【造られた妖精の少年】は、異能学園で“魔”を滅ぼす――ⅩⅢ 現代群像戦線   作:神野あさぎ

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第百二十話 開戦、異能実技試験

 期末テスト二日目――異能実技試験。

 切ノ札(きりのふだ)学園の広大な訓練場は、朝から張り詰めた空気に包まれていた。

 

 観覧席にはクラスメイトたちがずらりと並び、教師陣も見守っている。

 冬の陽光が広大な訓練場の床を淡く照らし、その中央――

 最初に立ったのは、白髪の少年と青黒い髪の少年だった。

 

 風悪(ふうお)と、夜騎士(よぎし)凶。

 

 二人はまっすぐに向かい合い、互いの気配を探るように静止していた。

 その姿に、審判席から宮中(みやうち)潤がゆっくりと声を発する。

 

「これより異能実技試験──第一回戦を始める」

 

 マスク越しの声が、訓練場全体に響いた。

 

「決闘システムに準ずる。

  “殺傷を目的としない”“第三者被害を出さない”“時間制限内で決着をつける”――この三原則を厳守だ。

  制限時間は十分。……健闘を祈る」

 

 淡々とした口調。だがその奥に、確かな期待の響きがあった。

 

「凶! 全力でいく!」

 

 風悪が風をまといながら声を上げる。

 その瞳には、真っすぐな光。

 

「オレも」

 

 夜騎士が短く答えた。

 すでに身体から、青黒い影がにじみ出している。

 

「――始め!」

 

 宮中の号令と同時に、空気が弾けた。

 

 先に動いたのは夜騎士だった。

 影が身体を包み、黒い波動が地を走る。

 床の影が蠢き、まるで生き物のように形を変える。

 

「影装展開」

 

 低く呟くと同時に、夜騎士の背に青黒い尾が揺らめいた。

 その光景を受けて、風悪もまた風を起こす。

 

「風域展開――防壁」

 

 風が唸りを上げ、二人の間に透明な壁を作り出す。

 だが夜騎士は迷わない。

 その影を、いつもの大鎌ではなく――細く、鋭く、長い槍へと変形させた。

 

「風圧を最小限に……なるほど」

 

 観覧席で見守っていた王位が、冷静に分析する。

 彼の声に、他の生徒たちも息を飲んだ。

 

 夜騎士は右腕を前に突き出し、影の槍を放つ。

 鋭い突きが、風壁を貫きかける。

 

「くっ……!」

 

 風悪は反射的に身をひねり、槍をかわした。

 頬をかすめた風が鋭く切り裂かれる。

 

 その一瞬の隙を、夜騎士は見逃さなかった。

 地を蹴り上げ、風悪の上方へ跳躍。

 

 影が再び形を変える。

 今度は、鯱の尾のような巨大な影が夜騎士の背に伸びた。

 

「――ほらよ!」

 

 尾が振り下ろされる。

 轟音が響き、砂煙が舞い上がる。

 風悪は腕を交差させ、風の防御を重ねて受け止めた。

 

 衝撃が体を貫き、足元がわずかに沈む。

 息を吸い、風悪は踏みとどまった。

 

(……流石に強い!)

 

 風悪は、夜騎士の力の成長を肌で感じていた。

 同時に、負けたくないという熱が胸を焦がす。

 

 ――ここからどう打開するか。

 風悪はすでに、次の一手を探り始めていた。

 

 風悪は深く息を吸い込み、目を閉じた。

 頭に浮かぶのは、かつての海皇高校との決闘。

 あの時、自分は圧倒的な力に押されながらも――“風”で戦場を支配する感覚を覚えた。

 

(広範囲で風を展開し、音の流れを狂わせる……)

 

 風悪は両手を広げ、風を操る。

 空気が唸りを上げ、訓練場全体に旋律のような風の層が走る。

 狙いはただ一つ――夜騎士の反響定位を乱すこと。

 

「風悪君……」

 

 観覧席の黒八(くろや)が、祈るように手を握りしめた。

 その声は届かなくても、願いだけは風に乗って彼の背へと届く。

 

 夜騎士の左眼は、かつての戦いで失われている。

 彼は“音”によって空間を読む。

 反響定位――音波を利用して周囲を把握する夜騎士の戦い方は、まさに影と一体化した異能。

 

 だが、風悪がその音を狂わせることができれば――。

 

 風の刃が、音の流れを歪ませる。

 そして風悪は左側――夜騎士の死角へ、鋭い風刃を放った。

 

「左側死角だけどさ、そのくらい把握済み!」

 

 夜騎士は影の尾を操り、風刃を容易くはじいた。

 その動きには、以前の暴走時にはなかった理性があった。

 

 海皇高校との決闘の時。

 彼は“魔”の暴走に飲まれ、何も見えていなかった。

 だが今は違う。

 理性的に、知的に動ける。

 狙いが左側と分かっていれば逆によけやすい。

 

 影の一つ一つを制御し、冷静に相手の戦術を読み切る。

 

「……っ!」

 

 風悪が舌打ちする間もなく、夜騎士が踏み込んだ。

 影が再び槍の形へと変わり、連撃が走る。

 槍で突かれ、鎌で切りつけられる。

 防ぐよりも速く、風悪は後方へ跳ぶ。

 風を盾にしても、勢いを殺しきれない。

 

(やっぱり……一発ごとの重みが違う!)

 

 風悪は息を荒げ、風の流れを整える。

 隙を見て再び風刃を左側に放つ――だが、またも影で弾かれた。

 

「左側を狙うのは悪くないけどな!」

 

 夜騎士の声が響く。

 次の瞬間、影の尾が地を這い、風悪の足へ絡みついた。

 

「しまっ――!」

 

 引き寄せられる。

 間合いが一瞬で詰まり、夜騎士の影が獣のようにうねる。

 

 咆哮。

 

 音の衝撃波が風悪の体を直撃した。

 空気が震え、観客席の誰もが息を呑む。

 

「……!」

 

 風悪の身体が吹き飛び、地面に叩きつけられる。

 砂煙が立ちこめ、しばらく視界が揺れた。

 

 その沈黙を破るように、宮中の低い声が響く。

 

「そこまで!」

 

 風が止む。

 影が消える。

 夜騎士は呼吸を整えながら、影を収束させた。

 

「第一回戦――勝者、夜騎士凶!」

 

 宮中が宣言する。

 

 訓練場に拍手が起こる。

 黒八が席を立ち、駆け寄った。

 

「風悪君!」

 

 風悪は地面に片肘をつき、苦笑しながら手を振る。

 

「はは……やっぱ、つえーや」

 

 その言葉に、夜騎士が頭をかきながら答えた。

 

「ちょっとやりすぎたか?

 でもお前も……強かった」

 

 短く言葉を交わし、二人は互いに笑い合った。

 勝敗よりも、互いの成長を確かめ合うように。

 

「二人とも、よくやったよ」

 

 王位が静かに言った。

 その言葉に、場の緊張がほどけていく。

 

「オレも頑張らないと」

 

 辻が拳を握りしめる。

 

「オレ、無理ー」

 

 二階堂がうなだれるに呟いた。

 

「わたくしが代わりに戦いたいですわ!」

 

 七乃が勢いよく立ち上がり、二階堂の顔を見つめて宣言する。

 

 そのやり取りを横に、三井野が頬を染めながら夜騎士を見つめ――

 そんな三井野を妃が静かにジト目で見ていた。

 

 六澄(むすみ)と一ノ瀬は静観。

 五戸(いつと)は相変わらずスマホをいじり、鳩絵はスケッチブックを広げ戦いの構図を描いている。

 

「もっと頭を使え」

 

 四月(しづき)が観覧席の最前列で、冷静に言った。

 その言葉に風悪は、苦笑いを浮かべながら小さくうなずく。

 

(……次も、頑張ろう)

 

 風が静まり、試験場の空気は再び凪いだ。

 戦いの余韻を残したまま、次の試合へと時が動き出していた。

 

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