Electriar Code 【夜明のスピカ】 作:鷹島 扇
ジェーンドゥ
身元不明の遺体
アナグラムから出来上がったソレを口に出した時、彼女の目が醒めた。
眼に光が宿り、勢いよく跳ね上がる。
いやいや、さすがにビビる勢いで跳ね上がった。
セレナ「───────ッ!!?」カチャッ!
余りのスピードにセレナの…いや、エレクトリア自体に備わる緊急安全装置が作動し、無意識のうちにセレナは腰に携えたハンドガンに手をかけていた。
???「……」キュィー…
データの同期音…
間違いなく起動している…
セレナ「(確かに驚いたけど…ッ!緊急安全装置の自動起動なんて何年ぶりよ…!)」
ハンドガンのグリップを握る手が離れない。
…という事はまだ眼前の脅威が排除されていないという事だ。
痩躯の、たった今再起動したばかりの野良エレクトリアに何を怯えているのか。
…エラーは出ていない、正常な判断としてこのプログラムは実行されている。
???「───…─……」キュィ キュイ
起動した。
まだ動かない。
眼前のエレクトリアは…
味方?敵?
セレナ「( IFF(敵味方識別)に反応がない… さっきミカがオーナー登録したハズなのになんでUnknown(不明機)扱いなの…!?だから緊急安全装置が外れないのね…!)」
緊急安全装置の仕様上、相手側からの敵意がないうちは手を出せない。
せめて一言喋ってさえくれたら…!
???「─────────ぽ…」
セレナ「(…ぽ…!?)」
発声した、認識出来たのは「ぽ」の音。
名前に「ぽ」が入るエレクトリアもなかなか珍しいが…
果たして……
???「…ぽぴ…ぱ… ぴぽ?」
セレナ「─────────は?」
嫌な予感がした。
そう、エレクトリアの発声スタイルには2種類あるのだ。
ひとつは「通常発声」なんて事はない、普通の発声。
大体のエレクトリアはこれが標準搭載されている。
そしてもうひとつ「変調式機械発声」というのがある。
これは「ぽ ぴ ぱ」のような単調の電子音を発して発声する、モールス信号の亜種だ。
オートエレクトリアやアトラクションシステムなどいわゆる淡々と「お仕事」をこなすタイプのエレクトリアに搭載される事が多い。
(例外としてアリーナの猛者にもこの「変調方式」で発声するエレクトリアはいる、癖が強いが、練度もかなり高い。
セレナ「(参ったな… まさかパピ子とは…)」
変調方式のエレクトリアをセレナはパピ子と呼んでいる、まぁそれは置いといて。
このタイプは意思の疎通が取りにくい、気心知れたパピ子なら…
「ぽぴ(*´∀`*)」(嬉しい)
「ぱぴ( ´・ω・` )」(悲しい)
とかで意思の疎通が出来るのだが…
緊急安全装置が作動するような子と、そこまでの理解は無理だ。
ミカ「あら、起きたのね。 えーっと… "ここはどこ?"ですってよ。」
緊急安全装置の硬直が解けず焦りがつのる中で、大盛のパスタを抱えたミカがバックヤードに現れた。
???「ぽぴ… ぱぴぱぽぴ?」
ミカ「んーと… "そう、ここはどこ?"」
片手にパスタ、片手に端末を持ちながらミカは続ける。
ハンドガンを握っていなかったら説教ものだが、今彼女の発言を端末で読み取れるのはミカだけだ。
セレナ「…ここは近衛インダストリアルが管理しているカフェよ、貴女のような迷子を保護するためのセーフハウスも兼ねているわ。」
通常の発声で、彼女に状況を伝える。
変調方式の面倒な所がこれだ。
普通→変調 は通るくせに 変調→普通 の発言は通らないところだ。
契約時に素体のデータを通した端末上なら多少のラグはあるが翻訳されて表示される。
???「ぱぴ、ぽ?」
ミカ「"迷子?"」
セレナ「…あぁ〜絶対面倒くさいわねコレ… ミカ、ちょうどいいわ、とりあえず真っ先にわたしの緊急安全装置の解除をお願い、そのあとは端末上の翻訳をこっちに流して。」
セレナは三者全員が同じ空間にいるのに三者間通話のような状態になったため早々に対応の見切りをつけた。
懸命な判断である、このままの状態が続けばラチが明かないのは明白だ。
ミカ「了解、同期したわ。 安全装置も解除済み。」
セレナ「ありがとう、助かったわ。」
※以降、翻訳転記
セレナ「昨日の夜、このカフェの裏口辺りで機能停止してたあなたをカフェの店員が保護したのだけど、覚えてないの?」
???「なにも覚えてない… それどころか、どうやってここに来たのかすら…わからないの。」
会話がスムーズになったところで現況を伝えるも、やはりピンとは来ていない様子だ。
彼女が言うには「どうやって来たのか」すら分からない…と。
セレナ「一応規則だから、最低限のセキュリティスキャンはさせてもらったけど特に異常は無し、そこは心配しないで。 けどいくつか気になる点があって…質問いいかしら?」
???「どうぞ…」
早速だが本題に入ろう、
起動したてで悪いが、聞きたい事がいくつかある。
セレナ「まずはこれが第一ね、貴女の名前は?端末に仮登録してもエラーのせいかほとんど何も情報が分からなくて…」
???「ごめんなさい… わたしも分からないの… 再起動して、わたしも自分で色々調べてみたけど…」
それを聞いたミカもパスタを啜りながら首を傾げた、核心にいたる大事な出足を挫かれたのだ、まぁ落胆もする。
しかし謎は深まるばかりだ、本人でも分からないなら最早知る由もない…
セレナ「うーん… じゃあ"ジェーン・ドゥ"という言葉、コード、まつわる何かに心当たりはある?」
本題その2、彼女のコード内に仕込まれた【ジェーン・ドゥ】のコード。
自分自身でもスキャンしたなら気付いているはずだが…
???「それも…ごめんなさい……やっぱり分からないわ……」
ミカ「駄目か… けどここまで来たらいよいよ【バニラ】の可能性はない? 」
セレナ「バニラか… 無理矢理辻褄を合わせるなら、そうかも…」
【バニラ】
いわゆる出荷状態、名前も何も登録されていないため当然情報がない
出荷前の素体が何らかの理由でロスト、親切な誰かがセーフハウスであるカフェに運んでおいた…と考えるのが一番手堅いかもしれない…
または購入したばかりのエレクトリアを設定前に紛失した…とか…
ミカ「分からない事を聞いても仕方ないわ、詳しいことは明日近衛で調べるから。 今更だけど私は水原 ミカ 近衛インダストリアル社の社員よ、短い間だけど貴女は私のエレクトリア、よろしくね。」
セレナ「…私はミカのパートナー セレナよ。 ひとまず、貴女の名前を決めないとね…」
今の状態では何も分からないため、明日理研に持ち込むまでの仮名を考える。
端末への登録も【Unknown】ではあまりにも味気無い。
ニーカ「ふむ…ならば野良エレクトリアの「ノラ」なんてどうだろうか?」
エルニル「はいはい!"Missing In Action"の頭文字で「ミア」ちゃんとかどうでしょう!」
名前の話をした途端、どこからともなくニーカとエルニルが現れた、仕事しろ。
ミカ「うんうん、なるほど、2人共センスあるわね。 私は名付ける系のセンスは皆無らしいから助かるわ。」
うちのマスターもこの様だ…
まずはパスタを置きなさい。
とはいえ、ノラにミアか…
分かりやすいといえば分かりやすいのでどちらも悪くないが…
セレナ「(チラッ)」
???「………」
当の本人があまりピンと来ていないご様子だ。
短期間とはいえ自身の名前だ、本人が気に入った名前にしてあげたい。
ミカ「セレナの案は? 何か思いついたかしら?」ズゾー
えぇい、パスタを置けパスタを!
気が散るのよ、気が!
名付けの基本は本人由来の何か…というのが基本だ。
名は体をあらわすとも言うがこの娘は…なんだろう…
実際ノラだし、Missing In Action(ミア)かもしれないし…
特徴的な武装もないし身体面も…
……いや、ひとつあるな、特徴的な部分が。
セレナ「…んんっ(咳払い) …そうね、なら「ジェーン・ドゥ」からとって"ドゥ"でどうかしら?」
???「…!」
セレナがそう言うと、彼女の表情が変わった。
どうやら琴線に触れたのか少し表情が柔らかくなった。
ニーカ「これは…決まりかな?」
エルニル「みたいですね〜」
2人もどことなくその雰囲気を察したようだ。
ミカ「決まりね、今日から貴女の名前はドゥよ。短い間だけどよろしくね、ドゥ。」
すっかり食べ終わった皿をテーブルの上に置き、ミカは端末を操作する。
彼女の登録名の欄に、産まれたての名を刻む。
ドゥ「…! ありがとう、嬉しいです…!」
セレナ「改めてよろしくお願いね。」
ドゥ「はい!」
そしてここから、ドゥを巡って様々な事件が起こることを、ミカはまだ知らない────…
第5話 完