とある転生者、2周目   作:kotedan50

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if 転生者、百鬼夜行に参加する https://syosetu.org/novel/408095/47.html からの分岐。

玉折後〜渋谷事変直前②
ほぼ五条のターン

・伊地知ポジション成り代わり(伊地知の双子の妹)だった転生者、七海建人の双子の妹で、まさかの2週目
・オリキャラ出ます
・ネタまみれです
・これまでで最も、激しい捏造、妄想含みます!!(ここ最近ずっと言ってる)


転生者、知らないうちに最強がアップを始める

「悠仁。その話、もう一回。最初から──詳しく話せ」

 

六眼を晒したまま、悠仁を正面から見据える。

普段より強い口調になったのは自覚している。それでも抑えられなかった。

 

空気が変わったのを察したのか、悠仁・恵・野薔薇の表情がすっと真剣に切り替わった。

恵と野薔薇が無言で悠仁へ視線を向ける。

促されるように、悠仁は「あー……」と短く息を吐き、その当時を思い出すみたいに語り始める。

 

「えっと……確か、あの瞬間。俺は順平を説得してたんだ。

順平は母ちゃんが死んだと思い込んで自暴自棄になってたから」

 

悠仁の視線が左上へ流れる。

人が記憶を思い出すときにする、あの仕草だ。

腹芸が苦手な悠仁がやるなら、今から話すことは少なくとも嘘ではない。

 

「高専に来いって。『バカみてぇに強い先生とか、頼りになる仲間がいっぱいいる』って。

『みんなで協力すれば、順平の母ちゃんを呪ったやつもきっと見つかる。必ず報いを受けさせてやる。一緒に戦おう』って……」

 

その言葉を聞きながら、僕はタブレットの報告書にちらりと目を落とす。

内容に齟齬はない。

 

「で、そのタイミングでツギハギの呪霊……真人が来て、俺が拘束されて……」

「何やってんのよ」

 

野薔薇の声は鋭い。

悠仁は悔しそうに眉を寄せ、言い訳とも反省ともつかない言葉を吐く。

 

「ツギハギだったけどさ、最初は普通の人にしか見えなくて……油断した……」

 

野薔薇のツッコミに、悠仁が口の端を歪める。

 

「それで、順平に逃げろって言ったんだけど、順平は真人のこと信じててさ。完全に騙されてたんだよ。

真人が順平の肩に触れて、人を改造するあの術式――無為転変を発動しようとしてたんだと思う」

 

「それで?」

 

僕が促すと、悠仁は一瞬だけ間を置いてから、信じられないことを淡々と告げた。

 

「……真人が、飛び込んできた袈裟の人にドロップキック喰らって、吹っ飛んだ」

 

「は?」

「え?」

「……うん、報告書通りだけど。本当にドロップキック?」

 

野薔薇と恵があっけに取られた声を上げる。

気持ちはわかる。自分で言いながら、僕も同じ気持ちだ。

悠仁は肩をすくめた。

 

「綺麗に顔面入ってて、びっくりした」

 

その絵面を思い出したのか、悠仁はほんの少しだけ笑い、すぐに顔を引き締める。

 

「容姿の詳細は?」

 

僕が尋ねると、悠仁は間髪入れずに答えた。

 

「身長はさっきも話したけど、俺よりでかい。伊地知さんくらいあった」

 

悠仁の言葉に野薔薇と恵が反応する。

 

「伊地知さんって、そこそこ大きかったわよね?」

「以前服の話をした時に、178センチとか言ってたな」

 

僕の記憶とも一致してる。

そして潔乃の身長は確か177センチだったはずだ。

……ほぼ同じ。

 

胸の奥で、嫌な一致がひとつ増えた。

 

「それは見間違えとかではなく確証はある?」

 

問いかけると、悠仁は迷いなく頷いた。

 

「うん。伊地知さんが後の現場検証の時に、その袈裟の人物とほぼ同じ位置に立ってたんだ。で、頭の位置が同じだった」

 

なるほどこれは信憑性が高そうだ。

というか悠仁は戦闘時だったのに、きちんと状況把握ができてるね。

これは花丸をあげたい。今度ご褒美で焼肉でも奢ってやろう。

 

「それで、黒髪ショートだったけど……ドロップキックのせいかな? 前髪の生え際から、少しだけ金髪が見えた。だから地毛は金髪だと思う」

 

「んでもって、顔は仮面。正確には『おかめ』のお面かぶってた。声は中性的。喉仏がないのと、手は綺麗な指をしてたから、多分女性」

 

……報告書通り、なんだけど。

仮面(おかめ) ”。“袈裟”。“金髪”。“中性的な声”。おそらく女性。

統一性のない散らかった情報が多すぎて、さすがに頭が痛くなってきた。

なんだよ、おかめって、そもそもなんで袈裟なんだ。それで金髪?意味わかんねー

 

「なんで、おかめ……」

「意味わからん」

 

同じ気持ちなんだろう。恵が苦虫を噛み潰したような顔になっている。

 

「そしたら真人がキレてさ。『おい! 何邪魔してんだよ!』とか、『邪魔するわボケ!』みたいなこと言ってた」

 

頬をぽりぽり掻きながら、悠仁は続ける。

 

「随分と、乱暴な口調の人だったのね」

「釘崎、お前それ言えないからな」

 

恵の淡々としたツッコミに、野薔薇が睨み返す。

――この口調の悪さ、覚えがある。だが、まだ確証がない。記憶の輪郭だけが、ぼんやりと疼く。

 

僕は二人の小競り合いを視線だけで制し、悠仁へ続きを促した。

 

「で、話の続きなんだけど――」

 

悠仁は息を整えて、会話の再現を始める。

 

「『アンタは呪霊らしく人を殺す。私は人間らしく人を助ける。お互い好き勝手するのがルールでしょ』

『あぁ、そういえばそうだったね』

って話してて、真人がその袈裟の人に攻撃したんだけど、あっさりかわしてた」

 

真人とその人物が“初対面ではない”のは間違いない。

だが完全に味方でもない。むしろ敵同士の線すらある。

“ルール”という言葉が出る以上、お互い何らかの目的のために、不可侵の縛り――あるいは取り決めを結んでいる、と考えるのが自然だ。

 

「『殺そうとするのはルール違反でしょ』って言っててさ。

それから真人が――『これくらいでオマエが死ぬわけないだろ? 白菊』って呼んだんだ」

 

そして、悠仁の声がわずかに硬くなる。

 

「……そしたら、宿儺が表に出てきて、爆笑し始めた」

 

喉の奥が、ひやりと冷える。

僕はタブレットを持つ指に、無意識に力が入るのを感じた。

 

「『白菊! 白菊と言ったか? お前まだそんな阿呆なことをやっているのか。相変わらずの道化だな』って」

 

「なんで宿儺が、その袈裟の人のことを知ってるのよ? 人違いじゃなくて?」

 

野薔薇の疑問は当然だ。悠仁は首を振る。

 

「それがさ。その袈裟の人――白菊って人も、認識が一致してたみたいで……

『うるさい!! 私の勝手でしょ!』って返したら、宿儺がまた爆笑して、ご機嫌で引っ込んでった……」

 

「その人、受肉体とかじゃなくて?」

「いや、あの呪力は間違いなく、普通の人間だった」

「……じゃあ、なんで千年前の呪いの王と、その白菊ってやつが既知なんだよ」

 

恵の言葉が、部屋の空気をもう一段冷やした。

悠仁は「俺にわかるわけないじゃん」と顔をしかめ、それでも続ける。

 

「そこはわからない。でも、とにかく……なんか、顔見知りの空気ってやつ? が流れてた」

 

説明しながら、悠仁自身が一番納得していない顔をしている。

 

「で、俺と真人がそれに戸惑ってるうちに、その白菊が順平を抱えるもんだから、俺、追いかけようとしたんだけど……」

 

悠仁はそこで一度言葉を切り、当時の声色を真似るように言った。

 

「『悪いようにはしないから、そいつ殺してもいいよ』って――真人を指さしてさ。

そのあと、校舎の外に飛び出してった。真人が激ギレして、宿儺がまた出てきて爆笑してた」

 

……報告書通りなんだけど、カオスすぎる。

そしてこの“カオスの匂い”に、僕は覚えがある。

場をひっ掻き回して、全部を自分のペースにしていく――あの空気感に、そっくりだ。

でもまだ情報が足りない。確証が持てない。

 

「吉野順平は、母親が死んだと思い込んでた。

報告書では錯乱状態にあって誤認した、ってなってるけど……詳細、わかる?」

 

「それなんだけど、順平曰く『母さんの下半身がなかった』って言ってた。

だからベッドに運んで、保冷剤と氷嚢置いて出てきたって言ってたけど、そんなことなかったって」

 

悠仁が当時の状況を報告する。

 

「俺は直接見てないけど、順平の母ちゃんの凪さんは、リビングで倒れてたらしい。

血まみれだったけど……腹部の傷は意外と浅くて、命に別状はなかったって聞いてる。

順平は自分の母親が血まみれだったから、相当錯乱してたんだと思う」

 

確かに、一般人があの状況に置かれれば、錯乱してもおかしくない。

……だが、それでも引っかかる。

“下半身がない”という表現が、生々しすぎて。誤認にしては、方向が歪だ。

 

「もう一つ確認。

その白菊って乱入者から、僕の香水と同じ匂いがした?」

 

僕が問うと、悠仁は頷いて答えた。

 

「うん、正確には全く同じじゃないけど、元の香水はこれで間違いないと思う」

 

香水はつけた直後以外、体温や体臭や汗で香りが変わる。

けれど、宿儺の器である悠仁は肉体強度も五感も鋭い。彼がそう言うなら、ほぼ間違いないだろう。

 

「吉野順平はどのタイミングで頭を打ってたかわかる?」

「俺との戦闘中で何度も叩きつけた

あと、白菊のドロップキックを受けた時もバランス崩して転んでたから、その時かも?」

 

なるほど?

脳に支障が出るほど頭を打った割には、だいぶ元気に動き回ってたわけね。

 

「校庭で複数の残穢がされているけど、改造人間とはどれくらい戦った?」

「んー俺が倒したのは3体だったと思う。移動しながら戦って屋上で倒した」

 

 

そう……僕の中で点と点が繋がり線になり始めている。

 

 

担当の術師は七海で報告書の提出者もそう。

そして補助監督は伊地知。

この二人の仕事に間違いはない──はずだ。

 

 

本来なら。

 

 

 

「悠仁ありがと。仔細はわかった。じゃ、今日の課題はこれね。

僕、これから任務があるから、それをこなすように!

それが終わったら任務で出張になるから、体力は残しておくんだよ?

詳細は担当の補助監督から聞いてね」

 

アイマスクを元に戻し、デスクから課題を取り出して渡す。

若干スパルタ気味な課題と任務に、それぞれが悲鳴をあげ愚痴り始めるが、構っている余裕はない。

 

「あ、今日、ここで話したことは、他の人に話しちゃダメだよ」

 

釘を刺し、僕は執務室を出た。

 

 


 

 

翌日の夜、二十二時半。

廊下の照明は落とされ、窓の外も漆黒の闇だ。

そんな時間に僕は七海と伊地知を執務室に呼び出した。

 

「なんなんですか、五条さん。もう残業時間で、早く帰りたいのですが」

 

入るなり不機嫌を隠しもしない七海。視線だけをこちらに投げてくる。

 

「五条さん。私も書類の処理がありますので、手短にお願いします」

 

伊地知も同じく疲れの色を滲ませる。丁寧な口調のまま、遠回しに“面倒だ”と言っている。

 

僕は椅子にもたれたまま、二人に向かいの椅子を顎で示した。

 

「座って」

 

短く言うと、二人は黙って椅子に腰を下ろす。

 

「ちょーっとばっかし確認したいことがあってね。二人が担当だったから呼び出したの」

 

そう言いながら、僕はポイっと七海にタブレットを投げる。

七海は反射でそれを掴み、訝しげに画面を確認した。

顔には特に何も浮かばない。さらっと確認した後、無言のまま伊地知へ手渡す。

受け取った伊地知が、画面を見て首を傾げる。

 

「里桜高校の件ですね。何か問題でもありましたでしょうか?」

 

……こいつら、僕の後輩だけあっていい根性してる。

だから僕も、まわりくどいのはやめた。

 

「吉野順平に会ってきたよ」

 

「「……」」

 

二人の表情は変わらない。

変わらないのが、逆に答えだ。

 

僕の声が冷たいのは、怒っているからじゃない。結論が出ているからだ。

 

「頭をぶつけたことで術式が使えなくなったなら、術師の脳のままで、術式も残る。

使えないだけでね。

でも吉野順平は、そうじゃない。真人に弄られた“状態”ごと、元に戻ってる」

 

タブレットの報告書は、僕の認識と異なっている。

 

「つまり、術式はあるけど、脳が非術師のそれになっていた。

僕が六眼で見たから間違いない」

 

指先で机を軽く叩く。コツ、と乾いた音がした。

 

「……あれ? おかしいね。僕、こんなことできる術式に覚えがあるんだけど」

 

七海も伊地知も返事をしない。

否定もしない。肯定もしない。

 

七海はいつもの無表情。

伊地知はいつもの、落ち着かなさを装った表情。

……ほんと、タヌキだな。二人そろって。

 

僕は畳みかける。

 

「校庭の複数の残穢。報告書には“改造人間のもの”って書いてあるけどさ」

 

わざと、間を置いた。

 

「数も場所もおかしいんだよね。悠仁が倒した改造人間は三体。

それらは屋上で倒してるはずなのに、校庭には“複数の残穢”があったって記載されてる」

 

息を吸う。吐く。

二人の瞳がわずかに揺れた気がした。錯覚でもいい。続ける。

 

「これまた不思議だね? あと、僕、こんな残穢のとっ散らかり方をよーく知ってるんだよね」

 

七海と伊地知の表情は、まだ変わらない。

変えない、が正しい。

 

「さらに。吉野順平は母親の吉野凪が死んだと思い込み、凶行に至った。……はずなんだけど、それもおかしい」

 

声が自分の耳に刺さる。冷静さを保っているつもりなのに、内側だけがざらつく。

 

「いくら血まみれで錯乱状態でも、母親の下半身がなくなってるって思い込む?

しかも母親の死体をベッドに運んで保冷剤で冷やした?その幻覚すごいよね」

 

床に映った影が、蛍光灯の揺れでわずかに動くのが見えた。

 

「そういえば。またもなんだけどさ、死体の偽装ができる術式持ち。僕、知ってるんだよね。偶然にも」

 

七海も伊地知も返事をしない。

否定もしない。肯定もしない。

 

沈黙。

 

その沈黙が、僕の神経をいちばん削る。

 

「七海。伊地知」

 

僕は椅子から身を乗り出した。距離を詰める。逃げ道を消す。

 

「オマエら、知ってたよな?」

 

七海のまつ毛が一度だけ下がって上がる。

伊地知が眼鏡のブリッジを押さえ、位置を直す。無意識の癖。焦りの癖。

 

「報告書、嘘だね」

 

言い切る。

言い切ってしまえば、もう引けない。

 

僕はゆっくり言葉を積む。崩れないように。逃げられないように。

 

「オマエ達は会ってる」

 

七海の指先に、ほんの僅かに力が入る。

伊地知が口元を押さえた。……やっと態度に出したか。この鉄面皮ども。

 

「潔乃に会って。話して」

 

空気が止まる。

呼吸の音だけが、やけに大きく感じる。

 

僕は、口角をゆるりとあげ、笑みを作る。

自分でも自覚するほど冷たい笑みだ。

 

「黙ってた」

 

七海が微かに唇を開く。

でも言葉にならない。

 

「……」

 

「言えない?」

 

僕は椅子の椅子身を起こし、ゆっくりと立ち上がった。

黙り込んで貝になった二人を見下ろす。

答えを引き出すというより、逃げ道を塞ぐための動きだ。

 

「じゃあ──僕の推測で話させてもらうね」

 

間を置く。わざとだ。

二人のまばたきを何回も数えられそうなくらいの沈黙。

 

「真人の無為転変で“術師の脳”にされた吉野順平。

彼を……潔乃の術式で“元に戻した”。だろ?」

 

タブレットに視線を落とすふりだけして、すぐに顔を上げる。

 

「それをやったのは校庭だ。

その時にこびりついた潔乃の残穢を誤魔化すために、宝石使ったな?

吉野順平は悠仁と戦ってた割に、ほとんど怪我もなかったようだし?

となるのは使ったのは回復の呪力宝石」

 

言い切った瞬間、七海の指先がわずかに動く。

伊地知は喉が固く上下した。

 

僕は続ける。容赦なく。

 

「それから。吉野順平が見た吉野凪の“死体”。あれは潔乃が作った偽装だ」

 

声が静かなのに、部屋の温度だけが下がっていく。

 

「両面宿儺の指を置いたのは真人だろう。

それに気づいて介入した──でも、すでに吉野凪は重症だった」

 

そこで一拍、呼吸を置く。

自分の声が、やけに遠く感じる。

 

「……それを、潔乃の宝石で治療したな?」

 

七海は無表情のまま、視線を逸らさない。

伊地知の目だけが揺れる。

 

「宿儺の指に呼び寄せられた呪霊に襲われたから、複数の残穢があってもおかしくない。

いや、うまいことカモフラージュに使ってるよね」

 

態とらしく手をぱちぱちと叩いてみせる。

 

「その後、真人たちにバレないように偽物の死体を用意した。

でも順平の身柄は確保できなかった。すでに真人と一緒にいたからだろう。

結果、順平は偽の死体を見て錯乱して、あの事件を起こした」

 

机の縁に指を置き、トン、と一度だけ鳴らす。

 

「……概ね合ってると思うけど。どう?」

 

答えはない。

 

「特級命令だ。説明しろ」

 

今度は呪力を、言葉に乗せた。

空気がほんのわずかに震える。

七海と伊地知の髪が、目に見えない風でそよぐみたいに揺れた。

 

それでも、七海も伊地知も口を開かない。

 

「もう一度言う。命令だ。言え」

 

先ほどよりも強く呪力を込める。

室内の蛍光灯がチカ、と瞬いた。家鳴りみたいに壁が軋み、パシッ、パシッと乾いた音が連なる。

空気そのものが、僕の呪力を帯びてどんどん重くなっていく。

 

七海の額に、うっすら汗が浮かぶ。

伊地知は呪力に当てられて顔が真っ青だ。

二人とも表情は変えないが、歯を食いしばっているのがわかる。伊地知なんて手が震えている。

それでも二人とも、ダンマリを決め込んだまま。

 

僕は両手をかざし、七海と伊地知の“スレスレ”をなぞるように呪力を飛ばした。

呪力の塊が風圧のように走り、二人の髪が数本、宙に舞う。

次の瞬間──背後の壁が鈍い音を立てて陥没した。

 

「言え」

 

あからさまな脅し。

それでも二人は口を開かない。

 

……なるほど。

 

この二人がここまで黙るということは、“言わない”じゃない。

“言えない”だ。

 

僕は目を細めた。

 

おそらく、何らかの縛り。

──潔乃が何をしているのか、何をしたのかを説明してはいけない。

そして、“僕に説明すること”自体が致命的になる。

 

僕に対して説明した瞬間、発動する。

こいつらのこの反応からして――致命的な対象となるのは、潔乃だろう。

 

……なら。

 

潔乃が高専から離れたのも、たぶんそれが理由だ。

 

おかしいと思ったんだ。

潔乃は現実主義で、夢想するタイプじゃない。

最後に会った時、新宿で聞いた“高専を辞めた言い分”。

 

『みんなが死なないで、笑える世界を作りたい』

 

あれは適当な理由を並べ立ててるようにしか思えなかった。

普段の潔乃なら、“目的の達成のために計画を立て、実行する”ってのが見える行動を取る。

なのに、ふわっふわした宗教みたいなことを言ってて、らしくなかった。

 

そして、ワザと僕を突き放すような言葉選び。

あれはただ、ひたすら俺をわざと傷つけ、突き放すための言葉で、これも潔乃らしくなかった。

 

潔乃は厳しくて辛辣な部分もあるけど、優しかった。

厳しい言葉の裏にも、その発言に至る理由があって、きちんとした優しさがあった。

そして、潔乃はなんだかんだと僕に甘かった。

 

無茶振りをしたり、肩を抱いても腰を抱いても、夜忍び込んで添い寝をしても──

嫌そうな顔をするくせして、最終的に「しょうがないな」って顔して許してくれた。

僕越しに別の誰かを重ねて見てたのは確かだけど、僕のわがままを許してくれた瞬間、

呆れてるけど優しい視線は確かに──

 

僕だけを見てた。

 

潔乃は何らかの弱みを握られた。

そして、それを裏で糸を引いている奴がいる。

 

そいつは真人や、他の特級呪霊とも繋がっている──そう考えるのが自然だ。

両面宿儺との関係性の謎は残るが、宿儺が悠仁に受肉した件だって、どこかきな臭い。

タイミングも偶然にしては出来すぎている。

 

唇を噛み締めたくなる衝動を、喉の奥へ押し込める。

代わりに、いつもの軽薄な仮面を被った。

──それしか、今は出来ない。

 

「おーけー。大体の状況はわかった」

 

呪力を抑え、声の調子だけはいつも通りに整える。

わざと軽く、わざと雑に。

執務室に充満していた僕の呪力が消え、七海と伊地知がさすがにほっと息を吐くのが見えた。

 

「僕は潔乃の動向については聞かない。

ただし、勝手にオマエらの行動を監視して、状況を把握させてもらう。

その後、潔乃に接触──」

 

「それはダメです」

「それはいけません!!」

 

今までダンマリだった二人が、いきなり焦った様子で口を開いた。

その反応だけで、わかってしまった。

 

「なるほど、僕と潔乃が接触するのもまずいわけだ?

いや、状況から考えて、むしろそっちがメインだな。

僕と潔乃の引き剥がしが一番の目的。なるほど。

だから潔乃は、高専を去ったわけか……ふーん」

 

はらわたが煮えくり返りそうだ。

交流会の前あたりから、潔乃が痩せ始めていたのを思い出す。

肩を抱いた時の骨の感触が蘇って、拳を握り込む。

 

夏バテが続いてたと言ってたけど、あれはストレスで食欲が落ちて──

いつも、うどんか蕎麦を軽く啜って、慌ただしく食堂を出て行ってた。

 

……待て。

そもそも、おかしい。

 

潔乃の燃費の悪さは皆が知っていた。

普段の七海なら様子を見つつ、勝手に料理を追加注文して食べさせてたはずだ。

伊地知も「食べられそうなもの、どうぞ」と気安く潔乃の皿に乗っけてたのを思い出す。

そういえば灰原も。風邪をひいてる潔乃に「食べたら治るよ!」と言って、唐揚げを山積みにしてた。

 

そんなアイツらが、うどんや蕎麦だけを啜る潔乃を見て、顔を顰めるだけで──何も言わなかった。

 

つまり、あの頃にはすでに事が動き始めていて、七海、伊地知、灰原は何かを知っていた。

そして、すでに僕には何も言えなかったということだ。

 

潔乃は用心深い。

術式のことも隠していたし、宝石も最初は僕にすら本当の威力を隠していた。

拡張術式を作った時もすぐに僕には言わず、必要になったタイミングで伝えてくる――その慎重さ。

 

そんな潔乃のことだ。

おそらく七海や伊地知には、万が一の事態の時にも伝える手段を用意していた。

でも、全部は知らせられなかった。

だから潔乃がいなくなったあの日、七海も伊地知も荒れたのだろう。

 

つまり、潔乃は直接的な説明ができてない。

何か“行動”でそれを伝えたはずだ。

 

思い出せ。

あの頃、潔乃の行動に何か変化はなかったか?

 

ゲームや漫画で息抜きをしなくなり、呪力宝石や傑のオブラートばかり作っていた。

これは僕の側を離れるための下準備だから違う。

 

あとは、夏バテと言って、うどんと蕎麦ばかり食べていた。

メニューは、アサリうどんと、蕎麦とアサリの佃煮。

毎回同じメニュー……なんでアサリ?

アイツ、魚介は好きだけど、そんなにアサリが好きってわけでも――

 

……あー。

……そうか。貝。なるほど、口封じか。

あの時の高専で貝を使ってるメニューって、それしかなかったもんな……

 

どこまで用心深くて用意周到なんだ、オマエ。

それを知ってたから、こいつら(七海、伊地知、灰原)はあんな顔をしていたのか。

僕が知らないところで、しっかり“術師”やってたわけか。

 

内心でため息をつく。

 

おそらく伏黒のオッサンもグルだな。きっと状況を知っている。

いや、むしろメッセンジャー役として機能してる可能性もある。

天与呪縛のフィジカルギフテッドの特性を活かして、潔乃の状況を探ってる──そう考えるのが自然だ。

 

クッソ、あのおっさん。

命令の優先権が僕より潔乃にあるから、黙ってやがったな。

 

ガシガシと頭をかく。

全部が後手に回ってしまった。しかも十年遅れで真実の一端を知るとか。

”俺”は間抜けか?

 

『五条さんって、意外と抜けてるところありますもんね』

 

脳内であの頃の潔乃が、くすくす楽しそうに笑う。

 

夜に部屋に遊びに行くと、潔乃は宝石に呪力を込めていた。

俺に反転術式の呪力をねだって、傑用のオブラートを作ってた。

そりゃ、趣味のゲームも漫画もやる暇ないよな。

 

高専を離れることがわかってるなら、アイツは迷惑をかけないように、きっちり準備してから離れる。

精神的にも肉体的にも追い詰められてたはずなのに、俺と話すのは気分転換になるって言ってたっけ。

 

……あの頃、どんな気持ちでいたのか。

俺が能天気に話しかけるたび、どんなふうに笑って、どんなふうに飲み込んでいたのか。

 

思わず拳を横に振り払って、執務室の壁に叩きつけた。

壁が完全に破壊され、大穴が開く。

 

轟音に慌ただしくなる高専の気配の中、唇を噛む。

 

全部、俺のせいじゃねーか。

俺には手を出せないから、潔乃を狙った。

全部そいつの手のひらの上だ。

これ以上好き勝手やらせてたまるか。

 

「おい。さっき言った通り、俺はオマエらを勝手に監視して状況を把握する。

オマエらは今まで通りにしてろ。

潔乃には、俺からは接触しない。それなら縛りには触れないから問題ねーだろ?

もし、俺がヤバそうな行動をとってたら警告しろ。

そうだな──黒い色で知らせろ。ハンカチとか、メガネ拭きとかでな」

 

ごめん。潔乃、今まで気づかなくて。

……絶対に、取り戻してやる

 

 


 

 

「ロン」

「えー、もう上がり?」

「チッ、人間風情が」

「断么九、三色同順、ドラ1……裏ドラはないね。満貫か。やるね、白菊」

 

早く点棒をよこせ、とチョイチョイ指で催促する。

返ってきたのは、ポイポイと雑に投げられる点棒だった。

……態度悪いな。

 

「白菊、殺しちゃダメだから、せめて麻雀でボコボコにしようと思ったのに。全然じゃん」

 

じゃらじゃらと牌を混ぜながら、真人が口を尖らせる。

卓を囲む面子の空気は、ゲームのそれじゃない。

──殺す殺さないが前提で、遊んでいる。

 

「麻雀に弱いあんたが悪いんだよ。あと、桜里高校で殺そうとしてたよね? あんた」

「だって、白菊がドロップキックしてくるから、ムカついちゃって……てへ?」

 

思い切り舌打ちしてやる。

可愛くねーんだよ、特級呪霊。内心で毒づきながら、牌山を作る。

 

「もう少し仲良くしてほしいなぁ」

 

うっすら笑みを浮かべた羂索が、やれやれと言いたげに肩をすくめた。

 

「仲良くできるオマエが異常なんだよ。私は“あんたに協力しない”って縛ったでしょ?」

「うん。だから、何もしなくていいよ。渋谷では、そこにいるだけで」

「おい、偽夏油! 本当にこいつは重要なのか?」

 

親になった漏瑚が、イライラしたように牌を切る。

乾いた音。卓の上を滑って、捨て牌が列に加わる。

 

「重要だよ。五条悟の友人で、両面宿儺の使用人だ。裏梅にも確認しただろう? ……それに、私の親友」

 

「チッ!! おい、白菊。裏切ったら殺すぞ」

 

漏瑚の圧が乗った声に、ため息が漏れる。

 

「裏切るも何も、好きでここにいるわけじゃないから。

いつだってあんたらと敵対してもいいけど?」

 

わざと煽るように言うと、漏瑚の顔色が変わった。

――瞬間、場の温度が一段上がる。

 

「ポン」

 

それを断ち切るように羂索が鳴き、漏瑚が捨てた牌を取る。

 

「漏瑚、白菊の挑発に乗らないでくれるかい?

わざと攻撃を受けて“縛りの違反”とか言い出しかねないからね。

白菊は五条悟の側には戻れなくても、高専サイドに行っちゃうから」

 

「ええい! わかっておるわ! この狸め」

 

漏瑚に睨みつけられるが、黙殺する。

指先で牌を撫で、次のツモに備える。

 

「えー、俺の番飛ばされてんじゃん」

 

真人はどこまでもマイペース。

私はほんと、なんでここにいて呪霊組と麻雀なんてやってるんだろう。

 

「これ終わったら、陀艮か花御、代わってよ。

私、教祖業務もあるからそろそろ終わりたい」

 

さすがに付き合うのも嫌になって、側で対戦を見ていた二人に声をかけると、

頭に響くような声がして、花御が代わってくれるとのこと。助かる。

 

「あぁ、私もそうだね。付き人として行かないと」

「ええー、偽夏油と白菊の勝ち逃げじゃん」

「真人!おぬしが雑に振り込むからだろうが!」

 

愚痴り合ってる特級を尻目に早上がりを目指したが、羂索が漏瑚に跳満を直撃させて終了した。

一位は羂索、二位は私。三位が真人で、四位の漏瑚はハコテンだ。

勝ちにこだわっていないので二位でも構わない。賭けてるわけでもないし。

 

立ち上がり、袈裟を整えていると、真人が心底楽しそうな声で話しかけてくる。

 

「それにしても楽しみだなぁ。渋谷。五条悟を封印した後。

俺たちが殺す、白菊は守る。楽しい勝負になりそうだ」

 

「我らが新しい人類となる。それを特等席で見せてくれるわ」

 

ニタニタと笑いながら私と羂索を見つめる真人と漏瑚。

その後ろで静かに佇む花御と陀艮。

こいつらはやっぱり呪いで、どうしようもなく相容れない。

 

「五条さんを封印する前に、祓われなきゃいいですね?」

 

こちらもニタリと笑い吐き捨てて、簡易領域の出口──教祖部屋に繋がる扉を開けた。

 

 


 

 

主人公

 

今回は蚊帳の外。ここまで出なかった話は初めてかもしれない。

五条の予測は、全部正解。

幼魚と逆罰にて11年ぶりに今世の兄と前世の兄(七海と伊地知)と会った。

七海との会話は一言二言。伊地知とは会話すらなくお互いを認識しただけ。

表情には出さなかったが泣きそうだった。

渋谷事変は協力はしないがガッツリ巻き込まれてる、

そのために、呪霊組とは顔見知り。

こんな感じで殺伐としてるようで、

ほのぼのしてるようで、やっぱり殺伐としてる。

 

 

五条悟

 

香水の匂いから芋蔓式に、たった一つの真実を見抜いた。

当然頭脳もSSS。五条悟、お前は何を持ちえないのだ。

ブチ切れモード。特に間抜けな過去の自分に対して。

今回の件である程度(勝手に)把握した。

黒い色で危険を知らせるのが被ったのは偶然。

理由は呪師は黒色をよく身に纏い、持っていて違和感ないから。

ちなみに、現時点で2018年10月20日。時間がないぞ五条。

 

 

七海建人

 

どんだけ圧をかけられても表情をほぼ変えなかったタヌキその①

主人公のことが完全にバレてやばい。五条の本気の圧を喰らってやばい。

五条が動きそうでやばい!!!となったが、

五条の頭脳SSSのおかげで、話さずとも状況を理解してもらえた。

結果オーライとなったが、生きた心地がしなかった。

幼魚と逆罰にて11年ぶりに主人公と会った。

会話は一言二言。表情には出さなかったが泣きそうだった。

 

 

 

伊地知潔高

 

どんだけ圧をかけられても表情をほぼ変えなかったタヌキその②

主人公のことが完全にバレてやばい。五条の本気の圧を喰らってやばい。

五条が動きそうでやばい!!!となった。

五条の頭脳SSSのおかげで、話さずとも状況を理解してもらえた。

実は気を飛ばす寸前だった。補助監督が特級の五条相手に頑張った!!!

結果オーライだが冷や汗と震えが止まらない。マジギレしてる五条さんとか勘弁。

幼魚と逆罰にて11年ぶりに主人公と会った。

主人公の姿は見た。会話はなかったがお互い認識して泣きそうだった。

 

 

 

羂索&呪霊組

 

原作通りに暗躍しまくり。




虎杖が頭が良すぎると連載中に感想をもらいましたが、戦闘時の感は鋭いのでこれくらいできるだろうという作者の解釈となります。
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