とある転生者、2周目   作:kotedan50

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if 転生者、百鬼夜行に参加する https://syosetu.org/novel/408095/47.html からの分岐。

・伊地知ポジション成り代わり(伊地知の双子の妹)だった転生者、
 七海建人の双子の妹で、まさかの2週目
・オリキャラ出ます
・激しい捏造、妄想含みます
・ネタまみれです


転生者、縛りを結ぶ

絹のような白い髪。

私が知っている頃より、ずっと短く切り揃えられていて──

少し子供っぽいその髪型が、今の彼には妙に似合っていた。

 

顔立ちはもう、この頃から完成してるんだな、と思った。

綺麗に彫られた彫刻のような顔。整いすぎてて、ちょっと怖い。

 

でも、丸みの残る頬や、まだあどけなさを感じさせる表情に、

身長もあの頃よりだいぶ低い。私よりちょっと大きいくらいだ。

声もまだ高めだけど、子供のそれじゃない。

声変わりしかけてる声なのかな?私が聞き覚えのある声色じゃない。

 

それに、どこか安心してしまった。

これは、あの頃の“五条悟”じゃない。

まだ、すべてを背負う前の、ただの“若い五条悟”。

 

──ほっとした。

もし、あのときの彼と同じ顔だったら、きっと直視できなかった。

今はまだ、無理だ。

 

けれど、その安堵のすぐあとに、感情が暴走した。

 

五条がいる。あの頃の五条じゃない。

………でも、魂が同じなのはわかる。

 

カチ、カチ、と無意識に歯が鳴る。

目頭が熱くなって、涙がこぼれそうになる。

 

……制御しろ。

こんな顔、見せるわけにはいかない。

感情に呑まれた“めんどくさい女”は、五条が一番嫌うタイプだ。

 

──そう言い聞かせた瞬間だった。

視界の端で、五条の表情がわずかに険しくなるのが見えた。

 

いけない。

 

自分で自分の頬を、思い切り叩いた。

バシン、と乾いた音が響く。

 

痛いし、熱い。

そして周囲の人間が一斉にこちらを見るのも分かる。

けれど、この衝撃で、なんとかメンタルだけは落ち着いた。

 

呼吸を整え、口元にわざとらしい笑みを浮かべて言う。

 

「──3年後に、高専に入学予定の者です。一般出身です。

 ……あなたは、高専関係者ですか?」

 

声はかすかに震えていたけれど、

それでも、なんとか自分を保った第一声だった。

 

私の頬を叩く様子を見て、五条は「へぇ」と、まるで珍しいおもちゃを見つけたかのような声を漏らした。

その顔に浮かぶのは──ああ、やっぱり覚えがある。

人の事情も心もお構いなしに、好奇心でズカズカ踏み込んでくる、あの頃の五条悟の顔だった。

私が出会った頃より酷い。うわー関わりたくない。心底関わりたくない。

夏油、家入、夜蛾助けてー

 

「いきなり自分の頬ぶっ叩いて、頭イかれてんね?いや、褒めてるからな?」

「……」

 

なにが褒めてる、だ。

その顔が、ぞっとするくらい楽しそうだった。

 

「てか、もしかして初めて呪霊祓ったの?それで動揺したわけ?

んで、ビンタ一発で感情制御とか、一般人( パンピー)のガキんちょにしてはやるじゃん。

 3年後ってことは中一?年下かよ。見えねー。オメー、絶対年上に見られるだろ?」

 

ベラベラと、遠慮ゼロのノンデリ炸裂トーク。

……ああ、うん。やっぱこの人ひでぇわ。相変わらず。

そもそもガキんちょ言うけど、オマエ1つしか変わらないだろ。クソガキが。

精神年齢こっちはいい年したBBAだぞ?前前世の知識ある人間なめんなよ?

 

内心でそう呟きながら、私は息を吐くようにして口を開いた。

 

「──術式で呪霊を祓ったのは、初めてです」

 

少しだけ間を置いてから、視線を正面に向ける。

あぁ、キラキラしてる六眼と視線が合う。

これだけは大人の時と変わらない。

 

「……あなたは、誰ですか?」

 

声は冷静に。けれど、そこにはっきりと不信感を込める。

 

意図的に一歩、足を後ろに下げた。

警戒の意思表示。

 

五条の口元が、面白そうにまた緩んだ。

 

「え? 俺のこと知らないの? 呪術関係者で?」

 

は?知ってるけど知らんわ。

「世界で一番自分が有名」って勘違いしてんじゃない?

一般人として生きてる人間が知るわけねーだろ、内心で全力ツッコミ。

 

けど、ここで素直に答えるわけにはいかない。

ここはあえて、軸をずらそう。

 

「………あ…呪詛師?!」

 

わざと目を見開いて怯える演技。

肩を震わせながら、じりじりと後ずさる。

怯えたふりが板についてると思う。

我ながら、演技派すぎる。

伊地知トレースやってたんだ。

いや、あの頃はガチで五条に怯えてたりするのもあったけどね…

 

 

「はぁ!? 違うからな!!俺は!!」

 

 

五条がムキになった。よし乗っかってきた。

このまま話を逸らし続けてと思った、その瞬間――

 

パアアアーーーーーッ!!!

 

隣の通りから、耳をつんざくクラクション。

ギギィッとタイヤが焼ける音と、ガシャアアン!と何かがぶつかる音。

──事故だ。

 

今だ!! チャンスは今しかない。

 

私は一切振り返らず、声もあげず、一気に駆け出す。

 

「あっ!!!」

 

背後で五条のデカい声が響いたが、無視。

もう一秒たりとも関わっていられない。

私は駅前の裏路地に滑り込み、曲がった先のビルの影に飛び込んだ。

 

すかさず、屑宝石をひとつ──発光効果のある呪力石を後方に放る。

ぱっと閃光が炸裂し、空間に宝石が持つ元の呪力の残穢を撒き散らす。

 

同時に壁に手を当て、術式を発動。

ビルの外壁を、建設前──まだ“そこに壁がなかった時間”まで巻き戻す。

一瞬現れる、空白の隙間。

そのまま身体を滑り込ませ、即座に壁を“元通り”に復元した。

 

そして──

深呼吸とともに、呪力を完全に抑える。

“ゼロ”にする。六眼すら欺くレベルで。

 

この場所は知っていた。

このビルは1階が駐輪場。一番奥の、誰も来ない“デッドスペース”。

外への導線が遠くて、誰もこの位置に自転車を停めたがらない。

──でも、身を隠すには最適。

 

外から感じる呪力の気配。五条悟だ。

彼の六眼がこちらの残穢を探っているのが、感覚でわかる。

だが、使った呪力宝石の残穢と、私のそれは全く別物。

混濁した情報に翻弄されている。

 

加えて私は、今、完全に呪力を“絶っている”。

壁越しに六眼で探っても、見えるのは“ただの空間”。

 

──案の定。

五条の呪力が、ビルの向こう側をあちこちに彷徨い、やがて──

別方向へと遠ざかっていった。

 

……よし、撒いた。

 

長く息を吐き、壁に背を預ける。

全身の力が一気に抜けた。

思わず、腰に入れたままの手で、そっと小さくガッツポーズ。

 

ごめんよ五条。

……心の準備もできてないから、今あんたと話すのきついわ。

 

五条はなぜ、東京にいたのだろうか?

 

祓除任務か何かかもしれない。子供の頃から任務を受けてたと以前聞いたことがある。

だが、いずれにせよこの頃の五条は、京都の五条家の実家に住んでいるずだ。

東京にそう長くは滞在できないはず。

──だから、今は時間的なタイムリミットがある。

おそらく大丈夫……とは思うが、念には念を入れて、ここからは離れた方がいい。

 

私はすぐにカバンを開き、内側からキャップを取り出した。

日差しが強くなってきていたから、今朝ふと思いついて入れておいたのが功を奏した。

 

──髪色を隠し、印象を変えるだけでも、人目からは外れやすくなる。

特に私のこの金髪は目立つから。

こういう時、伊地知潔乃は便利だったな。良くも悪くも目立たない容姿だったし。

五条にはどんだけ隠れててもすぐバレたけど。

昔を思い出して苦笑しながら、駐輪場のトイレを借りてすばやく着替えた。

制服から、体育の授業で使った学校指定のジャージへ。

今日は体育があって本当に助かった。まさかここまで活用するとは思わなかったけど。

 

──髪も隠した。制服でもない。呪力も完全に絶っている。

これなら、遠目にはただの男子学生にしか見えない。

 

私はすでに170センチを超えている。

少し姿勢を正して歩けば、女子ではなく少年と認識されるだろう。

声さえ出さなければ問題ない。

 

……よし。準備完了。

 

気配を殺しながら、私はゆっくりと街の雑踏へと紛れ込む。

つい先ほどまで呪霊と対峙していたとは思えないほど、周囲は平和そのものだった。

誰も、私が何者かなんて気づかない。

私はそのまま、人ごみの流れに乗るようにして、静かに帰路へと着いた。

誰にも気づかれず、何事もなかったかのように。

無事、家へ帰宅することができた。

 

 


 

 

東京での祓除任務を終えたあと、総監部に顔を出した。

──まあ、定期的に呼び出される。

六眼に無下限呪術を持つ俺が、何を考えてるか分からないのが怖いらしい。

 

くだらない。

 

腐った因習と、思考停止した老人たちの集まり。

存在自体が呪いじゃね?ってレベルだ。反吐が出る。

 

どうでもいい話をテキトーに聞き流して席を立つ、

数年後に五条家の当主をついだら覚えてろよ。

補助監督の運転する車に乗り込む。そのまま京都に戻るつもりだった。

 

──で、今に至る。

 

東京駅に向かって走る車内。

その中で補助監督の携帯が鳴った。

路肩に停めて電話に出た彼の表情が、一瞬で引きつる。

 

……あー、嫌な予感。

 

案の定、振り返り怯えたように追加任務を伝えてきた。

 

「……あの、五条さんが、いちばん近くに……その……」

 

「はぁ?」

 

明らかに嫌がらせだろこれ。

まっすぐ帰らせろよ。

どんだけ俺が気に食わないんだよ、あのジジイども。

 

まぁ、でもこれでサボれるな。

 

どうせ今から帰っても、修行だの鍛錬だの追加任務だの言われるだけ。

それなら──さっさと祓って、ラーメンでも食って、都内をぶらついてから帰るか。

終電に間に合えばいいだろ。

 

ため息をつき、イライラしたフリをして、補助監督を追い返す。

いや、実際イライラはしてるがな。

 

報告では、山手線沿線の駅から、徒歩数分の場所。

出現したのは、1級なりかけの2級呪霊らしい。

唐突に沸いたとか。何か呪霊が発生する要因がある街だったか?

高級住宅街の最寄駅でそんな呪いが濃い地域ではなかったはずだ。

思い出そうとするが心当たりはない。

 

どちらにしろ、早急に対応しないとヤバいのは俺も認識一致だ。

このまま夜になったら、ますます人の流れが増え、大勢の人間が餌食になるる。

面倒くさいことになる前に、祓った方がいいのは確かだ。

 

現場近くに到着し、六眼で意識を集中して周りを見る。

見えた。

淡く空間が歪む、結界の気配。

 

捉えた人間を逃がさないための結界。

ただし、外からは呪力ありなら侵入可能。

一般人には干渉しないタイプだな。呪力なしは素通り。

 

──結界が貼られてるということは、中に可哀想な一般人(パンピー)がいるってことだ。

生きてるのか?生きてて、人質を取られるとめんどくさいな。

帳はいらないか。こいつの結界がちょうどその役割果たしてるし。

 

俺は呪力をギリギリまで下げ、呪霊からしても“俺の呪力が、ただの雑音程度”に感じられる程度に抑え込む。

所詮2級だ。俺の敵じゃない。

結界の端に指先を伸ばして、そっと潜り込む。

 

トプン

 

水面を破るような感覚と共に、俺の体は結界内に入った。

 

中に入った瞬間、嫌な予感が当たる。

 

やっぱり、いた。可哀想な犠牲者(パンピー)

 

 

駅近く、飲食店とショップが並ぶ通り。

繁華街というには賑わいが足りず、住宅街というには少しだけ騒がしい。

そんな区画にある、自転車も走れるほど広い歩道。

呪霊と真正面から対峙しているのは──

金髪の少女だった。

呪霊と目が合ってるのか、完全に立ち尽くしているように見える。

……ん? こいつ、少し呪力あるな。

呪力があるから狙われたのか。

 

中途半端に“見える”やつってのが一番厄介だ。

窓になれればまだいいが、術師の家系じゃない中途半端な呪力持ちは世間に溶け込めず、

術師にもなれず、一般人にもなれず──

フラフラとそのへんを漂って、最終的にはエセ霊能者や詐欺師、呪詛師もどきか、最悪だと、ただ死ぬだけ。

そんな人生を送る奴らが多い。

 

正直……めんどくせぇな、というのが第一印象だった。

 

俺は一歩踏み出しながら、そいつの横顔をふと覗き見る。

 

……顔、整ってんな。

俺ほどじゃないけど、美人の部類には入るだろ。

背はデカいな。俺よりちょっと小さいくらい。

金髪だし、海外の血でも入ってんのか?タメか、1個上、いや高校くらいか?

 

さて──

見えてるなら、こっちも楽だ。

さっさと呪霊を祓って、必要があれば高専に繋いでやればいい。

呪術界は万年人手不足だ。俺はまだガキなのに現場回されまくってる。

新人が増えるのは歓迎、歓迎。

 

そう思った、ほんのその瞬間だった。

 

六眼が捉える。

少女の体内を走る呪力の流れが、ある一点に集中する。

──脳に刻まれた術式が、ガチッと起動した。

 

「は?」

 

驚いた。

こいつ、呪力を隠してた。

 

一気に高まる呪力。瞬間、空気の密度が変わった。

 

その直後の動きは、実に鮮やかだった。

 

呪力で脚を強化し、一気に呪霊の懐に飛び込む。

術式の呪力を込めた掌底を一閃。

呪霊が耳障りな断末魔を上げながら、ゆっくりと──

まるで“巻き戻されるように”消滅していく。

 

……なるほど。

直接触れることで術式が発動するタイプか。

術式の扱いはまだ慣れてないみたいだけど、呪力操作と体捌きはかなりのものだ。

体術の型は甘いが、思いっきりの良さが光ってる。

 

「へー。ガキンちょのくせに、やるじゃん」

 

思わず声が漏れた。

心の底から、賞賛だった。

 

「物体の時間をコントロールできる...ね。いい術式(モン)持ってんじゃん」

 

俺の声にビクリと反応する金髪。恐る恐ると言ったふうに振り返ってきた。

へー、正面から見ても人形みたいに整ってる。

まだどこか幼さ残る顔立ちだけど、きりっとした表情。

そして、ぶつかった視線の先。

綺麗な翠の瞳。

意思の強さがにじむ、真っ直ぐな目つき。

若干目つきは悪いけど、それはそれでいいんじゃない?

そんなことを思いながら声をかける。

 

「呪霊の時間をコントロールして、発生前まで時間を戻し、その存在自体を抹消した。

……いいじゃん、その解釈。おもしれーじゃん。オマエ」

 

飲食店の壁にもたれて、ポケットに手を突っ込んだまま、にやりと笑う。

驚いてるな。

そりゃそうだ。術式をいきなり見抜かれてビビらない奴の方が珍しい。

 

「んで、オマエ誰?

高専にそんな術式持ってる奴がいるって、聞いたことないけど?」

 

そう声をかけた途端、金髪の表情が曇った。

目も潤み始めてる。

あーこれ、一般なりに術式を理解して、隠して生きてきたタイプか?

女に泣かれるとめんどくセーんだよな。オエー

どう宥める考えていると、いきなり自分で自分の頬を、スパーンと音を立てて叩いた。

 

「ッ!」

 

……は?

 

状況の急転に面食らう俺を無視して、金髪はスゥッと息を吸って呼吸を整える。

口元に浮かべたのは、さっきまでの怯えとはまったく違う、整った笑顔。

 

「──3年後に、高専に入学予定の者です。一般出身です。

 ……あなたは、高専関係者ですか?」

 

「へぇ」

 

思わず口元が緩んだ。動揺をビンタ一発でリセットしてくるとか、ちょっと面白い。

呪術界のことは知ってるわけだ。ニヤッと笑いながら話を続ける。

 

「いきなり自分の頬ぶっ叩いて、頭イかれてんね?いや、褒めてるからな?」

「……」

 

いや、マジでやるじゃんこいつ。一般人だろ?

俺の中でこの金髪の評価が地味に上がってる。

 

「てか、もしかして初めて呪霊祓ったの?それで動揺したわけ?

んで、ビンタ一発で感情制御とか、一般人(パンピー)のガキんちょにしてはやるじゃん。

3年後ってことは中一?年下かよ。見えねー。オメー、絶対年上に見られるだろ?」

 

年上かと思ったら年下じゃん。

ますます俺の中で評価が上がる。ガキのくせにほんと、度胸あるな。

 

「──術式で呪霊を祓ったのは、初めてです。

……あなたは、誰ですか?」

 

真面目な口調で、警戒も露わ。

話せば話すほど、なんか警戒されてんな?

金髪の足が一歩、後ろに下がった。

 

「え? 俺のこと知らないの? 呪術関係者で?」

 

まぁ、一般出身なら俺のこと、まだ知らないか。

さて、どこから説明したもんか。ぼんやり考えていると、

 

「………あ……呪詛師……?」

 

その一言で、空気が凍った。

 

「はぁ!? 違うからな!? 俺は!!」

 

肩を震わせ、じりじりと後ずさる金髪。

いやいや、こんだけイケメンな俺が呪詛師なわけねぇだろ!

 

……って、ああ、そうか。名前も言ってなかった。

訂正しようと声を張り上げようとした瞬間。

 

パアアアーーーーーッ!!!

 

隣の大通りから、耳をつんざくクラクション。

ギギィッとタイヤが焼ける音と、ガシャアアン!と何かがぶつかる音。

──事故だ。

 

咄嗟に振り向いた俺の視界から──

金髪が、いなくなっていた。

 

「──あっ!!!?」

 

ビルの影に飛び込む金髪の背を、ぎりぎりの距離で捉えた俺は、即座に駆け出す。

 

──だが、その瞬間。

 

「ッ……!」

 

前方で、パァン!と閃光のような呪力が炸裂した。

 

まぶしい光と、呪力の強烈な気配。

思わず目を閉じながら、そのまま駆け抜ける。

目が良すぎる俺にはこの光はきつい。

 

「呪具か……!? ……チッ!」

 

煙のような呪力の残穢を掻き分け、路地裏の突き当たりに飛び込む──が、

 

「……いねぇ……!?」

 

そこには、誰の姿もなかった。

 

しんと静まり返ったコンクリの壁と、アスファルトの地面。

呪力の名残だけが、空気にふわりと漂っている。

 

「嘘だろ……さっきまで絶対ここに……」

 

慌てて六眼を全開にして周囲を見渡す。

──だが、見えない。

 

「……くっそ……上書きされたか……!」

 

さっきの閃光で、完全に撒かれた。

金髪の術式の痕跡も、呪力の流れも、閃光の呪具の残穢でかき消されてる。

 

「やられたな……完璧に……」

 

息を整えながら、その場に立ち尽くす。

 

ただの金髪のガキだと思ってたのに──

術式も、呪力操作も、精神力も、逃げ足も……全部、想像以上。

 

この俺を、欺いた。

 

「……っくく……最高じゃん、あのガキんちょ……!」

 

思わず笑いがこみ上げる。

 

ふと、あの横顔が脳裏に浮かぶ。

整った顔立ち。妙に大人びた態度。少しきつめの目つき。

──まっすぐな翠の瞳。

 

「高専入学予定、って言ってたな……」

 

俺はポケットから携帯を取り出す。

画面に映る“家”の番号に親指を滑らせながら、足を路地の出口へと向けた。

 

「調べるか。逃げたって──無駄なんだよ、オマエ」

 

にやりと笑って、コール音の鳴る携帯を耳に当てた。

 

 


 

 

家に帰ると、いつものように、七海と伊地知が勉強会をしていた。

 

テーブルの上には教科書とノート、そして二人分の温かい紅茶。

カゴには、母お手製のパン。今日はあんぱんとチーズパンか。

 

その静かな空間に、私はジャージ姿のまま突撃する。

 

母の作ったあんぱんと、冷蔵庫から拝借した牛乳を片手に持って。

 

「──大変です!!!」

 

「着替えてきたらどうです?」

 

宿題から一切目を逸らさずに、七海が即答する。

 

だが、私は聞く耳を持たない。むしろ声を張り上げる。

 

「五条悟と!!遭遇しました!!!駅前で!!」

 

「……は?」

 

バキィッ。

 

七海の手元で、シャーペンが見事な音を立てて折れた。

 

「五条さんって、あの噂の五条悟さんですか?」

 

伊地知が驚いたように訊いてくる。

 

呆然としている七海の手から壊れたシャーペンを受け取り、術式でさらっと修復。

ついでに、シャーペンの破片でうっすらできた手の傷も、なかったことにしてやる。

 

「駅前に、1級寸前の呪霊が出たみたいで。その討伐に来てたみたいです。で、鉢合わせました」

 

「ッ! 怪我は!? 本当に無傷ですか!?」

 

七海が身を乗り出して、私の体を食い入るように確認してくる。

 

「大丈夫です。宝石で倒そうか迷ったんですけど、練習がてら術式で祓いました」

 

牛乳を一口。うん、冷えててうまい。

 

「……そしたら、それを見てた五条さんに声かけられました。

視線がっつり合いましたけど、記憶取り戻しませんでしたね。

その後、術式、完全に見抜かれて。根掘り葉掘り訊かれました」

 

その瞬間、七海が無言で天井を仰いだ。

 

──絶望、諦め、疲労。あらゆる感情がごちゃ混ぜになった顔。

 

「……あの人、記憶もないのに潔乃さんに執着しすぎでしょう。呪い的なものを感じます」

 

「その言い方、マジでありそうで怖いからやめて……」

 

私は苦笑しながら、あんぱんにかじりつく。

 

「……とりあえず、まだ五条さんの顔、まともに見れそうになかったんで、術式使って逃げました」

 

「五条さんって、強くて優秀なんですよね? どうやって逃げたんですか?」

 

伊地知が不思議そうに首をかしげる。

 

「ちょうど交通事故があったんですよ。それで一瞬、意識が逸れた隙に逃げて。

呪力宝石で目くらましして、近くのビルの外壁壊して中に入って……まあ、ごまかしました」

 

「それ、より一層目をつけられるやつです。五条さんの性格的に」

 

「ですよねー」

 

……うん、分かってた。

でも、あまりにもエンカウントが早すぎたせいで、つい反射でやっちゃったんだよ。

 

五条は、優秀な術師が好きだ。しかも、自分が最強って自覚もある。

出し抜かれて、今頃怒りつつ──たぶん、めちゃくちゃ楽しんでるんだろうなぁ。

 

「……とりあえず、近々“本襲来”があると思うので、覚悟はしておきます……」

 

七海が、そっと紅茶を口に運び──そして、静かにテーブルに置いた。

 

「高専まで関わりたくなかったのに……」

 

ぽつりとこぼすその声には、深いため息が混ざっていた。

 

「私は、五条さんのことは信頼も信用もしていますが──

潔乃さんのストッパーをしてくれていたこと以外、尊敬はしていません」

 

なんだよその言い草。

 

「私が五条さんのストッパーだったって、何度も言ってるじゃないですか!!」

 

ぷくっと頬を膨らませながら抗議すると、七海はわずかに肩をすくめた。

これ以上、七海に言っても無駄だな。諦めて話を進める。

 

「……とりあえず、高専にはこちらから連絡しておきます。

“若い呪詛師っぽい人物と遭遇した”ってことで通報しておきます」

 

「五条さんの存在を、我々一般人は“知らない”ですからね。その方がいいです。

でも……五条さん、怒りそうですね」

 

怒った五条の姿を想像したのか、七海が小さく笑った。

一方で、五条と前世で接点のなかった伊地知は、あまりピンと来ていないようだった。

 

──だから、私は忠告しておく。

 

「……多分、私つながりで、潔高も近いうちに会うことになるけど──

気をつけてね。あの人、ノンデリだから」

 

「ノンデリ……?」

 

「悪い人ではないんだけど、色々キツイ人なんだよね。

ナチュラルボーンで人の心抉ってくるし、特にこの時期の彼は、純粋培養でキレッキレな頃だから」

 

「……私、そんな人と一緒に学生生活送ることになるんですか……?」

 

伊地知が呟いたその声は、わりと本気で沈んでいた。

 

 

ちなみに、この後。

私は一応、高専に連絡した。

「駅前で不審な呪詛師っぽい人物と遭遇した」と。

 

電話口に出たのは、夜蛾だった。

 

事務的な確認のあとで、相手の特徴を訊かれたので、ありのままを答える。

 

「えーっと、真っ白な髪の毛で、サングラスしてて……

中学生くらいの年齢に見える子供でした」

 

──その瞬間だった。

 

一拍の沈黙。

電話口の向こうで、明らかに言葉を選んでる空気が漂った。

 

そして、抑えた声で夜蛾が答える。

 

『……彼は、高専に所属している術師だ。問題はない』

『少々……古い家系の出身なせいで、世間的な感覚とズレている。害意はないはずだ』

『もし次に出逢ったら、普通に接してくれ』

 

──言い回しの一つひとつに、滲む“いろいろ察してくれ”感。

 

電話越しでも分かる、夜蛾の声の奥にある微妙な苦労と、ささやかな諦め。

苦労してるね………そう思いつつそっと電話を終了した。

 

 


 

 

あれから数ヶ月──季節は移ろい、秋の気配が漂い始めた。

 

五条悟の“本襲来”に怯えていた日々も、今ではすっかり過去形である。

だって、あれから一度も姿を見せていない。

 

……いや、絶対調べてるよ? あの人のことだから。

私の素性も生活圏も、家族構成や交友関係、趣味なんかも、きっと根こそぎ調べ上げてるはずだ。

 

にもかかわらず顔を出さないってことは──

 

①東京に来る機会がなかった

②普通に繁忙期で忙殺されてた

③忘れた(これはない)

 

──たぶん②かな。

 

昨年は災害もテロも多かったせいか、この夏の呪霊の発生は多かったようだ。

呪術界にまだ直接関わってない私の日常の範囲でも、呪霊の気配が嫌なくらい漂ってた。

街の空気がずっと重かったし、呪術師的には祓除祭りだったのかもしれない。

 

私はといえば、地味に女子中学生活を満喫する方法をやっと見つけた。

結局また入っちゃったんだよね、バスケ部。

 

最初は様子見のつもりだったんだ。

でも──

 

『うふふあはは、お姉様ごきげんよう』な空間じゃなかったのは、本当に救いだった。

 

顧問も部長も真面目寄り。

ガチ勢ってほどじゃないけど、ちゃんと鍛えてくれるし、規律もある。

ゆるふわな“お遊び部活”かと思ってたら、意外としっかりしてたんだよね。

 

で、そんな中に他校からスカウトが来てた私が入ったら──そりゃ、やる気出るよね。

……気づいたら、またレギュラーになってた。

で、何故か“王子”扱いされてた。

 

……いや、むしろ好都合。

 

「ごきげんよう」だの「お姉様」だの、言ったり言われたりするくらいなら、

“王子様扱いされて遠巻きに見られる”ほうがまだマシ。ずっとマシ。

 

多分、今の学校での私は、高専時代の七海みたいにそっけないんだと思う。

別に意図してそうしてるわけじゃないんだけど……

結果的に七海トレースみたいな状態になってるの、ほんと笑う。

 

まぁ、1番の原因は──身長だろうね。

 

この2、3年でぐいぐい伸びて、今では177センチ。

どうやらやっと打ち止めらしい。

 

デカい。とにかく、デカい。

 

今じゃ、七海も伊地知も見下ろす形になった。

伊地知はこのままずっと見下ろせると思うけど、七海はそのうち抜かれる。

確か180センチは超えてたはずだし。

 

でも、現状では私の方が物理的に“上から目線”できるので快適。

地味に……いや、かなり楽しい。今だけの特権だし!

 

フィジカル的には大当たり。だが、親には迷惑かけた。

制服は中学入ってから、すでに1回サイズ変更した。ごめんお父さんお母さん。

 

ちなみに──

 

出るところも出てきた。

 

──そう。

胸ができた!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

寄せて上げなくても!

背中の肉を「あなたはおっぱいよ」と言い聞かせながら寄せ集めなくても!

 

ブラの中に谷間が……自然発生!!!!

 

これはもう進化だろ。

あの日、鏡の前で「嘘だろ」って二度見したのを覚えている。

人間、努力すれば育つんだね……ありがとう女性ホルモン。

 

──でも、喜びはそう長くは続かなかった。

 

重い。でかい。肩が凝る。

 

しかもバスケの試合中に揺れて、走るたびに邪魔をしてくる。

え、待って?これほんとにいる?実用性なくない?

 

……正直、おっぱいって

セックスの時以外いらなくね?

いや、授乳の時も必要だけど、あれは勝手にあの瞬間だけブーストかかって巨乳化するから除外ね。

 

──って、思ってしまった自分がいた。

 

 

なんなら伊地知潔乃の頃の、あのちんまりとしたちっぱいが、今ではちょっと懐かしいくらいである。

何もないフラットな胸にブラトップやら、スポブラだけで、気楽だったなぁ、あの頃。

ジャンプもダッシュも軽やかだった……ほぼ揺れなかったし。畜生。

乳揺れって言葉が存在しなかった。

 

今じゃ、揺れるたびに「すみませんちょっと黙っててください」って胸に言いたくなる。

しかも最近、脳内に住み着いているイマジナリー五条に

「なんか、豊かになったよね……?以前より」

ってニヤニヤしながら言われて、脳内で顔面ぶん殴りそうになった。

お前は一生黙っててろ。思い出の中でじっとしていてくれ。

ていうか消えろ。私の脳内から。

 

んなこんなで、私は今日も部活に汗を流しながら、

五条悟の“本格再登場”に怯えているのであった。

 

きっとそろそろ来る。

夏の繁忙期も終わって、冬の繁忙期の間の空白期間だ。

この数ヶ月の間で心の準備はできたから、普通に話せると思う。

だから大丈夫、と思いつつ、

──たぶん、斜め上なタイミングで来る気がしてならない。

 

 

今日の部活動が終わった。

 

今日は追い込み気味のメニューだったけど、きっちりやり切った。

シャワールームで汗を流し、制服に着替えると、ようやく一息つける。

こういう時、私立校の設備の充実さはありがたい。

 

さっぱりしたし、今日はちょっと寄り道でもして帰ろうかな……

 

部活仲間たちに手を振って別れ、電車に揺られて帰路につく。

最寄駅で降り、母に「1時間くらい遅くなる」とだけメール。

ついでに「何か買って帰るものある?」と付け加えると、即座に返信がきた。

 

『駅前のカフェのケーキ、家族分と伊地知君の分もね』

 

はいはい、了解。

 

これはもう、私が寄り道する気満々なことを母にバレている証拠だ。

察しが良すぎる。

そして、今日も伊地知いるのか。晩御飯食べてくんだろうな。

 

そのまま駅前のカフェに入り、カウンターで注文をする。

コーヒーと、季節限定のさつまいものタルトケーキ。

そのまま2階席に上がり、窓際のカウンター席に座った。

 

ここから外の人の流れを見るのが、楽しいんだ。

 

熱いコーヒーを一口。

ふぅっと息を吐いて、ガラス越しの景色に視線を移す。

 

夕方の駅前は、仕事帰りの人や買い物客、学生たちでごった返している。

その流れを、ただ何となく眺めているだけの、ささやかな幸せ。

 

隣に男性客が座ってきた。

混んできたからかな。隣に一つずれようかな。

そう思った瞬間だった。

 

「……よぉ、久しぶり」

 

聞き覚えのある声に、息が詰まった。

 

驚きと嫌な予感が一気に押し寄せる。

ゆっくりと視線を横に向けると──

 

そこには、カウンターに頬杖をついて、ニヤニヤ笑う五条悟がいた。

 

「っと、逃げるなよ? 七海潔乃」

 

反射的に身を引こうとした私に、ピシャリと釘を刺すようにそう言った。

 

……はい、確定。

 

こいつ、徹底的に調べてきてる。

 

いや、そうなるとは思ってたけど!!思ってたけどさ!!

 

ていうか私、夏油にもターミナル駅のカフェで似たような感じでカウンター隣に座られてたよね!?

あの時も逃げ損ねて──最終的に百鬼夜行まで付き合わされたんだが!?!?

 

……もうダメだ。次からカウンター席はやめよう。私にとって鬼門すぎる。

 

「お前のこと調べたはいいけどさ、あれからこっちもクソ忙しかったんだよねー。繁忙期でさー」

 

季節限定のさつまいもフラペチーノをずずっと啜りながら、まるで旧友に話しかけるような調子で続ける五条。

数ヶ月会わないうちに、声変わりも終わったらしい。

懐かしいあの頃の五条の声と同じだ。

思わず現実逃避でそんなことを考える。

 

「高専に入学予定って聞いてたから、すぐに情報出てきたしさ。

あと、お前……俺のことを夜蛾に聞いたんだって?」

 

あー夜蛾が話したのか。まぁ、そりゃ話すよな。

 

サングラス越しに、世界で一番綺麗で──世界で一番怖い、六眼と視線があう。

相変わらず綺麗なキラキラの目をしてるな。

またこの目をこんな間近で見ることになるとは。思わず感傷に浸る。

 

「なにこれくらいでビビってんの?この前は呪霊倒して、俺のこと撒いて逃げたじゃん?」

 

うるせぇわ。

さっきから、指向性のある呪力をピリピリと叩きつけてくるから、こっちも落ち着かないの!

 

「そんな呪力叩きつけられたら、普通怯えると思いますが?」

「そんなタマじゃねーだろ。しかしオマエ、また身長デカくなった?」

 

本当ノンデリだな!!!イラっとしながらサツマイモのタルトにフォークを刺す。

 

「なにしにきたんです?」

 

タルトを割って口に運びながら、イライラと吐き出す。

なんかイライラのあまり七海みたいな口調になってるなぁ。

 

「あんなことしといて、それはねーんじゃね?知ってると思うけど、俺、五条悟だぜ」

「その五条悟ってのが、古い家ってこと以外わからないですね。権力者の家系って認識であってますか?」

 

知ってる。

知ってるけど、知らないふりをして応戦する。

 

「くーこれだから一般人(パンピー)は。五条家ってのは呪術界の御三家の一つ。トップオブトップってわけ」

「へー」

「興味ねーだろオマエ」

「わりかしないですね。あー、だからか」

 

「……は?」

 

「トップオブトップのお坊っちゃまを、“ちょっとやり込めた”のがそんなに癪だったんですか?

 嫌味言いに来るとか、案外、俗物なんですね」

「あ゛?」

 

サングラスの奥から睨まれて、背筋にピリリとくる圧。

けど私は、ひと口タルトを飲み下しながら肩をすくめる。

 

「実際そうじゃないですか。なにも知らない、ただの一般人なんですから。そんなに睨まないでください」

 

懐かしい。この“圧”。

強烈な意志と、自分が“最強である”ことを疑っていない、あの重圧。

でも、これはまだ“子供の五条”だ。

大人の頃に比べれば、殺意も練度も未熟。

肌がビリビリして落ち着かないけど、まだ耐えられる。

 

「ちっ」

 

呪力の圧を受け流す私に、五条はあからさまな舌打ちをした。

……効かないと分かった時の、五条悟の反応だ。

 

「……お前の術式、だいぶ珍しかったからな」

 

ふいに、五条の声色が変わった。

それまでの軽薄さがすっと引いて、静かな、けれど確かな重みが滲む声。

 

「今日は、“警告”に来た」

 

「……警告?」

 

フォークを持つ手が、自然と止まる。

さつまいもタルトの甘さも、カフェのざわめきも、ふっと遠くなった気がした。

 

「お前は一般人だし、知らなくて当然だけどさ──

呪術界ってのは、マジで腐ってんのよ。闇深いなんてもんじゃない」

 

それは、からかいでも、脅しでもなかった。

淡々とした口調の中に、五条悟の“本音”があった。

 

「“時間操作”なんて術式、もしもバレたら……

どっかの旧家に攫われて、子作りマシーンにされるぞ?」

 

「…………」

 

息が詰まる音が、自分の喉から漏れた。

 

「そういう“呪術的価値”が高い女ってのはな、もう“商品”なんだよ。

術式がレアならそれだけで、“価値”がつく。そしてオマエは美人だ。

意志とか人格とか、そういうの、マジでガン無視される」

 

五条の言葉は、実感がこもっていた。

実際に五条家にいて見てきたんだんだろう。

そういう、どうしようもない現実を。

 

「……なんで、それを私に?」

 

気づけば、そう訊いていた。

──五条悟が、私なんかに、こんなに真剣になる理由が、わからなかった。

 

「……………同年代で、俺をやり込める奴なんて、いねーんだよ」

 

苛立ちを押し殺すような声音だった。

 

「しかも一般人(パンピー)。家の力も後ろ盾もない。

──そんな奴に負けたまんまで終わるとか、俺のプライドが許さねーのよ」

 

そこまで言ったところで──五条の顔が、ぱっと明るくなった。

 

「──というわけでだ!」

 

と、突然前のめりに詰め寄ってきた。

 

「お前、俺から逃げた時の詳細を話せ!!なぁ、どうやって逃げた?

あの呪具、なんなんだよ!?閃光玉みたいなやつ!俺、あんなの見たことねーぞ!!」

 

──うわ、めっちゃワクワクしてる顔してる。

 

ぐいぐい距離詰めてくるそのテンションに、思わず私は小さくため息をついた。

 

あー……やっぱ、こっちが本命だったか。

 

警告とか、忠告とか、いい感じの雰囲気を装っておいて、

結局コレだよ。根っこのところで「すげーの見た!教えて!」っていう、ただの超大型好奇心。

 

「……今までの警告とか全部前振りってことですね。軽蔑します」

 

冷ややかに言い放ったつもりだった。けれど五条は、まったくこたえた様子もなく、むしろ嬉しそうに身を乗り出してきた。

 

「いやいやいや、違う違う。“ついで”に決まってんだろ?俺、お前の術式とあの呪具、マジで興味あってさ! 誰にも教えてないだろ、あれ?」

 

めちゃくちゃ六眼を輝かせて詰め寄ってくる。

 

──その目、その顔、そのテンション。

 

大人の五条でも何度か見たわ、その“理性より好奇心”が勝った顔。

 

「高専に位入学する兄と、幼なじみにしか教えてないですけど……」

 

そう返すと、五条の動きが止まった。

ふざけた口調はそのままだけど、六眼の奥が静かに警戒の色を宿す。

 

「その兄と幼なじみは、信用できる奴?」

 

五条の目が鋭くなり、確認モードだ。

 

「命をかけて縛っていい。そういうレベルで信頼できます」

 

だから断言しておいた。

あの二人は、私がどれだけ姿が変わっても、変わらず信じてくれた人たち。

裏切られて死んだとしても、それすらも後悔しないと断言できる相手だ。

 

私のキッパリとした返答に、五条はふっと息を吐いた。

 

「……なるほどね」

 

納得した顔。そして、目を細めて、にやっと口角を上げる。

 

「縛りは知ってるわけか。オッケー。じゃあ──俺と縛り、結ぼうぜ」

 

そのまま、すっと顔を近づけて、悪戯みたいに続ける。

 

「俺はお前の術式を黙ってる。その代わり──お前は“あの日”の詳細、俺に全部教えろ」

 

にやっと、白い歯を見せて笑いながら言ってくる五条に、私はフォークを持ったまま硬直する。

 

「……は?」

 

「俺はオマエの術式を黙っておく。もちろん、高専にも報告しない。

代わりにオマエは、あの日のことを俺に全部話せ。呪具の詳細も、術式の起動条件も、逃走経路も、なーんもかんも全部」

 

硬直している私に対して、丁寧に縛りの内容を説明した後、

ぐいっとカウンターに肘をついて、私の顔を覗き込んでくる。

 

「俺の六眼を欺いたんだ。責任取って、正直に白状しろって話」

 

はあああああああ!?

 

「縛りって命にかかることもあるんですよ?本気ですか???」

 

声が少しだけ上擦った。

 

「マジで本気。俺の前で、あんな術式見せて、逃げ切ったんだぜ?

……あれ見て、追求しない方が俺的にはまずいと思うけど。

オマエのこと殺して潰してもいいんだけど、流石にね?」

 

笑いながら、さらっと言うなや。

でも──本当に、できる人間だから怖い。五条悟という男は。

ヒヤリと、空気が冷えた気がした。

まるで、見えない刃がぴたりと首筋に添えられたような圧。

確かに、五条家的にはそうだろう。六眼と無下限を出し抜いた女なんて怖くてしょうがない。

 

「怯えんなって。俺はそういうの好きじゃねぇの。

だから把握して次は同じ轍を踏まないように潰したいわけ」

 

なんだよそのフォロー。フォローになってねえよ。

理屈はわかる。だけど感情がついていかない。

 

「………最悪だ」

 

状況的に、こちらに拒否権などない。私は頭を抱えるしかなかった。

深々とため息をつく。

 

「……縛り、結びます……」

 

ニッと、笑って、五条は手を出した。

 

「じゃ、契約成立──ほら」

 

私はその手に、自分の手をバシンと音を立てて重ねた。

空気が、ぴりりと張り詰めて、魂が何かに縛られる感覚。

呪術的な“縛り”が成立した瞬間だった。

 

「……よっしゃ、じゃあまずはあの日の話からよろしくな。

あとでメモ取るから、待って。めっちゃ聞くことあるんだ」

 

「それは“尋問”って言うんですよ……」

 

こうして、五条悟との“面倒くさい縛り”が、成立してしまったのだった。

 

 

 


 

 

 

主人公

 

RTAの最速ルートのように五条と再開してテンパって逃げた。

そんなことしたら興味を持たれるのは分かってたけど、どうしても無理で逃げた。

結果、後日捕まるのは当然の流れ。

女子校で暮らしやすくする方法は王子になることだった。これでだいぶ楽になった。

バスケを再開して、身長がぐんぐん伸び177センチ。

流石にデカくなりすぎて洋服選びに今後困る。

男物の服を身につけるようになって、スタイルはいいのに、ますます美形男子化に拍車がかかる未来が待っている。

カフェのカウンター席は鬼門。その場所で、この度、五条と再会し、縛りを結んだ。

あっさりと縛りを結んだが、

前世で五条と仲良くなったきっかけが呪力宝石がバレて五条の庇護に入った経験があるから。

若い五条だけど、魂は変わらない。この時期の五条に対しても信頼度は高い

 

 

 

五条悟

 

出し抜かれて興味マシマシの術式マニア。

速攻で調べまくって情報は手に入れたが、繁忙期でなかなか会いにいけなかった。

この日は東京の任務をこなして、夕方前から実は駅前で待機してた。

前会った時よりデカくなってるし、大人っぽくなってるなー本当に中一?とか思ってる。

ノンデリの極み。

会話のノリも合うし、術師としても強そうだし、何より俺の圧を受け流す豪胆なメンタルが気に入った。

縛りを結んで強引に術式などを聞き出すことにしたが、交換条件として術式はバラさないし、

きちんと庇護化に置いて守ろうと思ってる。約束は守る男。

 

 

 

七海建人

 

五条と出会ったと聞いて無量空処くらった。

早い早すぎる。後3年は自由な時間が欲しかった。

主人公と五条が出会った時点で、平和な時間は終わった。

絶対にこの家に来る。と確信している。

 

 

 

伊地知潔高

 

五条の話を聞いて首を傾げた。会ったこともないので実感がない。

だいぶ気難しい人みたいだけど、と首を傾げてる。

ノンデリの五条にいじられまくる未来はすぐそこだ。

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