【造られた妖精の少年】は、異能学園で“魔”を滅ぼす――ⅩⅢ 現代群像戦線   作:神野あさぎ

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第百三十七話 白と黒

 あちらこちらで轟音が響く。

 爆風、閃光、異能の咆哮。

 校庭も廊下も、戦場と化していた。

 

 異能の巨人が現れては、核を貫かれ、そして消えていく。

 また別の場所で生まれ、また撃ち抜かれ、消える。

 それが、延々と繰り返されていた。

 

 風悪(ふうお)は瓦礫の中を歩きながら考えていた。

 足音の代わりに、風の羽音が静かに響く。

 

四月(しづき)は、過去視で知っていたのに言わなかった……

 何故……? 二階堂だから?)

 

 歩みは止まらない。

 だがその心は、迷いの中にあった。

 

(言えなかったとしたら……それは、優しさか、それとも……)

 

 風悪は考えを止めないまま、空を見上げた。

 空は灰色に染まり、焦げた風が流れていく。

 その向こうに、黒い影が見えた。

 

 ――屋上。

 

 そこに立つのは、黒い妖精・ラウロス。

 その姿は、六澄(むすみ)わかしのものをしていた。

 

 対峙するのは、白い妖精・風悪。

 光と闇。

 創造と、反逆。

 

 風が止み、静寂が訪れた。

 

「四月は、言えなかったんだな」

 

 風悪はぽつりと言った。

 声は風に溶けて、夜明け前の空に消えていく。

 

「四月が、ⅩⅢ(サーティーン)が何もしてこなかったわけじゃない」

 

 ゆっくりと前へ進みながら、風悪は言葉を紡ぐ。

 六澄の方へ、ただ真っ直ぐに。

 

「四月は言っていた。打つ手がない、と。

 でももし、オレにだけは出来ることがあるとすれば……」

 

 拳を握る。

 白い風が、その手の中に渦を巻く。

 

「妖精の力だけだ」

 

 まっすぐ、六澄を見据える。

 瞳には揺らぎがなかった。

 

 六澄は何も言わず、ただ風悪を見ていた。

 その表情は、いつも通り無機質。

 だが、その奥で何かが確かに動いていた。

 

「お前、ユイが消えたあの日の夢で言ってたよな」

 

 風悪が言葉を重ねる。

 その声には静かな怒りが滲んでいた。

 

「“妖精の力を使って願いを叶えた。世界を作った。その時に――妖精としての力は失われた”」

 

 あの日、黒い夢の中で聞いた言葉。

 それが、すべての始まりだった。

 

「つまり、妖精の力で願えば――世界を変えられる」

 

 風悪は確信を込めて言う。

 風が吹き抜け、白い翅が光を反射した。

 

 その胸の奥に蘇るのは、未遂に終わった“世界改変”の記憶。

 誰にも理解されなかった、あの“奇跡”の残滓。

 

「だが、四月は言わなかった。いや……言えなかった」

 

 風悪は俯いた。

 唇を噛みしめる。

 風が頬を撫で、静かに白い翅を揺らした。

 

 六澄はその様子を無言で見ていた。

 まるで、全てを見通しているかのように。

 

 灰色の空。

 黒と白の妖精。

 その間を、風だけが通り抜けていく。

 

 六澄は口を開いた。

 その声には温度がなかった。

 

「お前は人工妖精だからな。純粋な妖精じゃない。

 自分と違って、力を失えば姿も失う可能性が高い──だろうな」

 

 淡々と、無慈悲に。

 まるで数学の答えを告げるように、彼は事実だけを並べていく。

 

 屋上の下では、学園全体を揺るがす轟音が鳴り続けていた。

 爆ぜる異能。崩れる建物。

 それでもこの場所だけは、異様な静寂に包まれていた。

 

「お前、オレがこのチカラを使うのを待ってたんだな」

 

 風悪は六澄を睨みつけた。

 怒りを押し殺し、声が震える。

 

「正確には――答えを出すのを待ってた、だ」

 

 六澄は微かに目を細めた。

 その表情には、皮肉も嘲りもなかった。

 ただ、冷静すぎるほどの静けさ。

 

「わが身可愛さに保身に走っても良い訳だろ?

 そうすれば、日常と非日常が続いていくだけだ」

 

 風悪は拳を握る。

 風が一瞬だけ、鋭く唸った。

 

「なんで! 二階堂を!」

 

 怒りが爆ぜるように声を荒げた。

 

 六澄はそれでも、感情を見せなかった。

 ただ、わずかに瞳だけを動かして風悪を見据える。

 

「見ての通り、自分は感情表現が得意ではない」

 

「は?」

 

 風悪の眉が吊り上がる。

 その反応さえ、六澄は観察しているようだった。

 

「だから、他人のを見ることにしている」

 

 その一言で、風悪の怒りが再び燃え上がった。

 

「魔はそのための舞台装置。

 別に二階堂を“魔の檻”に選んだわけじゃない。

 たまたま、二階堂になったんだ」

 

 静かな言葉が、風悪の胸に突き刺さる。

 六澄の声には悪意がない。

 だからこそ、なおさら許せなかった。

 

 風悪の歯が軋む。

 拳が震え、風がざわめいた。

 

「舞台装置って……! 生きてるんだぞ!」

 

 怒鳴り声が屋上を裂く。

 風が爆ぜ、瓦礫が宙に浮いた。

 空気が一瞬、緊張で歪む。

 

 六澄はそれを真正面から受け止めながら、微動だにしない。

 

「知っているさ」

 

 その言葉が、恐ろしいほどに穏やかだった。

 

「そう作ったのだから」

 

「お前……」

 

 風悪の言葉は、途切れた。

 喉の奥から出た怒りの音が、風に飲まれて消えた。

 

 六澄の瞳は、まるで鏡のように感情を映さなかった。

 

 

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