【造られた妖精の少年】は、異能学園で“魔”を滅ぼす――ⅩⅢ 現代群像戦線   作:神野あさぎ

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第百二十一話 衝突、信念の刃

 訓練場に再び、張り詰めた空気が満ちた。

 観客席のざわめきが静まり、審判席から宮中(みやうち)潤の声がマスク越しに響く。

 

「第二回戦──辻颭対、王位富」

 

 呼ばれた二人が、無言のまま中央へと歩み出た。

 砂を踏みしめる音が、やけに鮮明に響く。

 互いに視線を外さず、礼の代わりに軽く頷き合った。

 

「──始め!」

 

 宮中の合図と同時に、空気が裂ける。

 

 先に動いたのは辻だった。

 その身体から、風が巻き上がる。

 腕に走る紋様が淡く光り、指先が鋭く伸びていく。

 鎌鼬の血を引く一族――その証が、戦場に現れた瞬間だった。

 

「はぁッ!」

 

 辻は地を蹴り、一瞬で距離を詰める。

 爪が光を反射し、音もなく振り下ろされた。

 

 対する王位は、冷静に光の剣を顕現させる。

 薄い光が剣の形を成し、辻の爪と交錯した。

 

 金属にも似た音が訓練場に響く。

 

 辻の爪には風が宿る。

 腕の周りに風を纏い、空気そのものを刃へと変える。

 爪で突き、風で斬り裂く――連撃。

 

 王位はその嵐を、ただ一本の剣で受け止める。

 彼の額に汗が滲んだ。

 

(角を折った影響……出ているな)

 

 かつて“魔の暴走”から救うために、自らの角を折った。

 その代償として、顕現できる剣は一本。

 威力も射程も半減している。

 

 それでも彼は、一歩も引かなかった。

 剣を斜めに構え、辻の攻撃を受け流す。

 だが、すべてを避け切ることはできない。

 

「──はぁっ!」

 

 辻が再び爪を振り下ろす。

 王位がそれを剣で受け止めた瞬間、辻は体を宙に浮かせた。

 風を纏い、逆さに回転。

 

「っ!」

 

 次の瞬間、蹴りが飛ぶ。

 風圧を乗せた蹴撃が、王位の胸をとらえた。

 

 鈍い衝撃音。

 王位の身体が地面を滑り、砂煙を上げる。

 

「そこまで!」

 

 宮中の声が響く。

 審判の手が挙げられた。

 

「第二回戦──勝者、辻颭!」

 

 観覧席が一斉に沸いた。

 風悪が「おお!」と叫び、五戸がスマホを掲げて写真を撮ろうとする。

 そんな中、辻は静かに爪を元に戻し、息を整えた。

 

「量で攻められると厳しいね」

 

 王位は膝をつき、苦笑しながら言う。

 冷静な分析はいつも通りだった。

 

「王位も、強い」

 

 辻は短く、それだけを返す。

 その声に敬意が滲んでいた。

 

 王位も微笑み、軽く頷いた。

 勝敗ではなく、互いに「力を認め合った」瞬間だった。

 

「第三回戦──二階堂秋枷対、黒八(くろや)空! 始め!」

 

 宮中の合図と同時に、空気が再び震えた。

 

 異能無し――純粋な体術戦。

 それだけに、静かな熱があった。

 

 黒八が右脚を鋭く振り上げる。

 二階堂は左腕で受け流し、流れるように身をかわす。

 

「さすがに動きが柔らかいですね!」

 

 黒八が息を弾ませながら言う。

 

「黒八さんも……速い」

 

 二階堂も苦笑を浮かべながら構えを取り直す。

 

 蹴り、受け、踏み込み、回避。

 互いに異能を使わないからこそ、純粋な技術と感覚が試される。

 十秒ごとに攻防が変わり、砂が舞い上がる。

 

 観客席の七乃は、両手を胸の前で握りしめていた。

 

「秋枷君……!」

 

 祈るように見つめるその目は真剣だった。

 やがて、宮中の声が再び響く。

 

「そこまで! 第三回戦、引き分け!」

 

 制限時間――十分。

 場の空気が、少しだけ和らいだ。

 

「二階堂君、やりますね」

 

 黒八が息を切らせながら笑う。

 

「黒八さんも……」

 

 二階堂も笑い返した。

 

 その爽やかなやり取りに、七乃は少しだけ頬を染め、安堵の息を吐いた。

 観客席の妃が「青春か!」と突っ込みを入れ、

 鳩絵が「わかる」とうなずいていた。

 

「第四回戦──一ノ瀬さわら対、七乃朝夏! 始め!」

 

 宮中の声が響くと同時に、空気が変わった。

 観覧席の空気も、どこか優しく、それでいて静かな緊張を帯びていた。

 

 開始と同時に、一ノ瀬が動いた。

 白い腕を軽く上げると、足元から淡い光を帯びた菌糸が溢れ出す。

 生き物のようにうねりながら、七乃の足元へと迫った。

 

「いきなり全開……さすがですわね」

 

 七乃は小さく息を整え、指先を掲げる。

 その瞬間、光が彼女を中心に広がった。

 

 風と水、光の精霊たちが彼女の周囲を舞い、柔らかな防御結界を展開する。

 菌糸が結界に触れると、静かに弾かれ、ぱちりと光が散った。

 

「……っ」

 

 一ノ瀬が目を見開く。

 次の瞬間、逆に七乃の放った精霊の力が反撃の波となって彼女を包み――

 衝撃が走った。

 一ノ瀬の身体が後方に吹き飛ぶ。

 

「そこまで! 第四回戦──勝者、七乃朝夏!」

 

 宮中の宣言とともに、会場から拍手が起こる。

 

 七乃はすぐに駆け寄った。

 床に手をつき、肩で息をする一ノ瀬に優しく声をかける。

 

「一ノ瀬さん、別のことを考えていませんでした?」

 

 穏やかな笑み。けれど、その瞳は真っすぐだった。

 

 一ノ瀬は首を横に振る。

 だがその瞳の奥には、迷いがあった。

 

(……わかし君。ラウロス。そして、“魔”。)

 

 心の奥に巣くう焦りが、戦いへの集中を奪っていた。

 七乃はその気配を感じ取っていたのだろう。

 

「第五回戦──三井野燦対、鳩絵かじか! 始め!」

 

 続くは、異能“表現者”同士の戦い。

 

 鳩絵はスケッチブックを開き、筆を走らせようとした。

 しかし、その瞬間、柔らかな旋律が空気を震わせた。

 

「……っ」

 

 先に声を放ったのは三井野。

 澄んだ歌声が場を包み、光の粒が舞い上がる。

 

 鳩絵の筆が止まる。

 手の力が抜け、スケッチブックがぱさりと落ちた。

 

「降参~」

 

 力なく鳩絵が呟く。

 

「そこまで! 第五回戦──勝者、三井野燦!」

 

 宮中の宣言。

 あまりにあっけない決着に、会場から笑いがこぼれた。

 

「大丈夫?」

 

 三井野が心配そうに駆け寄る。

 

「やる気でない」

 

 鳩絵は床にぺたりと座り込み、筆先を見つめた。

 それを見て、妃が「鳩絵さんらしいわ」と笑い、会場の空気が和んだ。

 

「第六回戦──五戸(いつと)このしろ対、妃愛主! 始め!」

 

 開始の合図が響くや否や、勝負は決まっていた。

 

 五戸が指を鳴らす。

 その瞬間、黒い縄が地面から伸び、妃の足首に絡みつく。

 

「え、ちょ、ちょっと――!?」

 

 次の瞬間、妃の身体が宙に浮かび、さかさまに吊り上げられた。

 

「無理だっつーの!」

 

 妃が悲鳴を上げる。

 彼女の異能は“異性限定の洗脳”。

 しかし相手が同姓の五戸では通じない。

 

 「よっゆ~」

 

 五戸は笑みを浮かべ、髪を軽く払った。

 

 「そこまで! 第六回戦──勝者、五戸このしろ!」

 

 宮中の声に、観覧席が一気に盛り上がる。

 

 「ええー! ズルい!」

 

 妃が宙づりのまま抗議し、風悪と黒八が笑いながら解除に向かう。

 

 地上に戻った妃を見届けながら、五戸はふっと笑った。

 

 「まあ、私らなんて前座よ。次の試合が見ものだわ」

 

 その言葉に、場の空気が一瞬で変わる。

 観客の視線が自然と訓練場中央へと向かう。

 

 ――次は、四月(しづき)六澄(むすみ)

 

 ⅩⅢ(サーティーン)の一員と、この世界の創造主。

 

 静かに、しかし確実に、誰もが息を飲んだ。

 

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