【造られた妖精の少年】は、異能学園で“魔”を滅ぼす――ⅩⅢ 現代群像戦線   作:神野あさぎ

127 / 140
第十三章・風、軋む日
第百二十七話 再訪する影


 霜月が過ぎ、師走の風が校舎を包む。

 補習という慌ただしい日々もようやく終わり、切ノ札(きりのふだ)学園には久しぶりの穏やかな朝が訪れていた。

 

 そんな中、教室に届いた一枚のプリントが、再び波紋を呼ぶ。

 

「……異能合同演習?」

 

 風悪(ふうお)は首を傾げ、手元の紙を見つめた。

 

「そうだ。他校生を招いて、防衛演習を行う」

 

 教壇に立つ宮中(みやうち)潤が、穏やかな声で答える。

 その口調には淡々とした響きがあったが、どこか含みを感じさせた。

 

「この学園は防衛力の向上を目指しているからな」

 

 宮中は淡々とした口調でそう言うと、手に持っていたプリントの束を配り始めた。

 一枚一枚、机に置かれる紙の音が静かな教室に響く。

 

「その割には攻められたり、暴徒が出たり、散々よねー」

 

 五戸(いつと)このしろがいつもの気だるげな調子で言う。

 スマホを片手に、画面をいじりながらため息をついた。

 

「学園漫画描くなら、そうじゃなくっちゃね!」

 

 鳩絵かじかが親指を立てて言う。

 その笑顔に教室が少しだけ和むが、本人に描くつもりはない。

 

 二階堂秋枷は苦笑いを浮かべ、七乃朝夏は心配そうに二階堂の肩を見やった。

 いつものA組の風景――その中に、少しだけ緊張の空気が混じる。

 

「ゲストとして、無名学園から三名来てもらうことになっている」

 

 宮中が説明を続ける。

 教室内に、ざわめきが走った。

 

「無名学園か……体育祭以来だな」

 

 辻颭がぽつりと呟く。

 その声には、微かに戦意と警戒の両方が混じっていた。

 

 無名学園。

 異能学校群の中でも、ひときわ異質な存在。

 明確な教育方針も組織体系もなく、各地から“流れの異能者”を拾い集めて作られた寄せ集めの学園。

 戦闘能力は高い。

 だが、規律は存在せず、彼らが何を考えているのか誰にも分からない。

 

 それゆえに、他校との関わりには常に緊張が付きまとう。

 

 風悪は手元のプリントを見下ろし、胸の奥に小さなざらつきを感じていた。

 ――風が、軋み始めている。

 

 校庭。

 冬の風が、乾いた砂をわずかに舞い上げていた。

 

 その中央に立つA組の面々の前に、三つの影が現れる。

 

 焔堂カイ。

 凪原リク。

 影沼トウヤ。

 

 無名学園の代表三名――どの顔も、以前と変わらぬ自信に満ちた笑みを浮かべていた。

 

「あー、お前ら!」

 

 風悪が即座に声を上げた。

 驚きと懐かしさが入り混じった声に、辻がうなずき、鳩絵が手を振る。

 

 体育祭の決闘で激突した相手たち。

 その再会に、空気が一瞬で戦場のように引き締まる。

 

「また会ったな、切ノ札の風使い」

 

 焔堂カイが口元を歪めて笑う。

 その声には、挑発でもなく、純粋な喜びの色があった。

 

 教壇代わりの台に立つ宮中潤が、淡々と声を上げる。

 

「これより、無名学園との合同演習に入る。

 こちらからは三名――風悪、辻、鳩絵に出てもらう」

 

 静かな言葉に、風悪たちは同時に前へ出た。

 それぞれが一歩進み出るたび、砂がわずかに鳴る。

 

「無名学園を合わせた六人で師──四月(しづき)の相手をしてもらう」

 

 宮中の一言に、A組の空気が一気に凍りついた。

 

「四月と!?」

「無理難題では?」

「無理無理無理無理!」

 

 悲鳴にも似た声があちこちから上がる。

 四月レン――学園最強と呼ばれる存在。

 彼女を“相手にする”という言葉の意味を、全員がよく知っていた。

 

「四月には、攻め込んできた敵役をやってもらう。加減はさせる。

 そして今回の目的は“倒すこと”ではない」

 

 宮中は、生徒たちの動揺を受け止めながら淡々と続けた。

 

「残りのメンバーで防御結界を貼る。これが今回の演習の目標だ。

 六人が戦っている後方にて、防御結界を展開し、学園を守る想定でやってもらう」

 

 説明が進むたびに、A組の間に真剣な空気が流れていく。

 

「あくまでも、四月の攻撃を防ぎつつ、いかに防御結界を貼れるか……ってことか」

 

 王位が腕を組み、冷静に分析するように呟いた。

 

「でも、倒してしまっても構わないんだろ?」

 

 焔堂カイが堂々と口にする。

 彼の言葉に、A組の全員が同じ思いを抱いた。

 ――(無理だよ……)。

 けれど、誰も口には出さない。

 

「制限時間は五分だ。

 結界の中心は王位、各点の留め役は一ノ瀬。

 残りは補助と防衛に回れ」

 

 宮中が最後の指示を告げる。

 静まり返る校庭。

 風が一陣、吹き抜けた。

 

「四月と戦いながらの……か」

 

 風悪は自分の両手を見つめ、拳を握る。

 手のひらに感じる微かな震え。

 それでも、逃げるつもりはなかった。

 

「やろう」

 

 隣で辻が短く言う。

 その声が、胸の奥を支えるように響く。

 

「体育祭メンバー、再集結です!」

 

 鳩絵が鉛筆を掲げて笑った。

 その姿に、周囲の緊張がわずかにほどける。

 

 冬の空の下、六人が並び立つ。

 彼らの前方には、すでに姿を現している一人の少女――四月レン。

 

 無風。

 静寂。

 空気が張り詰める。

 

 ――合同異能演習、開始。

 

 その合図を告げる鐘の音が、校庭に鳴り響いた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。