【造られた妖精の少年】は、異能学園で“魔”を滅ぼす――ⅩⅢ 現代群像戦線 作:神野あさぎ
──翌朝。
【決闘申請 No.8721-F】
承認可決:
対象:
審査結果:条件付き承認
その知らせは、
決闘は正式に“成立”――
ただし、そこには一つの「条件」が添えられていた。
海皇高校・特別実践室
壁一面のガラス窓に、午後の日差しが差し込んでいた。
海豚悪天は机の上に腰をかけ、報告端末を軽く指で弾く。
「へぇ……そう来るんだ。凶君」
余裕を感じさせる笑み。
彼の前には魚ノ目憂、そして二人の男子――
「決闘、三対三か……なんか退屈そう」
鯨が口の端を上げる。
異能は“爆鯨”。
鯨のような物体を生成し爆破させる。
空気と水分を高圧縮は、衝撃波を放つ。
「……でも三人じゃバランス悪いね」
魚ノ目憂が、髪を指で弄びながら低く言う。
「女子、あたしだけだし」
海豚はそれを聞き、口元に笑みを浮かべた。
「じゃあ、条件つけよっか」
「条件?」
海豹疎が顔を上げる。
彼は無口な少年。氷を操る異能を持ち、冷気で攻防一体の型を使う。
「三対三じゃなくて――四対四」
「四対四?」
「そう。こっちは魚ノ目がいる。だからあっちにも“女子”を一人入れさせよう」
海豚の声は穏やかだが、どこか底知れない響きを持っていた。
「お互い条件を公平に、って建前さ。
でも実際は……“あいつら”をもう一人、引きずり出す」
魚ノ目が笑う。
「つまり、女の子を狙う気?」
「そうだよ」
海豚悪天の瞳が淡く光る。
燐光――音波制圧の前兆。
「ⅩⅢに送っといて。“4対4で再審査希望”。
条件は女子の人数を揃えること。……さ、これで向こうがどう動くか見ものだね」
切ノ札学園・特別対策部室
彼女はデータを読み上げた。
「“四対四形式への変更、および女性出場者の人数を揃えること”……だとよ」
「女子……か」
四月は首を横に振った。
「私は監査官。参加はできない」
「だよな……」
夜騎士がため息をついた。
「じゃあ、誰か……」
と、その時、誰かがぼそりと呟いた。
「一ノ瀬」
「"魔"においてなら彼女は協力してくれる……はず」
夜騎士はしばらく黙ってから、小さく頷いた。
「そうか……ただ、本人が受けるかどうかだ」
「オレが話してくるよ」
風悪が椅子から立ち上がる。
彼の表情には、傷の痛みよりも強い決意が浮かんでいた。
四月が静かに端末を閉じる。
「決闘の舞台は整いつつある。
あとは、お前たちが決めるだけだ」
窓の外で、雲が裂けた。
光が差し込む。
その光は、まるでこれから始まる戦いを照らす“開幕の閃光”のようだった。
昼休みの空気は、いつもより少しだけざわついていた。
それでも、生徒たちは思い思いの席で弁当を広げている。
一ノ瀬さわらは、
五戸は相変わらずスマホを片手にゲームの画面を睨んでいる。
「完凸させて! させてってば!」
彼女の指が連打する音が、昼下がりの静けさを小さく壊した。
「このしろちゃん、食べないの?」
「待って! 今いいところなの!」
鳩絵が呆れながらも笑う。
その横で、一ノ瀬と六澄は黙々と昼食を進めていた。
六澄は表情を変えず、ただ静かに口を動かしている。
──その時だった。
「一ノ瀬!」
勢いよく開かれた教室の扉から、風悪が駆け込んできた。
廊下の風が吹き込み、カーテンがふわりと舞う。
「ど、どうしたんですの、風悪さん!」
七乃朝夏が驚いて声を上げる。
二階堂秋枷も、口いっぱいに詰めたパンを止めたまま目を丸くしていた。
風悪は一ノ瀬の前まで歩み寄ると、両手を合わせて頭を下げた。
「頼む! 十三部を手伝ってくれ!」
教室中がざわつく。
「……何でさわらちゃんが、あんたらの手伝いを?」
五戸がスマホを置き、眉をひそめた。
その時、後方から甲高い声が飛ぶ。
「ちょっと! 誘うならあたしでしょ!」
妃
彼女の顔には怒りが浮かんでいる。
三井野
確かに妃の異能は強力だった。
異性限定とはいえ、洗脳効果は凶悪。
しかし、夜騎士も王位も、そして四月さえも彼女の名を挙げなかった理由があった。
――怒り過ぎている。
冷静さを欠けば、仲間を巻き込む危険すらある。
それに、今回の相手には女性が混ざっている。
異能が効かない相手を前にすれば、致命的だ。
風悪もそのことを理解していた。
「悪い、妃。……あんたじゃダメだ」
その一言で、空気が凍った。
「な、何をっ!」
妃が怒りに任せて風悪へ掴みかかろうとした瞬間――
空気が変わった。
彼女の足元から、白く細い糸が伸び、腕に絡みつく。
その動きを封じたのは、一ノ瀬さわらの“菌糸”。
「……一ノ瀬」
風悪が名を呼ぶ。
一ノ瀬は立ち上がり、静かに妃を見つめていた。
その瞳の奥で、何かが揺れていた。
言葉はなかった。