【造られた妖精の少年】は、異能学園で“魔”を滅ぼす――ⅩⅢ 現代群像戦線 作:神野あさぎ
翌日。
秋の気配はまだ遠く、
教室の窓から吹き込む風は、夏の名残を色濃く抱いていた。
空は少しずつ高く、白い雲がゆるやかに流れていく。
そんな昼のこと――。
「このしろちゃん、お弁当食べよ!」
机を囲むのは、いつもの四人。
一ノ瀬さわら、五戸このしろ、鳩絵かじか、そして
一ノ瀬、五戸、鳩絵はそれぞれ弁当を開く。
六澄だけは、白いパッケージの固形栄養食を静かに口へ運んでいた。
「そんなので、よく足りるわね〜あんた」
五戸が眉をひそめて言う。
「……食に興味は無い」
六澄は淡々と答える。
感情の起伏もなく、ただ事実だけを述べる声。
本当に興味がないらしく、数分も経たずに食べ終えてしまった。
「
隣の席の
風悪は弁当を持ってきていなかった。
いつものように、短く答える。
「学食、行く」
「なら、オレらも行くかー」
王位も無言で後に続いた。
教室の一番前――。
無表情のまま小さな錠剤を水で飲み下していた。
風悪は、ふとその姿に目を留めた。
六澄、四月。
どちらも“食”に対して異様に無頓着だ。
少食な辻とは違う。
もっと、根の深い何か――
それを、この時の風悪はまだ知らなかった。
*
放課後。
日が傾きはじめた校門の前で、腕章をつけた人物がチラシを配っていた。
「是非、集会へ来てください!」
「どうぞ、よろしくお願いします」
何気なく通りかかった風悪は、一枚を受け取った。
黒八も隣で覗き込む。
紙には、太い筆跡でこう書かれていた。
――一条会。
下にはスローガンめいた言葉。
『共に修行を重ね、“高み”を目指しましょう!』
「……高み?」
風悪が眉を上げる。
「“修行”ってのも、ちょっと気になりますね」
黒八が真面目な声で呟いた。
「黒八、まさか興味あるの?」
「いえ……そういう意味ではなく」
黒八は首を傾げ、チラシを光に透かす。
紙の隅に、奇妙な紋が見えた。
“円”の中に一本の線――“一条”の印。
「なんか、きな臭いですね」
「壺でも売られたりして」
「……あ〜」
二人は顔を見合わせ、同時に苦笑した。
そんな他愛もないやり取りの間を、
ぬるい風がすり抜けていった。
夏の残り香が、まだ校門の上に揺れていた。
*
同刻・
分厚い強化ガラス越しに、都市の夜景が見える。
青白いモニターの光が、部屋の空気を冷たく染めていた。
「師、過去視で追えないのですか?」
黒いマスクの男――
その声音には、焦燥をかすかに滲ませながらも冷静さを保っている。
四月レンは、無言で端末を操作していた。
画面には複数の波形データ。
時系列を遡るごとに途切れ、ノイズが増えていく。
「一度襲撃してから、すぐに対策を組まれた。
結界の中だ。……見えない」
淡々とした返答。
けれど、その一言には確信があった。
ⅩⅢが追っているのは――一条会。
最近になって学園内外で“勧誘”を始めた、正体不明の集団。
その実態は、〈魔堕ち〉を理想とする信仰組織だった。
四月の過去視をもってすれば、追跡など容易いはずだった。
だが、今の彼女には“見えない”。
異能の干渉を拒む無効化領域。
その領域を、彼らは結界術によって人工的に生み出していた。
「……オレ――いや、私の異能は“過去”を視る。
“未来視”や“予見”はできない」
四月は端末を閉じ、宮中を振り返る。
静かな笑みを浮かべながらも、目は笑っていなかった。
「“本体の私”なら……いや、それを言い出したら、この世界を救えてるか」
冗談のような言葉。
だがその口調には、どこか諦観が混ざっていた。
宮中は腕を組み、低く呟く。
「なら、どうしますか」
「……私のやり方では、後手に回るな」
四月はモニターの映像を切り替える。
そこには、昼の学園の映像――
校門前で配られる“ある紙”が映っていた。
白地に黒筆の文字。
――《一条会》
四月の指が止まる。
そして、淡々と呟いた。
「……彼ら、“動き出した”か」
立ち上がる。
椅子が軽く軋んだ。
「宮中、現地に向かう。学園周辺にチラシがばら撒かれてる」
四月が歩き出す。
警告音が鳴り、モニターに“異能反応”の赤いラインが走った。
「祈りは熱、熱は魔、魔は力……」
宮中が、そのフレーズを小さく復唱した。
まるで、呪いのように。
夜のⅩⅢ本部を、青い警報灯が照らす。
――学園で配られた一枚のチラシを発端に、
また“風”が動き始めていた。