【造られた妖精の少年】は、異能学園で“魔”を滅ぼす――ⅩⅢ 現代群像戦線   作:神野あさぎ

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第二十四話 昼の雨、止まぬ想い

 昼休みのことだった。

 今日も、しとしとと雨が降っていた。

 窓を伝う雫が、どこか重たく見える。

 

 二階堂秋枷(にかいどう あきかせ)は、ぼんやりと窓の外を眺めていた。机に頬をつけ、何かを思い詰めるような眼差しで。

 その横顔を、七乃朝夏(ななの あさか)が心配そうに見つめていた。

 

「秋枷君……」

 

 声をかけかけて、しかし言葉が続かない。

 

 対照的に、六澄(むすみ)わかしはいつもの無表情のままだ。

 だが、ほんの少しだけ口角が上がっている。

 

「何?なんか楽しいことでもあった?」

 

 その変化に気づいたのは五戸(いつと)このしろだった。興味があるわけでもなく、ただの間を埋めるように声をかける。

 

「何も」

 

 六澄は短く返し、視線を教科書へ落とした。会話が途切れ、再び雨音だけが支配する。

 

 四月(しづき)レンは、単語帳を片手に薬瓶を並べ、錠剤を睨んでいた。

 一方、一ノ瀬さわらはスマホを強く握りしめて震えていた。

 画面に表示されているのは、辻颭(つじ せん)暴走事件のニュースだ。「魔の影響で……」という文字列が、彼女の怒りをさらに煽っているのが見て取れる。

 

 風悪(ふうお)が心配そうに声をかける。

 

「大丈夫か? 一ノ瀬」

 

 一ノ瀬は顔を上げず、小さく、こくりと頷いた。

 

 あの日以来、辻と黒八(くろや)は学校を休んでいる。四月の話では命に別状はなく、処置が間に合ったおかげでまもなく退院できるとのことだった。

 それでも、空席の目立つ教室の空気にはどこか不安が漂っていた。

 

「オレも何か出来ることないかなぁ……」

 

 二階堂がぽつりとこぼす。

 

「秋枷君には、わたくしがついていますわ!」

 

 七乃が力強く言い切る。二階堂は苦笑しながら「ありがと」と短く返した。

 

「私も、戦えたら良かったんだけど……」

 

 三井野燦(みいの さん)が小さく呟くと、隣で妃愛主(きさき あいす)が勢いよく立ち上がった。

 

(さん)! 燦にはあたし!」

 

 その声が教室に響き、数人が思わず笑う。

 二階堂も三井野も戦闘能力は低い。だからこそ、みんなの役に立てる何かを探していたのだ。

 

「三井野さんは異能でサポートできるじゃん? オレは……全くだから」

 

 二階堂が俯きながら言うと、夜騎士凶(よぎし きょう)がふっと笑った。

 

「二階堂にだって、なんかあるだろ」

「何かって?」

「んーーーーーーーーんんん?」

 

 夜騎士の曖昧な返しに、二階堂は困惑する。

 

「十三部のマネージャー的な?」

「もっと具体的に!」

「部活やったことないからなぁ!」

「ええ〜!?」

 

 周囲から笑い声が漏れる。束の間の、平穏な空気。

 

「四月さんはどんな訓練、受けてたの?」

 

 ふと、王位富(おうい とみ)が問う。

 彼は真剣な顔で、教科書を閉じていた。四月は小四の頃に“選ばれた子供”のひとりだ。訓練を経てⅩⅢ(サーティーン)に入る――その過酷なルートを歩んだ人物の意見を求めたのだ。

 

「二階堂がやったら死ぬかもな」

 

 四月は単語帳をめくりながら、目線を上げずに言い放つ。

 

「秋枷君が!? 死ぬ!?」

 

 七乃が思わず大声を上げる。

 

「やらないよ!」

 

 二階堂が慌てて返す。

 

「いち早く“私”に連絡するとか、傷の応急手当するとか、なんかあんだろ。……自分で考えな」

 

 四月が当然のように言い放つ。だが、その言葉には重みがあった。

 誰もが黙り、やがて小さくうなずいた。

 

 鳩絵(はとえ)かじかだけは、そんな空気を気にせずノートにペンを走らせていた。描かれているのは、雨空の下の教室。誰もが静かに笑っている一枚絵。

 

 ――その瞬間、空気が変わった。

 

 教室の奥、窓際の端末が一斉に光った。緊急アラートが響き、赤い文字が浮かぶ。

 魔の反応あり 第二地区で発生 一般生徒は避難するように。

 ざわめきが走る中、風悪が真っ先に立ち上がった。椅子が後ろへ倒れ、鈍い音を立てる。

 

「……またか」

 

 夜騎士が眉をひそめた。

 王位はすぐに端末を開き、状況を確認する。

 

宮中(みやうち)先生は?」

「他のところ行ったな、そういえば」

 

 四月は顔を上げ、ゆっくりと立ち上がる。その瞳は、すでに“戦闘の色”を宿していた。

 

「行ってくる」

 

 短く告げると、風悪が即座に声を張った。

 

「オレたちも!」

 

 四月は一瞬だけ振り返り、冷静に言葉を返す。

 

「お前たちは十三部だ。ⅩⅢではない。一般生徒が安全に避難できるよう、サポートしろ」

「了解」

 

 風悪、夜騎士、王位の声が重なる。

 

「必要な戦闘は許可する。……無茶はするな」

 

 四月がそう言い放った瞬間――彼女の姿は、音もなく消えた。

 空気が一瞬、凍る。

 

「速ぇ……」

 

 夜騎士が感嘆の声を漏らした。その声が現実に引き戻すように響く。

 廊下ではすでに避難が始まっていた。生徒たちが我先にと押し合い、混乱の波が押し寄せている。

 

「みんな、慌てすぎじゃ……」

 

 風悪が教室の外を覗き込む。

 その視線の先――逃げる群れと逆方向に、数名の生徒が暴れ出していた。

 “魔”の影響だ。

 突発的な避難勧告に混乱した生徒たちの“心の隙”を、魔が突いたのだ。

 四月はすでに本対応に向かった。この場をどうにかできるのは――ⅩⅢの学園版、“十三部”だけ。

 

「行くぞ!」

 

 夜騎士が声を上げ、駆け出す。風悪と王位もそれに続いた。

 狭い廊下を、生徒の波が塞ぐ。それでも三人は跳躍し、壁を蹴り、天井を走った。疾風のように。

 

「行かせてばっかりじゃ、やだな……」

 

 三井野がぽつりと呟く。

 その隣で、妃が勢いよく立ち上がった。

 

「燦! あたしたちだって出来ることあるでしょ! ほら、避難誘導とか、応急手当の準備とか!」

「そうだね。」

 

 三井野が微笑む。その表情は、もう迷っていなかった。

 二人はすぐに動き出す。生徒たちの誘導、負傷者の救助、必要な支援を整えながら――“戦えない自分たち”にしかできない戦場へと向かった。

 

 一方で、二階堂は黙って窓の外を見ていた。

 雨はまだ降り続いている。遠くで雷鳴が光り、その音が静かな教室に反響した。

 

「オレも……いつか、戦闘部隊(あの中)に入りたい」

 

 拳を握りしめる二階堂の横で、七乃が穏やかに微笑んだ。

 

「その時は、わたくしもご一緒しますわ」

 

 その言葉に、二階堂は苦笑しながらも頷く。

 

「ありがとう、七乃さん」

 

 雨音がゆっくりと弱まっていく。

 その代わりに、風の音が――戦いへと向かう三人を包み込むように、校舎を駆け抜けていった。

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