【造られた妖精の少年】は、異能学園で“魔”を滅ぼす――ⅩⅢ 現代群像戦線 作:神野あさぎ
期末テスト当日の朝。
夏の日差しが、学園の門を白く照らしていた。
「はー……テストも嫌だけど、なんかなぁ……」
妃
異能学園に入って以来、これといった「見せ場」がない。
女の子にかっこいいところを見せられないまま期末――
それが、彼女にとって何よりも気がかりだった。
「妃さん……ですわよね?」
背後から声がかかる。
金色の髪を緩く巻き、朝の光を受けてきらりと揺らす少女。
B組の
「あ、あんたは……」
心地は微笑むと、涼しげに髪を払った。
その様子を遠くから見ていた王位が、軽くため息をつく。
* * *
「うわ……この日が来たか」
教室に入った
期末テスト。
中間とは違い、筆記に加え、実技、異能測定まで組み込まれた“総合評価”。
それが、今日から二日間にわたって行われる。
「そこまで!」
一日目の筆記試験が終わり、教員の声が響く。
教室全体が一斉に安堵の息を漏らした。
「げっ、何!? クラス対抗?」
「そんなの聞いてない!」
休憩に入るや否や、廊下には新しい張り紙が貼られていた。
『期末試験 第二項目:実技・異能測定』
『午前:身体測定・出力試験 午後:連携戦術試験(A組 vs B組)』
「……A組 vs B組?」
妃が目を丸くして叫ぶ。
「ええー! 期末で対抗戦とか聞いてないんですけど!」
「A組とB組、どっちが優秀かって話だな」
王位が淡々と呟く。
「面倒……勝ってもギフトカードないし」
だが、笑っていられたのもそこまでだった。
* * *
――特別演習棟・第Ⅲ観測室。
白い壁、無機質な照明。
中央には、円形のガラス床に囲まれた巨大な測定台が設置されていた。
その上に、A組の生徒たちが一人ずつ呼び出されていく。
周囲の壁面には無数のホログラムモニター。
心拍、異能波長、精神波、魔因子濃度――
すべてがリアルタイムで数値化され、分析官たちの端末に送られていく。
「――A組一番。一ノ瀬さわら」
一ノ瀬は静かに台の中央へ歩み出た。
足元に淡い光が広がる。
次の瞬間、床のガラスの下から白い菌糸が伸び出し、周囲を包み込む。
まるで花が咲くように、淡い胞子が宙に浮かんだ。
「異能、菌糸系。制御値、安定」
宮中が即座に報告する。
菌糸の動きは穏やかで、波形は滑らか。
画面に表示される「安定率」は92%。
会場からは静かな感嘆の声が漏れた。
「次、二階堂
彼は不安げに台に立った。
しかし、測定装置は反応しない。
「異能反応、ゼロ。判定不可」
「……まあ、そうなるよね」
二階堂は肩をすくめ、苦笑した。
「次、三井野
彼女が立った瞬間、室内に微かな旋律が流れた。
音もなく響く“歌”が空気を震わせ、光が波紋のように広がる。
測定台の上の水晶が淡く光り、データの波形が安定曲線を描いた。
「異能、共鳴系。制御率――非常に安定」
「流石、癒し担当だな」
宮中が口元をわずかに緩めた。
続いて、四月レン。
台に立った彼女の周囲で、青い放電が細く走る。
しかし、波形は一切乱れない。
完璧な出力制御。
「異能、電撃・過去視複合。制御率、異常に安定」
「異常にって……」
妃が小声で呟き、王位が苦笑した。
その後も次々と名前が呼ばれる。
五戸このしろ。
漆黒の縄が空間を裂き、宙に浮かぶダミーターゲットを縛り上げた。
「制御:安定」
暗闇が空間を包み、光を呑み込む。
測定器が一瞬ブラックアウトを起こす。
「制御:判定不能」
七乃朝夏。
精霊の光が舞い、柔らかな風が流れる。
「制御:安定」
太陽の因子が反応するが、本人の異能ではないため測定不能。
「制御:測定不可」
スケッチブックに描いた剣が現実に出現し、数秒後に霧散。
「制御:安定」
辻
鎌鼬の刃風が走り、壁面を軽く切り裂く。
「制御:やや安定」
蒼黒いオーラが身体を包み、鋭い風圧を生み出す。
「制御:安定」
妃愛主。
ターゲットAIに視線を向けると、システム音声が即座に「従属」モードに切り替わった。
「制御:安定」
王位富。
角から聖光が漏れ、実体化した剣が床に触れた瞬間、波形が一瞬だけ跳ねる。
「制御:非常に安定」
そして――最後に
「十四番、風悪」
宮中が呼ぶ。
風悪は静かに立ち上がり、測定台へと歩いた。
透明な翅が、光を受けて揺れる。
ガラス床に足を置いた瞬間、風が動いた。
空気が揺れ、測定装置が一斉に反応する。
モニターの波形が、不規則に跳ねた。
「出力、上昇――異常反応!」
観測官が叫ぶ。
風悪は必死に呼吸を整える。
「……なんで、制御が……?」
風が螺旋を描き、測定台の周囲に渦を生んだ。
翅が微かに震える。
宮中が即座に遮断装置を起動し、光が収束する。
「測定終了」
宮中が眉をひそめた。
モニターには、見慣れぬコードが一瞬だけ表示されていた。
〈L-13:創造因子反応〉
「……因子の影響が出ている、か」
宮中は低く呟いた。
四月が腕を組み、モニターから目を離さない。
「風悪、何か感じたか?」
「……分からない。ただ、風が……勝手に動いた」
風悪は小さく答えた。
翅の奥で、まだ微かに光が脈打っていた。
評価項目、〈連携戦術試験〉
会場――異能演習棟地下、仮想空間ドーム。
舞台は、仮想空間ドームで再現された“無人島”。
白い光が明滅し、床面のホログラムが波紋のように広がる。
空間の温度、湿度、音、すべてが現実と寸分違わぬほど精密に構築されていた。
生徒たちは、それぞれの端末に転送情報とルールを確認していた。
〈試験ルール〉
・生徒は“ペア単位”でランダム転送される。
・転送前、クラスから1名をリーダーに指定、申請すること。
・失格条件:気絶。
・ペアの片方が気絶した場合、相方も失格。
ただしリーダーのみ例外とする。
・勝利条件:相手クラスのリーダーを特定し、気絶させること。
・殺害および生命損傷行為は禁止。
黒八が長い黒髪を揺らしながら、端末の文字を追っていた。
「ペアの片方が気絶で相方も失格……気が抜けませんね」
自分が足を引っ張らないようにと、黒八は息を整える。
そんな彼女の肩を、王位が軽く叩いた。
「ランダム転送ってことは、まず合流方法を決めるべきだな」
冷静な分析。
その声に、夜騎士が腕を組んで応じた。
「オレと三井野の音があれば、ある程度は位置を探せる」
「頑張ります!」
三井野が両手を握り、明るく答えた。
夜騎士はそんな彼女を見て、軽く頷く。
短い会話だったが、A組の信頼の空気がそこにあった。
「……てか、四月をリーダーに据えたらオレら勝てるんじゃ?」
風悪がぽつりと呟いた。
それは誰もが一度は思った疑問。
現役の
その存在は、まさに“切り札”だった。
だが四月は即座に首を横に振る。
「流石に異能も特異体質も使用禁止。リーダーにもなるな、と言われた」
「え!?」
教室のときのように、A組の声が揃って上がる。
四月は小さく息を吐き、淡々と続けた。
「公平を保つためのハンデだそうだ。
もっとも……」
その瞳に、一瞬だけ鋭い光が宿る。
「足は引っ張らない。むしろ丁度いい」
その言葉には確かな自信と――
どこか、生徒たちを背中で守るような頼もしさがあった。
風悪は、その横顔を見つめながら心の中で息を吐く。
(……クラスメイトには電撃打ったじゃん)
四月の言葉ひとつで、緊張していた空気が少しだけ引き締まった。
――まもなく、仮想空間の転送準備が完了する。
ドームの光が変わり、低い振動音が響く。
床下から風が立ち上がり、足元のホログラムが砂浜の色に変化した。
「転送開始。各ペア、心構えをしておけ」
宮中の声が響いた瞬間、視界が白く染まる。
風が渦巻き、足元の世界が崩れる。
身体がふっと浮き上がり、光の粒が全身を包み込む。
――次の瞬間。
風悪は、波の音で目を覚ました。
見渡す限りの青い海と白い砂浜。
真夏のような陽射しが降り注ぎ、潮風が頬を撫でた。
「……無人島、ってこういうことか」
隣には辻の姿があった。
遠く、別の方角で爆音と光が上がる。
「どうやら、始まったみたい」
辻の言葉に、風悪は頷いた。
空にはドームの光が微かに揺れ、
その中心に浮かぶホログラムが、対戦クラス――〈B組〉の文字を映していた。