【造られた妖精の少年】は、異能学園で“魔”を滅ぼす――ⅩⅢ 現代群像戦線   作:神野あさぎ

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第十二章・風、緩む日
第百十八話 霜月、試験の陣


 赤の礫と一条会の残党との戦いは、あっけないほどに幕を下ろした。

 だが――その代償として、十三部と封印局長《封獄の番人》のあいだには、確かな蟠りが残った。

 

 過去視を封じる結界。

 学園地下に滞留する“魔因子”の残留。

 そして、封獄の番人による強硬な判断。

 

 問題は山積みだった。

 

 ――けれど、学生たちにはもっと切実な問題があった。

 

 そう、霜月最大の試練――期末テストである。

 

「昨日までの戦いは……なんだったんだあぁぁぁ……!」

 

 風悪(ふうお)は机に突っ伏したまま、魂が抜けたように呻いた。

 筆記試験皐月の頃にしてすでに限界。

 中間テストから成績の進展はなく、

 今回も「やばい」の一言にすべてが詰まっていた。

 

「学生の本分は勉強ですわ!」

 

 七乃朝夏がぴしゃりと指を立て、胸を張って言う。

 その表情はまるで模範生そのもの。

 

「……オレは筆記より実技試験が怖いな」

 

 二階堂秋枷が苦笑いを浮かべた。

 彼の中で“異能実技”の記憶がまだ生々しい。

 

「秋枷君は……わたくしが、なんとかしますから!」

 

 即座に七乃が身を乗り出す。

 その勢いに二階堂がわずかにのけぞった。

 

「仲良いですね」

 

 黒八(くろや)空が朗らかに笑いながら、二人を見ていた。

 教室の空気が少しだけ和らぐ。

 

「補習まみれの生活やだああ……」

 

 妃愛主は頭を抱え、机に突っ伏す。

 泣きそうな声で呻きながらも、手はしっかりペンを握っていた。

 

「てかこの前、中間やったばっかじゃん!」

 

 五戸(いつと)このしろが怒気を込めて叫ぶ。

 スマホの画面をスクロールしながら、

 “勉強”の二文字を完全に無視している。

 

「かじか……学生、辞めたい……」

 

 鳩絵かじかはノートに現実逃避の落書きを量産していた。

 描かれているのは、羽根を生やした“脱走する自分”。

 

「筆記は対策できるだろ?」

 

 夜騎士(よぎし)凶が落ち着いた声で言うと、

 妃と五戸は同時に声にならない悲鳴を上げた。

 

「うぎゃあああああああ!」

 

「凶……! お前みたいなのがいるから世界が不公平なんだよ!」

 

「なんで勉強って“異能”より難しいんだ……」

 

 風悪がぼやき、教室の空気は笑い混じりのため息で満たされた。

 

 夕暮れの教室。

 窓から差し込む橙色の光が、ノートの白を柔らかく染めていた。

 生徒たちの筆の音、ページをめくる音――それだけが静かに響く。

 

 一ノ瀬さわらは、静かにノートを開いていた。

 整った字が並び、要点を一行ごとにまとめていく。

 六澄(むすみ)わかしは淡々と教科書をめくり、まるで情報を吸収する機械のようだった。

 その横で、四月(しづき)レンは単語帳を片手に、一定のリズムでめくっていた。

 どこまでも落ち着いた空気。

 

 そんな中、王位富が一言。

 

「一ノ瀬さんたちを見習いなよ」

 

 その瞬間、妃と五戸の叫びが教室にこだました。

 

「できたら苦労しないのよ!」

「そうだそうだー!」

 

 教室の空気が一気に賑やかになる。

 笑い声が混じり、風悪も思わず苦笑した。

 

「まあまあ、二人とも落ち着いて」

 

 三井野燦が手を上げてなだめる。

 その柔らかな声に、妃と五戸も渋々ペンを握り直した。

 

「でもさ、筆記はまだ対策できるけど……実技って本番になるまで分からないよね」

 

 辻颭がぽつりと呟いた。

 その言葉に、夜騎士凶が頷く。

 

「対策のしようがない、か」

 

「どうする? 四月と戦えとか言われたら……」

 

 王位の何気ない一言が教室を凍らせた。

 二階堂秋枷は机に突っ伏し、即座に諦めの声を漏らす。

 

「……無理じゃん」

 

「いや、中間の時みたいに、ルール次第でなんとか……」

 

 風悪が腕を組みながら言った。

 頭に浮かんだのは、卯月での四月との戦い――あのペン争奪戦だ。

 条件さえ合えば、勝機はある。

 そう思いたかった。

 

 だが、次の辻の一言がすべてを吹き飛ばした。

 

「決闘みたいなルールだったら……」

 

 教室の空気がピシリと止まる。

 全員の脳裏に、“四月と決闘”の映像が浮かんだ。

 

「……あ、無理だな」

 

 誰かがそう呟くと、皆が同時にうなずいた。

 

「私はわかしともやりたくなーい」

 

 五戸がスマホを操作しながらぼやく。

 

「かじかは、さわらちゃんが無理……」

 

 鳩絵は落書きを描きながら、現実逃避のように言った。

 そのノートの片隅では、菌糸に絡め取られる自分の絵が増えていく。

 

「菌糸制圧は強力ですからね……」

 

 黒八が苦笑いしながら同意する。

 彼の言葉に、教室全体が“そうだよね”という沈黙に包まれた。

 

 その静寂の中で、四月がぽつりと口を開いた。

 視線は単語帳から一度も動かない。

 

 「……なあ、お前ら」

 

 「ん?」

 

 風悪が顔を上げる。

 

 「それ、フラグになるやつじゃね?」

 

 一瞬の間。

 

 「――しまった」

 

 教室中に同時にため息が落ちた。

 次の瞬間、誰かが笑い出し、笑いは連鎖していった。

 

 笑い声が天井に広がり、窓の外には初冬の風が流れる。

 霜月の学園――束の間の穏やかな日常。

 

 けれど、この“フラグ”が本当に立ってしまうのは、

 そう遠くない未来の話だった。

 

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