とある転生者、2周目   作:kotedan50

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if 転生者、百鬼夜行に参加する https://syosetu.org/novel/408095/47.html からの分岐。

渋谷事変2.5&過去回想

・伊地知ポジション成り代わり(伊地知の双子の妹)だった転生者、七海建人の双子の妹で、まさかの2週目
・オリキャラでます
・ネタまみれです
・これまでで最も、激しい捏造、妄想含みます!!(ここ最近ずっと言ってる)
・今回、平安周りでかなり妄想入ります。そういうの苦手な方は注意
・若干グロ描写有るので、そういうの苦手な人も注意
・今回、特定の病気についての記述がありますが、作者は素人のためあくまで創作物の中の記述として捉えてもらえると助かります。


転生者、過去を回想する

21:22 東京メトロ渋谷駅 13番出口側 (”帳”外)宮下第一歩道橋

 

 

五条悟が封印された渋谷は改造人間が暴れ出し、さらなる地獄絵図となった。

悲鳴、破壊音、爆ぜる呪力――本来なら耳を塞ぎたくなるほどの喧騒が、この街を満たしているはずだ。

だが、その喧騒は、”帳”外の歩道橋の上まで届いていない。

ただ、歩道橋を濡らす、血の生々しい匂いが広がるだけだ。

 

背中から四箇所。

刺し傷は深く、スーツの背は裂け、黒ずんだ赤がじわじわと滲み続けている。

倒れた男はうつ伏せのまま、かすかな呼吸があるだけだ。

指先が微かに動いたように見えたが、それもすぐ止まった。

 

そのすぐ横で、刀を振り抜いた呪詛師が、刃についた血を払い落とす。

血飛沫が弧を描いて夜空に散り、歩道橋の床に新しい赤い点を作った。

まるで絵の具のついた筆を振って飛ばすみたいな、軽い手つきだった。

 

「やっぱ俺には弱い者イジメが向いてるなーこれで良いんでしょう?」

 

にこやかな声。無邪気な笑顔。

まるで道端のゴミを蹴飛ばした程度の気軽さで、重面春太は言った。

 

裏梅はそれを無感情に見つめていた。

褒めも咎めもしない。ただ、静かに微笑みそこにいた。

 

「はい。貴方はこのまま”帳”の外で、スーツの人間を狩り続けてください」

「はーい。終わったら中行っていいよね」

 

春太は軽く手を振り、踵を返す。

歩道橋を下りていく背中は妙に軽く、楽しげで、近所に散歩に行くかのような気楽な足取りだった。

裏梅はその背を黙って見送る。

その評定から微笑みは消え、関心が尽きたものを見るように、瞬きひとつもしない。

 

そして残された、血に染め倒れた高専の職員——伊地知。

裏梅は近づき、真上から無感情に見下ろす。

濡れた歩道橋のコンクリート。

反射する街灯の光が、伊地知の血を黒く光らせた。

 

「五条の犬、姉上と親しくしていたようだな……忌々しい」

 

吐き捨てる声に苛立ちが混ざる。

怒鳴るような熱はなく、氷の底に沈むような、冷たい不快感が滲んだ声色だ。

 

裏梅が手のひらを翳すと、呪力が集まり始めた。

空気が急に冷える。

肌の上に見えない霜が降りるみたいに、温度が奪われていく。

指先に生まれた冷たい結晶が、瞬く間に形を変え——鋭い氷刃へと姿を変えた。

 

「……姉上にお前たちは、必要ない」

 

氷刃が振り下ろされる。

刃が落ちる軌道の先にいるのは、動けない伊地知――のはずだった。

 

だが次の瞬間、氷刃は伊地知に届くことはなくそれが弾けた。

硬い何かに阻まれたように、氷が砕け、白い破片が飛び散る。

破片が頬を掠め、裏梅の視線がわずかに鋭くなる。

 

「ッ!!」

「私の幼馴染を殺すのはやめてくれる?」

 

駆け上がってくる足音。

潔乃が、歩道橋へ走り込んできた。

 

 


 

 

あっぶね!!!

 

伊地知には、伏黒経由で回復の呪力宝石をひっそり渡していた。

そのため即死はないだろう、と少し余裕を持っていたのに──まさか裏梅が、とどめを刺そうとするとは思わなかった。

 

慌てて駆け寄り、そのままの勢いで伊地知を抱き上げる。

裏梅から守るように距離を取った。

 

力が抜けきった身体は、見た目よりずっと重い。

というか伊地知、原作よりデカくなってるし、そりゃ重いわ!

 

その感情は表情には出さず、腕の中で伊地知を固定して裏梅を睨みつける。

 

すると、面白くないという表情をした裏梅と目が合った。

 

「姉上……姉上は宿儺様の従者です。いい加減にしてください」

「前世は前世。私は今は高専の人間なの」

「……宿儺様が復活して、真っ先に抹殺されるのは、五条悟を含む呪術師たちだと分かっているでしょう?」

「そもそも、宿儺が復活もしてないのに?」

「……良いでしょう。宿儺様が復活した時は、姉上も従わざるを得ないのですから。

高専サイドの人間と懇意にして、後で苦しむのは姉上です」

 

そう言い残し、裏梅は立ち去っていく。

私は黙って、それを見送った。

 

……あー、これ警告というより通達だな。

 

裏梅の中では、私は宿儺の従者で、また一緒に仕えるのが当然なのだろう。

平安の頃はそれなりに仲のいい、年の離れた姉と弟だった。あの頃は良かった。

 

今は主義主張……いやあの頃から私は変わってないけどさ。

元々しょうがなく宿儺に仕えた部分もあったわけで、そもそも今は所属する陣営も違う。

一度は姉弟の関係になった相手だ。殺したくはない。

けど──彼、いや今は彼女?……相容れないんだよなぁ。

 

ため息をしつつ、昔を思い出した。

 

 


 

 

 

私の平安時代の生家は、京の都の商家だった。

薬草に強く、寺院へ納めることも多い家。

だから子どもの頃から、野山を巡っては草を摘み、根を掘り、乾かして、刻んで、束ねた。

 

中でも私の作るお灸の艾は評判が良かった。

指先で揉むと、ふわりと軽く立ち上がる。

火を移せば、煙が細く真っ直ぐ上がる。

 

──たぶん、現世の知識のおかげだろう。

 

前世は薬剤師の資格を持った製薬会社の職員だった。

大学時代は研究の一つで植物を調べたっけ。

フィールドワークで薬になる植物を日本全国の山に登って集めまくった。

月の半分以上、山に入っていた時期もあって、親から心配されたことを覚えている。

 

座学で学んだ現代の製薬知識と、実際に足を動かして身体に叩き込んだ山の知識。

材料の研究で身についた、植物の知識。

 

その知識は魂に刻まれていたのだろう。

記憶を取り戻す前から、無意識にそれらが時々漏れ出て影響していた気がする。

 

山のどの位置にこの薬草が、どの季節にこの茸が。

この毒草はこの処理をすれば可食でき、この植物は毒だが少量なら薬として使える。

 

──など、無意識のうちに判断していた。

将来有望だと、平安の両親に頭を撫でられたっけ。

 

私の五つ下に生まれた裏梅は、子どもの頃から身体が弱かった。

すぐに体が冷える。指先が青くなる。

そしてすぐ風邪を引く。熱が出る。

今になって思えば、多分──術式の影響だ。

 

私が数えで十一、裏梅が六つになった年。

私がいつものように野草を取りに山へ入っている間に、裏梅の術式が発現した。

 

帰ってきたとき、家は“音がない”ほど凍りついていた。

父も母も、家財も、柱も、戸も。湯の気も、香の匂いも、暮らしの温度も。

全部、氷の中に閉じ込められていた。

 

私は戸口で立ち尽くし、それから、家の前でひとり泣いている裏梅を見つけた。

幸い私は呪力を持っていた。

無意識の呪力操作で、術式の暴力をどうにか耐えることができた。

 

……そこから先は、地獄だった。

十一歳と六歳が、京の都で生きるのは簡単じゃない。

 

でも私は、野草集めと艾づくりの実績があった。

実家の商家はなくなり、業突張りな親族に残っていた財産は奪われた。

理不尽な大人に殴られても、奪われても、日銭を稼ぐ術はあった。

裏梅が何かの力を抱え、暴走しやすいのも分かっていたから──守ることに必死だった。

 

それでも生き抜いて、三年ほど経ったある日だった。

裏梅を置いて野草を採りに出た。山奥まで行くため一週間ほどかかる予定だ。

裏梅はまだ何かの力が暴走気味で、山に連れ歩くには不安があった。

そして私と居るより、一人の時の方が暴走して逆に身を守れる。

そう割り切るしかなかった。

 

……だから、一週間ほどして戻ってきて“いつもの場所”に裏梅がいないと分かった瞬間、心臓がひっくり返った。

走って、走って、探し回って。

 

見つけたのは──裏梅と、知らない大柄な男。

 

人さらいに違いない。

弟を守る。その一心で私は、男の腹めがけて飛び込んだ。

 

全力の──ドロップキック。

 

……ドロップキック?

なにそれ?

 

蹴りは当たった。体重も乗った。

なのに男は、ほんの少し眉をひそめただけで平然と立っている。

不快感だけを、露骨にこちらへ向けて。

 

「姉上!違います!この方は悪い人では──」

 

裏梅が必死に訴える声を無視した。

裏梅の腕を引いて自分の背後に突き飛ばして隠し、男を正面から睨みつける。

 

目の前の“男”は、はっきり言って異形の姿をしていた。

顔面の一部は骨が浮き出ており、目が四つ、腕が四つ。腹部に口がある。

他人には見えない──けれど今日の都中にいる、不気味な異形たちとほとんど変わらない姿だった。

 

それを見て、ふと思い出す。

 

……両面宿儺みたい。

ん? 両面宿儺って何?

 

「姉上!宿儺様は私に、氷室を冷やす仕事をくださいました!優しいお方です!」

 

宿儺。裏梅。氷室。

──あ。

 

一気に甦る。

記憶している一番最初の人生、現代に生きて呪術廻戦を読んでいた頃の記憶。

そして次に、伊地知成り代わりとして過ごし、五条を裏切って死んだ記憶。

 

え、私、今。

あの両面…………宿儺に、喧嘩売った?

 

原作で呪いの王としての暴君っぷり。

そしてコミックス最終巻の裏梅の話を思い出し、顔から血の気が引く。

 

あの話の直後か!やっちまった!!!!

 

反射で私は、地面を滑るみたいに前へ出て──スライディング土下座をした。

その頭上を、宿儺の“解”が通り抜けていったのは、偶然だった。

 

いや、ほんと偶然だったんだけどね。

多分──その瞬間に、興味を持たれたんだと思う。

宿儺が「……ほぅ?」と息を吐いたのを覚えている。

 

その後、裏梅が必死にフォローに入った。

私が姉であること。何も知らずに宿儺へ攻撃してしまったこと。

泣きそうな声で、必死に謝罪を重ねる。

 

裏梅に泣きつかれ、私も隣に並んで土下座した。

とにかく謝る。謝り倒す。額が土に擦れるのも構わない。

 

すると宿儺が、愉快そうに言った。

 

「ふむ、女か。ならば詫びとして、夜伽の相手をしろ」

 

反射で口が動いた。

 

「ロリコンが!」

 

思わず現世ワードで怒鳴ってしまった。

宿儺は眉をひそめ、私を無表情で見つめる。

そりゃそうだろう。意味不明のワードなんだから。

 

でも宿儺は──そのあと、ニタリと笑った。

 

最悪だった。

怒らせた、じゃない。面白がらせた。

宿儺の目が、確実に“玩具を見つけた目”になる。

 

ああ、もう嫌だ。無理。

そのとき私の頭に浮かんだのが、もっと最悪の発想だった。

 

──そうだ。死んでリセットしよう。

 

私の中では、もう前例がある。

呪術廻戦を一読者として読んでいて死んだ記憶。

その後、伊地知潔乃として生まれ、最終的に五条悟を裏切って死んだ記憶。

死後の空港で、五条を悲しませたことを後悔しながら転生した記憶。

そして、気づいたら平安。

 

ならもう一回死ねば、またどこかへ——

そんな甘い期待が、恐怖を上回った。

 

次の瞬間、私の手は野草取りに持ち歩いていたナタを掴んでいた。

迷いはなかった。迷っている暇がなかった。

 

刃が肌に触れた瞬間、裏梅の悲鳴が耳を裂く。

そして宿儺の馬鹿笑いが、空気を揺らす。

それらを無視して、私は力を込めて自分の首を切り裂いた。

 

……これで終わる。はよ終われ。

 

強烈な痛みとともに意識が薄れていく。

私は再度死ぬ──はずだった。

 

けれど、視界が暗転しきる前に、身体の奥へ熱が流れ込んできた。

心臓が勝手に跳ねる。血が戻る。聴覚が、視覚が、痛みが、形を変えて蘇る。

 

つまりそういうことだ。

私の常軌を逸した行動が、宿儺のツボに刺さったらしい。

強制的に反転術式で蘇生させられた。

 

息を吸ってしまった瞬間、世界がまた始まったのが分かった。

それが、いちばん絶望だった。

 

宿儺は愉快そうに言う。

 

「俺に無礼を働いて、詫びにいきなり自らの首を掻っ切る潔さ。

面白いではないか。良いだろう。裏梅とともに俺に仕えるが良い。この道化」

 

笑い声が、耳に残る。

私は土の上で、血塗れで倒れたまま理解した。

 

——“死んで逃げる”という手段すら、もう私には許されない。

 

ちなみにロリコンという意味を聞かれ、

「初潮も来てない、身体も育ってない女を好む男のこと」

と適当に言ったら、腕を切り飛ばされた。

 

この発言のお陰で夜伽は免除されたけど、サンドバッグ人生が確定した瞬間だった。

 

 


 

 

 

それからは、さらに大変だった。

記憶が戻ってしまったせいで、宿儺は怖いわ、弟が裏梅ってのも複雑だわ。

 

何より、現代知識が平安の生活を全否定してきた。

衛生は悪い。

食糧事情も悪い。

倫理観がつらい。

人の命が軽い。

しかも、呪術全盛期。

ひたすらしんどい。

 

なるべく現代知識は出さないようにしてたけど、もう耐えられなくて、色々やらかした自覚はある。

 

まず、人肉食の完全否定。

 

裏梅と一緒に調理を手伝うところまでは我慢した。

でも宿儺に「食え」と言われても、絶対に口にしなかった。

というか、こんなもん食えるか。

食べないほうがいい。

いや、食べたらダメだ、と反発した。

 

もちろん機嫌を損ねて、手足を斬り飛ばされたりもしたけど。

むしろ、このまま死ねればいい、くらいの勢いだったから、我を貫き通した。

 

──そしたら、ますます宿儺に気に入られた。解せぬ。

 

「なぜ嫌う?」

 

そう問われた瞬間、現代知識が脳裏をよぎる。

各種肝炎や成人T細胞白血病などの感染症。

そして、クールー病。クロイツフェルト・ヤコブ病。

 

特に、クールー病や、ヤコブ病なんかは絶対に嫌だ。

治療不能で、脳がじわじわ壊れていく病気。

原因は“生き物でも毒でもないのに感染する、異常発生したタンパク質”──プリオンだ。

 

異常なプリオンが入った血肉──つまり、クールー病や、クロイツフェルト・ヤコブ病を発症している人間、あるいは、発症前でも体内で異常なプリオンが増え始めている人間──を食べれば、

食べた側も、数年、数十年後に同じ病を発症して、死に至る。

 

パプアニューギニアでは、葬儀で遺体を食べる風習があって、そこから広がったクールー病がある。

始まりは、孤発性のクロイツフェルト・ヤコブ病の患者がいたのだろう。

その人間の葬儀で、風習通り遺体を食べ、結果その地域に蔓延した。

 

狂牛病だって、羊のスクレイピーというプリオン病が背景にあったと言われている。

肉骨粉を飼料に混ぜたことで牛へ広がり狂牛病に、さらにそれを繰り返して爆発的に拡大した。

そして、それを摂取した人にまで波及した。

その人間の遺体から医薬品を使って更に蔓延して、薬害訴訟にまでなっている。

羊から始まって人間にまで感染するとか意味わからん。

 

それだけではなくて、私の記憶ではアメリカで鹿のプリオン病、CWD(慢性消耗病)で騒ぎになっていたのを覚えている。

私の記憶している限り日本には入ってきていなかったが、隣国の韓国などでも確認されていたはずだ。

 

プリオンに関しては、研究者が注射針を間違えて自分の手に刺しただけで、数年後にクロイツフェルト・ヤコブ病を発症した事例も複数ある。

 

つまりだ。

──超怖いじゃん?

 

一度、感染すると終わり。

というか、プリオン病以外にも、普通に肝炎ウィルスとかも十分ヤバいからね。怖すぎるんよ。

そもそも現代人の倫理観で、カニバリズムなんてやりたくない。

さらに、こんな致死的な病気に掛かる可能性があるとかさぁ。

無理よ無理。そんなリスキーなこと、やりたくない。

 

でも、これ言えねぇんだよなぁ。現代知識バリバリすぎて。

私は正直、頭を抱えた。

 

だから適当に言い換えた。

 

「稀に、“穢れ”が発生した人間がいる。

その人間の血肉を食うと、数年から数十年後に同じ病を発症し、穢れで脳が腐って死ぬ。

……うちにあった文献に書いてあった」

 

幼い裏梅が読めなかった、って体にして。

 

「具体的にはどうなる」

 

そう聞かれたので、症状をできるだけ詳しく話した。

ふむふむ、と頷いたあと──

 

「それを知って、なぜ“主人”に言わぬ?」

 

折檻。理不尽!!

どうせ信じてないくせに、と心の中で毒づいた。

 

……でも。

ほんの少しだけ、人肉食が減ったのは意外だった。

 

食料がないと平気で食べるけどね。

元々“珍味”だと言ってたし、好きじゃなかったのかもしれない。

 

あと、もう一つのやらかし。

私は衛生的に清潔な現代日本にいた。

風呂がないのは、まあ諦める。しょうがない。

 

ただ、石鹸がないのが耐えられなかった。

 

ムクロジやサイカチを使った“代用品”はある。泡も立つ。

でも、やっぱり油汚れに弱いし、正直さっぱりしない。

だったら──作るしかないだろ、石鹸。

 

理系女子舐めんな。

 

というわけで、なんとか平安で再現できる石鹸を作った。

広葉樹や藁の灰で灰汁を取って、繰り返し煮詰めて濃くする。

宿儺が食べ残した猪や熊の、使わない脂を溶かして澄ませて、灰汁と一緒に煮る。

木べらで練りながら煮詰めて、ねっとりしてきたら竹筒に流す。

そして徹底的に熟成乾燥。乾くほどマイルドになるので、とにかく乾かした。

 

……で。

 

出来上がった石鹸で髪と身体を洗ったときの感動よ。

ぬるつきが落ちる。皮脂が落ちる。指が通る。

久々に“清潔”を取り戻した気がして、泣きそうになった。

 

灰を煮詰めてる間は『また変なことやってる』と宿儺と裏梅に見られてた。

煙いし、臭いし、鍋をかき回してるし、そりゃそうだ。

 

でも最終的に出来上がった“塊”を使って見せたら、二人とも目を丸くした。

実際、汚れの落ち方がまるで違うしね。

 

「その知識はどこからだ」

 

そう聞かれて、恒例のごとく「実家の本から」と答えた。

まあ、誤魔化しきれてなかったんだろうね。

今なら分かる。怪しいことこの上なかった。

 

ちなみに、宿儺も裏梅もそれを気に入ったので、私は定期的に量産した。

……が、他の人間には一切渡さなかった。

 

作ること自体が手間だから、売るつもりもない。

自分が使えればいい。

それに、この時代に“このタイプの石鹸”はない。

下手に広めたら歴史改変になっちゃうよね。

最悪、どこからか“タイムパトロール”やら“審神者”が来かねない。

 

いや、世界線が違うのは分かってる。

そもそもこんなみみっちい案件で介入なんてしないだろ。たぶん。

でもさぁ、私は漫画の世界に転生してるんだし、可能性ワンチャンない? ……ないよね?

まあ、ないだろうけど念のため、余計な波風は立てたくない。

 

……というわけで、自己中心的な独占とさせてもらった。

 

でもそれが、いたく宿儺好みの判断だったらしい。

「それでいい」と、ご満悦だった。

 

 


 

 

そんなこんなで両面宿儺の従者をやり始めて、理不尽な暴力に耐えながらも、なんとか生きながらえていた。

……いや、折檻を受けたり、呪詛師や呪術師との戦いに巻き込まれりしてるけどさ。

 

なるべく人は殺したくないし、できるなら殺さない。

その時点で異端だよねぇ。

殺らなければ殺られるの平安の世で、平和ボケしてる思考なのは自覚がある。

が、やっぱ、あまり殺したくないのよ。

宿儺からは珍獣を見る目で見られ、裏梅からは甘いと怒られた。

 

まぁ、それでも命を狙われたら私だって反撃はするし、どうしようもない時は命は奪っていた。

最低限ってだけね。

宿儺の側にいて、そんな行動をしてたら、命がいくつあっても足りない。

宿儺からの折檻も合わせると、何十、何百と瀕死になったかわからない

 

なのに何故か、宿儺が必ず治療するんだよね。

 

理由を聞いたら、宿儺は性格の悪い笑みでこう言った。

 

「死にたがってるやつを、簡単に殺すわけないだろう。

つまらん。せいぜい生きて俺を楽しませろ道化」

 

……あ、死にたがってるの、バレてたんですね。

平安の世が嫌すぎて、さっさと輪廻に戻りたいっていう本音、バレバレなんですね。

 

裏梅は裏梅で、いつの間にか一丁前の口を利くようになっていた。

 

「姉上は生きる意志が弱すぎです!」

 

数年前はあんなに小さくて、可愛かったのに。

成長期に入った彼は可愛くない。メンタルも宿儺に影響受けてずいぶんたくましくなった。

姉は悲しい!!

まぁ、そんな感じでうまく?やっていた私だが、一つ懸念してることがあった。

それは羂索の存在だ。アイツは両面宿儺以上に怖い。

 

知識欲の化け物で、マッドサイエンティスト。

「面白そう」ただそれだけで、外道の行いを平気でやるサイコパス。

私みたいに未来知識がある人間なんて、面白くてたまらないに違いない。

 

そして両面宿儺や裏梅は、原作で羂索と知己だった。

いずれ会うことになるとは思っていたけど──

 

実際に、額に横一閃の傷がある公家の若者が訪ねてきたときは、表情に出さずに対応するので精一杯だった。

 

目つけられたくない。目つけられたくない。

胃の奥がきゅっと縮む。

 

私はしれっと宿儺に通した。

少なくとも、すでに知り合いだったようで、二人は何事もない顔で何か話している。

 

関わりたくない私は、さっさと引っ込んで作業に戻った。

 

今日も石鹸の作成だ。

あれは作るのに時間がかかる。灰をぐつぐつ煮詰める。

その釜の前で、私は草鞋を編む。

 

料理は裏梅の仕事だが、こういう細かい作業は私の仕事だ。

 

長月も半ばを過ぎて涼しくなってきた。

だがこの時期は、スズメバチが多い。

 

だから、裏梅に瞬間冷凍乾燥してもらって、漆と蝋でガチガチに固めたオニヤンマを側に置いて、作業を進める。

 

宿儺や裏梅は、私がまた変なことをやってるとか思ってるみたいだけど、ちゃんと理由はあるんだよ。

 

オニヤンマがいると害虫が来ない。助かる。

現代でもグッズが売られてるくらいの最強昆虫だ。

あのスズメバチですら、全力でUターンするレベル。

 

夏から秋にかけてのこの時期は、スズメバチの動きも活発だ。

だから、このオニヤンマの出番ってわけ。

 

京の都とはいえ、この平安時代は自然豊かだからね。

まぁ、宿儺と裏梅はあの異常な呪力で虫たちすら寄ってこない。

私しか必要がないものだから、特に理由は説明していない。

 

草鞋を編みながら、私は窯の様子を見ていた。

灰汁を煮詰める匂いは鼻の奥に残る。正直臭いんだけどしょうがない。

よし、今のところは順調。

 

……と、背後から声が掛かった。

 

「それは何をしているの?」

 

その声に、背筋が冷えた。

今の声は、宿儺でも裏梅でもない。

柔らかいのに、耳に刺さる。笑っているみたいで、笑っていない。

 

私はゆっくり振り向いた。

雅な衣装を身にまとった公家──額に横一閃の傷。羂索。

視線が合う前に、反射で膝を折り、傅く。

 

「上の方、恐れながら、ここは作業場でございます。灰が舞いますゆえ……」

 

言い終わる前に、羂索が首を傾げた。

 

「私は“何をしているのか”聞いているのだけど?」

 

……人の話を聞いちゃいねぇ。

いや、聞いてる。聞いてる上で、こちらの都合を踏み潰してくる。そういうタイプだ。

 

石鹸の作り方は、誰にも言ってない。

使っているのも宿儺と裏梅と私だけ。

それでも、目の前に出してしまった以上、誤魔化せない。

 

どう返す。どう逃げる。

脳が高速で回り始めたとき、足音が増えた。

 

後をついてきたらしい宿儺が、面倒くさそうに言う。

 

「かまわん。好きにしろ」

 

……それなら問題ないか。

少なくとも、宿儺が許した“内側のもの”として処理できる。

 

私は顔を上げず、言葉を選んで答えた。

 

「灰の洗ひ玉でございます」

 

羂索の目が細くなり、興味の光が増す。

人相は全く違うのに、 見覚えがある表情。

原作で見た夏油に入ってた時と同じ表情だ。

 

「木灰を煮詰めたものと、脂を合わせて煮て、寝かせることで……汚れがよく落ちる塊が出来上がります」

 

手元にあった、乾いて固くなった石鹸──灰の洗ひ玉を差し出した。

羂索は躊躇なく受け取り、水桶に手を浸す。濡れた掌でそれをこすり、指先で泡立てた。

 

「傷口には染みますのでお気をつけください」

 

白い泡が、思ったより立つ。

羂索は子どもみたいに目を輝かせた。

 

「おお!これはすごい!!!まるでカニの泡のようだけど、汚れが落ちる!」

「宿儺!これ、もらっていっていいかい?」

「何故、お前にやらねばならぬ」

「良いじゃないか。たくさんあるみたいだし」

 

よしよし。話が逸れていったぞ。

二人でぐだぐだ言い合っている。私はその隙に距離を取りたい。

 

私は一礼し、窯の様子を見に戻ろうとした。

その瞬間──背中に、もう一度声が刺さる。

 

「ねえ、そのオニヤンマは何?」

 

……逃がしてくれない。

私は足を止め、横に置いてある“固いオニヤンマ”に目をやった。

裏梅に瞬間冷凍乾燥してもらい、蜜蝋と漆で固めた、虫除けの偽物。

 

「死んだオニヤンマを乾燥させ、蜜蝋と漆で固めたものにございます」

「理由は?」

「……は?」

 

羂索はにこやかに、でも目だけは笑わずに言う。

 

「だって君、理由がないことをしない人間だろう?」

 

喉がきゅっと縮む。

当たり前みたいに、私の性格を断定してくるな。

そしてそれがあってるのが怖い。

 

「虫避けです。オニヤンマを、他の虫は恐れます。スズメバチも近づきません」

「……へぇ。さっきの洗玉もそうだけど、その知識はどこから?」

「家にあった書物や、古老たちから聞いた知識にございます」

 

一拍。

羂索が笑う。

 

「うん、嘘だね」

「……は?」

「だって、この私が知らないんだもの」

 

羂索は、水桶の縁に濡れた指を置いたまま、こちらを見た。

柔らかい声のまま、刃物みたいに言葉を置いてくる。

「君、数年前に潰れた商家の娘だったよね。そんな知識があるような家じゃないでしょ」

「いや、そんな事言われまして——っ!!!!!」

 

言い訳をしようとした、その瞬間だった。

言葉の途中で——

 

腕が飛んだ。

 

痛みが来るより先に、熱い液体が噴き出して、視界の端が赤く染まる。

私は反射で、残ったほうの手で断面を押さえた。指の隙間から血が溢れてくる。

膝が砕けそうになって、片膝をつく。息が、変な音になる。

 

羂索は、穏やかな声のまま言った。

 

「嘘は良くないね。躾をしていいかい、宿儺?」

 

宿儺が笑う気配がした。

ああ、これ、逃げられないやつだ。

 

「かまわん。コイツの隠し事は気になっていた。いい機会だ」

 

脂汗が背中を伝う。

私は、鬼みたいな二人を見上げた。……見上げるしかなかった。

 

その後はもう、正直思い出したくない。

 

腕を斬られた。

宿儺が反転を掛ける。

痛みが引く。皮膚が戻る。骨が繋がる。血が止まる。

 

次は足。

また反転。

次は腹。

また反転。

 

“治る”たびに、逃げ道が消えていく。

死ねない。終われない。終わらせてもらえない。

 

何度目かも分からなくなった頃、私は理解した。

これ、ある程度話さないと、原作知識までゲロっちまう。

口を閉じてるほど、もっとひどい拷問をされる。

 

九回目の瀕死から、また反転を掛けられたとき。

私はようやく諦めた。

 

苦痛に叫びすぎた喉が痛い。

声がかすれる。

 

「……ちょっとした未来が、見えることが……あります……」

 

沈黙が落ちた。

宿儺が鼻で笑う。

 

「やはりか」

 

羂索は、面白そうに目を細めた。

 

「なるほどね」

 

……想像ついてたなら、ここまでする必要なくないですかね!!!!!

 

その後はさすがに、体力の限界が来た。

反転で肉体は繕われても、心は置き去りだ。息を吸うだけでなんか疲労感がすごい。

 

裏梅が肩を貸してくれた。

私はその腕に縋りながら、ふらふらと寝所へ移動する。

敷物に身体を落とした瞬間、ようやく「生きてる」と実感できた。

 

恐れ多くも横になったまま、私は“簡単な未来知識”を披露する羽目になった。

口を噤めばまた拷問される。そう理解してしまった以上、もう抵抗ができない。

もう良いや、原作知識がバレない程度なら良いでしょ。

 

まずは、人肉食の危険性について。

「あれは未来の知識だ」とはっきり言って、理由も簡単に噛み砕いて説明した。

 

宿儺は、納得がいったように頷いた。

興味がないふりをして、耳だけはちゃんとこちらを向けている。

 

次に石鹸。

これも未来の知識で作った、と言った。

わからなくてもいいや。とばかりに科学的な理由を含め細かいところまで話すと、羂索の目が嬉しそうに細くなる。

 

「他にもあるのかい?」

 

聞きたがりの目。

……ああ、これ、餌を与えると永遠に求めてくるやつだ。

 

だから私は適当に、でも確実にこの時代の人間なら、想像できないことを選んで言った。

 

「太陽は……ガスの塊で、ずっとそれが爆発し続けてる」

「大地は球体」

「月は、昔この大地から分かれた塊」

「人は、いずれその月へ到達する」

 

言っている私自身が、どこか他人事だった。

寝転がって、血の気の引いた顔で、平然とそんな話をしているのが可笑しくて。

……ほんとこの世の地獄だ。

 

そんな私に気づかず羂索は、ますます目を輝かせた。

子どもみたいに。いや、子どものふりをした獣だろこいつ。

 

「宿儺!この子、私に頂戴!!!」

 

「駄目に決まってるだろう」

 

即答。

宿儺はあっさりバッサリ却下した。

まるで、話にもならないと言わんばかりに。

続けざまに、裏梅が噛みつく。

 

「宿儺様、コイツ追い出しましょう!」

 

裏梅は、完全にキレていた。

……あー、さっきから不機嫌そうだったもんね。

 

裏梅は、宿儺第一主義で、宿儺が私を拷問する分には何も言わない。

弟として心配はしているが、『まぁ、地雷踏んだ姉上が悪い』というスタンスだ。

だいぶ冷徹な子になっちゃったなぁ。姉は悲しい。

話を戻す。

でも、私が“他の人間”に虐げられるのは大嫌いで、許せないタイプなんだよね。

私に色目を使い、物にしようとした術師の首を氷結してねじ切ったのは記憶に新しい。

身内の縄張り意識というか、変なところで過保護というか。

現代風に言うならシスコン。

 

そのやり取りを聞きながら、私は笑う余裕もなく、ただ天井を見ていた。

疲労で意識が遠くなる。まぶたが勝手に落ちていく。

 

……あぁ、やっちまったな。

 

そう思ったところで、私は意識を手放した。

 

 


 

 

 

その後、宿儺は私を手放しはしなかったが、羂索との交流を禁じなかった。

お互いの利害が一致したからだろう。裏梅はすこぶる嫌がっていたが。

 

羂索に求められるままに、教えても問題なさそうな科学知識や、一般常識を教えた。

羂索はサイコパスだが意外と面倒見が良く、私に呪術のイロハを叩き込んでくれた。

術式はなかったが呪力と結界術の才能はそこそこあったため、私自身もある程度戦えるようになり、裏梅が一緒に宿儺様を守れると喜んでいた。

いや守らんでもアイツ強いじゃん。

 

そんな交流が数年続き、ある冬──私は、流行病に倒れた。

 

最初は、唐突な高熱だった。

悪寒で歯が鳴る。頭が割れるように痛い。

背中から腰にかけて鈍い痛みが走って、身体を起こすだけで息が詰まる。

吐き気も来た。何も食べていないのに胃だけが痙攣して、喉の奥が焼ける。

 

舌と口の中に、小さな痛みが点々と生まれていく。

それが潰れて、唾に血の味が混じり、確信した。

未来知識が警報を鳴らす。

これはマズイ。感染力が強く、致死率も高い──天然痘だ。

 

私は宿儺にも裏梅にも近づくことを禁じた。

熱に浮かされながら、それでも言葉だけは叩きつける。

 

「……近づくな。もう、口の中にできものが出てる。感染する。捨て置け」

 

拒むための言葉なのに、喉が震えて、情けない声になった。

裏梅が唇を噛んだのが分かった。宿儺は不機嫌そうに、でも距離を取った。

 

そんな中、羂索が——その時はもう公家の身体ではなく、何処かの武士の姿になっていた——感染しても身体を変えればいいだけだからと、私の看病をかって出た。

 

……まあ、それでも平安の医療だ。

現代でも、治療薬は存在しない。できるのは、対処療法のみ。

冷やして、潤して、耐えるだけ。

私は弱っていく一方だった。

 

「ねぇ、白菊。呪物化しようよ。君が言ってた未来を一緒に見よう」

「……嫌ですよ。何度も言ってますが、私は大人しく死んで、輪廻を巡りたい」

 

羂索は事あるごとに、私の呪物化を提案してきた。いつものように断る私。

ただ、その時は、もう死期が近く、酷い有様だった。

熱に浮かされ、声は力なく掠れ、絹が擦れ合うほどの小さな囁きだった。

それでも羂索は軽い。

 

「うーん、残念」

 

このサイコパスめ。

 

しばらく沈黙が落ちたあと、羂索は次の玩具を思いついたみたいに言う。

 

「ならさ、白菊の転生体を見つけるから、記憶取り戻させるからまた遊ぼう」

「見つけられるわけ、無いで……しょう…」

「見つけるよ。縛ろうか。その時はご褒美に私のお願い一つ聞いてね」

 

布団の上で羂索が握った私の手。

握られた手の指先を少しだけ動かした。抵抗する力すらない。

羂索の声だけが、やけに鮮明だ。

 

「…………宿儺様が、良いと言ったら、それでいいですよ……」

 

何もかもめんどくさくなって、宿儺にぶん投げた。

考えるのも億劫だ。

薄れる意識の中、羂索が『約束だよ?また遊ぼうね』と楽しそうに笑ったのを覚えている。

 

その会話を最後に、病状が一気に悪化した。

 

熱が上がりきって、身体が自分のものじゃなくなる。

視界が白く滲んで、音が遠のく。

──ああ、これ、もう終わりだ。

 

私はあっさり死んだ。

そしてまた、空港に一人で立っていた。

平安だから牛車とかになるかと思ったけど、ここは現代風なのか。

私の自認のせいかな?とぼんやり考えて、おかしくて笑った。

 

五条たちから離れたかった。けど、さすがに平安はない。

……いや、平安はもう嫌だ。

 

結局なんだかんだで、五条たちのことが気になる。

同じ時代に生まれたい。現代で、前と違う自分で暮らしたい。

 

頭は、やっぱりこのままで。

今回は見た目が派手な美女だったけど、次も派手な美人に生まれたいな。

 

そんなことを思いながら、空港のゲートを潜った。

 

 


 

 

裏梅が立ち去ったのを見届けてから、私はようやく息を吐いた。

伊地知の身体をそっと仰向けにし、傷口を確かめる。

深い。出血量も多い。意識は無く、呼吸も浅い。

私が手渡した回復宝石の効果で、今すぐ死にはしないが良いとも言えない。

一旦安定させてから家入のところへ運んだほうが良いだろう。

 

回復の呪力宝石を取り出し、掌で握り込んだ。

祈るみたいに呪力を通すと、宝石が微かに熱を持つ。

 

傷口に沿って、慎重に回復をかける。

出血が止まり、脈が落ち着けば十分だ。

搬送中に死なせない。それだけを目標にする。

宝石だと時間が掛かる。家入の反転アウトプットのほうが早い。

 

「それにしても、無事で良かった。伊地知さん (兄さん)

 

回復を施しながら、思わずそんな言葉がこぼれた。

それにしても、まさか昔の弟が、昔の兄貴を殺そうとするなんて。

私、そんなに業が深い人生だったっけ?

 

……いや、そんな人生か。

 

深々と、ため息をひとつ。

 

回復をストップする、一旦、安定した。

あとは家入のところへ運んだ方がいい。

 

私はおかめお面を取り出し、それを被る。

そして、伊地知を抱きかかえ直した。

力の抜けた身体は、見た目よりずっと重い。腕が痺れる。

それでも落とさないように、呪力で筋力を強化して胸に固定し走り出した。

 

家入がいる、首都高速3号渋谷線——渋谷料金所へ。

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