなるだけだ。

選択肢があるように見せて、選ばせない。羂索はそういうやつだ。

 

「……わかりました。ただ、少し時間をください。あともう一つ条件が──」

 

 


 

 

「五条先生」

「五条先生も寝るんだな」

「当たり前でしょ。何言ってんのアンタ」

「五条先生!!」

 

教え子たちの声が、遠いところからだんだん近づいてきて──僕は目を開けた。

瞼の裏に残った夢の余韻が、まだ薄くまとわりつく。

顔を上げると可愛い教え子たちが三人、揃って僕を見下ろしていた。

 

「おっ、起きた」

「ちょっと、その椅子……高いやつでしょ」

「呼びつけといて居眠りしないでくださいよ」

「メンゴメンゴ。ちょーっとばっかし任務続いててさ」

 

僕は背もたれから身を起こして、肩を軽く回す。

首のあたりが、ほんの少しだけ痛い。

――それより、さっきの夢。

 

ずいぶん懐かしい夢を見た。

あの頃の空気。あの声。あの、笑い方。

……夢の中でも、君に会うなんて久しぶりだ。

 

「何笑ってんスか」

「別に♡」

 

笑って誤魔化す。

そんな僕を尻目に、椅子に座れなかった悠仁が暇を持て余して、机の端に積んであった写真の束に手を伸ばした。

一年生たちに「授業の課題で写真撮ってこい」って出したあと、ふと自分も昔の写真を見たくなって取り出して――そのまま放置してたやつだ。

 

だから、あんな夢を見たのかもしれないな。

 

「これなんすか?写真……うわ!これ五条先生?学生時代???」

「これは夏油先生?相変わらず笑みは胡散臭いわね。……あ、こっち灰原さん。変わらないわね」

「あ!!!これナナミン??若っ!!!」

「ナナミンって誰よ」

「一級術師の七海さん」

「おまえ、七海さんのことナナミンって呼んでんのかよ……」

「家入さん!!この頃から美人で可愛い! あ、歌姫先生も可愛い!」

「伊地知さんこの頃から苦労が滲み出てるな……」

 

――3人とも好き勝手言ってるなぁ。

僕は軽く息を吐いて、ちょっと和みながらその様子を眺めた。。

 

その中で、悠仁が一枚を手に取って、首を傾げる。

 

「五条先生と肩組んでる、この金髪で長身の人……ナナミンに似てる?」

「確かに似てるな」

「……知らない人ね」

 

野薔薇がそう言った瞬間、三人の空気が固まった。

目が泳ぐ。口が止まる。

――あぁ。そうか。

“知らない人が昔の写真に写ってる”ってだけで、術師なら最悪の想像に辿り着く。

呪いか、あるいは──

 

僕はわざと軽い口調で、釘を刺すみたいに言った。

 

「正解。七海の双子の妹だよ。生きてるから安心して」

 

三人の肩から、ふっと力が抜けるのが分かった。

……分かりやすすぎ。

術師なんだから、もう少しポーカーフェイスを覚えなさい。

とくに恵!口酸っぱく何度も言ってるでしょう。

 

「へぇ……双子の妹。美人ね」

「七海さんに妹がいたんだな」

「ナナミン、そっちの話してくれないんだよなー」

 

勝手に納得して、勝手に盛り上がっていく。

僕は写真から視線を外しながら、あっけらかんと言った。

 

「んでもって──僕の初恋の人で、今でも大好きで大切な人だよ」

 

重いまま言ったら、この空気が壊れる。

だから、いつもの調子で、軽く付け足す。

 

「……ある日突然、高専辞めちゃって。今どこにいるか分かんないけどねー」

 

「逃げられてんじゃん」

 

悠仁が即座に刺してくる。

うん、そうだね。反論できないね。

 

「五条先生が嫌で高専やめた?」

「あー……ありそう」

 

ちょっとひどいな。僕の教え子たち。

肩をすくめてため息を吐いた。

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