【造られた妖精の少年】は、異能学園で“魔”を滅ぼす――ⅩⅢ 現代群像戦線 作:神野あさぎ
一条会――久遠礼巳との戦闘が終わり、
清掃斑と医療班の手によって、生徒たちは順に救出されていった。
学校もまた、破壊された箇所の整備が進められている。
とはいえ、被害は甚大。
結界や設備の再構築が終わるまで、学園は数日の休校措置となった。
* * *
医療棟の窓辺。
白いカーテンが静かに揺れる。
ベッドの上では、
毒の後遺症も、もうほとんど残っていない。
「師――
黒いマスクを外した
その声音には疲労と同時に、どこか悔しさが滲んでいた。
「先生がさ、四月のこと“師”って呼ぶ理由、やっと分かりました」
風悪がベッドの上で笑う。
口調は軽いが、どこか嬉しそうでもあった。
「オレはてっきり、“しづき”って言いにくくて、“し、し、し”って噛んでるのかと!」
隣のベッドで
「うるさい。減点にするぞ」
宮中の低い声が響く。
だが、誰も本気で怯えていない。
そのやり取りが、いつもの平穏を取り戻した証のようだった。
「でも……本当に、よかったです」
「うん、解毒が間に合って……!」
「本当ですわ」
三井野と七乃が顔を見合わせ、安堵の笑みを浮かべる。
「……四月さんは?」
辻が尋ねた。
「まだ
王位が淡々と説明した。
声は落ち着いていたが、その表情はどこか険しい。
「わかしが、残党狩りは終わったって言ってたけど?」
「あの場にいたのは、一部でしかないって」
妃が補足した。
「アイスの癖に、よく知ってるじゃないか」
王位が口を尖らせる。
「何を!?」
妃が机を叩き立ち上がる。
「まあまあ……」
二階堂が苦笑して手を上げた。
くだらない冗談。
けれど、その何気ない日常が今は愛おしかった。
皆が助かった――ただ、それだけで十分だった。
風悪は少し息をつき、スマホを手に取る。
画面に浮かぶ名前は、一ノ瀬さわら。
迷いなく、メッセージを送る。
『
送信ボタンを押した瞬間、風悪の胸に小さな不安がよぎった。
一方その頃――
研究棟の一室で、一ノ瀬はそのメッセージを見て、目を伏せていた。
(……やっぱり。
わかし君は、ラウロス――
可能性は、高い……)
胸の奥が冷たくなる。
彼の無表情、その観察者のような眼差し。
全てが、あの“黒い妖精”を思わせた。
風悪の勘は、決して間違っていない。
* * *
「かじかは! この体験を漫画にします!
“学校に襲撃があったけど最強のオレが倒しました!”ってタイトルで!」
鳩絵が突然立ち上がり、腕を広げて宣言した。
「……描けるの?」
五戸が眉をひそめる。
「ぐ、ぐぐぐ……!」
鳩絵は口をへの字にして、悔しそうに唸った。
病室の中に笑い声が広がる。
窓の外では、夕陽が沈みかけていた。
オレンジ色の光が差し込み、彼らの影をゆっくりと伸ばしていく。
「……しかし、ⅩⅢの闇の部分、見ちゃったね。」
病室の空気を切るように、二階堂がぽつりと呟いた。
その声には、恐れと戸惑いが入り混じっていた。
ⅩⅢ――治安維持組織、“制裁機構”。
この国では、英雄として語られる存在だ。
だが、群集熱の夢で見た光景はあまりにも生々しかった。
英雄の裏にある、非人道的な悲劇。
理想を掲げたその手で、子供たちの命を奪ってきたという事実。
誰も、すぐには言葉を返せなかった。
「……四月のやつ」
夜騎士が、静かにその名を口にした。
まるで胸の奥を押さえるような、重い声音。
だが、その沈黙を破るように――
夜騎士は顔を上げた。
「それでもオレは、ⅩⅢを目指すよ!」
その目はまっすぐ前を見ていた。
驚いた視線が彼に集まる。
「四月みたいな子を、二度と増やさないためにもな。」
その言葉には、悲しみよりも決意が宿っていた。
王位は黙ってうなずく。
拳を握りしめ、目を伏せたまま。
彼もまた、胸の中で同じ決意を固めていた。
「……先生は、止められなかったんですか?」
辻が尋ねた。
その声は静かだが、確信を突いていた。
宮中は少しだけ目を伏せ、息を吐いた。
「オレは末席だからな。知った時にはもう、手遅れだった。」
唇を噛み、拳を握る。
その目には怒りと悔しさ、そして深い悲しみが滲んでいた。
「先生は……どうしてⅩⅢに?」
黒八が小さく尋ねた。
宮中は天井を見上げ、しばし沈黙する。
そして、かすれた声で言った。
「此処へ来た時、何もなかったんだ。
行く当ても、名前も、居場所も。
……ⅩⅢに居れば、全てが保証される。
だから入った。ただ、それだけだ。」
その言葉は、どこか自嘲めいていた。
彼がこの世界にどうやって来たのか――
誰にも詳しくは知られていない。
だが、少なくとも今の彼は“教師”であり、
生徒たちを守るために立っている。
「私は、お金のために入ろっかな~」
沈んだ空気を破るように、五戸が冗談めかして言った。
指先で髪をくるくると弄びながら、軽く笑う。
「全部課金で溶かすだろ」
六澄が冷静に突っ込む。
「やめときなって」
鳩絵が苦笑しながら肩を叩いた。
「ひどいっ!」
五戸が子供のように喚き、
病室には再び笑い声が戻る。
それはほんの一瞬の、平穏な時間。
嵐の後の静けさだった。
外では、風が吹いている。
戦いの熱が去り、秋の冷たい空気が窓を撫でた。
こうして――
一条会との騒動は幕を閉じた。
英雄たちは一息つき、
ほんの束の間の休息を与えられたのだった。
だがその風の中には、まだ微かな違和感が残っていた。
闇を見た者たちは、もう元の世界には戻れない。
それぞれの胸に、消えない影を抱えたまま――