【造られた妖精の少年】は、異能学園で“魔”を滅ぼす――ⅩⅢ 現代群像戦線 作:神野あさぎ
王位富の母、王位
その異能による暴走事件は、あまりにも突然で、あまりにも重かった。
戦いのあと、誉は
罪状は〈異能による殺人未遂〉。
標的が学園生徒、しかもA組全員だったことを思えば、当然の処置だった。
それでも、富はその報告を聞きながら、どこか苦笑いを浮かべていた。
母を責めるでもなく、ただ静かに。
数日後。
王位の父が本部へ直接介入し、正式な取り調べの結果――
誉の件は「精神的な暴走による事故」として処理された。
そして何よりも、王位富自身が「この学園に残りたい」と強く訴えたことで、彼の在籍は認められた。
ようやく日常が戻った昼休み。
「正直、怖かったよね」
二階堂が机に突っ伏しながら呟いた。
その声にはまだ、どこか余韻が残っている。
「そうですわね」
七乃が隣で小さく頷き、胸に手を当てる。
ふたり同時に、ふぅと安堵の息をついた。
「あんなに空気重くなることある?」
スクリーンには新作ゲームのガチャ画面。
けれど指先はほとんど動かない。
教室の隅では、鳩絵がスケッチブックを広げていた。
あの日の記憶を頼りに、事件の一場面を絵に起こしている。
筆の動きは静かだが、どこか祈るようにも見えた。
「でも、みんな無事で良かった」
辻がぽつりと呟く。
その言葉に、教室の空気が少しだけ和らぐ。
「これで辞めさせられてたら、オレ暴れたぞ」
その冗談めいた調子に、みんながくすりと笑う。
「あばれたら止めなきゃね」
王位が肩をすくめて軽く返す。
もう、以前のような柔らかい笑顔が戻っていた。
――仲間がここにいる。
その事実だけで、
窓の外では、冬の風がやわらかく校庭を撫でていく。
緊張に満ちた日々のあとに訪れた、ほんの束の間の静けさ。
風悪はそれを感じながら、そっと目を細めた。
一ノ瀬は、何気なく隣の席に目をやった。
だが、彼の指先はわずかに机を叩いていた。
その一定のリズムが、思考の深さを物語っていた。
――何を考えているのか。
一ノ瀬はその無表情の奥を覗こうとするが、やはり分からなかった。
と、そのとき。
「お前たちの成長、喜ばしいことだ」
教室の扉が開き、
落ち着いた声が響く。
戦いのあとの緊張を知る者の、静かな労いだった。
A組の面々は、自然と背筋を伸ばした。
ほんの一瞬、空気が引き締まる。
――また日常が戻ってくる。
そう思わせる、いつもの光景。
窓の外では冬の光が柔らかく差し込み、カーテンを揺らしていた。
今日も授業が始まる。
だが、その頃――
ⅩⅢ最下層。
封印の間と呼ばれる地下施設では、別の風が吹いていた。
「……地下の魔因子は依然として存在」
モニターの前で、黒いスーツの部下が低く報告する。
その顔には焦りが滲んでいた。
「上に伝えろ。対策は必至と」
封印局長の声が、ヴェールの下から響く。
それは命令というより、静かな警鐘のようだった。
「はっ」
部下は短く返事をし、足早に部屋を出ていく。
残されたのは、無機質な機器音だけ。
局長の視線が、中央のホログラムモニターに向けられる。
そこに映し出されている波形。
――《−02 <魔因子>》
脈動するように揺れるライン。
まるで封じ込められた何かが、再び目を覚まそうとしているかのように。
ヴェールの下、局長の唇がゆっくりと動いた。
「……まだ、終わってはいない」
その言葉が、静寂の中に落ちる。
やがて波形が一瞬だけ強く脈打ち、
警告灯が赤く点滅した。
霜月の風が、再び揺らぎ始めていた――。