とある転生者、2周目   作:kotedan50

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if 転生者、百鬼夜行に参加する https://syosetu.org/novel/408095/47.html からの分岐。

中学3年①

・伊地知ポジション成り代わり(伊地知の双子の妹)だった転生者、
 七海建人の双子の妹で、まさかの2週目
・オリキャラ出ます
・激しい捏造、妄想含みます
・ネタまみれです


転生者、またもや縛りを結ぶ

「潔乃先輩、今日はハロッズのNO.14にスコーンなのじゃ!黒井が焼いたスコーンは最高なのじゃ!」

 

キラキラと目を輝かせながら、天内理子がスコーンの皿を差し出してくる。

その隣で、付き人の黒井さんがふわりと柔らかく微笑んで「どうぞ」と私に促した。

 

……この光景、最近ではもうすっかり日課のひとつになっていた。

 

あれから私は、正式に“星漿体”天内理子の護衛を仰せつかった。

しかも任命したのは天元本人。

薨星宮にいながらにして日本全国を見通せる力のある天元。

おそらく天内が、私にやたらと懐いている様子を察知したんだろう。

原作でもあったあの“天内理子の要望には全て応えよ”が、今まさに現実となって私の生活に降りかかっている。

 

──まあ、こちらとしては好都合。どう接触しようかと思ってたし。

 

というわけで、私は「廉直女学院中等部」を卒業するまでの1年間、天内理子の護衛を務めることになった。

今日はちょうど部活も休みだったから、護衛という名目で彼女の住む高級タワマンに顔を出している。

 

「いただきます」

 

そう口にして、目の前のスコーンをフォークで割る。

サクサクと軽やかな音。断面にふわりと湯気が立つ。

 

そこにクロテッドクリームをたっぷり乗せて、ぱくり。

 

「くぅ……おいしぃ……」

 

思わず声が漏れた。

 

──くそっ。黒井の作るスコーン、やっぱり美味しすぎる。

 

しかも、バターたっぷり・砂糖もしっかり。

どれもこれも見事なまでにハイカロリー。

“伊地知潔乃”時代は酒はいくらでも飲めたが、油物に弱かった。

満足するまで食べると、翌日悲惨な目に遭った。そりゃースリムだったさ。

酒をしこたま飲んだあと、二郎系ラーメンを決めた翌日、胃痛で一日中苦しんだ。

あの五条にすら心配されたけど、ラーメンの油に負けたなんて言えなくて、必死で誤魔化したのは忘れられない。

話を戻すと今の私は違う。七海潔乃、胃腸強靭。そして運動部でカロリー消費も激しい。

無限に食べられてしまう。

……つまり、簡単にお肉がつく。

 

しかも今日は部活もない。エネルギーは消費されず、全て身体に蓄積される未来しか見えない。

 

……だめだ。2個目は食べてはいけない。意志を強く持て私。

紅茶をひと口。No.14の華やかな香りが鼻に抜けて、スコーンとよく合う。

さすがハロッズ。焼き菓子に合うよう計算され尽くしてる。

 

「潔乃先輩、このいちごジャムも合わせると美味しいのじゃ! 黒井の手作りなのじゃ!」

 

──お願い、やめて。

そのキラキラの笑顔で誘惑しないで、天内。

あなたはまだ成長期だけど、私はもう……縦より横に伸びる未来のほうが濃厚なんだ。

 

「理子様と一緒に作ったジャムなんです。七海様に食べてもらうんだと、朝から張り切っていました」

 

黒井さんの穏やかな追撃が飛んでくる。

 

「黒井! ばらすでない!!」

 

真っ赤になって抗議する天内。

 

──こちらも食べないなんて、無作法というもの。

 

「……そっか。じゃあ、いただこうかな」

 

観念するように息を吐き、新しいスコーンに手を伸ばす。

ふたを開けると、甘酸っぱい香りがふわっと鼻をくすぐった。

 

──晩ごはんはサラダにしよう。

 

ぱくりとひと口。

 

「……あ、これ……」

 

口の中に広がるいちごの甘みと、スコーンの香ばしさ。

黒井さん、一流すぎてやばい。ハロッズのカフェで食べるより美味しいんですけど。

 

「美味しいのじゃろ!? ふふん!」

 

誇らしげに胸を張る天内に、私は思わず笑ってしまった。

 

……うん。まあ、いっか。

 

顔見知りになるために強引に関わったこの任務だけど、私はこの時間が嫌いじゃない。

運命を変えるため──それもあるけど、それ以上に、天内も黒井も、人として好きなのだ。

 

前世もそうだったけど、私は距離を置こうとしても、一度関わればすぐ情が移ってしまう。

守りたくて仕方がなくなる。

前世では、接点すらなくて見捨てるしかなかった。けど、今回は違う。

私は彼女たちを助けられるチャンスがある。

 

「潔乃先輩。今日こそマリカーで黒井を倒すのじゃ!」

「負けませんよ理子様、七海様」

「黒井さん、どこで鍛えたんですかその腕……」

 

……マリカーやりながら決意しても、締まらないよね。うん。

 

黒井さん曰く「マリカーはSFC版が至高にして最高」ということで、使用機種はまさかのスーファミ。

懐かしのドット画面で、毎回真剣勝負を繰り広げている。

 

そして、黒井さんのテクニックがガチすぎる。

 

コースはすべて頭に入ってるし、ロケットスタートもミニターボも完璧に使いこなす。

この人、絶対ゲーマーだわ……

 

そんなこんなで、“護衛任務”らしからぬ日々を、私は今、楽しく過ごしている。

 

 


 

 

「七海、お、伊地知もいるじゃん」

 

高専に入ったはずの五条が、唐突に七海家に現れたのは6月の月末頃だった。

七海の母に出迎えられたあとは、もはや放置。ほぼ顔パス状態だ。

今日も母に挨拶をしたら、いつものように「どうぞ2階に上がって」と言われたのだろう。

五条が当然のように部屋に上がり込んできたのを見て、七海はため息をついた。

 

「お久しぶりです。高専入学、おめでとうございます」

「おう!」

 

懐かしい高専の制服姿の五条に、七海はわずかに感傷を覚えつつ、落ち着いた調子で挨拶を返す。

伊地知も「おめでとうございます」と頭を下げ、五条は嬉しそうに笑った。

 

「今日はどうしたんですか? 高専はこの時期、繁忙期のはずですが」

「そう繁忙期。任務で近く通ったから顔見に来たんだよ。あと、こいつら紹介しようと思ってさ」

 

そう言って、入り口で立ちっぱなしだった五条が一歩横にずれる。

その背後から現れたのは──懐かしい顔ぶれだった。

 

五条に負けないほどの長身。お団子頭にボンタン姿の男。

隣には、タバコを咥えた泣きぼくろの美少女。

 

思わずポカンとする七海。

 

「俺の同級生、夏油傑と家入硝子。お前らの先輩になるからな」

「よろしく。夏油傑だ」

「家入硝子。よろー」

 

まさかのご登場に、七海は面食らった。

伊地知は完全に萎縮している。そりゃそうだ。

ボンタンの巨漢に咥えタバコの女子、しかも学生服。

2人も別な種類の威圧感があり普通の人間なら萎縮する。

 

──ていうか、母の前ではそのタバコどうしてた?と七海は内心苦虫を噛み潰す。

 

「七海建人です。来年高専入学予定です。よろしくお願いします」

「あっ、再来年入学予定の伊地知潔高といいます。よろしくお願いします」

 

七海が諸々の感情を飲み込んで冷静に挨拶を返すと、伊地知もはっとして頭を下げる。

ちらりと伊地知が七海を見る。『これが、あの夏油傑?』と目で問い、

七海は軽く頷いて返した。

 

「悟が“可愛い”って言うわりに、ちゃんとした後輩たちじゃないか」

「ホント、どんな問題児かと思ったけど」

 

真面目に応対する七海と伊地知を見て、夏油と家入は肩の力を抜いたように笑った。

からかい混じりの言葉にも悪意はなく、純粋に後輩になる予定の七海と伊地知との出会いを喜んでくれているのがわかる。

 

──ああ、そうだ。

夏油は、本来はこんな性格で、本当は優しい先輩だった。

 

七海は懐かしい気持ちを噛みしめながら、目の前の二人をじっと観察する。

視線の動きや言葉の選び方、笑い方……それらの所作から見て、この二人にはまだ記憶は戻っていないと確信した。

 

そこへ、七海の母が「どうぞ」と紅茶を運んでくる。

人数分のティーカップと共に、焼きたてのクロワッサンを乗せたバスケット。

それを置いてにこやかに去っていった。

その時に、サッとタバコを隠している家入は流石だ。

 

本日のパンは、塩クロワッサンと、チョコレートクロワッサン。

一緒に焼いたのか、クッキーもあり豪華仕様だった。

それを食べつつ、ゆるやかに始まる4人の談笑。

お互いのこと、高専のこと、中学のこと、真面目な話から、くだらない雑談まで。

 

前世でもこうして先輩たちと他愛ない話をする時間が、七海は実は楽しかったのを思い出す。

前世での苦い記憶が霞んでいくような、不思議な感覚だった。

 

そして伊地知。

原作とは違い、彼にとっては“はじめまして”の先輩たちであるはずだが──

その内気な雰囲気とは裏腹に、少し話し始めると案外すぐに打ち解けた。

 

「……それ、うちの学校でも流行ってますよ。昼休みにみんなで……」

 

パンを両手で持ったまま、柔らかく話す伊地知に、家入が笑顔で応じる。

夏油も興味深そうに話を聞き、自然と輪の中に入り込んでいた。

それを見て楽しそうな五条だったが、ふと気づく

 

「ところで、潔乃は?」

「ああ、最近は部活と勉強で図書館寄ってるらしくて、帰宅が遅いんですよ」

「いねーのかよ」

 

明らかにつまらなそうな顔をした五条に、夏油がくすりと笑う。

 

「悟の本命(お気に入り)の子ね」

「そんなんじゃねーよ!」

「拗ねててバレバレ。ウケる。ねえ七海写真とかないの?」

「ああ、それなら──あります」

 

七海が携帯を取り出し、ポチポチと操作して写真を選び、家入に手渡す。

つい先日撮った写真だ。カメラ目線で薄く笑っている。ちょっと大人びた雰囲気の潔乃。

すかさず、夏油も隣から覗き込んできた。

 

「うわ、美人。七海に似てるね」

「こりゃー悟が本気になるわけだ」

「だから、ちげーって!」

 

夏油と家入の様子を伺い、潔乃の写真を見ても特に反応がないことを確認する。

 

記憶が戻るとしたら潔乃さんと直接会った時か。

五条さんも記憶が戻らなかったので、おそらくこの二人も戻る可能性は薄い。

 

伊地知も同じことを考えていたのだろう。七海と視線があいお互いに認識が一致してることを視線で伝え合う。

七海が視線を二人に戻すと、勝手にぽちぽちと携帯を操作して写真を切り替えていく家入が目に入った。

 

──そう言えばこの人も、わりとクズ寄りだったな…

 

「妹と伊地知と……パンの写真ばっかだね」

「ウケる。って──うおお?」

 

軽口を叩いていた二人が、急に声のトーンを変える。

それまで無邪気に写真を切り替えいた家入の指がピタリと止まった。

画面には、日差しの下でセクシーなビキニを着た潔乃の姿が表示されていた。

 

少し濡れた金髪が額に張り付き、胸元の水滴が陽に照らされてきらきらと輝く。

やわらかくたゆんとした胸を包み込むトライアングルタイプの黒いビキニ。

下はローライズのサイドリボン。細い腰骨のラインが露わになり、結び目の隙間から覗く柔らかな肌が危うい。

きゅっと引き締まった細いウエスト。腰からお尻、太もものなだらかなライン。

明らかに成熟したシルエット。

 

「これは……なかなか」

「うん、なかなかだね……」

 

しみじみと舐めるように見て、ニヤリと笑い合う夏油と家入。

明らかに“鑑賞モード”に入っていた。

 

「は?」

 

低く、硬い声が部屋に響いた。

 

五条が画面を覗き込みながらフリーズした。

目は見開かれ、口元がわずかに引きつっていた。

 

「……ああ、今月頭にデンマークの祖父母の家に行ったときですね。

諸々の用事が終わったあと、ビーチに行ったんですよ」

 

七海が淡々とした声で補足する。

その冷静さが逆に、五条の混乱を際立たせた。

 

「俺、聞いてねぇけど!!」

 

五条が身を乗り出す。その勢いに驚いて、伊地知が思わず体を引いた。

 

「親族に不幸があったからデンマークに行くって話しましたよね?」

 

「チッ……!」

 

七海からの冷たい視線に、思わず舌打ちする五条。

もはや自分でも何に怒っているのか分かっていない。

 

「ていうか、後ろに裸の男いるんだけど? ウケるんだけど!?」

 

まだ画面を見続けていた家入が、吹き出しながら携帯の写真を拡大する。

画面に映っていたのは、だらしない腹を出して全裸で日光浴している現地のおじさん。

全てがフルオープンだ。

 

「デンマークは、公共の場で裸になることを禁じられていないんです。ビーチに全裸の人、普通にいますよ」

 

七海がさらっと解説すると、五条の目つきがに悪くなった。

 

「七海!この写真は削除だ削除!」

 

「なんでですか」

 

烈火のごとく怒り出す五条。そこへ──

 

「って、すご!!!」

 

再び家入の声が弾けた。

画面に表示されたのは、潔乃の──バニーガール姿だった。

 

黒のビスチェが豊かな胸元をぐっと持ち上げ、谷間はくっきり。

キュッと締まったウエストから流れるヒップライン。

黒の編みタイツに包まれた長い脚が、ハイヒールによってさらに強調されている。

 

うさ耳をつけたその顔は、ちょっとだけ照れ笑いをしててその表情が年相応のもの。

そのギャップがまた、破壊的。

 

「これは……去年の学園祭ですね。バニーガールカフェ、やってました」

 

「……え、中2でこのスタイル? えぐくない?」

「ミッション系スクールなのに!?なんて格好してんだよ!!」

「本人もやりたくなかったようなんですが、クラス全員でやるとのことだったで、諦めたって言ってましたね」

 

伊地知が当時、潔乃から聞いた状況を補足する。

 

「って、伊地知お前も知ってたのかよ!」

 

「え、あ、はい。学園祭呼ばれたので」

 

「俺呼ばれてねぇ!!」

 

伊地知の襟元を掴んで、ゆさゆさゆする五条。

 

「おっと、チアガール姿も発見」

 

ぽちぽちと操作していた夏油が、さらっと次の一枚を表示する。

それを見た家入が反射的に口笛を吹いた。

画面に映ったのは──潔乃のチアガール姿だった。

 

光沢のあるネイビーと白のツートンカラーのユニフォーム。

ノースリーブのクロップトップからは、引き締まったお腹と、うっすらと浮かぶ腹筋。

プリーツのミニスカートが跳ね上がり、太ももの付け根が一瞬覗く。

ちょうどジャンプの瞬間を捉えたその写真では、潔乃の胸が持ち上がり、健康的な色気が炸裂していた。

 

「──さっきからやべーだろこの学校」

 

五条が頭を抱える。

 

「去年の体育祭ですね。教師が普段厳格な反動で、行事になると全力で悪ノリするらしくて……」

 

七海の解説を楽しそうに聞きながら、次々と写真をめくる夏油。

家入と共に「本当にスタイルいいね」「ポージング完璧すぎん?」とノリノリだ。

 

続々と出てくる潔乃の写真。どれもが破壊力抜群だった。

 

水着に、バニーに、チア──

何気ないオフショットでさえ容姿とスタイルの良さで、グラビアのように見えてしまう。

潔乃が気に入ったベストショットを七海に送り付けてるので、その破壊力は当然だ。

ちなみに七海は送られてくるものを特に深く考えず、保存してるだけで、特に他意はない。

 

「ちょ、待って、傑!! 傑ストップ! もう見せるな!!」

 

「いや、勝手に見たのはあなた達ですけど」

 

七海が呆れたように言いながら夏油から携帯を受け取ろうとするのを五条が奪い取る。

そのまま画面を乱暴に操作し、例の写真を選択、迷いなく即削除。

 

ポップアップで『1件の画像を削除しました』の文字が表示される。

 

「ちょっと五条さん!」

「あんなエロいの兄でも持ってたらダメだろ」

「その写真、潔乃さんから直接もらったんですよ」

「俺はもらってねーつうぅの」

 

五条が拳を握って吠えるように言い返す。

 

「欲しいなら言えば、貰えるんじゃないですか?

……私に八つ当たりしないでくださいよ」

 

七海の冷静すぎる反論が、五条のメンタルにクリティカルヒットを叩き込む。

 

その光景を前に、夏油と家入はもう堪えきれない。

 

「悟も、っ七海も落ち着きなよ…くくっ……」

「兄に嫉妬してる五条ウケる」

 

ツッコミが止まらず、口を押さえて視線をそらしながら笑いを堪える夏油と、

 

膝をバシバシ叩いて前屈みで爆笑する家入。

 

一方その隣では、伊地知だけが「えっ、これ、どうすれば……」と小声で呟きながら、右往左往していた。

 

空気は──最高潮にぐちゃぐちゃだった。

 

 


 

 

え、なにこれ。

五条からのメールが意味不明すぎて怖い。

ビキニ? バニーガール? チアガール?

親族の葬儀で祖父母の家に行くとは話してたから、そこから海に行った話でも出たのかな?

バニーガールとチアガールは嫌々やらされた黒歴史で、話してなかったのに……

七海か伊地知がバラしたな?

 

学園祭も、家族以外の男性を呼ぶには手続きが必要だから、面倒で五条は呼ばなかったんだよなー。

五条も忙しくて東京来れるとは限らなかったし。

伊地知だけ呼んだの、まずかったか。

仲間外れにされるの、五条すごく嫌がるんだよなぁ。

 

とうとう五条からの着信が入り始めたので、

『電波が悪いことにして』電源を落とす。

 

今日は部活が休みだけど、天内のマンションには行っていない。

図書館にもいない。じゃあどこにいるのかというと──場外馬券売り場だ。

 

私は幸い、見た目が大人っぽい。

服を着替え、化粧をバシバシに決めて、ウィッグを被ってサングラスをかければ──

 

あら不思議、爆美女の完成である。

 

何をしに来てるかというと、資金稼ぎだ。

 

今回、まだ五条に宝石は流していない。

あれは稼ぎがいいが、自分の能力がバレるリスクも高い。

五条はまだ五条家を継いでいない。今はまだ高専に入学したばかりの青二歳だ。

本当に宝石の呪力効果について話すのは、少なくとも彼が3年になった頃。

かつての私が五条に能力バレした時くらいまでは引っ張りたい。

あの時の五条は次期当主としても動きはじめていて、権力も今より強かったはずだから。

 

──というわけで、今の私は限られた手段で金を稼ぐしかない。

 

私は昔から、記憶力が異常にいい。

全前世の記憶すら、いまだにしっかり残っている。

 

前世で「原作記憶が薄れないうちに」と、ドラゴンボールの二次創作風にして原作を書き起こしてみたことがある。

……が、記憶は一切薄れなかった。

なんなら原作の1シーンも事細かに思い出せる。

そして、出来の悪い二次創作(ドラゴンボール二次創作風の原作メモ)も、一文字一句しっかり残っている。

 

あのときの新鮮な羞恥心は、いまでも鮮明に思い出せる。

 

そのことに気づいた私は、「どれくらいで忘れるか?」と、新聞の内容を暗記してみる実験をしてみた。

──が、それもまったく忘れなかった。一字一句、完璧に覚えている。

 

前前世では、こんな記憶力はなかったはずだから……

これは転生特典かもしれない。ただ、嫌な記憶まで抜けないのが難点だ。

 

まるで世界から「全部忘れんなよ?」と圧をかけられているような気さえする。

とその当時、天を見上げたものだった。

 

 

 

さて、それがどうして金儲けに繋がるのかというと。

 

意味もなく覚えた中に、競馬新聞の内容が含まれていたからだ。

 

伊地知潔乃だった頃の両親は、ギャンブルに興味もなく、馬券を買うわけでもないのに競馬新聞を取っていた。

知り合いの新聞配達員に頼まれたらしく、当時は「お人好しすぎる」と思っていたけど──

今となっては、そのおかげで助かっている。

 

つまり私は、『勝ち確』の情報を持っている。

しかも、その中からピンポイントで──【万馬券が出る日】を知っている。

 

……それが、まさに今日のレースだ。

 

目的の三連単馬券をさっと購入し、すぐに女子トイレへ逃げ込む。

 

正直、あの場にいるとナンパも多くて、めんどくさい。

 

レースの結果が確定した頃に戻る。──払い戻しは98万円。

同じ馬券を複数枚に分けて購入していたおかげで、今日だけで1000万円近い儲けになった。

 

なんで一括で買わなかったかって?

──1回の払い戻しが100万円を超えると有人窓口に回されるんだよ。

そうなると、身分証明書の提示を求められる可能性がある。それは避けたい。

 

自動払い戻し機でサクッと現金化し、再度女子トイレに入り、

術式で服やカバンの見た目を変えてから、サングラスとウィッグを外し、

さらに別人として堂々とトイレから出た。

馬鹿みたいに儲けてるので用心のためだ。

 

さて、どこかの商業施設のトイレに入って制服に着替えてから帰ろう。

高専に入ったら、別人名義の口座も早めに作っておかないとな──

 

そんなことを考えながら、私はタクシー乗り場へと向かった。

そのまま近隣の大型ターミナル駅へ出て、改札内の女子トイレの個室でメイクを落とし、服を制服に戻す。

 

──ちょっと喉が渇いたな。

コーヒーでも飲んでから帰ろうか。

 

駅ナカのカフェに立ち寄ると、空いていたのはカウンター席だけだった。

カウンターは縁起が悪いんだけど……まぁ仕方ない。

 

そう思いながら席に腰掛け、アイスカフェオレを注文する。

私は最初はそのまま飲んでから、途中でシロップを足すのが好きだ。

味が二度楽しめるから。

 

少しだけ飲んでから、シロップを一つ追加する。

そのとき、隣の席にスウェット姿の大柄な男性が腰を下ろした。

 

──え、このターミナル駅でその格好? ヤンキーか?

 

視線を向けることもなく、カフェオレのストローを口にくわえる。

そのときだった。

 

「万馬券の嬢ちゃんが女子中学生とはな」

 

低く、ざらついた声が耳に届いた。

反射的に横を見て──その顔を認識した瞬間、思考が一瞬止まる。

 

伏黒甚爾──。

 

まさかの原作キャラ。

まさかのタイミング。

よりにもよって、ここで遭遇かよ。

 

カウンターに肘をついて、ニヤニヤと悪意を滲ませた笑みを浮かべている。

……畜生。やっぱりカウンター席は鬼門だった。ろくな目に遭わない。

 

伏黒甚爾。

天与呪縛による、フィジカルギフテッド。

こいつが本気で動いたら、今の私じゃまず逃げ切れない。

 

カフェオレをストローでずずっとすすりながら、私はわざと軽蔑を込めた目を向けた。

 

「いきなり、なんですか? オジさん」

 

女子中学生や女子高生がよくやる、「話しかけてくんな汚物」な視線。

──叩きつけてやる。

 

「廉直女学院か。いいところのお嬢さんだな、お前」

 

くぐもった声でそう言いながら、伏黒はニヤニヤ笑い続けている。

私は首をいぶかしげに傾げて、知らないふりをしてみせる。

内心は大焦りだ。

 

──まずい。

私のプランでは、伏黒甚爾と直接顔をあわせるつもりはなかった。

理由はシンプル。危険すぎるからだ。

 

原作を読む限り、こいつは金で動くタイプ。

だけど、冥冥みたいな「プロの契約者」ではなく、依頼人すら平気で裏切る危うさがある。

 

だから私は、直接接触は避けるつもりだった。

 

かつて伊地知潔乃だったとき、補助監督として情報統制に関わっていた私は、

それなりに裏社会へのアクセス方法も知っている。

 

それを活用して、星漿体の任務を潰すために……

 

暗殺依頼が失敗するように──仲介人を経由して、裏から伏黒甚爾を利用する計画だった。

 

伏黒甚爾に接触せず、うまく利用するためには金が必要だ。

その依頼料を稼ぐため、わざわざ今日みたいな万馬券を狙ったのに。

 

──なのに、伏黒甚爾と“直接”遭遇してしまった。

 

彼の出現率が高い競艇場や競馬場の“現地”は避けて、

わざわざ安全策で“場外馬券売り場”にしたというのに……。

 

……ああ、最悪だ。

 

「馬券当ててるのが美人のねーちゃんなのは別に良かったんだがな。

お前からは呪力の匂いがする。お前術師だろ?」

 

唐突な指摘に、心臓がひときわ強く脈打った。

まぁ、そうかバレるよな。場外馬券売り場から目をつけてついてきてるんだから。

 

「まだ正式には術師ではありません。来年から高専生ですよオジサン」

 

意識して落ち着いた声を出したけど、私が伏黒甚爾に勝てる要素なんて、何一つない。

どうやって切り抜ける?

 

「中学にも高専にもまずいよな?こんな荒稼ぎ方法は」

 

あぁ、そう。そういうこと。

私が呪術師と気づいて、脅しをかけて金を巻き上げに来たわけか。このクズ男。

そっちがそうくるなら、こっちも考えがあるぞ。

 

「別にいいですよ。私に何かあったら五条悟が動きますから。

私、懇意にしてるんで」

 

そう言って携帯を取り出し、電源を入れる。

写真のフォルダ開き、五条とのツーショット写真を何枚も見せつけるようにスライドする。

 

画面を見た甚爾が、眉をひそめ、目を細める。

一瞬の沈黙。読み通り、五条の名前には反応がある。

 

──追い討ちをかけるなら、今。

 

「オジサン禪院家の人でしょう?私でも知ってますよ。

呪力無しのフィジカルギフテッドが出奔したって」

 

顔を近づけてニィッと煽り押すように笑ってやる。

本当は知らないが、五条悟と仲良さげな写真をいくつも見せたから信憑生があるはずだ。

 

「やるじゃねぇか。ガキのくせに。

あーくそ、上手いこと金巻き上げようと思ったのによ。

五条の坊と懇意かよ。めんどくせぇ」

 

くくっ。ざまぁみろ。思った通り、五条の名前は切り札になる。

 

「オジサン、出奔して金欠なんですね」

「クソガキが殺すぞ」

「別にこのお金あげてもいいですよ。縛り結んでくれたら」

「は?」

 

甚爾が目を細め、明らかに警戒する。

だが構わず、私は言葉を続けた。

 

「だから術師らしく縛り結んでくれたら、あげるって言ってるんです。

これくらいなら、いつでも稼げるし」

 

術師らしく交渉を持ちかけニヤリと笑う。

 

「マジか………」

「縛りの内容は、『私に危害を加えない』『私が依頼をした時は優先して受ける』それだけです」

「………………………………」

 

しばしの沈黙。

私は微動だにせず、相手の反応をじっと見つめた。

ここが勝負所だ。今、言質を取れなければ、今後命が危ない。

 

「どうします?私は、別にどっちだっていいんですけど。

オジサンと縛りを結んだっていいし、もし私のことをバラしたり危害を加えるなら、

五条悟の威を、借りまくるだけですから」

 

こちらはどちらでもいいという、スタンスをとりつつ、相手を誘導していく。

伊地知潔乃時代にも、よくやった手法だけど、頼むから刺さってくれ。

 

「オメェ本当に中学生かよ……」

「見ての通り………ちょっと大人っぽいとか言われますけど中学生です」

「ふーーーん。いいぜのった。ガキの戯言に乗ってやる」

 

その瞬間、呪力で魂が拘束された感覚が走る。

お互いのあいだに“縛り”が結ばれたことを、お互いが知覚しニヤリと笑い合う。

競馬の儲け金が入ったスターバックスの紙袋を差し出すと、甚爾は中身を確認して目を細める。

「じゃーな」と手を振って、気ままに立ち去っていった。

 

……それを見届けて、私は深く、深く息を吐いた。

 

冷や汗が背筋を伝う。内心心臓はバクバク早鐘のように打っている。

あの男相手にここまで強気で通せたのは、自分でも奇跡だと思う。

 

今になって体が震えていた。

安堵と、張り詰めた緊張が、体から抜けていく。

 

そのとき、不意に携帯が震えはじめた。

見れば、画面には「五条悟」の文字。

 

──あ。

そういえばさっき、メールも着信も全部無視して、電源切ってたんだった。

 

忘れてた。

うわあ……めんどくさい……

 

 


 

 

 

主人公

 

天内理子の護衛の任務は、紅茶パーティーの後にマリカー大会になる。

正直楽しんでいたら、七海がヘマしたせいで、後日、五条からめちゃくちゃ怒られた。

え、なんで怒られるの?意味わからん。

そして、さらに天罰なのか、伏黒甚爾と出会った。

本当に寿命が縮んだ。

この後、場外馬券売り場で高頻度で会うことになるし、集られるようになる。

 

 

 

五条悟

 

夏油と家入を七海家に連れて行き、紹介した。

主人公だけいなかったのは残念だったが、とんでもない写真を見せられてぶちギレた。

主人公を夜伽の儀式に誘ったことを夏油や家入に話していたせいで、本命扱いされている。

本人としてはそんなつもりはない。

「主人公は主人公だろ」と主張していたが、今回の件で激おこ。

完全に嫉妬と独占欲による怒りだが、自覚はない。

主人公に「あんなことするな」「俺も呼べよ!!」と説教したものの、まったく響かず頭を抱えている。

 

 

七海建人

 

写真フォルダの大半がパンと伊地知と主人公の写真だったのがバレた。

夏油と家入に会って、懐かしさに感傷に浸っていたところ、五条が写真を見て騒ぎ出した。

「今さら何言ってんだ。組手や訓練で散々接触してただろ?」と内心ツッコミ。

結局、主人公の写真を五条に消され、ウザ絡みまでされた。

「欲しいなら欲しいって言えばいいのに」

さっさと告白して振られるか、くっついてくれ。めんどくさい。

主人公のことは妹として思ってはいるが、どうせ五条から逃げられないので放置モード。

 

 

 

伊地知潔高

 

話には聞いていた。呪詛師・夏油傑が目の前にいると最初は緊張したが、

すぐに善良な人と判断して警戒を解いた。人間誰しも踏み外すことがあるとわかっているので。

今の彼は『まだ』そうじゃないと。

そして美人の家入にちょっと見惚れていたら、写真の件修羅場になって右往左往して終わってしまった。

もう少し家入さんと話したかったな………

 

 

 

夏油傑&家入硝子

 

五条がよく話している後輩候補たちの家に行ったら、肝心の本命の子はいなかったけど

真面目で誠実そうな後輩二人と会えて良かった。

冗談混じりで本命の子と言っていたけど、五条の反応であ、これ本当に本命だ。

しかも、無自覚なやつとわかって笑いがとまらない。

本命童貞だからしょうがないね!

 

 

 

伏黒甚爾

 

場外馬券売り場に行ったら、場違いなくらいの美人がいた。

ヒモの癖でつい目で追っていたら、その美女がどえらい金額を払い戻してる。

こりゃ鴨にできると後をつけていったら、トイレから出てきた時には別の服になっていたし、微かな残穢も纏ってる。

さらに付きまとっていたら、メイクを落とした瞬間に「ちょっと発育のいい中学生」になってて──無量空処。

 

ガキなら脅して全部巻き上げてやろうと接触したが、いいようにあしらわれ、

挙句には縛りを結ばされた。

金は手に入ったが、あまりにも鮮やかにやられたので興味を持つ。

それ以降、場外馬券売り場で見かけた時はウザ絡みし、買う馬券を真似して儲けさせてもらっている。

おい、次のレースなんだよ、教えろよ!

 

 

 

 

 

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