【造られた妖精の少年】は、異能学園で“魔”を滅ぼす――ⅩⅢ 現代群像戦線   作:神野あさぎ

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第十一章・風、ゆらぐ日
第百九話 中間、迫る風


 神無月も終わりを告げようとしていた。

 紅葉が校庭の隅に積もり、風はどこか乾いている。

 あの封印の夜も、風のざわめきも、少しずつ遠い記憶になりつつあった。

 

 ――だが、現実は容赦なくやってくる。

 

 風悪(ふうお)にとって、次なる試練。

 それは〈中間テスト〉だった。

 

「数学の範囲どこまでだっけ?」

「単語多すぎ! 覚えられない!」

「歴史とかどうでも良いっての!」

 

 教室は、異能バトルのとき以上に騒がしかった。

 机の上に参考書とお菓子が散乱し、鉛筆の音よりもため息の方が多い。

 この光景こそが、日常の証だった。

 

 そのざわめきを断ち切るように、教室の扉が開いた。

 黒いマスク姿――担任の宮中(みやうち)潤。

 

「分かっていると思うが、中間テストがもうすぐだ」

 

 その声は静かで、しかし刃のように鋭い。

 

「下位五名には補習だ。いいな?」

 

 クラスの空気が一瞬で凍りつく。

 

「だから何で五人も!?」

 

 鳩絵かじかの悲鳴が教室に響いた。

 

「お前たちは筆記の方が問題だからな。心してかかれ」

「無理ですー!!」

 

 妃が机に突っ伏し、魂が抜けたような声を上げる。

 宮中は小さく咳払いをして、黒板にスケジュールを貼った。

 

「補習は放課後な。……お前たちの異能より“学力”の方が深刻だ」

「勉強しろよ」

 

 王位が冷静に突っ込みを入れる。

 

「はぁ……」

 

 風悪は机に頬をつけたまま、深いため息を漏らした。

 

「……あんなに色々あったのが、夢みたいだ」

 

 封印、決闘、そしてユイとの戦い。

 あの濃密な日々が嘘のように、今はただの学生生活が流れている。

 

「まあまあ、みんなでまた勉強会しましょう」

 

 隣の席で黒八(くろや)空が微笑む。

 彼女の黒髪が窓からの風に揺れた。

 

「普段から少しずつやってればいいだろ」

 

 一番前の席で、四月(しづき)レンが振り返らずに言った。

 手には単語帳。視線は微動だにしない。

 彼女の淡々とした声が、クラスの喧噪を静めていく。

 

 こうして、再び切ノ札(きりのふだ)学園の“平穏”が始まった。

 だが、窓の外を吹く風だけは――どこか、ざらついていた。

 

 その風を、風悪だけが感じ取っていた。

 

「四月ってⅩⅢ(サーティーン)やってないとき、勉強してんの?」

 

 五戸(いつと)が何気なく問いかけた。

 視線の先で、四月は単語帳をぱらぱらとめくったまま、短く答える。

 

「スキマ時間しかないからな」

 

 その即答に、五戸と鳩絵、妃の三人が同時にうなだれた。

 

「……努力って、もう才能だよな……」

「だね……」

 

 机に突っ伏す妃の声が床に吸い込まれる。

 その様子を見て、夜騎士(よぎし)がぼそりと呟いた。

 

「コツコツやっても届かない上ってのもあるよな」

 

 彼の言葉には妙な説得力があった。

 中学時代から、学年一位は常に王位。

 何度挑んでも越えられない“高壁”という現実を、夜騎士は知っていた。

 

「夜騎士も勉強できるじゃん」

 

 辻がぼそりと呟くと、三井野が大きく頷いた。

 

「あーもう! なんでさわらちゃんも、わかしも勉強できんだよ! 不公平だああ!」

 

 五戸は机をバンバン叩きながら叫び、

 そのままスマホを取り出してガチャを引き始めた。

 

 ……ピロリン♪

 

「おっしゃ──爆死!」

「どこが“おっしゃ”なんですか」

 

 鳩絵の冷静なツッコミも空しく、教室の騒ぎはさらに加速する。

 

「あーーーーー!!」

 

 突然、二階堂の叫びが響いた。

 教室全体がピタリと静まり返る。

 

「どうした、二階堂!」

 

 風悪が思わず顔を上げた。

 

 二階堂は真剣な表情でスマホを突き出した。

 

「今日、“ましゅまろちゃん”の月に一度の六百六十六円セールの日じゃん!!」

 

 沈黙。

 次の瞬間、七乃が立ち上がる。

 

秋枷(あきかせ)君! 即買って、即勉強です!」

 

「どんな理屈!?」

 

 妃が頭を抱える。

 教室の全員が一斉に力を抜き、空気が一瞬だけ和らいだ。

 

 そのときだった。

 

「A組! 煩いですわよ!」

 

 勢いよく教室の扉が開き、

 B組の東風(こち)心地がツカツカと入ってきた。

 金色の髪を揺らし、いかにも“勝ち気な貴族令嬢”といった立ち姿。

 

「何よ東風、言っとくけど……」

 

 妃が言いかけた瞬間、東風は高らかに宣言した。

 

「分かっていますわ、点数勝負と行きましょう!」

「ちがーう!」

 

 妃が椅子から転げ落ちそうになりながら否定する。

 点数勝負はしないと言いたかったのだ。

 点数では勝てる気がしないからだ。

 

 だが東風は勝利宣言をした後、颯爽と踵を返した。

 

「この勝負、いただきましたわ!」

 

 去り際に残る香水のような自信。

 妃と五戸が同時に青ざめる。

 

「やばい、やばいよ五戸」

「分かってる、妃」

 

 息の合ったふたりの顔には、すでに焦りが滲んでいた。

 

「……いいから、勉強しろお前ら」

 

 黒板の前から、宮中の声が静かに響く。

 まるで、この騒がしい日常そのものを見透かすように。

 

 ――封印の夜が明けても、風はまだ完全には“止んで”いなかった。

 校舎の窓をわずかに震わせる風が、

 どこか、不吉な囁きを運んでいた。

 

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