とある転生者、2周目   作:kotedan50

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if 転生者、百鬼夜行に参加する https://syosetu.org/novel/408095/47.html からの分岐。

死滅回游②
結構お話が動きます。

おまたせしました。
同人誌の作業して、おまけで付けるノベルティ作成などしてたら気がついたら1ヶ月近く。
ほんとすみません。

・伊地知ポジション成り代わり(伊地知の双子の妹)だった転生者、七海建人の双子の妹で、まさかの2周目
・オリキャラでます
・ネタまみれです
・これまでで最も、激しい捏造、妄想含みます!!(ここ最近ずっと言ってる



転生者、またもや暗躍する

ライブハウスから撤退の準備を始めた。

 

私は念のため、使っていた痕跡を消し、切り落とした二人の髪を呪力宝石でさっと燃やしたりしているのだが……

夏油は、さきほどまで私が寝ていたソファーに座り込んで、頭を抱えている。

 

「夏油さん、いつまで凹んでるんですか」

「いや、だって!」

「気にしてもしょうがないでしょ」

「記憶持ちがこんなにいるなんて聞いてない!」

 

これである。

記憶を取り戻した時に夏油のメンタルケアを優先して話をしたため、前回の記憶ありメンバーについて説明し忘れていた。

それを思い出して、夏油に、私たち以外にも記憶がある人間がいると伝えたら、

 

「そんな気はしてたよ。伏黒甚爾がそうかな?」

 

渋谷での甚爾の立ち回りや発言を見て、そう判断したのだろう。

やはり夏油は頭が回る。

 

「正解です。他にもいますよ」

「え、他にもいるの?」

 

こちらには、すごく驚かれた。

 

そのまま話の流れで、七海・灰原・伊地知にも記憶があると伝えた。

さらに記憶が戻る条件から“夜蛾”もそうなるだろうと教えたら、膝から崩れ落ちた。

 

チッ、根性ねーな。

案外メンタル細い。

 

というか、だからこそ前回闇落ちしたのか。

納得感しかない。

 

「甚爾や灰原はともかくとして、七海と夜蛾学長に記憶があるのがきつすぎる……」

「最悪の呪詛師やって宣戦布告した相手ですしね」

 

夏油が、恨みがましい目でこちらを見上げてきた。

 

「人の心ないのかな? 君も一緒にやったでしょ」

「一緒にやりましたけど、そこら辺はもう自分の中で咀嚼して、解決済みです。

ちなみに潔高は前回、呪術界にいなかったので、私たちからの説明であなたの過去を知ってます。

『才ある若い少年が現実と理想の間で潰されたんですね。悪く言えば、力があったせいで闇落ちして中二病を拗らせた』って、普通にドン引きしてました」

 

その話をしたときの伊地知の様子を思い出す。

まだ四歳の頃だったけど、可愛い顔で、なんとも言えない大人びた表情をしていたのを覚えている。

 

「だから人の心ないのかな? 伊地知って辛辣だよね! 前世での君との血の繋がりを感じるよ!

まともな人間代表の伊地知にそう思われてたとか、結構キツイんだけど」

 

ひどい言い草である。

否定はしないけど。

 

「ちなみに、五条さんも生き残ったら戻りますよ」

 

夏油の表情が、分かりやすく引きつった。

 

「最悪じゃないか!!!」

 

五条が記憶を取り戻す。

つまり、夏油にとっては『高専を裏切り(高専を離反し)、親友と敵対し、その親友に殺された記憶(その親友を殺した記憶)』が戻るということで。

私にとっては、『裏切って夏油につき(裏切って自分の元から去り)、最期は制止を無視して、目の前で焼身自殺した記憶(目の前で焼身自殺された記憶)』が戻るということで。

 

……うん。

普通に詰んでいる。

 

夏油なんて、またもや魂の底から絶望した顔をしている。

さっき膝から崩れ落ちたばかりなのに、さらに崩れ落ちそうである。

人体って、二段階で崩れるんだな。

かくいう私も、余裕はない。

 

「それに関しては、私もヤバいです。絶対にシメられる自信しかないです」

 

これで夏油も分かっただろう。

私がどれだけ五条から口説かれ、好意を伝えられても、応えなかった理由が。

 

魂に刻まれた過去の悔恨。そこからの執着。

今の五条はそれを恋愛的な気持ちとして勘違いしてるようだけど、過去を思い出して、それがどう転ぶかは分からない。

手のひらを返されて嫌われる可能性だってある。

流石にそれは、私だってきついものがある。

 

「まぁ、視線を合わせないと記憶が戻らないので、目潰しでもしますかね。

そうすれば五条さんの記憶戻り関連の厄介事は、だいたい片付きますし。

そうだ! なんか視界の代わりになる呪霊とか呪具持ってないです?」

 

かつて五条が記憶を取り戻すかもって気づいた時、七海たちにも、冗談交じりで同じことを言ったっけ。

あの時は全員から怒られた……あ。

ちらりと視線を向けたら、夏油の目が座っていた。

ヤベ。なんかすごく嫌な予感。

 

次の瞬間、頭を掴まれた。

 

「君、ほんとその思いっきりイカれた思考は前回から変わらないね!!」

「アイダダダダダダ! 痛いです!!!」

「痛くしてるんだよ。悟の代わりにね!!」

「まだ頭痛残ってるんだから、やめてください!!! 痛いですって!」

 

七海たちに話したときも全員から呆れられつつ怒られたけど、夏油かよ。

アイアンクローはやめろ!!!

理不尽!!

 

ねっちりとしたアイアンクローを数十秒受けたあと、夏油がすっと頭から手を離してくれた。

ったく、この暴力的なところはほんと夏油も五条と変わらないよ。

やっぱクズ。

 

内心で文句を言いながら目元をさすっていると——

 

「潔乃。時が来たら悟にも記憶を戻してあげて」

 

妙に静かで真面目な顔をした夏油がいた。

 

「さっきまで頭抱えてたくせに、どうしたんです?」

「怖いよ、正直。でも、悟だけが知らないままなのは可哀想だ。

いつまでも前回の真実を知らないままなのも、悟の気持ちが君に届かないのも、あんまりだろう」

 

急にまともなことを言い出した。

やめてほしい。

 

夏油の声には、茶化すような響きがなかった。

本当に、五条のことを案じている声だった。

 

前回、高専を離反して。

親友 (五条)と敵対して。

最後は、穏やかにその親友 (五条)に殺された男。

 

そして、いつも親友 (五条)のことを気にしている。

 

そういうところが、夏油傑なのだと思う。

真面目で、優しくて、面倒くさくて、最悪に厄介な男。

 

そりゃ五条も、青い春を拗らせる。

原作でも、いつまでも引きずるわけだ。

 

空港にいたメンツの中で、五条だけが前回のことを知らない。

たしかに可哀想だとは思う。

 

私がなぜ裏切ったのかも。

なぜ夏油についたのかも。

なぜ最後に、五条の制止を無視して死んだのかも。

 

何も知らないまま、今の五条は私を好きだと言っている。

全部知ったあとでも同じように言ってくれるとは、私には思えない。

うん……やっぱり、ただの執着だよ。

 

「いや、だから、それは前回からの執着で——」

「記憶を取り戻した時に分かるよ。その時は諦めて悟と結婚しなよ」

「人の話を聞いてない!」

 

前言撤回。

まともではなかった。

台無しである。

 

「ご祝儀は親友だから十万包むね! いや、五条家の格を考えると、もっと包むべきかな? 今度、悟に確認しておかないと」

 

外堀をコンクリートで埋めるな。

 

「いや、だからなんで結婚前提? 私の選択権は!」

「そんなのないに決まってるだろう。五条悟だよ?」

 

妙に説得力あるのやめろ。

 

 


 

 

あの後、五条との結婚を執拗に勧める夏油と、最悪の呪詛師の厨二病を弄りまくる私で、無駄な時間を過ごした。

散々お互いを弄り倒した後、夏油と二人でライブハウスを出た。

 

五条悟の記憶の件は、ひとまず後回しということで合意した。

お互いに晒している急所を、容赦なくえぐり合いすぎた。

 

無駄に疲れた。

本当に。

まだ傷む頭を振りつつ、移動を開始する。

 

乗り捨てられている車を拝借して、私の運転で移動する。

免許持ってるかって?

 

あるよ。

前回のだけど(伊地知潔乃の時代のが)

 

盗難だって? 法律違反?

 

呪術師は越権行為が許されるし、今は非常事態だからセーフセーフ。

緊急避難的措置だよ、知らんけど。

 

まずは拠点の確保。

向かった先は、山手線の西側エリア。

高級住宅街の最寄り駅。

普段は繁華街というには賑わいが足りず、住宅街というには少しだけ騒がしい。

 

本来はそんな街だが、今は人っ子ひとりいない。

閑散とした街を呪霊が闊歩している。

 

車窓から流れる風景を見ていた夏油が、ハッとした顔でこちらを向いた。

 

「……ここって確か——」

「えぇ、私の実家の近くです」

 

そう、七海建人と七海潔乃としての実家がある町だ。

 

「実家に寄るかい?」

「寄らなくていいです……

里桜高校で建人と会った時に、両親はすでに亡くなったと聞きました」

 

里桜高校にて吉野順平を七海に託した時を思い出す——

 

 

十一年ぶりに会う七海。

前回より身長も高くて、体も鍛えられていて、正直驚いたのを覚えている。

きっと、同じ轍を踏まないように必死に鍛えたんだろう。

真面目だから。

 

そんなことを思いながら、吉野順平を地面に横たえた。

 

「術式は消しました。あとはよろしく」

「わかりました」

 

七海が静かに頷き、私が手渡した呪力宝石で吉野順平と自分の傷を軽く治している。

これで私の術式行使の残穢は上書きされ、無事隠蔽された。

 

立ち上がってあたりを見渡すと、校門の付近には伊地知(兄さん)もいる。

オカメ面越しだけど、視線がバチッと合ったのが分かる。

変わらない優しい眼差しに、思わず涙が出そうになって目をそらした。

 

「こんな時ですが、父は二年前。母は昨年亡くなりました。墓は日本の七海家です」

 

吉野順平の容態を確認しながら、なんてことはないように七海が言う。

 

「……わかった」

 

それだけ答えて、私はその場を去った。

 

 

ため息をつきたくなる。

五条たちだけでなく、今回の両親にはだいぶ親不孝をした。

全てが落ち着いたらお墓参りに行こう。

失敗して死んだ時は——あの世で謝ろう。

土下座したら笑って許してくれるだろ。優しい人たちだったから。

いや、土下座なんてやめなさいって怒られるかも。

 

……父さんと一緒に筋トレして、その後のご褒美にラーメンを食べに行きたかったな。

……母さんの作ったチョココロネを、もう一度食べたかったな。

 

 

感傷はそこまでにして、意識を切り替える。

 

「七海家には総監部の家宅捜索が入るでしょう。私が主犯で建人も共犯疑いですから」

 

そこまで言って、視線をハンドルを握る左腕の腕時計に落とす。

 

「時間帯的に、もう入られた後でしょうね」

 

こういう時の総監部の動きは早い。

前回の伊地知潔乃(補助監督)として生きていた時に何度も見た。

総監部と折り合いの悪い五条との調整をしていたからな!

ホント嫌になるほどアイツらの動き方は知っている。

 

「私たちがその場に近づいていいのかい?」

「我々は隠蔽の呪力宝石を使ってるから、そこらの術師には見つかりませんよ」

 

私お得意の隠蔽の力を持った呪力宝石だ。

教祖をやっていた時に、身を守る手段、脱出の手段を探すふりをして、宝石を集めまくったからな。

羂索からは、子供の悪あがきを優しく見守るような視線を受けたもんだ。

 

やめろキメェ。

 

「よくやるね」と呆れられたけど、放置された。

ここに来て、クズ宝石しか高専には見せていなかったのが功を奏した。

 

……切り札は最後まで見せるなってね。

信頼できない奴らに強い力を持つ宝石を見せるわけないでしょ。

バーカ。

 

「あと、私の実家は本当にただの一般住宅なので、何もないと分かれば、捨て置かれるでしょう。

バックに羂索もいますし。アレは無駄なことを楽しめる性格ですが、つまらないことは嫌いですから。

日本の一般家庭なんて知り尽くしてるでしょうし、一切興味ないですよ。

——だから、あえて、この近辺に潜伏します」

 

そう言って、自宅のあるエリアからさらに二分ほど車を走らせる。

とあるマンションの駐車場に車を止めた。

エレベーターは電力が通じていないため、階段を上りながら口を開く。

 

「このマンションは、五条さんが封印された場合の潜伏先として確保しました。

登記も名義も全く別人なので、バレません」

「前回の記憶があると先回りできて便利だね。私も早く記憶が戻ればよかったのに」

「こればっかりはしょうがないですよ」

 

ため息をついて嘆く夏油を雑に慰める。

 

ちなみに用意したのは勿論、伏黒甚爾だ。

おそらく孔時雨あたりを使ったんだと思うけど、まさかこの部屋になるとはね。

 

そう——この部屋。

 

実はこの部屋、かつて伊地知潔乃が趣味部屋として契約してた部屋だ。

運命の強制力なのか、前回の私が選んだ部屋がセキュリティ的に良かったのか。あるいは両方か。

また、この懐かしい部屋に来るとは思わなかった。

 

一つの部屋のドアの前に立ったところで、夏油が厳しい表情で足を止める。

 

「……誰かいる」

「あぁ、大丈夫ですよ」

 

さすがは夏油。中の気配に気づいたか。

けれども今回はばかりは心配ない。

笑って大丈夫だと応え、耳に装着したままの連絡用の呪骸を、指先でコツコツと叩く。

すると——ガチャリと鍵が開く音がして扉が開いた。

 

「……与幸吉」

 

「……お久しぶりです、夏油先生」

 

扉の向こうには、気まずそうな顔をした与幸吉がいた。

 

 


 

部屋の中は、驚くほど前回と似通っていた。

 

私の趣味を甚爾も知っているからか、なんというか、こういうとき本職がヒモだった男の妙な気遣いを痛感する。

 

そんな、なんとなく安心感のある部屋で、私はガスコンロでお湯を沸かしていた。

 

停電しているが、ガスコンロが使えるのはありがたい。

温かい飲み物が飲めるからね。

 

勿論、ただ温かい飲み物を飲むためだけにキッチンへ来ているわけじゃない。

 

夏油と与幸吉が今、リビングで話し合い——というか、あれは高専教師の夏油による事情聴取だな——をしているから、席を外しているのだ。

 

メカ丸こと与幸吉は、特級呪霊側に内通し、高専を裏切ったと発覚した直後に、渋谷で五条の封印が計画されているとリークし、そのまま行方不明になった。

 

高専の人間として、夏油は与幸吉から話を聞く必要がある。

私は一旦席を外してほしいと言われたので、キッチンに避難したのだ。

 

ま、与幸吉の事情に関しては、まず本人から話したほうがいいだろう。

 

本人も、裏切り者の自覚がありつつ、罪悪感や後悔の感情を口にしていた。

原作でも、自分のことを最低だと評価していたっけ。

 

まぁ、一旦救った命だ。

夏油が厳しい判断をしそうなら、ヘルプに入ってやろう。

 

彼のおかげで、渋谷での立ち回りが楽になったこと。

献身的に協力してくれたこと。

彼を縛った十七年五ヶ月十三日(天与呪縛された期間)で得た呪力を使って、私たちを助けてくれたこと。

 

そして、心底、京都校の学友たちが好きで。

彼らを傷つけてしまったことも、特級呪霊側についたことも、後悔していること。

 

原作からのメタ知識もあるけどさ。

 

愛は人を狂わせる。

 

ほんと、愛ほど歪んだ呪いはないね。

 

少しだけ漏れ聞こえる、夏油と与の声を聞きながらガスの炎をぼんやりと眺める。

 

本来は五条の封印を渋谷で阻止したかった。

だが、今回は叶わなかった。

おそらく放っておけば、原作通りに事は進み、いずれ五条は復活するだろう。

 

絶妙な原作補正というか、

私が何も介入しなければ原作どおりに事が動くのは前回から感じていることだ。

だから、五条の復活に関しては私は心配していない。

 

その後の新宿に関しては、もう頭を抱えてるけど。

 

どうするかな、宿儺との縛り。

確実に五条と敵対コースなんだよな。

……下手したら五条を殺せと言われるか? 

 

いや、それはないな。

むしろ目の前で宿儺手ずから五条を殺して、私に見せつけるだろう。

 

とにかく、どうにかして宿儺の縛りから抜け出さないと……

 

うんうん考えていると、ケトルが甲高い音を立てた。

 

思考は中断。

 

火を止め、三人分の紅茶を用意し、リビングへ戻る。

 

リビングのラグの上で正座した与幸吉。

その目の前のソファーに座り、不機嫌そうな夏油。

 

なんだろう。

高専教師は、説教するときに正座させるのが伝統なのか?

 

学生時代の夜蛾と五条たちを思い出して、口角が上がりそうになるのを抑える。

 

「あらかた説教終わったなら、休憩どうです?」

 

「説教じゃないんだけどな」

 

「与君がやらかしたのは確かですけど、功績もあります。それは私が保証しますよ。あと、特級の夏油さんなら握りつぶせますよ」

 

「あのね……そんな簡単に言わないでくれるかな。結構な大事なんだよ、これ」

 

「甚爾さんの時よりマシでしょ」

 

「……それはそう」

 

額に手を当てて、天井を仰ぎ見る夏油。

短くなった髪をぐしゃぐしゃとかき乱し、ハァッとため息をつく。

夏油にティーカップを差し出すと、彼は黙って受け取った。

 

「与君、正座崩していいよ。飲みながら話そうか」

 

「与君もどうぞ。これ、最初から砂糖が入ってるタイプなので、甘いの苦手だったらごめんね?」

 

立ち上がってソファーの前に座った与幸吉にもカップを渡すと、

 

「ありがとうございます。大丈夫です」

 

と、静かに笑って受け取った。

 

さっきよりは緊張もほぐれているみたいだし、夏油はだいぶ甘めにお話したっぽいな。

 

ま、彼自身も前世で道を踏み外した側だから、思うところがあったのかもね。

 

私は立ったまま、紅茶を一口。

 

うん。

 

インスタントのパウダーを溶かしただけのやつだけど、案外美味しいじゃないか。

 

ジャンク感のある紅茶で、嫌いじゃない。

 

「で、潔乃。与君に何をさせる気だい?」

 

紅茶を楽しんでいると、いきなり夏油がぶっこんできた。

 

「君は普段はお人好しで優しいけど、術師として動く時は冷徹な判断ができるタイプだ」

 

ティーカップを口元に運び、一口飲んでから、夏油が再び口を開く。

 

「今、与君から聞いたけど、特級呪霊も羂索の目も欺いて彼を助けた。相当危ない橋を渡ってるよね」

 

「与君は素直に私に助けを求めましたからね。私が、そういう人間は救ってあげたいタイプなの知ってるでしょ?」

 

「そうだね。それも嘘じゃないだろうね。でも、かつての君ならこんな時、証拠と証言だけ渡して、私や悟の判断に任せていた」

 

あぁ、やっぱり夏油は鋭い。

 

頭の回転が良い人間との会話は、無駄に喋らなくていいから楽だ。

 

「で、もう一度聞くけど、与君に何をさせる気?」

 

 


 

 

居合一閃。

呪力を抑える太い縄が断ち切られた。

 

「…いいのか?日下部」

「俺が助けたって言うんじゃねーぞ」

 

拘束から解放されたパンダが戸惑った様子で言葉をかけるが、日下部はただひたすらめんどくさそうな表情だ。

 

「オマエが掴まってんのは、夜蛾さんを誘い出すためだ。オラッ行け!! 

……あの人には恩があんだよ」

 

そんなパンダから視線をそらし、日下部はさっさと行ってしまえという風に手を払う。

 

めんどくさいことは嫌いだ。

厄介事なんて首を突っ込むもんじゃない。

 

切先を流すように。

正面から受け止めるのではなく、力をそらせばいい。

 

そんな思考回路を持つ日下部でも、譲れないものはある。

 

日下部は夜蛾に恩がある。

息子を亡くし心が壊れてしまった妹を救ってもらった恩が。

 

監禁部屋から出ていくパンダを無言で見送った後、ハァと日下部がため息をついた。

 

呪骸 (パンダ])より人の心がねー俺でもよ。身内を救ってもらった恩は忘れねーんだよ。」

 

おそらく夜蛾は、タケルたちがいる呪骸の森に今はいるのだろう。

 

そこにいれば安全だ。

天元の結界が守ってくれる。

 

だが、夜蛾の性格上、自分の息子(パンダ)が拘束されていて、大人しくしているわけがない。

必ず助けに来る。

 

「……パンダのやつ上手くやれよ。頼むから、夜蛾さん逃げてくれ」

 

日下部のぼやきは、壁一面に張られた呪符に吸い込まれるように消えた。

 

 


 

 

「何故……今更話した。何故もっとはやく、何故、生き延びなんだ…!!」

 

楽巌寺のやりきれない苦悶の声が響く。

 

完全自立型人工呪骸。

その製造方法を明かせば、殺し合うこともなかった。

 

楽巌寺と夜蛾は、それなりに長い付き合いだった。

夜蛾の、術師にしては誠実な性格は、規律を重んじる楽巌寺にとって好ましいものだった。

五条や夏油など若者(クソガキ)たちを御せていないのはどうかとは思っていたが、それを言えば、楽巌寺自身も似たようなものだった。

若者(クソガキ)たちに苦労させられる同業者として、年の差はあれど話は意外と合った。

 

生き延びてほしかった。

五条がいなくなった今、夜蛾を守る後ろ盾はない。

素直に上に従っておけば、命までは取られなかったものを。

 

擁壁に背中を預け血塗れの夜蛾、もう瞳に力がない。

ぼんやりと地面を見つめている。

 

「呪い…ですよ。楽巌寺学長。私からアナタへの呪いです」

 

吐息とともに呪いが溢れ——静かになった。

直後にパンダが走り込んできた。

 

「まさみち……!!」

 

とっさに戦闘態勢に入る楽巌寺を素通りし、夜蛾の側へ歩み寄った。

 

「何故戦わん。儂が憎くないのか」

 

パンダはすぐには答えなかった。

ただ、黙って夜蛾の前にしゃがみ込み、血に濡れた身体に手を伸ばす。

そして壊れ物に触れるように、そっと夜蛾を抱き上げた。

 

「人間と一緒にすんな。パンダはそんなものに囚われん」

 

その声は、不思議なほど静かだった。

 

泣き叫ぶでもなく、怒鳴るでもない。

ただ、腕の中の夜蛾を少しでも揺らさないように抱え直し、パンダは楽巌寺に背を向ける。

 

「アンタ、まさみちと仲悪くなかったもんな。どーせ上に命令されてやっただけだろ。

俺にとっちゃアンタは落ちてるナイフみたいなもんさ」

 

憎んでいないわけではない。

けれど、憎しみに囚われるほど、人間と同じにはできていない。

 

落ちているナイフを恨んでも、意味はない。

怒りをぶつけても仕方がないだけだ。

 

「だがこれだけは覚えておけ、パンダだって泣くんだ」

 

 


 

 

よまなくてもいい、あとがきてきなもの

 

主人公

夏油とともに仲良く行動中。

五条が記憶を取り戻したときのことを考えると頭が痛い。

五条からの感情はやっぱりただの執着だと思ってるので、結婚しろと言われて困惑。

まだこのネタを言うかと思ってる。高専時代も散々付き合ったら?結婚したら?と言われ続けてたので。

渋谷後の拠点を伏黒甚爾に用意するように依頼していたが、まさかの前回の趣味部屋が用意されててびっくり。

また、中のインテリアも昔の自分の部屋のようでびっくり。

これは伏黒甚爾が、高専寮の主人公の部屋を見て趣味を覚えていたため。やっぱり出来るヒモ。

そして、与幸吉を助けた優しさ以外の理由とは……

 

 

夏油傑

主人公とともに仲良く行動中。

七海と夜蛾と伊地知に記憶あるの???? ツライ。マジで辛いとなってる。

そして五条も記憶が戻るかもと聞いて絶望した。

けど、直後に主人公が全力で五条の気持ちをスルーし続けてるのでフォローにはいった。

お互い、結婚しろ、中二病の教祖様とやり合って無駄にダメージを食らった。

その後、拠点となるマンションに行ったら与幸吉がいて、無量空処。

事情聴取をして、主人公の綱渡りの上でタップダンスしてる様子に胃が痛い。

そして、主人公のことだから優しさだけではない。なにさせるの?と気づいた。

こっちも頭脳はSSS。

 

 

与幸吉

渋谷近辺のホテルから撤退し、予定通りのマンションに待機してたら夏油が来てビビった。

スライディング正座で事情聴取を受けた。高専生は正座して説教されるのは伝統。

なお素直に全部ゲロってる。最悪、秘匿死刑になってもしょうが無いくらいの覚悟は決めている。

まぁ、それを見越して今後夏油や主人公に良いように使われるようになる。

が、特に主人公には絶大な恩があるので逆らえない。ご愁傷さま。

 

 

夜蛾正道

渋谷の後は呪骸の森に潜伏していた。

そして、原作通りパンダが捕らえられたため、息子に会いに行くために出かけ……

 

 


 

 

私は数百メートル離れた地点から、楽巌寺が肩を落として去っていくのを見送っていた。

 

望遠効果があるサングラスのズレを直して、ほっと息を吐く。

 

「はー、上手くいった」

「ハラハラしたよ。バレなくてよかった」

「んぐ!! ぐ!!!! ぐ!!!」

 

隣にいる夏油と、軽くグータッチを交わす。

生死を偽装する作戦を成功させた直後にすることではない気もするが、成功したものは成功したのだ。

喜べるときに喜んでおかないと、呪術師なんてやっていられない。

 

「んぐ!! ぐ!!!! ぐ!!!」

 

「夏油先生、潔乃さん。夜蛾学長が窒息しそうです」

 

控えめな与幸吉の声に、私と夏油は同時に振り向いた。

夏油の呪霊に拘束され、口をがっつり押さえられている夜蛾。

騒がれると困るので、夏油の呪霊に拘束してもらっていたのだが、力が強すぎたらしい。

 

夜蛾の額には青筋が浮いていた。

怒っている。

ものすごく怒っている。

 

そりゃそうだ。

自分が知らない間に、自分の死体役を用意され、自分は口を塞がれて見学させられていたのだから。

 

助かったんだから許してほしい。

いや、許されないのは分かっているけど。

 

「学長、大きな声出さないでください。与君が呪骸を飛ばして付近を確認してますが、お願いしますよ」

 

夜蛾は私たちを睨みつけながらも、軽く頷いた。

 

それを確認して、夏油が拘束を解く。

 

「っ、はぁ……はぁ……!! どういうことだ、傑。そして、潔乃。そして俺の偽物は何だ?」

 

呼吸を整えた後、夜蛾がぎろっと私たちを再度睨みつけた。

 

あー、怒りますよね。

はい、すみません。

今から説明しますから、そんな睨まないで。

 

「死体は私が作った、精巧というか、夜蛾学長と全く同じ偽物です。それを与君に操作してもらっていました」

 

そう。

 

先ほどまで動いて楽巌寺と戦い、呪いの言葉を吐いて死んだのは、私が作り出した偽物だ。

与幸吉を救う時にやったのと、全く同じことを夜蛾にもやったわけ。

何度も言うが、五条くらいでなければ魂の違いなんて分からない。

 

夜蛾の視線が、すっと与幸吉へ向いた。

 

与幸吉は気まずそうに肩を縮める。

裏切り者として裁かれる覚悟をしていた少年が、今は夜蛾の死亡偽装の片棒を担がされている。

 

ちなみにDNAは髪の毛から入手。

これは与幸吉の呪骸で、渋谷で確保しておいてもらっていた。

 

そこで確保できなかったら、今日この場でやる必要があったから助かったよ。

与君が仲間になってくれていてよかった。

本当に!

 

渋谷で会った時に渡した巾着袋には、ガムテープで「これを使え」と文字を書いておいた。

 

中身は隠蔽の呪力宝石。

それから、私が現在地を把握できるように、念のため宝石の中にGPSも突っ込んでおいた。

それを持たせておけば、パンダを助けに行く時に楽巌寺たちには見つかりづらいし、私にはすぐ分かる。

呪骸の森の位置は事前に調べて把握してたけどね。文明の利器も使って万全を期した。

 

そして夜蛾を発見次第、夏油の呪霊で拘束。

そのまま与幸吉の呪骸操作で偽物の夜蛾を動かして、戦闘と会話を行う。

 

最後に、パンダが死体を回収して、夜蛾学長の死亡偽装は完了。

 

これで楽巌寺は考えが変わり、今後、五条たちの強い味方になる。

夜蛾も生き残って万々歳。

 

しかも生存を隠せているから、強いアドバンテージになる。

 

「術式の拡張か。たしか、潔乃、オマエの術式は修復だけじゃなくて融合なども出来たな。そういうことか……」

 

夜蛾は私の術式を知っている。

だから、どう作成したかすぐ分かったらしい。

 

眉間にシワを寄せている。

 

自分と同じ姿の偽物。

自分と同じ声で話し、自分の代わりに死んだもの。

 

それを平然と作った私に、言いたいことは山ほどあるのだろう。

 

でも、夜蛾はそれを飲み込んだ。

 

「それに関しては後で聞く。そこにいる与、オマエも一緒にな! 

その前に一つ確認したい。潔乃、お前は呪詛師ではないな? 何故高専を離れた?」

 

真っ直ぐな目で夜蛾に見つめられた。

 

ほんと、この人は真っ直ぐだ。

 

私の行動を見ていると、呪詛師と思われても仕方ないのに。

五条も夏油も、この人も。

 

まず、私がこちら側の人間かどうかを確認してくれる。

たぶん、そういうところが夜蛾正道という人間の強さなのだろう。

 

夏油も首をすくめて、苦笑いをしている。

 

「まぁ、いろいろありまして。黒幕に脅されてましてね。縛りで高専を離れざるを得なかったんです」

 

私は掛けていたサングラスを外して、夜蛾に目線を合わせた。

ふざけた空気が、そこで途切れる。

夜蛾の表情が驚愕したものに変わった。

 

「これである程度、分かると思いますよ」

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