【造られた妖精の少年】は、異能学園で“魔”を滅ぼす――ⅩⅢ 現代群像戦線   作:神野あさぎ

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第五十話 異能出力制御

 期末テスト当日の朝。

 夏の日差しが、学園の門を白く照らしていた。

 

「はー……テストも嫌だけど、なんかなぁ……」

 

 妃愛主(あいす)は頭を掻きながら登校していた。

 異能学園に入って以来、これといった「見せ場」がない。

 女の子にかっこいいところを見せられないまま期末――

 それが、彼女にとって何よりも気がかりだった。

 

「妃さん……ですわよね?」

 

 背後から声がかかる。

 金色の髪を緩く巻き、朝の光を受けてきらりと揺らす少女。

 B組の東風心地(こち ここち)だった。

 

「あ、あんたは……」

 

 心地は微笑むと、涼しげに髪を払った。

 その様子を遠くから見ていた王位が、軽くため息をつく。

 

 

* * *

 

「うわ……この日が来たか」

 

 教室に入った風悪(ふうお)が、机に突っ伏して呟いた。

 期末テスト。

 中間とは違い、筆記に加え、実技、異能測定まで組み込まれた“総合評価”。

 それが、今日から二日間にわたって行われる。

 

「そこまで!」

 

 一日目の筆記試験が終わり、教員の声が響く。

 教室全体が一斉に安堵の息を漏らした。

 

「げっ、何!? クラス対抗?」

「そんなの聞いてない!」

 

 休憩に入るや否や、廊下には新しい張り紙が貼られていた。

 

『期末試験 第二項目:実技・異能測定』

『午前:身体測定・出力試験 午後:連携戦術試験(A組 vs B組)』

 

「……A組 vs B組?」

 

 妃が目を丸くして叫ぶ。

 

「ええー! 期末で対抗戦とか聞いてないんですけど!」

 

「A組とB組、どっちが優秀かって話だな」

 

 王位が淡々と呟く。

 

「面倒……勝ってもギフトカードないし」

 

 五戸(いつと)が気怠そうに言い、周囲が笑う。

 

 だが、笑っていられたのもそこまでだった。

 

* * *

 

 ――特別演習棟・第Ⅲ観測室。

 

 白い壁、無機質な照明。

 中央には、円形のガラス床に囲まれた巨大な測定台が設置されていた。

 その上に、A組の生徒たちが一人ずつ呼び出されていく。

 

 周囲の壁面には無数のホログラムモニター。

 心拍、異能波長、精神波、魔因子濃度――

 すべてがリアルタイムで数値化され、分析官たちの端末に送られていく。

 

 宮中(みやうち)潤が観測官として端末の前に立ち、冷静に記録を取っていた。

 四月(しづき)レンは背後で腕を組み、全員の様子を見つめる。

 

「――A組一番。一ノ瀬さわら」

 

 一ノ瀬は静かに台の中央へ歩み出た。

 足元に淡い光が広がる。

 

 次の瞬間、床のガラスの下から白い菌糸が伸び出し、周囲を包み込む。

 まるで花が咲くように、淡い胞子が宙に浮かんだ。

 

「異能、菌糸系。制御値、安定」

 宮中が即座に報告する。

 

 菌糸の動きは穏やかで、波形は滑らか。

 画面に表示される「安定率」は92%。

 会場からは静かな感嘆の声が漏れた。

 

「次、二階堂秋枷(あきかせ)

 

 彼は不安げに台に立った。

 しかし、測定装置は反応しない。

 

「異能反応、ゼロ。判定不可」

 

「……まあ、そうなるよね」

 

 二階堂は肩をすくめ、苦笑した。

 

「次、三井野(さん)

 

 彼女が立った瞬間、室内に微かな旋律が流れた。

 音もなく響く“歌”が空気を震わせ、光が波紋のように広がる。

 測定台の上の水晶が淡く光り、データの波形が安定曲線を描いた。

 

「異能、共鳴系。制御率――非常に安定」

 

「流石、癒し担当だな」

 

 宮中が口元をわずかに緩めた。

 

 続いて、四月レン。

 台に立った彼女の周囲で、青い放電が細く走る。

 しかし、波形は一切乱れない。

 完璧な出力制御。

 

「異能、電撃・過去視複合。制御率、異常に安定」

 

「異常にって……」

 

 妃が小声で呟き、王位が苦笑した。

 

 その後も次々と名前が呼ばれる。

 

 五戸このしろ。

 漆黒の縄が空間を裂き、宙に浮かぶダミーターゲットを縛り上げた。

 「制御:安定」

 

 六澄(むすみ)わかし。

 暗闇が空間を包み、光を呑み込む。

 測定器が一瞬ブラックアウトを起こす。

 「制御:判定不能」

 

 七乃朝夏。

 精霊の光が舞い、柔らかな風が流れる。

 「制御:安定」

 

 黒八(くろや)空。

 太陽の因子が反応するが、本人の異能ではないため測定不能。

 「制御:測定不可」

 

 鳩絵(はとえ)かじか。

 スケッチブックに描いた剣が現実に出現し、数秒後に霧散。

 「制御:安定」

 

 辻(せん)

 鎌鼬の刃風が走り、壁面を軽く切り裂く。

 「制御:やや安定」

 

 夜騎士(よぎし)凶。

 蒼黒いオーラが身体を包み、鋭い風圧を生み出す。

 「制御:安定」

 

 妃愛主。

 ターゲットAIに視線を向けると、システム音声が即座に「従属」モードに切り替わった。

 「制御:安定」

 

 王位富。

 角から聖光が漏れ、実体化した剣が床に触れた瞬間、波形が一瞬だけ跳ねる。

 「制御:非常に安定」

 

 そして――最後に

 

「十四番、風悪」

 

 宮中が呼ぶ。

 

 風悪は静かに立ち上がり、測定台へと歩いた。

 透明な翅が、光を受けて揺れる。

 

 ガラス床に足を置いた瞬間、風が動いた。

 空気が揺れ、測定装置が一斉に反応する。

 

 モニターの波形が、不規則に跳ねた。

 

「出力、上昇――異常反応!」

 

 観測官が叫ぶ。

 風悪は必死に呼吸を整える。

 

「……なんで、制御が……?」

 

 風が螺旋を描き、測定台の周囲に渦を生んだ。

 翅が微かに震える。

 

 宮中が即座に遮断装置を起動し、光が収束する。

 

「測定終了」

 

 宮中が眉をひそめた。

 モニターには、見慣れぬコードが一瞬だけ表示されていた。

 

〈L-13:創造因子反応〉

 

「……因子の影響が出ている、か」

 

 宮中は低く呟いた。

 四月が腕を組み、モニターから目を離さない。

 

「風悪、何か感じたか?」

「……分からない。ただ、風が……勝手に動いた」

 

 風悪は小さく答えた。

 翅の奥で、まだ微かに光が脈打っていた。

 

 

 評価項目、〈連携戦術試験〉

 会場――異能演習棟地下、仮想空間ドーム。

 

 舞台は、仮想空間ドームで再現された“無人島”。

 

 白い光が明滅し、床面のホログラムが波紋のように広がる。

 空間の温度、湿度、音、すべてが現実と寸分違わぬほど精密に構築されていた。

 生徒たちは、それぞれの端末に転送情報とルールを確認していた。

 

〈試験ルール〉

・生徒は“ペア単位”でランダム転送される。

・転送前、クラスから1名をリーダーに指定、申請すること。

・失格条件:気絶。

・ペアの片方が気絶した場合、相方も失格。

 ただしリーダーのみ例外とする。

・勝利条件:相手クラスのリーダーを特定し、気絶させること。

・殺害および生命損傷行為は禁止。

 

 黒八が長い黒髪を揺らしながら、端末の文字を追っていた。

 

「ペアの片方が気絶で相方も失格……気が抜けませんね」

 

 自分が足を引っ張らないようにと、黒八は息を整える。

 そんな彼女の肩を、王位が軽く叩いた。

 

「ランダム転送ってことは、まず合流方法を決めるべきだな」

 

 冷静な分析。

 その声に、夜騎士が腕を組んで応じた。

 

「オレと三井野の音があれば、ある程度は位置を探せる」

「頑張ります!」

 

 三井野が両手を握り、明るく答えた。

 夜騎士はそんな彼女を見て、軽く頷く。

 短い会話だったが、A組の信頼の空気がそこにあった。

 

「……てか、四月をリーダーに据えたらオレら勝てるんじゃ?」

 

 風悪がぽつりと呟いた。

 それは誰もが一度は思った疑問。

 現役のⅩⅢ(サーティーン)メンバーであり、A組の一員でもある――四月レン。

 その存在は、まさに“切り札”だった。

 

 だが四月は即座に首を横に振る。

 

「流石に異能も特異体質も使用禁止。リーダーにもなるな、と言われた」

 

「え!?」

 

 教室のときのように、A組の声が揃って上がる。

 四月は小さく息を吐き、淡々と続けた。

 

「公平を保つためのハンデだそうだ。

 もっとも……」

 

 その瞳に、一瞬だけ鋭い光が宿る。

 

「足は引っ張らない。むしろ丁度いい」

 

 その言葉には確かな自信と――

 どこか、生徒たちを背中で守るような頼もしさがあった。

 

 風悪は、その横顔を見つめながら心の中で息を吐く。

 

(……クラスメイトには電撃打ったじゃん)

 

 四月の言葉ひとつで、緊張していた空気が少しだけ引き締まった。

 

 ――まもなく、仮想空間の転送準備が完了する。

 

 ドームの光が変わり、低い振動音が響く。

 床下から風が立ち上がり、足元のホログラムが砂浜の色に変化した。

 

「転送開始。各ペア、心構えをしておけ」

 

 宮中の声が響いた瞬間、視界が白く染まる。

 

 風が渦巻き、足元の世界が崩れる。

 身体がふっと浮き上がり、光の粒が全身を包み込む。

 

 ――次の瞬間。

 

 風悪は、波の音で目を覚ました。

 見渡す限りの青い海と白い砂浜。

 真夏のような陽射しが降り注ぎ、潮風が頬を撫でた。

 

「……無人島、ってこういうことか」

 

 隣には辻の姿があった。

 遠く、別の方角で爆音と光が上がる。

 

「どうやら、始まったみたい」

 

 辻の言葉に、風悪は頷いた。

 空にはドームの光が微かに揺れ、

 その中心に浮かぶホログラムが、対戦クラス――〈B組〉の文字を映していた。

 

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