【造られた妖精の少年】は、異能学園で“魔”を滅ぼす――ⅩⅢ 現代群像戦線 作:神野あさぎ
「魔が……二階堂……?」
その言葉が、誰もが恐れていた現実を形にする。
二階堂秋枷――
彼の中に、“魔”が眠っていた。
「二階堂……限定的で発動し、攻撃性能のない異能──」
その声は震えていた。
「このループのことだったんだ」
その言葉が、全員の胸を刺す。
一ノ瀬さわらは、信じられないというように目を見開いた。
目の前に“魔の器”がいる。
彼女の手から、菌糸が伸びようとする――
だが、その瞬間。
「一ノ瀬さん、ダメです!」
七乃の叫びが教室を裂いた。
彼女の精霊が、菌糸の動きを押さえ込む。
淡い光が白く揺らぎ、空気を震わせる。
一ノ瀬はその光を睨みつけ、七乃を見据えた。
怒りと混乱、そして悲しみが入り混じった瞳。
「そう睨むなよ、一ノ瀬」
無機質な声が割り込んだ。
彼はゆっくりと前へ出てくる。
その顔は相変わらず感情の読めない、冷たい仮面のようだった。
「二階堂を殺しても、ループするだけだ。無駄だ」
淡々とした口調で、まるで運命の構造を語るかのように言う。
「何を……」
風悪が声を上げかけたそのとき。
六澄は静かに右手を上げ、二階堂の首元――チョーカーへと指を伸ばした。
指先が淡く光る。
金属音が小さく鳴り、チョーカーが外れる。
コトン、と床に落ちた。
その瞬間――
「……っ!」
二階堂が膝をついた。
胸を押さえ、苦しげに息を吐く。
彼の中で何かが、目覚めようとしていた。
直後、学園全体が揺れた。
空気が震え、校舎のあちこちから轟音が響く。
異能の暴走。
まるで世界そのものが悲鳴を上げるようだった。
「秋枷君!」
七乃が駆け寄り、精霊の光をまとわせる。
そのまま六澄を攻撃しようとした。
だが――届かない。
六澄の足元から、黒い闇が立ち昇った。
まるで深淵が形を取ったような影。
その闇は、七乃の精霊の光を吸い込み、消し去っていく。
「ふ、は、ははははは……」
六澄が笑った。
それは、いつもの冷笑ではなかった。
感情のこもった、人間の笑い。
ユイが消えたあの時以来、誰も見たことのない笑顔だった。
「わかし! あんた!」
拳を握りしめ、涙をこらえるように。
六澄は、ただ一言だけ残した。
「さて、どうなるかな?」
それだけを言い残し、闇の向こうへと歩み去った。
彼の姿が廊下の奥に消えると、教室に一瞬だけ静寂が訪れる。
誰もが声を失い、ただ息を潜めた。
そして――その静寂を破ったのは、校内の異能暴走の轟音だった。
再び、悲鳴と警報が学園を包み込む。
「今は異能の暴走を止めないと!」
辻が叫ぶ。
彼の爪先から風が立ち上り、焦燥と共に空気を震わせた。
校舎の外では、いくつもの爆音と光が弾けている。
異能の暴走は校庭だけでなく、研究棟、寮舎、体育館にまで広がっていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
二階堂は膝をつき、涙を流しながら謝り続ける。
その声は掠れて、今にも消えそうだった。
「二階堂のせいじゃない」
風悪が、はっきりとした声で言った。
その言葉は、混乱に沈みかけた空気を引き戻すように強く響いた。
風が吹き抜け、灰を運んでいく。
「今は十三部としての役目を、だな」
夜騎士が腕を組みながら言った。
その声は落ち着いていたが、瞳の奥に炎が灯っていた。
「学園の平和を守るのがボクたち、だもんね」
王位が穏やかな口調で続ける。
その微笑みの裏に、確かな覚悟が見えた。
緊張に満ちた空気の中で、それぞれが動き出す。
「燦! 避難誘導やろう!」
妃が叫ぶ。
「うん!」
三井野が頷く。
二人は息を合わせて走り出した。
廊下を駆け抜け、混乱する生徒たちの避難誘導へと向かう。
「頑張りましょう」
黒八が短く言った。
その声には、静かな決意がこもっている。
「さわらちゃん、今は十三部としての仕事が優先よ!」
五戸が軽く肩を叩き、笑顔で言う。
一ノ瀬は口を動かせないまま、それでも力強く頷いた。
その瞳に宿る光は、言葉よりも雄弁だった。
「かじかも頑張ります!」
鳩絵が鉛筆を握りしめ、スケッチブックを抱えて立ち上がる。
その姿は小柄でも、誰よりも勇敢だった。
次々と立ち上がる仲間たち。
それぞれの異能を抱え、それぞれの場所で戦う覚悟を決める。
そのとき、通信端末にノイズが走った。
『すまない、私もすぐにそちらへ行く』
短い言葉。
けれど、それだけで教室の空気が引き締まった。
全員の顔に、再び光が宿る。
七乃が二階堂の肩に手を置いた。
「大丈夫ですよ、秋枷君」
柔らかな声。
けれどその背には、無数の精霊が舞い、光の羽が揺れていた。
まるでその身ひとつで、全てを守ろうとしているかのようだった。
風悪は立ち上がり、拳を握った。
その瞳には迷いがなかった。
「風悪、お前は六澄のところへ行け!」
夜騎士の声が響く。
仲間を信じる声だった。
風悪は静かにうなずき、前を見据えた。
かすかに風が吹き、白い髪が揺れる。
「いってくる」
その一言とともに、風悪は走り出した。
教室の扉が開き、光が差し込む。
その背中を、皆が見送った。
それぞれの場所で、それぞれの戦いが始まる。
――暴走する魔因子、
解かれた枷、
そして、世界の軋む音。