【造られた妖精の少年】は、異能学園で“魔”を滅ぼす――ⅩⅢ 現代群像戦線 作:神野あさぎ
あちらこちらで轟音が響く。
爆風、閃光、異能の咆哮。
校庭も廊下も、戦場と化していた。
異能の巨人が現れては、核を貫かれ、そして消えていく。
また別の場所で生まれ、また撃ち抜かれ、消える。
それが、延々と繰り返されていた。
足音の代わりに、風の羽音が静かに響く。
(
何故……? 二階堂だから?)
歩みは止まらない。
だがその心は、迷いの中にあった。
(言えなかったとしたら……それは、優しさか、それとも……)
風悪は考えを止めないまま、空を見上げた。
空は灰色に染まり、焦げた風が流れていく。
その向こうに、黒い影が見えた。
――屋上。
そこに立つのは、黒い妖精・ラウロス。
その姿は、
対峙するのは、白い妖精・風悪。
光と闇。
創造と、反逆。
風が止み、静寂が訪れた。
「四月は、言えなかったんだな」
風悪はぽつりと言った。
声は風に溶けて、夜明け前の空に消えていく。
「四月が、
ゆっくりと前へ進みながら、風悪は言葉を紡ぐ。
六澄の方へ、ただ真っ直ぐに。
「四月は言っていた。打つ手がない、と。
でももし、オレにだけは出来ることがあるとすれば……」
拳を握る。
白い風が、その手の中に渦を巻く。
「妖精の力だけだ」
まっすぐ、六澄を見据える。
瞳には揺らぎがなかった。
六澄は何も言わず、ただ風悪を見ていた。
その表情は、いつも通り無機質。
だが、その奥で何かが確かに動いていた。
「お前、ユイが消えたあの日の夢で言ってたよな」
風悪が言葉を重ねる。
その声には静かな怒りが滲んでいた。
「“妖精の力を使って願いを叶えた。世界を作った。その時に――妖精としての力は失われた”」
あの日、黒い夢の中で聞いた言葉。
それが、すべての始まりだった。
「つまり、妖精の力で願えば――世界を変えられる」
風悪は確信を込めて言う。
風が吹き抜け、白い翅が光を反射した。
その胸の奥に蘇るのは、未遂に終わった“世界改変”の記憶。
誰にも理解されなかった、あの“奇跡”の残滓。
「だが、四月は言わなかった。いや……言えなかった」
風悪は俯いた。
唇を噛みしめる。
風が頬を撫で、静かに白い翅を揺らした。
六澄はその様子を無言で見ていた。
まるで、全てを見通しているかのように。
灰色の空。
黒と白の妖精。
その間を、風だけが通り抜けていく。
六澄は口を開いた。
その声には温度がなかった。
「お前は人工妖精だからな。純粋な妖精じゃない。
自分と違って、力を失えば姿も失う可能性が高い──だろうな」
淡々と、無慈悲に。
まるで数学の答えを告げるように、彼は事実だけを並べていく。
屋上の下では、学園全体を揺るがす轟音が鳴り続けていた。
爆ぜる異能。崩れる建物。
それでもこの場所だけは、異様な静寂に包まれていた。
「お前、オレがこのチカラを使うのを待ってたんだな」
風悪は六澄を睨みつけた。
怒りを押し殺し、声が震える。
「正確には――答えを出すのを待ってた、だ」
六澄は微かに目を細めた。
その表情には、皮肉も嘲りもなかった。
ただ、冷静すぎるほどの静けさ。
「わが身可愛さに保身に走っても良い訳だろ?
そうすれば、日常と非日常が続いていくだけだ」
風悪は拳を握る。
風が一瞬だけ、鋭く唸った。
「なんで! 二階堂を!」
怒りが爆ぜるように声を荒げた。
六澄はそれでも、感情を見せなかった。
ただ、わずかに瞳だけを動かして風悪を見据える。
「見ての通り、自分は感情表現が得意ではない」
「は?」
風悪の眉が吊り上がる。
その反応さえ、六澄は観察しているようだった。
「だから、他人のを見ることにしている」
その一言で、風悪の怒りが再び燃え上がった。
「魔はそのための舞台装置。
別に二階堂を“魔の檻”に選んだわけじゃない。
たまたま、二階堂になったんだ」
静かな言葉が、風悪の胸に突き刺さる。
六澄の声には悪意がない。
だからこそ、なおさら許せなかった。
風悪の歯が軋む。
拳が震え、風がざわめいた。
「舞台装置って……! 生きてるんだぞ!」
怒鳴り声が屋上を裂く。
風が爆ぜ、瓦礫が宙に浮いた。
空気が一瞬、緊張で歪む。
六澄はそれを真正面から受け止めながら、微動だにしない。
「知っているさ」
その言葉が、恐ろしいほどに穏やかだった。
「そう作ったのだから」
「お前……」
風悪の言葉は、途切れた。
喉の奥から出た怒りの音が、風に飲まれて消えた。
六澄の瞳は、まるで鏡のように感情を映さなかった。