【造られた妖精の少年】は、異能学園で“魔”を滅ぼす――ⅩⅢ 現代群像戦線 作:神野あさぎ
期末テストが終わった。
そのはずなのに、
筆記の補習に加え、異能実技の補習まで追加され、彼の時間はまるで嵐の中を進むように過ぎていく。
「……疲れた」
放課後の教室で、風悪は机に突っ伏しながらつぶやいた。
その一言が、ここ数日の全てを物語っていた。
霜月も半ばを過ぎ、季節は確実に冬へと傾いている。
一ノ瀬はペンを指先で回しながら、何かを思案している。
鳩絵は一人だけ別世界にいるように、落書きを量産していた。
いつもの、
だが、その空気を切り裂くように、扉の向こうから足音が近づいてくる。
やがて現れたのは、神妙な顔をした王位富だった。
いつもの穏やかな気配はどこにもない。
その背筋には張り詰めた糸のような緊張が漂っていた。
「富、どうした?」
王位は軽くため息をつき、俯いたまま答えた。
「……期末の実技、落としたのがまずかった、かも」
静かな声だった。
だが、その響きに滲む重さは隠せない。
「何〜? 親に怒られたりしたの〜?」
妃が冗談めかして肩をすくめる。
だが、王位の表情がピクリと強張った。
「え、何? まさか……本当に?」
妃の笑みが凍りつく。
教室の空気が、少しずつ張りつめていく。
――そして、聞こえた。
「勝手な真似は困ります」
扉が静かに開き、凛とした気配が流れ込んだ。
まるで圧が形を持って侵入してきたかのように、空気が急激に重く沈む。
風悪の身体が鉛のように重くなり、思わず息を詰める。
四月と六澄以外の全員が、瞬時に警戒の姿勢をとっていた。
現れたのは、金色の髪を持つ女だった。
目元を覆うような黒布が、その存在の威圧をさらに強調している。
ただ立っているだけで、周囲の空気が歪んでいた。
「富。この者たちが――お前を堕落させる」
その声音は氷のように冷たく、教室中の心臓を掴むようだった。
「違います……お母様」
王位はわずかに震える声で否定した。
風悪は、信じられないものを見るように目を見開く。
(母親……!?)
その事実に、教室の誰もが息を呑んだ。
「違わない。現にお前は、この者によって角を折られたのだ」
金髪の女――王位
その一言に、教室の空気がさらに張りつめる。
「違います。ボク自身が望んで折りました!」
王位は即座に否定する。
あの時――夜騎士凶を救うために、自らの角を折った。
これは、彼にとっての“友の証明”だった。
「違わない。お前を堕落させる原因だ」
誉の声が、氷のように冷たく響く。
教室の窓がわずかに震え、空気が圧縮されるような音がした。
「お前はこの学園にいてはならない」
そう告げると、誉はゆっくりと目隠しに手をかけた。
その瞬間、王位の顔色が変わる。
「それは──!」
止めようと声を上げた王位の前で、風が裂けた。
四月が、椅子を蹴って踏み込み――誉を蹴り飛ばしたのだ。
衝撃音が教室に響く。
全員の視線が一点に集まる。
「……させんよ」
四月の声は低く、鋭く、まるで刃のようだった。
教室の空気が一瞬にして変わる。
宮中は冷や汗を流しながら、ただ成り行きを見守ることしかできなかった。
「貴様……!」
誉がゆっくりと立ち上がる。
「やめてくれるかな? 王位の母親。私のクラスメイトに“それ”を使うな」
四月は一歩も引かず、視線だけで誉を牽制する。
目には微かに電光が走り、空気を焦がす。
「この学園にいたらダメって……どういう意味なんですか?」
震える声で問うのは三井野だった。
恐怖を押し殺し、それでも逃げずに向き合おうとしていた。
「どうもこうもない! 富が角を折り、負けるなど――お前らのせい以外にあるものか!」
誉の叫びは、怒りと悲しみが混じっていた。
その声が響くたびに、空気がさらに重くなる。
誰も動けなかった。
息を吸うことすら、躊躇われるほどの圧。
そんな中で――ひとり、声を上げた。
「それは違うと、富自身が言ってるだろうが!」
夜騎士の叫びだった。
拳を握りしめ、机を叩くようにして立ち上がる。
その瞳には、後悔も怒りも、そして確かな決意も宿っていた。
「黙れ! お前は一番の元凶だ、夜騎士凶!」
誉の怒声が返る。
だが夜騎士は怯まない。
「王位は友達思いの良い奴だ。期末は確かに負けたかもしれないけど、十分強い!」
風悪が、必死に声を絞り出す。
その言葉に、教室の空気がわずかに揺らいだ。
辻も、静かに頷いた。
皆の胸にあるのは、ただひとつ。
――仲間を守りたいという想い。
金髪の女・王位誉は、目隠し越しにそんな彼らを見渡した。
沈黙が、重く教室に落ちた。