宵祭前後〜渋谷事変①
・伊地知ポジション成り代わり(伊地知の双子の妹)だった転生者、七海建人の双子の妹で、まさかの2週目
・オリキャラでます
・ネタまみれです
・これまでで最も、激しい捏造、妄想含みます!!(ここ最近ずっと言ってる)
・コロコロ視点変わります。
・今回、性的に不快で、センシティブな表現が入ります。注意。
伊地知の襟首を引っ掴み、引きずって高専の廊下を歩く。
すれ違う職員たちが可哀想なものを見る目をしているが、今回は伊地知が悪い。
その視線を無視して歩きながらスマホを取り出すと──着信が入った。
傑だ。ちょうどいい。僕もかけようとしてたし。
「どうした傑?」
『あぁ、悟? 久しぶりに“手合わせ”したくてさ』
「奇遇だな。こっちもイライラしてたから、体動かしてぇんだわ」
『ちょうどいいね。1時間後に高専戻るよ。せっかくだから七海も呼んだら?今、灰原も一緒にいるしね。
──あと、帳を張るために伊地知も確保してもらえる?』
「伊地知なら確保済みだ。七海はさっき高専にいたから声かけておく」
“手合わせ”。
僕と傑が術式ありでやると、高専の施設に被害が出る。
だから基本は体術オンリー。まぁ、それでも被害は出る。
手合わせをするエリアを定めるため、内側から壊せない帳を張って、被害を最小限にとどめて行う。
──というのは建前で、だいたい内緒話をしたいときにやる。
七海や灰原、伊地知と話す時はそうでもないが、俺と傑が話す時はほぼ監視されてると言ってもいい。
特級が二人つるむと、いろいろな憶測を呼ぶ。そのため建前ってやつだ。
帳を張るのはもちろん伊地知。理由?
そりゃ一番信用できるから。
結界術だけなら他にも得意な補助監督はいるけど、伊地知ほど信用できる奴はいない。
あいつも本当の理由を分かってるくせに「施設壊さないでくださいね!!!」と必死に顔色を真っ青にして頼み込んでくるもんだから、信憑性があって助かる。
ほんといい性格してるよこいつも。
移動しながら七海を呼び戻して、高専のグラウンドに集合。
伊地知に買ってこさせたコーヒーを飲みながら、三人で微妙な沈黙のまま待つ。
さっき散々脅しかけたからしょうがないけど、もう少し楽しい話を振ってくれない?
──と言ったら、七海に心底嫌そうなため息をつかれた。
しばらく待っていると、微妙に顔色の悪い灰原を連れて、傑がやってきた。
灰原は笑ってはいるけどなんか疲れてるな?
そして、傑が不機嫌なのは一目で分かった。何があった?
「じゃ、まず私たちからやろうか。伊地知、頼むよ」
傑の声は落ち着いてるのに、言葉の端が妙に硬い。
伊地知をせかして帳を張らせる。
伊地知はいつも通り「なるべく壊さないでくださいね!!」と、今日何度目か分からない訴えだ。
はいはいと軽く流し、ゆるゆると降りる帳との境目をくぐり抜けた。
……それにしても、なんか普段よりピリついてんな?
ま、僕もだけど。
中にいた傑は、心底不機嫌そうな顔をしていた。いつもの薄い笑みすら消えている。
「去年の百鬼夜行の件だけど」
その一言で、場の温度がもう一段落ちる。
傑と灰原は盤星教の元信者が作った団体が起こした呪術テロの後始末で、ここ最近全国を飛び回っていた。
あれは意味がわからないテロだった。いきなりの宣戦布告。
新宿と京都に大量の呪詛師と呪霊が現れて、高専にも攻めてきた連中がいた。
呪術界の転覆だとか言ってたけど無理だろ、あの質と量じゃ。
代表の園田は「自分がやった」の一点張り。
でもそいつは非術師だ。あからさまなトカゲの尻尾切り。
首謀者は別にいるはずなのに、何も喋らねぇ。
だからその黒幕を探すために、日本中を駆け回ってた。
「宗教団体に私が行くたびに、妙な視線を感じてたんだ」
「色男自慢か。やるねぇ、傑」
「真面目に聞いてくれないかな? 話を続けるよ。
今日、元盤星教のとある施設に行った時、信者の一人が私を見て『付き人様』と言ったんだ」
「付き人様?」
「思わず、うっかり口を滑らせた感じだったね。だから、ゆっくりとお話をしたんだけど」
……あーあ。肉体言語で話したな、これ。
まあ、呪詛師と繋がってるような団体の信者だ。情けは要らない。
「あの宗教団体の実質の指導者は、もう雲隠れしてて情報がほぼない状況だったけど、
やっとまともな情報が出てきてね。
お飾りの教祖、それを使ってる“付き人”の2人があの団体の指導者だったらしい。
で、その実質の黒幕と思われる“付き人”に、私がそっくりなんだそうだ」
「お前のそっくりさん? 世の中には自分に似た顔が三人いるってやつか?」
こいつみたいな胡散臭いのが三人もいてたまるか。
そんなことを考えながら軽口を叩いたが、傑の顔は浮かないままだ。
「そういうレベルじゃない。瓜二つだそうだ。
双子というか、クローンレベルだとそいつは言ってた。
ただ、額に“横一文字の傷”があったようだよ」
呪具か何かで、傑を嵌めようとしてる?
いや、こんな回りくどいことをする意味が……
傑は一度だけ息を吐いて、淡々とさらに低い声で語り始めた。
「そして、ここからが本題だ。
その教祖様は普段は教祖様らしく、優しく信者たちを導いているようだ。
大層美しい方らしくてね。
袈裟を身に纏い、満月みたいに淡く光る金髪をたなびかせ、翡翠の瞳を持つ美女らしいよ?
名前は——白菊」
「……は?」
袈裟・金髪・翡翠の瞳の美女。そして白菊。
思わず片手で顔を覆って、天を仰いだ。
もっと早く悠仁から話を聞いて、報告書の齟齬について七海と伊地知を詰めておくべきだった。
白菊の名前の記載もなかったしな。
天を仰いだまま、僕も口を開く。
「……僕の方の話をするわ。
悠仁が桜里高校で接触した乱入者の件。気になるところがあって、もう一回確認してみたんだけどよ」
そこまで言って、天を仰いだままチラリと視線を傑に向ける。
「あぁ、あの特級と知己だけど虎杖くんを助けてくれたって言ってた人だっけ? その人も確か袈裟……」
言いかけて、傑がハッとした顔をする。
「そ。袈裟を身に纏ってて、伊地知くらいの長身で、悠仁曰く“女”。
それで僕と同じ香水をつけてて、ウィッグの隙間から金髪が見えたって。
──そして、そいつの名前も白菊」
帳の中の空気が一段重くなる。
傑も僕も、答えだけはもう分かってる。なのに二人とも、すぐには口を開けない。
たっぷり十秒ほど沈黙したあと、僕が口を開く。
「……どう考えても、両方とも同一人物で潔乃だろ」
「そうだね……状況として潔乃ちゃんで間違いないだろう。
そして、それなら百鬼夜行も説明がつく」
傑が思い出すように、こめかみを指先でカリカリと掻く。
何かを考える時の、傑の癖だ。
「元盤星教の団体。潔乃ちゃんが可愛がってた後輩を殺そうとした、碌でもない奴らだ。
お飾りの教祖をやりながら、徹底的に団体自体を潰すチャンスを狙ってたんだろう。
いいように使われて、大人しくしてるタマじゃないでしょ。潔乃ちゃん」
全く同意見だ。
アイツはやると決めたら徹底的にやるタイプだ。
「新宿も京都も、高専を襲った連中も、三流四流しかいなかったしな。
かつての呪詛師団体Qの構成員だった奴らの方が、まだマシなくらいだ。
気張って予告した割には大したことなくて、ラッキーだと思ってたけど……そういうことか」
百鬼夜行は大々的にテロ宣言があった割に、集まった呪詛師と呪霊は大したことがなかった。
器物破損などの被害と、怪我人は出たが、幸い死者は出なかった。
奇跡だと学長は言ってたけど——奇跡は“仕組まれて”たってわけか。
更に百鬼夜行で憂太は祈本里香の解呪に成功したし、
高専側にとっては呪術テロへのいい戦闘経験にもなった。
どこまでお前の手のひらの上なんだよ、潔乃。
俺は小さく息を吐いて、話を戻す。
「話、戻すぞ。
悠仁の話と齟齬が多すぎる。
明らかに嘘の報告が上がってるからさ、担当だった七海と伊地知を軽く〆たんだけど」
僕がそう言うと、傑が肩をすくめて“可哀想に”とポーズを取る。
そんなこと、思ってもいねぇくせに。
「喋んねーの。いや、あれは“喋れない”んだな。
僕に潔乃のことを話すと、潔乃に害がいく縛り。
そう判断して『勝手に監視して、勝手に接触する』って言ったら、あいつら大慌てで止めてきてよ」
「つまり、潔乃ちゃんと悟は接触してはいけない。
それがメインなのか。だから11年前に、いきなり……」
傑が察して、苦虫を噛み締めたように顔を顰める。
「……お前の“そっくりさん”は、潔乃が作った偽物だ。
そしてそれを使ってる奴が、多分黒幕。
そいつに何らかの形で脅されて、潔乃は……僕たちのそばを離れた」
不思議なもんだ。僕も傑も、潔乃が呪詛師堕ちしたなんてこれっぽっちも思っていない。
やってることは呪詛師そのものなのにな。
「とりあえず、帳が解けたら次は僕が帳を下ろすから。
七海と伊地知と灰原から話、聞いてくれる?
僕にはダメでも、お前になら話せるかもしれないだろ」
言い終える前に、僕は傑に殴りかかった。
あっさり左腕で受け止められる。
「いきなり殴りかかるのは良くないよ、悟。
……まあ、“手合わせ“だからね。
伊地知の下ろした帳が切れるまで、残り十分。全力で殴り合おうじゃないか」
犬歯を剥き出しにして笑う傑に、こっちまで口角が上がる。
僕もきっと、似たような顔をしてる。
今日は散々イライラさせられた。
──いいストレス発散になりそうだ。
十分後。帳が上がった。
そして、ボコボコになったグラウンドを見た伊地知が、ムンクの叫びのようなポーズで悲鳴を上げた。
ちゃんとルール通りにやったんだからさ。
きちんと経費で落とせよ、伊地知。
2018年10月31日 18時40分
渋谷駅副都心線5番ホーム
「えぇい!与幸吉め!忌々しい」
漏瑚がキレ散らかしているのがうるさい。
「真人!殺し方が甘いから、こういうことになるのだ!」
「えーきちんと殺したけど? ていうか、殺す前に情報リークの準備してるとか知らないよぉ」
「与幸吉がそこまで頭が回るとはね……君何かやった?」
羂索から意味深な視線をもらう。
「さぁ?」
うっすらと微笑み返すと、困ったような表情で微笑まれた。
その我が子のイタズラを見るような目は止めろ。キメェ。
私の
「ま、いいけどね。飼い猫がじゃれついてきてるようなもんだ」
「おい、偽夏油!」
「問題ない。
あの能力を渋谷で使いたかったが、居なくても作戦自体に問題はない。
所詮、その程度の人材さ。
計画が動きだしてから邪魔されるよりマシだよ」
そう言って羂索が私に視線をさらに流してくる。
あー私のせいで与幸吉がリークしたの察してるっぽいな。
私に対する牽制。ま、知ったこっちゃないけどね。
五条の側を離れろと言われたけど、別にお前の邪魔をしないとは言ってない。
だから私は好き勝手やる。
前世の因縁から羂索のお願い事を一つ聞く際に、結んだ縛りは以下だ。
お願いを聞くことを避けられないなら、こちらに有利にことを運ぶまでだ。
一つ、五条悟の側から離れ、羂索の側に居ること
一つ、その際に五条悟、および高専関係者に、この件の説明をしてはいけない
一つ、羂索の手伝いはしない。お互いの利益が重なった場合は別
一つ、この縛りは、五条悟が何らかの形で行動不能になった時点で解除される
ちなみに特級呪霊たちとは、「互いに直接は殺し合わない」という縛りも結んでいた。
こちらは“五条悟が何らかの形で行動不能”──つまり、五条封印後もその縛りは解けない。
これは羂索からの提案だ。
表向きは「宿儺の従者を勝手に殺したら、どうなるだろうね? 私は責任持てないよ」とのこと。
宿儺は己の快不快が行動指針のため、この対応自体は正しいとは思う。
私ごときで不機嫌になるとも思わないが……。
だが、当然本音は別。
おそらく私が高専側に与することで、特級呪霊たちとの戦いを高専側が有利に進め、呪霊操術で取り込みやすくしたいのだろう。
直接的に殺し合うことはなくても、五条封印後、私が高専側に付けば間接的に殺し合うことになる。
お互いそれをわかっているので一緒にいる間——特にここ数日は、嫌味の応酬だった。
「あの
「虎杖悠仁だけが天敵だと思わない方がいいですよ?人間の嫌らしさはよーく知ってるでしょ?」
「五条悟封印後の世界が楽しみだな?」
「封印する前に祓われるんじゃない?アンタ五条さんより弱いもん」
「▪̴͎̪̟̿̉̕͢️̸̛̭̬̗͎͚̉̇͌̅͜▪̸̧̲̫̀͗̕️̶̢͇̮͗̌̉̕▪҈̢̛͕̰͐͋️҉̨͍͉̖͕҇͂̑̇̓̉▪҉̡̣̭͓͕̇̿̕️̸̧̳̘̳͉̗҇̄̓▪̵̞͕͕͈͉͛͋̂̂͊̕͢️҈̢̭̯̲̥҇̋̊͐▪̴̡̝̦͆̅̌͂̀͞️̵̡̤̥̰͕͗̊̔͂͠ͅ▪҉̯̳̊̄̏̋͊͜͠️҉̨̘̟̦̤͎̏́͡▪̵̢̛͎̱̭͐̃̔̒ͅ️҉̨̱̦̟҇̎̀͌▪̵̨̤͕̲͂̓̉͋͠️҈̬̲̣͇͆̍̉͢͡▪̵̨͕̟͖̊̒͠️̴͚̭̖͑̌̓̕͜ͅ▪̶͎̟̤̯̆̔̇͂̂͜͞️̸̧̮̝̇͌͡▪҉̠̭͔͎̟҇̏̋̓̿̇͜️̴͓͔͙͕̗̄͛͐͢͡▪҈̡͕̲͔͆͋̃̊̆͞️҉̢͕͙͈͙̰͊̌̿̋̕ (愚かな子よ。どうせ滅ぶと言うのに)」
「滅ぶのはアンタらでしょ。雑草」
「ぶぅー!」
「……あんたの言葉は分かんないんだよなぁ。とりあえず黙れ?」
特級呪霊たちとの舌戦を見た羂索が、わざとらしく困った表情を浮かべる。
夏油と同じ顔なのに妙に艶っぽくてより腹が立つ。
「白菊、君ほんとお口悪いね。それだとお嫁に行けないよ?」
「ウルセェな!!!行く予定ねーわ」
「何で私には拳がつくのさ。こんな子に育てた覚えはないよ」
思わず拳を振り抜いたが、あっさりと受け止められた。
「ちっ!育てられた覚えもねーわ」
「白菊、この11年間あれだけ修行に付き合ってあげたのにひどいなぁ。
あと、君さぁ。五条悟に喋り方似てきてるよ?ダメだよ。あんな粗暴な人間になっちゃ」
「誰のせいだと思ってんだよ!!!」
再度拳が出たのは言うまでもない。それもあっさり受け止められたが。
まぁ、概ねこんな感じ。
ほんと羂索とは相性が悪い。
千年の煽りスキルに勝てる気がしない。
そんなことを思い出していると、羂索が時間を確認した。
「そろそろ時間だよ。漏瑚、花御、真人。手筈通りに。
行くよ、白菊」
促されて、副都心線ホームから離れる。
渋谷駅。帰宅ラッシュ直撃の時間帯。
そしてハロウィンの今夜。普段より人が多い。
袈裟姿の高身長の男女が二人で突っ立っていれば、普通なら目立つ。
でも今夜はハロウィンだ。
コスプレの一種、もしかして合わせだと思われているのか、意外と視線は感じない。
羂索と合わせで五条袈裟とか地獄じゃないか。
その人混みをすり抜けながら、思う。
……なるべく早く、ここから離れて。まだ間に合うから。
このまま渋谷に残ったら、命の保証はできない。
だから——
“あなたたち”のことは、もう私の中で切り捨てた。
そうしないと、ここでは動けない。
本当に、ごめん。
内心でそう繰り返しながら、羂索の背中を追った。
「"一般人のみが閉じ込められる帳”です。一般人は侵入のみ、”窓”には個人差が。
術師は補助監督役含め出入りが可能です」
「電波は?」
「絶たれています。連絡は”帳”を出て行うか、
七海さんに状況を説明しながら、私は内心でため息をついた。
昨年末の百鬼夜行のあとから、潔乃からの一方的な連絡は、ほぼ途絶えました。
潜伏先にしていた宗教団体を潰したため、場所が変わり甚爾さんとの連絡が使えなくなったためです。
おそらく羂索は潔乃が何らかの形で、情報提供をしていることに気がついたのでしょう。
潔乃も元盤星教は潰したくてしょうがなかったはずなので、おそらく利害の一致で百鬼夜行を起こした——そういうことなのでしょうね。
七海さんには、前回の渋谷でのテロの詳細な記憶があります。
そこから我々は情報共有を受けています。
さらに潔乃からの情報も、直近の情報以外はすべて伝わっている。
だから潔乃は、我々がそれだけで十分立ち回れると判断したのでしょう。
まぁ、ぎりぎりになって、別の手段で連絡が来た時は、ホッとしました。
五条さんの封印を防ぐ、あるいは封印されても即座に解くために、潔乃も立ち回っているはずです。
その結果か、七海さんいわく、実際に前回と異なる部分も出てきているそうです。
例えば、メカ丸——与幸吉君からのリークです。
それにより、渋谷で五条悟の封印が計画されているという情報は、高専側にも流れてきています。
ただ、上層部はそれを“ただの誤報”として処理しました。
それを受けた現場にいた我々には、箝口令が敷かれています。
もちろん守る気はなく、縛りが結ばれる前に五条さんには連絡しましたが……
リーク後、与君の連絡は途絶えたままになっています。
前回はスパイと疑われた直後から高専から姿を消し、そのままだったそうです。
今回は潔乃が何らかの形で手を回したのでしょう。生きていることを祈るばかりです……
さらに先日、五条さん、そして夏油さんに意図せず潔乃の現状がバレてしまいました。
お二方は、私たちの会議の様子を勝手に監視して状況を把握してもらっています。
そして、お二人には前世知識から得た情報は渡していません。
獄門彊に関しても「前世知識を直接的に渡すと害があるかもしれない」という判断で、あえて情報を流していません。
夏油さんが記憶を取り戻していれば、渡していたんですけどね。
まぁ、頭の回る五条さんのことです。
封印の場面で夏油さんの姿や潔乃の姿が使われる——そこまでは予測しているはず。
五条さんが油断しなければ、封印はされないはず……
ですが、嫌な予感が止まりません。
乙骨くんは海外出張へ飛んだまま。
夏油さんと灰原さんは急遽発生した一級案件で、午後から群馬と山梨へ行っています。
放置すれば大被害が予想される呪霊の出現。明らかに意図的なものでしょう。
早く戻ってきてくれることを祈るばかりです。
「五条さんは?」
「先ほど補助監督から連絡があり、20時半頃には渋谷に到着する予定です」
七海さんと情報共有をしながら、見慣れた彼の顔を見上げると、特徴的なサングラス越しの瞳が普段より固い目をしていて、思わず視線を逸らす。正直見ていられない。
自分の眼鏡に触れ、ブリッジを押し上げることで気持ちを落ちつけた。
こんなことで動揺するな
動揺してる場合じゃないぞ。
前回、七海さんは渋谷のテロで死んだ──と、潔乃と七海さん本人、両方から聞いています。
そして私自身も、刺される可能性が高いことを知っています。
本当に嫌になる。
潔乃の言葉を借りるなら、無理ゲーフロムの7周目がマシ!
難易度ルナティックすぎる!
と、いったところでしょうか。
私の妹は人使いも荒いですし、無茶も言ってきます。
でも、“無理は言わない”あたりが、本当に五条さんに似てきて困ります。
安心してください、潔乃。
私も死にませんし、絶対に七海さんも死なせません。
……ですから、五条さんをお願いします。
「まだまだ、五条悟全然余裕じゃん。もっとヒリヒリしないと」
羂索と私と陀艮で安全地帯にて戦況を確認する。
場所は五条達が戦っているホームの整備室だ。
たった一枚の壁を隔てている。
だがそのため、五条は壁向こうに一般人の可能性を考え安易に攻撃できず、そして改造人間は我々を襲わない。
いま渋谷で一番の安全地帯だ。
五条悟は、原作と同じようにブチギレて花御を祓った。
昔のアニメの放送でも思ったが、このときの五条はマジで怖い。
敵として眼の前に経っているのが私でなくて本当に良かったと思う。
今は漏瑚とやる気のない脹相を相手に戦闘を続けている。
それをぼんやり見ていると、羂索がおもむろに立ち上がる。
「ま、そろそろこっちも準備をしようかな。白菊」
羂索が、わざとらしく軽い声で言った。
薄い笑み。優しい声色。夏油の顔。
すべてが夏油なのに、夏油じゃなくて腹が立つ。気持ち悪い。
私を見て、にやりと笑う。
その瞬間、背筋に冷たいものが走った。
「五条悟の君への恋愛感情、利用させもらうよ」
0.2秒の領域展開のあと、改造人間をすべて潰した。
特級呪霊は後回しだ。いつ動けるようになるか分からない。
術式が焼き切れている今は、数を減らすことに絞る。
クソが。俺を封印するにしても回りくどすぎだろ。舐めやがって。
すべての改造人間を殺しきってった後、呼吸を整えながら周囲を睨む。
視界の端に映る真人——こいつは、潔乃と顔見知りだったはずだ。
潔乃はどこにいる。かならずここに居るはずだ!
「獄門彊・開門」
小さな箱型の呪具が僕の足元へ投げ込まれ、
展開した“それ”が肉の風呂敷のように広がった。
大きな目玉がぎょろりと動き、俺と視線が合う。
見た瞬間に分かる。マズい。ここに居てはいけない。
これは僕でも封印される。
——その時。
その瞬間、背後から聞き慣れた声。
「悟」
来たな偽物。
振り向きながら距離を取ろうとして、思わず足が止まった。
親友の偽物は立っていた。
額に横一文字の傷……伊地知や傑からの情報通りだ。
そして、偽物の親友の腕の中に、11年ぶりに見る潔乃がいる。
これも情報通り。
六眼で確かめる。
うん、潔乃は偽物じゃない。
最後に新宿で会ったときより容姿が変わっている。
大人びて、綺麗になっていて——僕の知らない年月を感じさせる。
でも、本物だ。
僕の大好きで、大事な潔乃だ。
……なのに、潔乃は意識を失っている。
長い睫毛で縁取られた瞼を伏せたままだ。
早く、翡翠の目が見たい……その気持ちを押さえつける。
今は、そんな事考えてる場合じゃない。
一度距離を取り、蒼で潔乃を引き寄せて救出する。
再度、その場を離れようとして——ふと気づいた。
潔乃の袈裟の胸元が乱れている。
露わになった首筋から胸元には、
”赤い花”が散りばめられている事に気がついて、目を見開いた。
僕がそれ気づいたことを把握したのだろう。
偽物の傑がうっすら笑う。
潔乃の顎に指を添えて、わざと丁寧に顔を上げさせた。
見せつけるみたいに。
僕の視界に焼き付けるみたいに。
潔乃の唇に吸い付いた。