【造られた妖精の少年】は、異能学園で“魔”を滅ぼす――ⅩⅢ 現代群像戦線 作:神野あさぎ
最後の試験会場。
午後の陽光が斜めに差し込み、床の線が金色に光っている。
そこに立つ二人組。
「まさか貴方と組むことになるとは、思いませんでしたわ」
七乃は深くため息をついた。頬をふくらませ、あからさまに肩を落としている。
「
六澄はいつもの無表情で言う。まるで興味がないように、淡々と。
「それは……そうですけど」
七乃は口を尖らせ、ふと横を見た。六澄は相変わらず感情のない瞳でこちらを見ている。
その沈黙を破るように、六澄がふと口を開いた。
「首輪、新しくした?」
七乃の動きが止まる。その瞳が大きく見開かれた。
「ど、どうしてそれを!」
「さあ……?」
六澄は無感情なまま、煙に巻くように答えた。
「……何か知っていますの?」
「どうして、そう思う」
「だって首輪のこと──」
「見りゃ分かる。」
七乃の声が震える。
「そんなはず……」
そのやり取りの最中、試験官がたまらず割って入った。
「そろそろ、試験を──」
だが、二人の会話は止まらなかった。
「精霊使い、ね」
六澄がぼそりと呟く。
七乃がぴくりと反応した。
「……見えますの?」
「まあな」
六澄の視線の先、誰にも見えないはずの“精霊”がゆらりと揺れていた。
試験官には何も見えない。だが、空気の温度が一瞬で変わる。背筋を冷たいものが這い上がった。
「な、何だ……?」
試験官が焦り、魔力の刃を展開する。
同時に足元に黒い影が伸び、動きを封じた。
視線を上げた先――七乃の周囲に、淡い光の粒が浮かぶ。まるで精霊たちが彼女を守るように舞っていた。
得体の知れない二つの力が、目に見えないところでぶつかり合う。
光と影。祈りと沈黙。
「六澄さんは……
七乃の声が冷たく響く。
「ああ。自分のは“闇”だからね」
六澄は静かに言い放つ。
そこには、感情も誇りもなかった。ただ事実としての答えがあるだけだ。
闇使いと精霊使い。
協力すれば最強、しかし属性的には真逆。この組み合わせが、最も危うい。
「普通の人……ではありませんのね」
「そう思いたければ思えばいい」
六澄の声が、どこか遠くから聞こえたように響く。
試験官はもう動けなかった。影に囚われ、光に惑わされ、何もできないまま試験終了の合図が鳴る。
静かな戦いだった。
だが、この日、最も教師たちを震えさせたのはこの組み合わせだった。
試験後。
風が冷たい。
七乃朝夏はいそいそと校舎の廊下を歩いていた。
曲がり角で、
「七乃さん?」
声をかけられたが、彼女は振り返らなかった。ただ、ほんの一瞬だけ、その瞳が揺れた。
言えない。
二階堂に六澄のことを告げられなかった。彼に余計な心配をかけさせたくなかったのだ。
ただ、それだけだった。
七乃は小さく息を吐き、足早に去っていく。
廊下の影から、その様子を無表情に見つめる六澄がいた。その瞳の奥に、誰も知らない“闇”がわずかに光る。
遠く、窓の向こうで二階堂の首元のチョーカーが光を反射した。
漆黒のまま、何も変わらずに。
一方その頃。
「辻君とのペアで合格したんですね?」
黒八が嬉しそうに笑う。
「うん! 最初はちょっと大変だったけど……」
風悪が照れくさそうに頭を掻く。
二人の無邪気な会話を、辻は黙って聞いていた。
笑ってはいる。だが、その瞳はどこか遠くを見ていた。まるで、何かを思い詰めているように。
その頃、職員室。
試験官たちの怒号が響いていた。
「なんなんですか、あなたのクラス!」
「秒殺ですよ、どこも!」
「教師と生徒に
口々に言い募る教師たち。
冷たい風がカーテンを揺らす。
「……分かって編成したと思ってた」
静かにそう呟くと、室内は一瞬、静まり返った。
誰も、言葉を返せなかった。