【造られた妖精の少年】は、異能学園で“魔”を滅ぼす――ⅩⅢ 現代群像戦線 作:神野あさぎ
期末テスト二日目――異能実技試験。
観覧席にはクラスメイトたちがずらりと並び、教師陣も見守っている。
冬の陽光が広大な訓練場の床を淡く照らし、その中央――
最初に立ったのは、白髪の少年と青黒い髪の少年だった。
二人はまっすぐに向かい合い、互いの気配を探るように静止していた。
その姿に、審判席から
「これより異能実技試験──第一回戦を始める」
マスク越しの声が、訓練場全体に響いた。
「決闘システムに準ずる。
“殺傷を目的としない”“第三者被害を出さない”“時間制限内で決着をつける”――この三原則を厳守だ。
制限時間は十分。……健闘を祈る」
淡々とした口調。だがその奥に、確かな期待の響きがあった。
「凶! 全力でいく!」
風悪が風をまといながら声を上げる。
その瞳には、真っすぐな光。
「オレも」
夜騎士が短く答えた。
すでに身体から、青黒い影がにじみ出している。
「――始め!」
宮中の号令と同時に、空気が弾けた。
先に動いたのは夜騎士だった。
影が身体を包み、黒い波動が地を走る。
床の影が蠢き、まるで生き物のように形を変える。
「影装展開」
低く呟くと同時に、夜騎士の背に青黒い尾が揺らめいた。
その光景を受けて、風悪もまた風を起こす。
「風域展開――防壁」
風が唸りを上げ、二人の間に透明な壁を作り出す。
だが夜騎士は迷わない。
その影を、いつもの大鎌ではなく――細く、鋭く、長い槍へと変形させた。
「風圧を最小限に……なるほど」
観覧席で見守っていた王位が、冷静に分析する。
彼の声に、他の生徒たちも息を飲んだ。
夜騎士は右腕を前に突き出し、影の槍を放つ。
鋭い突きが、風壁を貫きかける。
「くっ……!」
風悪は反射的に身をひねり、槍をかわした。
頬をかすめた風が鋭く切り裂かれる。
その一瞬の隙を、夜騎士は見逃さなかった。
地を蹴り上げ、風悪の上方へ跳躍。
影が再び形を変える。
今度は、鯱の尾のような巨大な影が夜騎士の背に伸びた。
「――ほらよ!」
尾が振り下ろされる。
轟音が響き、砂煙が舞い上がる。
風悪は腕を交差させ、風の防御を重ねて受け止めた。
衝撃が体を貫き、足元がわずかに沈む。
息を吸い、風悪は踏みとどまった。
(……流石に強い!)
風悪は、夜騎士の力の成長を肌で感じていた。
同時に、負けたくないという熱が胸を焦がす。
――ここからどう打開するか。
風悪はすでに、次の一手を探り始めていた。
風悪は深く息を吸い込み、目を閉じた。
頭に浮かぶのは、かつての海皇高校との決闘。
あの時、自分は圧倒的な力に押されながらも――“風”で戦場を支配する感覚を覚えた。
(広範囲で風を展開し、音の流れを狂わせる……)
風悪は両手を広げ、風を操る。
空気が唸りを上げ、訓練場全体に旋律のような風の層が走る。
狙いはただ一つ――夜騎士の反響定位を乱すこと。
「風悪君……」
観覧席の
その声は届かなくても、願いだけは風に乗って彼の背へと届く。
夜騎士の左眼は、かつての戦いで失われている。
彼は“音”によって空間を読む。
反響定位――音波を利用して周囲を把握する夜騎士の戦い方は、まさに影と一体化した異能。
だが、風悪がその音を狂わせることができれば――。
風の刃が、音の流れを歪ませる。
そして風悪は左側――夜騎士の死角へ、鋭い風刃を放った。
「左側死角だけどさ、そのくらい把握済み!」
夜騎士は影の尾を操り、風刃を容易くはじいた。
その動きには、以前の暴走時にはなかった理性があった。
海皇高校との決闘の時。
彼は“魔”の暴走に飲まれ、何も見えていなかった。
だが今は違う。
理性的に、知的に動ける。
狙いが左側と分かっていれば逆によけやすい。
影の一つ一つを制御し、冷静に相手の戦術を読み切る。
「……っ!」
風悪が舌打ちする間もなく、夜騎士が踏み込んだ。
影が再び槍の形へと変わり、連撃が走る。
槍で突かれ、鎌で切りつけられる。
防ぐよりも速く、風悪は後方へ跳ぶ。
風を盾にしても、勢いを殺しきれない。
(やっぱり……一発ごとの重みが違う!)
風悪は息を荒げ、風の流れを整える。
隙を見て再び風刃を左側に放つ――だが、またも影で弾かれた。
「左側を狙うのは悪くないけどな!」
夜騎士の声が響く。
次の瞬間、影の尾が地を這い、風悪の足へ絡みついた。
「しまっ――!」
引き寄せられる。
間合いが一瞬で詰まり、夜騎士の影が獣のようにうねる。
咆哮。
音の衝撃波が風悪の体を直撃した。
空気が震え、観客席の誰もが息を呑む。
「……!」
風悪の身体が吹き飛び、地面に叩きつけられる。
砂煙が立ちこめ、しばらく視界が揺れた。
その沈黙を破るように、宮中の低い声が響く。
「そこまで!」
風が止む。
影が消える。
夜騎士は呼吸を整えながら、影を収束させた。
「第一回戦――勝者、夜騎士凶!」
宮中が宣言する。
訓練場に拍手が起こる。
黒八が席を立ち、駆け寄った。
「風悪君!」
風悪は地面に片肘をつき、苦笑しながら手を振る。
「はは……やっぱ、つえーや」
その言葉に、夜騎士が頭をかきながら答えた。
「ちょっとやりすぎたか?
でもお前も……強かった」
短く言葉を交わし、二人は互いに笑い合った。
勝敗よりも、互いの成長を確かめ合うように。
「二人とも、よくやったよ」
王位が静かに言った。
その言葉に、場の緊張がほどけていく。
「オレも頑張らないと」
辻が拳を握りしめる。
「オレ、無理ー」
二階堂がうなだれるに呟いた。
「わたくしが代わりに戦いたいですわ!」
七乃が勢いよく立ち上がり、二階堂の顔を見つめて宣言する。
そのやり取りを横に、三井野が頬を染めながら夜騎士を見つめ――
そんな三井野を妃が静かにジト目で見ていた。
「もっと頭を使え」
その言葉に風悪は、苦笑いを浮かべながら小さくうなずく。
(……次も、頑張ろう)
風が静まり、試験場の空気は再び凪いだ。
戦いの余韻を残したまま、次の試合へと時が動き出していた。