Electriar Code 【夜明のスピカ】 作:鷹島 扇
エレクトリア関連事案
というのは文字にすれば簡単だが、エレクトリアの性質からその案件範囲は恐ろしいまで多岐に渡る。
超がつくほどの高性能端末であるエレクトリアは、基本的に持ち主の意志を最大限尊重する。
大前提は法令遵守、次に持ち主の意向、そこにエレクトリア自身の判断が加わるため安全性はかなり高いのだが…
盗撮、窃盗、ハッキング etc…
その高性能さと小ささから犯罪の幅がとにかく広い。
さらに中には初期設定や思考ルーチンを改変する事により悪質なルール違反を犯す者もいるためエレクトリアを利用した犯罪は後を絶たない。
そういった輩は近衛インダストリアルのサポート対象外となり、電源供給や修理パーツの供給が絶たれるため否応なく闇ルートへ手を出さざるを得なくなる…
メーカーとしては正しい措置だが、システム上どうしても負のループを招きやすい。
────そうした者を狩るのが、ミカの仕事。
大型複合商業施設 ラクロアール
ラクロアールは一般向けの衣服からエレクトリア関連商品まで幅広く取り扱っている大型のショッピングモールだ。
常設のバトルスポットが設けられており、模擬戦用のエレクトリアとバトルが出来る。
キャンペーンなどあれば、バトルで獲られたポイントを通常の買い物に利用出来るというお得さも魅力だ。
ミカ「今日も賑わってるわね。 客足が鈍らず何よりだわ。」
セレナ「エレクトリアの購入率にも大きな変化はないみたい。 経営戦略事業部とサポートセンターの尽力の賜物ね。」
パリッとした黒のスーツに身を包み、ミカとセレナが施設内を巡る。
巡回任務なので私服でもいいが、【近衛インダストリアル】の徽章(エンブレム)を着けた黒服と腕章を見せておけば大抵の悪人は姿を見ただけで逃げ出すだろう。
目に見える抑止力として、特別自警統括部の肩書きは非常に有効だ。
セレナ「─────(ミカ、14時方向のエレクトリアショップ、41m、大型な男性。 挙動がおかしい。)」
ミカ「…視認した。 エレクトリアは?」
肩に乗るセレナから通信が入った。
巡回する企業や施設の承認さえあればエレクトリアは監視カメラ映像やセンサーをリアルタイムで傍受出来る。
これ自体は特別珍しい事ではなく、一般の警備員とそれに付随するエレクトリアはこの方式で相互に情報を共有している。
そしてこの方式の利点は、
対象者に視点と位置を悟られない「秘匿性」にある。
モニターしているエレクトリアの視線は全くの別方向を向いていながら、口元も全く動かさず、情報だけを持ち主に通信出来るのだ。
セレナ「(感なし、エレクトリアは居ない。 …となればRoMの可能性があるわね。」
ミカ「(…RoMか… 面倒だな…)」
セレナからの通信を受け、目を細める。
彼女の言うRoMとは、Rejectioners-of-Machinaと呼ばれる「エレクトリア排斥」を訴える過激派集団、その略称だ。
どこの何がスポンサーに付いてるのかは不明だが、普通の過激派では考えられないほどの資本力と開発力を持ち、エレクトリアが絡むイベントや場所に現れては、破壊活動や抗議を行う危険な団体。
警察は勿論、近衛インダストリアル社からも最大の警戒を敷かれている。
もし、
万が一、
あの不審人物がRoMなら戦闘は避けられない。
私が"近衛インダストリアル"である以上、
"敵"とカチ合えば武器を抜かざるをえない。
ピピッ
端末を操作し、セレナの行動状態を「戦闘待機」にする。
エレクトリアは基本的に定められた領域内で、定められた権限内でのみ戦闘行動を行える。
(近衛インダストリアルの管理下であればほとんど許可されてはいるが)
セレナ「(対象まであと3m、コンタクト・レディ。)」
ミカ「…失礼します、近衛インダストリアル特別自警統括部です、今お時間よろしいですか?」
気配を殺し、対象に近付く。
背後から左手首を掴み、引き寄せる。
???「のあッ!?な…なんや…!?ワイは何もしとらんで!?」
ミカのアクションに、狼狽える大男。
振り向きざまに目に入った近衛の徽章に、更に驚いた顔を見せる。
ミカ「あら…? 貴方は確か… 鴨川 タツミ…?」
セレナ「顔認証の合致度99%、本人と見て間違いない。」
対面したその男の顔に、覚えがあった。
確かにこの男はRoMだ、いや…厳密には違うが…
何故この男が…?
鴨川「おわぁぁぁ!!あ…あんさんは水原 ミカ!?ちょちょちょちょい待ち!ワイはなんも、なんもや!お天道様に誓って何もしてへんで!?」
ミカ「うるさいわよ、他のお客様に迷惑だから少し黙って。」
ギリッ
(手首を握る力を強めるミカ)
鴨川「あいたー!!なんでやー!!」
セレナ「(ミカ、こいつは鴨川 タツミで間違いないけど護衛のエレクトリアがいない。罠かもしれないわ。)」
鴨川の手首を捻り上げている最中、周囲を警戒するセレナから通信が入る。
そうだ、鴨川には護衛のエレクトリアがいたはず─────…
ミカ「あなた、ここで何を? 護衛のエレクトリアはどうしたの?」
鴨川「か…買い物や…!エルシュオンがいなきゃアカンのか!?」
そう、エルシュオン、彼のパートナーがいないのだ。
彼女はセンサー感度が異常に優れているのか、いつも寸前のところでこちらの目を掻い潜るおかげで捕まえる事が出来なかった。
その厄介なセンサー役、エルシュオン、今日は彼女がいないからこんなにあっさりと捕まえる事が出来たのだ。
ミカ「…そう言っておけば私が油断するとでも?」
鴨川「アカーン!この姐さん完全に逮捕ありきや!話を聞いてくれへん!店員さん、店員さん助けてー!!」
左手をガッツリ極められながら鴨川が叫ぶ。
どうやら本当に1人で買い物中らしく、奥から紙袋を手に持ったショップ店員がやってきた。
店員「あの〜… ラッピング終わりましたけど〜…」
煌びやかな装飾が施されたソレは、美しい赤と金のラッピングで彩られていた。
そう、それは正に彼のパートナー、エルシュオンのトレードカラーだ。
セレナ「(ミカ、彼の購入履歴を見てみたけど… 大きなリボンを買ったみたいね… エレクトリア用のアクセサリーよ。)」
ミカ「…大きな、リボン…?」
鴨川「あ、店員さんおおきに! …って悪いか!ワイのパートナーへの祝いの品や!!ほら、姐さんもコレでわかったやろ!?ワイは無実や!」
腕を極められながら器用にプレゼントの紙袋を受け取り、流れるようなツッコミが入る。
ミカ「…あら、これは失礼…」
ぱっ
拘束を解き、鴨川を自由にする。
危うく誤認逮捕するところだった…
この世論下で近衛インダストリアル 自警隊が一般人を誤認逮捕!なんて事が起きたら洒落にならない。
鴨川「まぁしゃーない、ワイのこの見た目でプレゼントのラッピングを待ちながらウロウロしてたら怪しくも見えんくもないわ。 と、とにかく無罪は証明出来たやろ? ワイはコレで失礼するで!」
ビシッ!
すたたたた…
プレゼントを受け取り、満足げな鴨川は颯爽と手を挙げてショップを後にした。
ミカ「人騒がせね。 …それにしても、まさかあの鴨川が自身のパートナーにプレゼントなんて… 人も変わるものね…」
セレナ「…」
そんな鴨川の姿を見て、ミカが少し微笑む。
ああして人とエレクトリアは良い関係を築いていける。
そう、きっと────…
セレナ「…ミカ。」
ミカ「? どうしたのセレナ、貴女も何か欲しいのかしら?」
振り返ると、半ば呆れた表情のセレナがホバリング状態で待機していた。
これは…何か言いたげな表情だ。
セレナ「…鴨川 タツミは、一応私達コノエの中では重要参考人、指名手配犯なのだけれど?何故、普通に帰したのかしら?」
ミカ「…? ──────・・・あぁ!!!!?」
飛び出てきた言葉に衝撃を受け、思わず天を仰ぐミカ。
そうだ、そうなのだ、先程颯爽と人波に消えて行ったあの男は、何を隠そう指名手配犯だったのだ。
エルシュオンが不在であっさり捕まったのもあり、プレゼントを待っていただけという理由もあり完全に失念していた。
セレナ「…油断大敵… 詰めが甘いわ…」
ふう…と溜息をつきながらセレナがやれやれと首を振る。
ミカ「そういう大事な情報は先に教えなさいよ!!!」
賑わうラクロアールの館内に、
ミカの悲痛な叫びが響き渡ったのだった。
第一話 完