渋谷事変⑤
・伊地知ポジション成り代わり(伊地知の双子の妹)だった転生者、七海建人の双子の妹で、まさかの2週目
・オリキャラでます
・ネタまみれです
・これまでで最も、激しい捏造、妄想含みます!!(ここ最近ずっと言ってる)
・屁理屈まつり開催中。無理やりな展開だよ。深く考えたら負けだよ!
・コロコロ視点変わります
宿儺と漏瑚の戦闘から、時は少し遡る。
「恐らく宿儺が出る。場合によっちゃ、ここら一帯、廃墟になるぞ」
普段の軽薄な笑みを消し、真顔で言い切る甚爾。
その口から放たれた爆弾に、その場にいた者たちは——七海と灰原を除いて——一斉に驚愕の表情を浮かべた。
「親父、何言ってんだよ! 虎杖は宿儺を制御できているはずだ!」
「恵の言う通りだ!」
真っ先に食いついたのは、恵と真希だった。
虎杖と親しい二人らしい反応に、しかし甚爾は眉一つ動かさない。
ただ冷え切った目で二人を見下ろし、短く告げる。
「スパイと、俺の雇い主からの情報だ」
そう言って、自らの耳元に付けた与の通信呪骸を、指先でカン、と叩く。
それにつられるように、恵もまた自分の耳元の通信呪骸を押さえた。
直後、その呪骸から皆に聞こえるように声が響く。
『事実だ。今、虎杖悠仁は重傷で意識を失っている。
先程の特級がここから離れたのは、宿儺の指を飲ませるためだ』
正確には、潔乃が虎杖を救うために指を飲ませたのだが、そこは今この場で必要な情報ではない。
与はただ、最低限の情報だけを告げた。
その淡々とした補足が、かえって事態の現実味を強めた。恵が激しく舌打ちする。
「……それは信用できるのか?」
「できる。この俺が保証する」
直毘人の問いに、甚爾はまっすぐ視線を返し、言い切った。
「ふむ……」
短く唸り、直毘人が考え込む。
それを見て、七海が右脇腹の傷を押さえながら口を開いた。
「陀艮とかいう特級との戦闘で、我々は致命傷ではないとはいえ傷を負っています。
治療を受けるのも兼ねて、一旦、救護班の位置まで退いて、体勢を立て直すことを提案します」
七海の言う通り、最初から陀艮との戦闘に参加していた三人は、服は破れ、頭や身体の各所から血を流している。
致命傷ではない。だが、無視して動き回れるほど軽い怪我でもなかった。
「皆消耗してるし、僕もそのほうが良いと思います」
灰原もまた、疲労を滲ませながらそれに同意する。
この場で軽んじていい面子ではない。
御三家の直毘人に判断を仰ぐ形を取ってはいるが、実質場の流れは決まったも同然だった。
直毘人は、スパイの言葉そのものを鵜呑みにする気はなかった。だが、それを甚爾が認めるなら話は別だ。
天与呪縛のフィジカルギフテッドである甚爾は、その鋭敏な聴力で人間の声色の変化から嘘を見抜けることを、直毘人は知っていた。
加えてあの男は、利にならないことに首を突っ込む性格でもない。
ならば、この情報の信憑性は高い。
この場に留まれば、甚爾の言う通り宿儺と遭遇し、戦闘になるだろう。
今の消耗した状態では、いや、そうでなくとも相手はあの両面宿儺だ。
——死体として無様に転がるだけだ。
直毘人はそう判断し、頷く。
「うむ、一旦引くとしよう」
その判断に、何かをこらえるように拳を握りしめる恵。
そんな恵をなだめるように、真希がバチンと背中を叩く。
「行くぞ。体力回復させて、虎杖の意識が戻った時に動けるようにしろ」
「……はい」
真希は短い付き合いながら、虎杖が宿儺の器として強固な檻であることも、肉体の主導権をすぐに取り戻すことも知っていた。
そして、虎杖が明るく善性に寄った性格の持ち主であることも。
このまま宿儺が渋谷を荒らし尽くせば、あとで意識を取り戻した虎杖は必ず傷つく。
ならば、事が起こってしまうのなら、その後に少しでも最善を尽くせるよう動くべきだ。
真希はそう判断した。
その意図を理解している恵も、素直に肯定の返事を返す。
——まさにその瞬間だった。
その場の全員が、びたりと硬直する。
禍々しく、強大な呪力の気配。
反射的に全員の視線が、同じ方角へ向いた。
次の瞬間、恵が走り出す。
玉犬・渾とともに連絡通路の硝子を突き破り、そのまま外へ飛び出した。
「ちっ!」
甚爾が即座に追う。
だが位置が悪い。間に柱が立ちはだかり、恵の姿はあっという間に視界から消えた。
「クソガキ……! もう術式使えんのか!」
腹立たしげに甚爾が吐き捨てる。
「あんのバカ」
真希もまた吐き捨て、直毘人は深々とため息をついた。
「……仕方あるまい。アヤツも無能ではない。上手く立ち回るだろうて」
だが、その言葉にも、甚爾と七海と灰原の三人は内心で頭を抱えるしかなかった。
情報を知りすぎているがゆえに、まったく楽観できない。
恵の動向には気をつけろと、潔乃から口酸っぱく言われていたのにこのザマである。
よりにもよって、宿儺の気配を察知した瞬間に飛び出した。
嫌な予感しかしない。
運命の強制力、とでもいうべきものを感じずにはいられなかった。
甚爾は息子の心配より、追加ボーナスが減らされることを嘆き、
灰原は真顔で怒る潔乃を脳裏に思い浮かべて、表情を引きつらせ、
そして、重面を始末できなかった七海は、子供の頃のようにストレスでパンを爆食いしたくなった。
与が呪骸越しに三人にしか聞こえないように囁く。
『……潔乃さんに伝えておきます』
その言葉を聞きながら、三人は恵に何も起こらないことを祈るしかなかった。
「アレは結界か? 領域ではなさそうだが……」
宿儺の凶悪な呪力を感じ思わず飛び出した恵。
マークシティの連絡通路から移動し、109付近まで来て、足を止めることになった。
渋谷ストリーム付近に強大な結界が張られているからだ。
中の様子は見えない。
だが、結界の中から強力な呪力がぶつかり合う気配が伝わってくる。
——宿儺と先程の特級呪霊だろう。
術師ならその呪力の圧に慄く。
そんなレベルの戦闘が行われているにもかかわらず、渋谷の街は静かなものだった。
一般人も改造人間も近くにいない。
狗巻の術式で、この付近からは移動させられたのだろうと、恵にも察しがついた。
勢いよく飛び出してきたものの、あの呪力のぶつかり合いの中に入ったところで、何もできないのはよく分かった。
そして、この巨大な結界。
「何がどうなってんだよ。渋谷は!!」
思わず悪態が漏れる。
恵は、結界に気を取られ完全に油断していた。
「ッ!!!」
気づいた時には遅かった。
背後から振り抜かれた一撃が、容赦なく恵の背を裂く。
衝撃で上半身が前へ弾かれ、一瞬、息が止まる。
次いで、焼け付くような激痛が背中を貫いた。
深い。
そう理解した瞬間、血が吹き出すのを感じた。
っ!! 油断した!
どっと溢れた血が背中を伝う感触に、恵は舌打ちした。
踏みとどまろうとした足がもつれ、視界が大きく揺れた。
「これこれ。こーいうのよ!! こーいうのが向いてんのよ」
最近の術師はすごく強い。若いのに。
重面は先程殺しそこねた、芻霊呪法を使う若い女の呪術師を思い出した。
横槍が入ったせいもあるが、あの女術師はなかなかしぶとかった。
目の前に居る若い男の術師も、同じように強く、しぶとい。
ボロボロなのに重面に近寄るスキを見せない。
だが、出血の激しさから、もうそろそろ限界なのは分かっていた。
とうとう歩くこともできなくなり、四つん這いになった術師が、なにかブツブツブツブツと呟き始める。
どうやら術式の開示を行っているようだが、重面には興味がない。
「地震!? ははっ、誰だよ。派手だなぁ」
揺れる地面に、重面は思わず辺りを見渡した。
結界の奥で強大な呪力がぶつかり合っているのは分かる。
結界越しだというのに、地響きと轟音が伝わってくる。
結界の中は、さぞ無惨なことになっているのだろう。
破壊され尽くした渋谷の町並みを想像し、その愉悦に体が震える。
ただ、結界のせいで視覚情報として見えないのは少し残念だ。
――と思っていたら、結界が崩れ始めた。
「アレ? 思ったより壊れてないじゃん。つまんないね」
あれほど強力な呪力のぶつかり合いの後なのに、そこにあったのは普段と同じ、ネオンが輝く渋谷の姿だった。
まぁ、どうでもいいかと、重面はその違和感を流す。
「続きだ。要は式神は調伏しないと使えないが、調伏するためならいつでも呼び出せるんだ」
その若い術師の術式の開示は続いていたらしい。
異様な呪力が膨れ上がる。
「歴代十種影法術師の中に、コイツを調伏できたやつは一人もいない」
この男は先程、『調伏は複数人数でもできる』と言っていなかったか?
「待て!!」
重面がとどめを急ぐ。
だが、間に合わない。
「布瑠部由良由良——八握剣異戒神将魔虚羅」
宿儺が去って数秒。地震のような地鳴りが響いてきた。
視線を向けると、原作通り109あたりでビルが倒れていく様子が見えた。
ぐっと拳を握りしめる。
正直、漏瑚との戦闘より摩虚羅戦に力を割くべきだった。
こちらのほうが死者数は圧倒的に多い。
自分の判断ミスだ。虎杖は悪くない。
「……っ!」
震える膝を内心で叱咤しながら、ふらつく足で立ち上がる。
裏梅が飲ませてくれた薬湯のおかげで、筋肉の痙攣は収まり、なんとか動くことはできそうだ。
呪力はすっからかんだし、呪力を溜め込んだ宝石は使い果たしてしまった。
日常使いのクズ宝石はある。それから、適当に呪力を確保すればいい。
呪力バッテリーとして使っている宝石より効率は落ちるが、それでも多少の回復はする。
「姉上、無理しないほうが……」
さすがの裏梅も声をかけてきたが、無理するなら今でしょ。
「言ったでしょ。私は高専側だって。もうちょっと頑張らないと」
「姉上。もうお気づきでしょうが、姉上は宿儺様から離れられませんよ」
心底呆れたような声だった。
ちらりと視線を向けると、厳しい目をした裏梅がいた。
「羂索が姉上の魂を探し出す。その手段の一つとして、宿儺様との縁を利用しましたから」
宿儺との縁を利用する?どういうことだ?
思わず眉間に皺が寄る。
そんな私を静かに見つめ、裏梅は続ける。
「羂索いわく、姉上の魂は別の因果や呪いで雁字搦めだったそうです。
——姉上は前世で何をしたんですか?」
裏梅の言葉に、心当たりしかなくて内心汗だくになる。
呪術廻戦を漫画として読んでいたり、
その記憶を持ったままこの世界に生まれたり、
最終的に夏油について五条を裏切って死んだり……
どれもこれも因果やら業やらが深すぎる。
「前世のことなんて、分かるわけないでしょ」
「まぁ、そうですね。今回が特例でしょう。
……話が逸れました。
姉上の魂に絡みついた別の呪いのせいで、追跡が難しい。
だから羂索は、姉上と宿儺様の縁に呪いをかけ、目印にしました」
縁に呪いって、何?
目印になるの?
それで魂を見つけるって、どういうこと???
「えぇ……そんなことできるの……」
「本当に、あの男は忌々しいが腕が立つ……」
思わず呟いてしまうと、裏梅もそれには同意らしく、呆れたように頷いた。
「でも、なんで宿儺? アンタのほうじゃ駄目だったの?」
こういうのって、血縁のほうが縁も因果も強そうだけど。
伊地知や七海なんて、双子の因果で記憶を取り戻してるし。
私がナチュラルに呼び捨てしたせいで、裏梅の視線が痛いが、まるっと無視する。
私はもう宿儺の従者じゃないの!という意思表示だと察しているのだろう。
ハァとため息をつくだけで、指摘はなかった。
「宿儺様のほうが、呪いもより強固になるだろうと羂索が」
羂索のやつ、やっぱ、ろくなことをしねぇな!!!
脳内に、カラカラと楽しそうに笑う羂索が浮かんだ。
その額の糸を引き抜きたくなる。
いや、いつか絶対に引っこ抜いてやる。
引っこ抜いた後に、パステルとか、レインボーカラーの派手なアクリル毛糸あたりで縫い付けてやる!
それにしてもアイツのせいで、夏油のことが嫌いになりそうだ。
今世では裏切ってない、クズだけど人のいい先輩のままなのに。ひどい風評被害だ。
「私と宿儺に縁の呪いって、具体的には?」
脳内で夏油に謝りつつ、呪いの詳細について尋ねる。
今のうちに裏梅から情報を引き出せるだけ引き出したい。
「主従だった縁を強固にしたため、力の強い方に引きずられます。
つまり、宿儺様の命令に逆らえません」
裏梅は私に情報を隠すつもりはないらしく、あっさりと詳細を口にした。
うん、だいたい予想してたとおりだ。でもさ……
「……それ、いつものことだよね」
「それはそうですね」
平安時代も、宿儺の命令には基本従っていた。
どうしても嫌な時は嫌だと言い張って、折檻を受けていた過去を思い出して遠い目になる。
裏梅も全肯定してるし。ちくしょう。
「ただ、今回からは縛りのようなものが発生します」
あー、やっぱりね。
宿儺との今世での契約を否定したあの時、嫌な鼓動を感じた理由が予想通りで、ため息だ。
「具体的に破ると?」
「最終的には死ぬかと」
やっぱりか。うん、予想してた。分かってた。
思わず渋谷の空を見上げ、髪をクシャリとかき混ぜる。やってらんない。
夜空を見上げてもネオンギラギラな渋谷じゃ星一つ見えない。
こういう時こそ星の灯に慰めてほしいのに。
酒が飲みたい。浴びるほど飲みたい。
五条に高い酒と高いツマミを用意させて、しこたま飲みたい。
七海や家入、
灰原や夏油はお酒飲めるのかな? 前は一緒に飲んだこと無いからわからないけど、飲みたい。
七海潔乃として成人してからも、酒をほとんど飲んでないんだ。
伊地知潔乃のときは、ペースを守ればザルどころか、もはやワクだった。
いくら飲んでも酔わないし、潰れない。
そんな酒好きな私でも、全方位、360度信頼できない人間に囲まれて、酒を飲んでいられるほど危機感は欠如してない。
「……最悪だ。羂索嫌い」
「羂索が気に入らないのは同意します」
本当に本当に心の底からこぼれ落ちた愚痴に、裏梅も同意した。
いや、ここで意見が一致してもね。意味ないし、嬉しくねーんだわ。
「……ですが、私はまた姉上と宿儺様にお仕えできて、嬉しいです」
だから嬉しくないって。
そんな気持ちを込めて、嫌味を言う。
「死ぬ覚悟で、逆らい続けるかもよ?」
「無様に足掻くさまを見て、宿儺様が喜びますね。
それに……死ねば、また輪廻から見つけ出すまでです」
裏梅の、微笑みすら浮かべた表情に、ちっと舌打ちする。
私の後ろをヨチヨチ歩きで『姉上!』と慕ってきた頃の裏梅、可愛かったのになー
今じゃとんだ狐だよ。嫌味すら効きやしない。
「ま、でもそれも宿儺が復活したらでしょ?
せいぜい足掻くとしますよ」
裏梅とのこの雑談の間に、筋肉の痙攣は完全に収まった。
裏梅のこの薬湯、マジでよく効くな。調合方法、機会を見て盗んでやろう。
ただ落ち着いたのは、筋肉の痙攣だけ。
呪力回路は呪力バッテリーからの逆流のせいで炎症を起こし、激痛が走る。
でも、この程度なら我慢できる。
何度でも言うが、腕や足を切り飛ばされるよりだいぶマシだ。
「我が姉ながら腹立たしい……して、どこへ?」
「言うと思う?」
忌々しそうに舌打ちを返され、私はニンマリと笑う。
「それなら、せいぜい道化らしく、宿儺様を楽しませてください。
……死なないでくださいよ?」
「私は長生きして、縁側で猫抱きながらお茶飲むのが夢なの。
そう簡単に死んでたまるかっての」
裏梅と別れ、私が向かう先は渋谷駅構内だ。
恵の様子を見に行かないのか、って?
与の通信呪骸経由で、恵の無事は確認済み。いや、ほんと与幸吉様々だ。
リアルタイムで状況が分かるのはありがたい。
まぁ、109付近でビルが崩壊――つまり宿儺と摩虚羅のバトルが発生してるのは見えたし。
虎杖には申し訳ないが、こうなってしまったからには宿儺に任せるしか無いし、宿儺なら上手くやるだろう。
それにしても、なんで領域展開の範囲とか条件、変更できまくるんだろうね?
内心、心底呆れた声しか出てこない。
本来、宿儺の領域展開は最大半径二百メートル。
原作通りなら宿儺は、恵を巻き込まないよう、その範囲を半径百四十メートル、かつ地上のみに限定している筈だ。
羂索から結界術を学び、以前と比べ物にならないほど呪術を理解した今、宿儺のその凄さが嫌というほど理解できてしまう。
結界の“要件”を変えるって、ほんと難しいんだよねぇ。
新宿決戦で五条もやってたけど、アイツらの頭の中どうなってんのさ……
ヒカリエから地下に入り、渋谷駅構内に入り込む。
ちくしょう、もう数年後なら連絡通路が出来てアクセスが楽だったのに。
工事エリアも多ければ、いろんな奴らが大暴れしたせいで、渋谷がヒッチャカメッチャカで使える通路が減っている。
地下コンコースを駆け抜けながら、腕時計で時間を確認する。
23時20分。
原作通りのタイムスケジュールなら、体を取り戻した虎杖と真人のバトルが激しくなっている頃だ。
七海は料金所の救護班の待機所に未だいるので、今回は無事だ。
だが、釘崎に関しては私は介入していない。
だからこの後、釘崎は真人に倒される。
渋谷駅地下一階、A0出口方面通路に駆け込んだ瞬間、遠目に見えたのは、虎杖と東堂が真人と戦闘を開始する直前の姿だった。
釘崎がやられ、失意で茫然自失となった虎杖を立ち直らせた、あのシーンの後だろう。
あの時の東堂はクソかっこよかった。
ちょっと見たかったなと思ってしまったが、それどころじゃない。
釘崎を運ぼうとしている新田に駆け寄る。
私に気づいた虎杖が目を見開き「あ、ナナミンの……」と呟いた。新田は警戒を露わにする。
そりゃそうだ。見知らぬ袈裟の女が走ってくるなんざ、この状況だと恐怖でしかない。
真人が何か喚いているが、あいつはどうでもいい。
さて、どう説明したもんかと考えた瞬間、
「Ms.潔乃。そちらは任せた」
東堂がウィンク付きでニヤリと笑ってきた。
うわ、キモい。
でも、仕込みが上手くいったと悟り、口角が上がった。
そう、私は東堂――正確には九十九へ話を繋ぐための仕込みを行っていた。
どうしたかって?
九十九は元星漿体だ。
そして、天元と同化した星漿体の声が聞こえる。
そこがキーになる。
天元は自身を狙う羂索を危険視していた。
ある意味、羂索の弟子に近い立ち位置の私も警戒しているだろう。
ならどうするか。監視する。日本中を見渡せるその力で。
正確にいうと、天元は自身が張った結界内の事象を把握できる。
ただ、全部が全部、事細かに把握できるわけでは無いらしく、術式的に隠蔽された状況などでは、その目は届かない。
私はそんなのを防げる手腕があるわけではないので、フルオープンだ。
羂索は自分の隠蔽は完璧なのに、私に関しては作戦に絡む時以外は基本放置だ。
術師なんだから自分でやりなってことなのか、はたまた私から漏れる情報など気にしてないのか。
まぁ、どちらにしろ、それが幸いした。
つまり、伏黒甚爾を使って、七海達高専サイドに情報を流していた。
あの時にやったのと同じことをやっただけだ。
窓際で、アロエリーナ相手に——
「こまったなーこまったなー。
羂索がヤベェことしようとしてるなぁ。
獄門疆で五条さんを封印しようとしてる。
五条さんが封印された時は誰か救出してくれないかなー
九十九さんあたりは羂索ともいい勝負できると思うけどなー」
――ってな感じで、ぼやきまくった。
後はもうお察しの通り。
それを天元が見る。
天元の中の星漿体達がそれについて、ざわざわ話す。
それを九十九が聞く。
そして九十九が東堂へ伝える。
天元の中の星漿体達がどれだけ会話しているかなんて分からない。
正直かなりの賭けだったけど、東堂の反応を見るに私は賭けに勝ったらしい。
原作で東堂は、五条奪還を目的として、副都心線ホームにいた。
だから今回私は、九十九にこの情報を流し、さらに早い時間に東堂が副都心線ホームにたどり着くようにした。
うまくすれば、その
結果としては、五条の奪還は叶わなかった。
この混乱した渋谷。しかも東堂は京都校の人間で、土地勘が薄い。
早めに情報を流したが、効果はなかったようだ。
まぁ、五条が獄門疆に囚われた時、獄門疆を殴る蹴る、術式をひっそり使うなどして確かめたが、
全く壊れる気配がなかった。
アレは一度発動したら、天の逆鉾や黒縄、
隠れている甚爾にステイの合図を送り続けながら色々試したが、ホント無駄だった。
東堂の術式は呪力そのものに作用するから、獄門疆自体に私の残穢をべったりつければ奪取自体はワンちゃんあったかも。
だが、不確定要素が多すぎる。
万が一を考えると、間に合わなくて正解だったかもしれない。
羂索との戦闘で東堂が離脱していた可能性もあるわけだし。
まぁ、東堂はしぶといから死ぬことはないだろうけど。
とにかく結果オーライ。
私の状況を知っている東堂は強力な味方だ。
「処置をさせて」
「え、あ? は? はい」
こういう時は勢いで押し切る。
虎杖たちの戦闘エリアから少し離れた位置へ移動し、釘崎を横たえた。
術式を発動させ、釘崎の体の時間を戻していく。
真人に触れられる、その直前まで。
呪力はクズの呪力宝石から吸収した分しかない。
だが、死体の修復だ。なんとかなるだろう。
それに、多少無理してでも、釘崎の左目は直してあげたい。
原作でしか知らないが、アレだけ女子力が高くて美容が好きな子だ。
術師だから傷なんて、さほど気にしないだろう。原作でもそんな描写あったし。
それでも女の子。
私のわがままだけど、綺麗でいて欲しい。
空洞と化していた左目付近が修復され、それを見た新田が驚きで目を見開いた。
まぁ、驚くよね。
我ながら人体の修復もだいぶ早くなったもんだ。自画自賛しながら新田に声を掛ける。
「一旦、君の術式解除されてるからもう一回掛け直してくれる?」
「え、あ、はい!」
目の前で起きたことに頭が追いついていないのが丸分かりで、ちょっと申し訳なくなる。
でも今は説明してる時間がない。
新田が慌てて釘崎へ手を伸ばし、再度、状態固定の術式を掛けていく。
混乱しつつも、判断そのものは早い。
学生とはいえ術師。こういう場面で固まりきらないのは偉い。
その様子を確認しながら、私は口を開いた。
「私の名前は七海潔乃。一応失踪中ってなってるから他言無用でお願いね」
「え、あ? え??? あ!!!! 修復術式の!!!」
そこでようやく新田の中で情報が繋がったらしい。
というか、失踪して11年たつのに、学生ですら私のこと知ってるのか。
「へぇ、私まだそんな有名なんだ。じゃ、話が早い。そういうわけだから」
「……はい!!!」
混乱してるけど、ちゃんと必要なことは飲み込んでくれるあたり助かる。
「蘇生処置は家入さん頼りになるけど、死にたてホヤホヤだから蘇生の確率は上がると思う」
「はい、俺の術式だけより確率が上がります。ほんま、ありがとうございます!」