【造られた妖精の少年】は、異能学園で“魔”を滅ぼす――ⅩⅢ 現代群像戦線 作:神野あさぎ
体育祭、午後の部。
観客席から響く歓声と、結界膜の向こうで煌めく異能の光。
その中心では、次の戦いを前に生徒たちが息を整えていた。
――
先ほどの第一試合、
「三井野と愛主の異能が相手を封じた。勝利の決め手はそこだったな」
夜騎士は観客席前列へ戻りながら二人を讃えた。
その声は淡々としていながらも、どこか誇らしげだった。
「凶君が決めてくれたおかげだよ……」
三井野は頬を赤らめながら微笑んだ。
隣で妃がすかさず手を上げる。
「いや、あたしのおかげだね!」
妃は自分こそが勝因だとばかりに胸を張る。
そんな二人の掛け合いに、夜騎士は呆れたように笑った。
「はいはい。全員、よくやった」
三人は観客席前列のA組ベンチへと下がっていく。
その背後では、海皇高校の面々が膝をついていた。
魚ノ目憂が苦しげに顔を上げ、悔しさを滲ませる。
「夜騎士っち……やっぱ
その言葉に、鯨連座が静かに目を伏せた。
「……海豚」
封印された仲間の名が、熱気の中に沈んでいった。
* * *
そして第二回戦の幕が上がる。
切ノ札学園の出場者――
二階堂
対する海皇高校――
海原征、貝崎新、浪久霊。
観客席前列では、風悪たちがステージを見つめていた。
「二階堂って、異能学園に何でいるんだ?
あ、いや、異能ないのにって意味でさ」
切ノ札学園は“異能保有者特別育成校”――
異能を持たぬ者は、通常なら在籍すらできない。
それゆえに、二階堂の存在はどこか異質だった。
「聞いた話によれば、ないわけではないらしいです」
隣の辻が首を傾げた。
「どういうこと?」
「発動が限定的すぎるのと、四月さんたちみたいにわかりやすい、攻撃的な異能ではないとか……」
黒八も首をかしげる。
はっきりとは知らされていないが――
二階堂にも何かが“ある”。
ただ、それは戦闘には向かない力だとだけ噂されていた。
アリーナ中央。
六人の生徒が静かに立ち位置を取る。
白い結界膜に、夕方の光が反射して揺れる。
熱気と静寂が混ざり合い、まるで嵐の前の海のように張りつめていた。
王位は目を閉じたまま、ゆっくり見据える。
二階堂は相手をじっと見つめる。
七乃は緊張した面持ちで小さく祈りを捧げた。
白い結界の中で、王位富は静かに構えた。
次の瞬間、彼の右手に光が集まり、一本の剣が形を成す。
透明でありながら、確かに質量を持つ剣――
その刃は陽光を内側から放ち、まるで天上の光を凝縮したかのように輝いていた。
「王位さん、それ……光の剣ですわよね?」
七乃が感嘆の息を漏らす。
「そうなるね。」
王位は淡々と答えた。
だが、その眼差しには静かな闘志が宿っている。
「七乃さん?」
二階堂が首を傾げる。
七乃は唇に笑みを浮かべた。
「一つ、やってみたいことが出来ましたの」
柔らかな声に似つかわしくない決意の響き。
王位は頷き、剣を構え直した。
審判役の教育庁異能管理局職員が手を上げる。
「第二回戦、チーム戦――決闘、開始!」
その瞬間、海皇高校の三人が一斉に駆け出す。
水が弾け、波が立ち、冷気が走る。
だが――
王位の剣が一瞬、音を立てて唸った。
光が膨張する。
七乃の精霊たちが彼の背後に現れ、淡い羽音を立てた。
風の精霊が円を描き、光の精霊がその中心に揺らめく。
「精霊さん、光を――この剣に宿して」
七乃が囁くと、王位の剣に金白の輝きが流れ込んだ。
その光は熱ではなく、祈りのように穏やかで、しかし確かに“力”を持っていた。
七乃は
雷を導き、力を昇華させたその姿を。
(同じことを……光で出来るはずですわ!)
王位は剣を高く掲げ、天を裂くように振り下ろす。
刹那――
アリーナが“昼”になった。
それは太陽の爆ぜる瞬間を閉じ込めたような光だった。
風も、音も、影さえも消え去り、ただ白だけが残る。
観客席の生徒たちは思わず目を覆う。
結界が軋み、光が空間を満たしていく。
神々の審判のような荘厳な閃光。
そして――静寂。
まるで時が止まったかのように、全ての音が消えていた。
数秒後、光がゆっくりと収束し、形を取り戻す。
そこには、海皇高校の三人が地に伏していた。
「……終わった?」
二階堂が目を瞬かせる。
「すご……七乃さんと王位、すごいよ!」
歓喜の声とともに、二階堂が手を上げた。
「四月さんに感謝ですわね」
七乃は胸に手を当て、静かに息を整える。
その笑顔には、確かな充実が宿っていた。
「ちょっとやりすぎたかな?」
王位は苦笑しながら頬をかいた。
淡い残光が彼の髪を照らし、剣の光がふっと消える。
観客席前列の四月は、顎に手を当て、短く言った。
「……面白い」
それだけ。
けれど、その一言が“認めた”証だった。
審判が手を上げ、アリーナに声が響く。
「勝者――切ノ札学園チーム!」
歓声が波のように広がった。
光の残滓がまだ空に漂い、まるで祝福の羽のように降り注ぐ。
こうして、切ノ札学園の二勝が確定した。
その日、アリーナに降った光は――
まるで、失われた誰かの祈りが再びこの学園を照らしたようだった。