【造られた妖精の少年】は、異能学園で“魔”を滅ぼす――ⅩⅢ 現代群像戦線 作:神野あさぎ
――切ノ札学園(きりのふだがくえん)。
門の上には、鋭く光る校章が掲げられていた。
異能保有者特別育成校。通称〈異能学園〉
その朝は、いつもよりも早く校門が開いた。
「復興記念文化祭」の横断幕が風に揺れ、校庭には色とりどりのテントが立ち並ぶ。
焼き菓子の匂い、ペンキの匂い、風船のきしむ音。
学園全体が、久しぶりの“平和なざわめき”に包まれていた。
校舎の放送室から、
『――生徒諸君、本日は文化祭を楽しむように。
ただし、異能の使用は安全管理の範囲内で頼む。暴走は禁止だ。以上』
その声に続いて、ざわめきと拍手が広がった。
教師陣の目は穏やかだが、どこか緊張を含んでいる。
――この学園では、“何も起きない”日こそが特別なのだ。
生徒たちはそれぞれの出し物へと散っていった。
A組は〈異能アート&幻想展示館〉。
B組は〈異能メイドカフェ “B’s♡Charm”〉。
他にもバンド、演劇、屋台など、校舎中が祭りのような熱気に包まれる。
そんな中、校舎の一角――A組とB組の出店が並ぶ廊下は、まるで戦場のような喧騒だった。
「いらっしゃいませーっ! A組の“幻想展示館”ですよーっ!」
その向かい側で、
「異能メイドカフェ“B’s♡Charm”へようこそ! 本日限定、特製スイーツつきですわ!」
両者の視線がぶつかる。火花が散る。
「……出たわね、東風!」
「ふふ、またお会いしましたわね、五戸さん」
互いに笑顔を浮かべながら、まったく譲らない。
どちらのクラスも観客を引き寄せようと必死だ。
背後では妃がパンフレットを手に、優雅に立っていた。
その隣では
「すごいな……これ、文化祭っていうより戦場だな」
「そう、これが文化祭!」
妃が満足そうに笑った。
そして次の瞬間――
「ミスターコンやってるやん!
五戸が突然、向かいの中庭を指さして叫んだ。
そこでは有志による“ミスター切ノ札コンテスト”のステージが始まっていた。
観客席には女子生徒たちがぎっしりと詰めかけている。
「なんでオレ?」
夜騎士は眉をひそめた。
顔立ちは整っているが、本人にその自覚はない。
「優勝したら商品頂戴よ! あんたならいける!」
五戸の勢いに押され、夜騎士は困ったように頭をかいた。
「……こういうの苦手なんだけどな」
「顔がいいのは罪よ、行ってらっしゃい」
五戸に背中を押され、夜騎士はステージ方向へと歩かされていく。
夜騎士の登場に会場が湧き、三井野と東風の心肺が停止した。
「興奮しすぎだよ」
王位が肩をすくめた。
文化祭のテンションは一気に最高潮に達した。
風悪はそんな喧騒を見つめながら、小さく笑った。
風が頬を撫で、校舎の上を抜けていく。
――久しぶりに、“風が笑っている”。
A組の展示会場は、薄暗い照明に包まれていた。
足を踏み入れた瞬間、温度がひとつ下がる。
天井から流れる風が、光を導き、音を揺らし、
映像の粒が空間の中でゆっくりと漂っていた。
「動く絵画」「空に漂う音」「風の触感を感じるアート」――
まるで夢の中を歩いているようだった。
三井野の澄んだ歌声に、七乃の精霊光が重なる。
一ノ瀬が菌糸で描く模様が床を走り、
その上を風悪の風が優しく通り抜ける。
光と風が調和し、ひとつの“生きた景色”が生まれていた。
「すごい……!」
「これが生徒の作品なのか?」
来場者の歓声が絶えない。
SNSでは「#A組やばい」「#異能アート革命」などのタグが広まり、
一時的にB組のカフェを上回る人気を博していた。
一ノ瀬はタブレットを操作し、来場データを確認する。
数字が上がるたびに、口元に柔らかな笑みが浮かんだ。
「風が……本当に笑ってるみたいだな」
隣で風悪が、映像を見つめながら呟いた。
柔らかな風が彼の頬を撫で、
一ノ瀬の髪をふわりと揺らす。
――穏やかな時間。
その光景はまさに、“風が笑う日”と呼ぶにふさわしかった。
だが、平穏は長く続かなかった。
展示の終盤、スクリーンの映像がふっと乱れた。
色の粒が歪み、光が逆流する。
風の流れが逆向きに変わり、室内の空気がざわついた。
次の瞬間――
チリン……
誰も触れていないのに、風鈴の音が鳴った。
映像の中にも、確かに風鈴が映っていた。
だが、それは設定していないはずのものだった。
「……え?」
「何の音?」
観客たちがざわめく。
音が止まり、風が荒れる。
精霊光が弾け飛び、菌糸のラインが黒く染まり始めた。
(制御装置が……反応しない!?)
一ノ瀬がタブレットを操作するが、画面が点滅して動かない。
「何かが……反応しています!」
その声に、会場が凍りつく。
風悪は中央で立ちすくんでいた。
だが――彼の周囲だけは、静かだった。
風の流れも、光の乱れも、彼の身体を避けていく。
他の生徒たちの影が揺らぎ始めた。
瞳に一瞬、赤黒い光が宿る。
次の瞬間、生徒たちの前に武器が、
まるで意思を持つように舞い降りてきた。
刃先がゆらりと震え、光の粒が黒く染まっていく。
「やばい……動いてる……!」
二階堂が声を上げる。
B組の生徒数名が逃げ込んできたが、状況を理解できずに立ち止まる。
――その時、声が響いた。
『ね、これを使って』
誰の声かは分からない。
高く、柔らかく、だが底のない闇を孕んだ声だった。
『これに魂を集めて。
集めきったら――あなたの願いを叶えてあげる』
その囁きと同時に、生徒たちは武器を手にする。
武器に触れた生徒たちが、その手を伸ばした瞬間、
目の色が変わった。
暴走ではない。
それは、“誘い”だった。
――風は笑っている。
だが、その笑いの奥に、確かに“泣き声”が混じっていた。