【造られた妖精の少年】は、異能学園で“魔”を滅ぼす――ⅩⅢ 現代群像戦線 作:神野あさぎ
──医療棟。
風は止み、夜の帳が下りていた。
廊下の蛍光灯が、消毒液の匂いを淡く照らす。
その奥の一室。
ベッドの上で、
痛みがまだ全身を走っている。
だが、彼はまだ生きていた。
(……オレ、死んでない)
薄れかけた意識の中でそう思う。
妖精の翅を宿した異形の肉体は、常人よりも頑丈に作り変えられていた。
それが彼を、生かした。
とはいえ、腕や脇腹には深い傷が刻まれている。
呼吸のたびに焼けるような痛み。
生きている証を突きつけられるようで、息を吸うのさえ苦しかった。
ドアが静かに開く。
二人の顔には怒りが宿っている――けれど、それは激情ではなく、静かに燃える“意志”の炎だった。
「……よ」
夜騎士の声が低く響く。
その声を聞いて、風悪はようやく小さく笑った。
「ごめん」
短く、かすれた声。
息をするだけで痛む身体で、ようやく出せた言葉だった。
夜騎士は首を横に振る。
「悪いのはお前じゃない。
その声の奥に、深い怒りが潜んでいた。
いつも飄々としている夜騎士の顔が、こんなにも険しいのを風悪は初めて見た。
「……王位」
風悪が名前を呼ぶと、王位は静かに頷いた。
目は閉じられたままだが、空気が張りつめる。
「しかし、なんとかしたいね」
その言葉には冷静さと憤りが混じっていた。
理性で感情を押し込めているのが分かる。
「オレも、だ」
夜騎士が拳を握りしめた。
関節が鳴るほどに力をこめて。
「なんとしてでも探し出してやる」
夜騎士の声は低く、しかし確かな決意に満ちていた。
王位もその言葉に静かに頷く。
ベッドの上の風悪は、二人を見つめながら、かすかに微笑んだ。
この痛みがまだ残っていることさえ、彼にとっては希望だった。
「……ありがとう」
小さく呟いたその言葉を聞いて、夜騎士はわずかに口元を緩めた。
「……駄目だ」
低く響く声が、病室の空気を切り裂いた。
黒いマスクの下から発せられたその声――担任の
医療棟の扉を開けるなり、彼は一言で場を制した。
「先生!」
風悪が思わず声を上げる。
ベッドの上で包帯の巻かれた腕を押さえながら、必死に言葉を繋ぐ。
「オレ達は〈十三部〉の一員ですよ!
学校内で起きた“魔”の事件なら、動いてもいいはずだ!」
言葉に力がこもる。
それは怒りでも、焦りでもなく――ただの真っ直ぐな正義感。
十三部。
それは治安維持組織〈
異能を持つ生徒たちが、学園の安全を守るために活動する部隊だ。
今回の事件も、“魔”の影響が関わっている。
しかも、同じクラスの三井野が傷つき、風悪自身も襲われた。
黙ってはいられない――その想いが三人の胸に渦巻いていた。
しかし、宮中はぴしゃりと切り捨てる。
「学校内ならともかく、学校間の揉め事となれば話は別だ」
その声には怒気こそなかったが、教師としての責務が滲んでいた。
三人が生徒である以上、無謀な行動を許すわけにはいかない。
「だが――」
夜騎士が言いかけたその瞬間。
「決闘システムを使おう」
宮中の背後から、冷静な声が差し込む。
黒い髪を揺らし、左腕にアームカバーを巻いた少女――
その一言に、全員の呼吸が止まる。
「決闘システム……?」
風悪が首をかしげる。
夜騎士と王位は、何かを察したように顔を見合わせた。
決闘システム――
それは学園間で正式に問題が発生した場合、
互いの代表者同士が“決闘”という形式で解決を図る制度。
古くは異能戦争時代の遺産。
国家同士の争いを抑止するために作られた、合法的な戦闘手段でもある。
「私がⅩⅢとして出向き、
四月が静かに言う。
その声は凍るように冷たかった。
「けど――それじゃ、お前、いや……君たちは納得しないだろう?」
見透かすような視線が三人に注がれる。
四月の〈過去視〉の異能なら、敵の動きもすぐに追える。
だが、彼女は動かなかった。
生徒たちの戦いを、彼女自身の“責任”として一任されている。
それに、風悪たちが自分たちの意思で立ち向かおうとしていることも分かっていた。
「……決闘なら、正式な許可も降りる」
王位が呟くように言う。
「けど、見届け人が必要だろ?」
夜騎士が眉を上げて問う。
四月は一瞬だけ口角を上げた。
「私がやろう」
その提案に、場の空気がわずかに動いた。
「あなたが、ですか?」
宮中が眉をひそめる。
「まあ、ⅩⅢの立場で監査すれば問題ない」
「……確かに、そうですが……」
宮中は腕を組み、しばらく考え込む。
そして短く息を吐いた。
「ただし――無茶はするなよ」
黒いマスクの下で、わずかに笑みが見えた気がした。
「お前たちはまだ、生徒だ」
夜騎士が肩をすくめ、軽く笑う。
「言われなくても」
風悪は拳を握りしめた。
「絶対に、終わらせる。あいつの暴走も、“魔”の影も」
窓の外では、風が再び動き出していた。
その風は、まるで次の決闘の号令のように――静かに、鋭く吹き抜けていった。