【造られた妖精の少年】は、異能学園で“魔”を滅ぼす――ⅩⅢ 現代群像戦線 作:神野あさぎ
昼休みのことだった。
今日も、しとしとと雨が降っていた。
窓を伝う雫が、どこか重たく見える。
その横顔を、
「秋枷君……」
声をかけかけて、しかし言葉が続かない。
対照的に、
だが、ほんの少しだけ口角が上がっている。
「何?なんか楽しいことでもあった?」
その変化に気づいたのは
「何も」
六澄は短く返し、視線を教科書へ落とした。会話が途切れ、再び雨音だけが支配する。
一方、一ノ瀬さわらはスマホを強く握りしめて震えていた。
画面に表示されているのは、
「大丈夫か? 一ノ瀬」
一ノ瀬は顔を上げず、小さく、こくりと頷いた。
あの日以来、辻と
それでも、空席の目立つ教室の空気にはどこか不安が漂っていた。
「オレも何か出来ることないかなぁ……」
二階堂がぽつりとこぼす。
「秋枷君には、わたくしがついていますわ!」
七乃が力強く言い切る。二階堂は苦笑しながら「ありがと」と短く返した。
「私も、戦えたら良かったんだけど……」
「
その声が教室に響き、数人が思わず笑う。
二階堂も三井野も戦闘能力は低い。だからこそ、みんなの役に立てる何かを探していたのだ。
「三井野さんは異能でサポートできるじゃん? オレは……全くだから」
二階堂が俯きながら言うと、
「二階堂にだって、なんかあるだろ」
「何かって?」
「んーーーーーーーーんんん?」
夜騎士の曖昧な返しに、二階堂は困惑する。
「十三部のマネージャー的な?」
「もっと具体的に!」
「部活やったことないからなぁ!」
「ええ〜!?」
周囲から笑い声が漏れる。束の間の、平穏な空気。
「四月さんはどんな訓練、受けてたの?」
ふと、
彼は真剣な顔で、教科書を閉じていた。四月は小四の頃に“選ばれた子供”のひとりだ。訓練を経て
「二階堂がやったら死ぬかもな」
四月は単語帳をめくりながら、目線を上げずに言い放つ。
「秋枷君が!? 死ぬ!?」
七乃が思わず大声を上げる。
「やらないよ!」
二階堂が慌てて返す。
「いち早く“私”に連絡するとか、傷の応急手当するとか、なんかあんだろ。……自分で考えな」
四月が当然のように言い放つ。だが、その言葉には重みがあった。
誰もが黙り、やがて小さくうなずいた。
――その瞬間、空気が変わった。
教室の奥、窓際の端末が一斉に光った。緊急アラートが響き、赤い文字が浮かぶ。
魔の反応あり 第二地区で発生 一般生徒は避難するように。
ざわめきが走る中、風悪が真っ先に立ち上がった。椅子が後ろへ倒れ、鈍い音を立てる。
「……またか」
夜騎士が眉をひそめた。
王位はすぐに端末を開き、状況を確認する。
「
「他のところ行ったな、そういえば」
四月は顔を上げ、ゆっくりと立ち上がる。その瞳は、すでに“戦闘の色”を宿していた。
「行ってくる」
短く告げると、風悪が即座に声を張った。
「オレたちも!」
四月は一瞬だけ振り返り、冷静に言葉を返す。
「お前たちは十三部だ。ⅩⅢではない。一般生徒が安全に避難できるよう、サポートしろ」
「了解」
風悪、夜騎士、王位の声が重なる。
「必要な戦闘は許可する。……無茶はするな」
四月がそう言い放った瞬間――彼女の姿は、音もなく消えた。
空気が一瞬、凍る。
「速ぇ……」
夜騎士が感嘆の声を漏らした。その声が現実に引き戻すように響く。
廊下ではすでに避難が始まっていた。生徒たちが我先にと押し合い、混乱の波が押し寄せている。
「みんな、慌てすぎじゃ……」
風悪が教室の外を覗き込む。
その視線の先――逃げる群れと逆方向に、数名の生徒が暴れ出していた。
“魔”の影響だ。
突発的な避難勧告に混乱した生徒たちの“心の隙”を、魔が突いたのだ。
四月はすでに本対応に向かった。この場をどうにかできるのは――ⅩⅢの学園版、“十三部”だけ。
「行くぞ!」
夜騎士が声を上げ、駆け出す。風悪と王位もそれに続いた。
狭い廊下を、生徒の波が塞ぐ。それでも三人は跳躍し、壁を蹴り、天井を走った。疾風のように。
「行かせてばっかりじゃ、やだな……」
三井野がぽつりと呟く。
その隣で、妃が勢いよく立ち上がった。
「燦! あたしたちだって出来ることあるでしょ! ほら、避難誘導とか、応急手当の準備とか!」
「そうだね。」
三井野が微笑む。その表情は、もう迷っていなかった。
二人はすぐに動き出す。生徒たちの誘導、負傷者の救助、必要な支援を整えながら――“戦えない自分たち”にしかできない戦場へと向かった。
一方で、二階堂は黙って窓の外を見ていた。
雨はまだ降り続いている。遠くで雷鳴が光り、その音が静かな教室に反響した。
「オレも……いつか、
拳を握りしめる二階堂の横で、七乃が穏やかに微笑んだ。
「その時は、わたくしもご一緒しますわ」
その言葉に、二階堂は苦笑しながらも頷く。
「ありがとう、七乃さん」
雨音がゆっくりと弱まっていく。
その代わりに、風の音が――戦いへと向かう三人を包み込むように、校舎を駆け抜けていった。