【造られた妖精の少年】は、異能学園で“魔”を滅ぼす――ⅩⅢ 現代群像戦線 作:神野あさぎ
第九十三話 風、疾る日
長月の終わり、秋の風が学園を包みはじめていた。
B組の封印から、すでに数日。
校内にはようやく、日常が戻りつつあった――少なくとも表面上は。
朝のホームルーム。
「神無月から、異能者間特例決闘調停制度――通称“決闘システム”を用いた体育祭の準備期間に入る」
その一言で、教室の空気が一気にざわめく。
机を叩く音、息を呑む気配、そして――高揚。
──新たな戦いが、始まる。
そんな予感が、
「異能者間特例決闘調停制度(通称“決闘システム”)って、前に風悪君たちが海皇高校とやった時のやつでしょー?」
鳩絵かじかが椅子に身を乗り出し、確認するように言う。
風悪たち十三部は、水無月の頃に海皇高校と正式な「決闘システム」を用いた異能戦を経験していた。
もともとこの制度は、異能保持者間のトラブルを“合法的な決闘”によって解決するために作られたものだ。
各校には監督官としてⅩⅢの派遣教員が配置され、安全を保証する代わりに、異能の使用が限定的に許可される。
そして――体育祭の期間中だけは、その枠組みが特例で拡張される。
「学校対学校」の異能戦。
それが、彼らに課された新たな“行事”だった。
宮中が黒いマスクの奥から声を走らせ、淡々と説明を続ける。
「体育祭を名目にした決闘システムによる異能バトル、というわけだ。
あくまでも目的は学生異能制御能力の観測と、対外交流。
“殺傷を目的としない”“第三者被害を出さない”“時間制限内で決着をつける”――この三原則は絶対だ。守ってもらう」
その声には、教師としてだけでなく、ⅩⅢの監督官としての厳しさもにじんでいた。
生徒たちは次々とメモを取り、ざわつきが広がる。
「形式は三対三のチーム戦と、個人戦に分ける。全員、一度は出場してもらう。
出場の割り振りは、今日から話し合って決めてくれ」
そう告げると、宮中は視線を教室全体に巡らせた。
その瞬間、少し空気が変わる。
二階堂と
「どうしましょうか……私の“太陽”は積極的に戦いませんし……」
黒八が心配そうに小さく呟く。
彼女の中に宿る“太陽”――その力は強大だが、使えば黒八自身に大きな反動を与える。
「戦えたとしても、“太陽”の反動による負荷が黒八を襲う……か」
風悪も腕を組み、考えを巡らせる。
窓の外から秋の風が吹き込み、彼の白髪を揺らした。
あの静かな風の音が――
これから訪れる戦いの、前触れのようにも聞こえた。
「そういや、
その言葉に、教室の空気がわずかに緊張する。
四月はⅩⅢのメンバー――通常なら、学園行事での参加は制限されるはずだった。
誰もが気になっていた問いだった。
「私も出る。戦闘の許可も出た。必要とあらば、二階堂と黒八を連れて出ても良い」
四月は淡々と答える。
その声音には一片の迷いもない。
二階堂と黒八を伴ってチーム戦に出るというのなら、実質一対三でも彼女なら勝てる――
誰もがそう思った。
「あ、秋枷君はわたくしが守ります!」
七乃が勢いよく手を挙げた。
その真っ直ぐな宣言に、二階堂が苦笑を浮かべる。
「三井野さんや鳩絵さんみたいに、戦闘向けじゃない子もチームに入れる必要があるね」
王位が冷静に分析しながら言った。
まるで将棋の盤面を見ているかのような静かな口調だ。
「個人戦は誰がやる?」
ぽつりと呟いたのは辻だった。
教室のざわめきが一瞬静まる。
「わかし、あんた個人戦で良いんじゃね?」
「できれば出たくない」
「一人一回は出るって話つーの!」
五戸が即座に突っ込む。
どこか漫才のようなやり取りに、教室に小さな笑いが起こる。
「一ノ瀬さんとか凶君とか……?」
三井野がおずおずと提案する。
「なら、あたしも!」
三井野にかっこいいところを見せたかった妃が勢いよく手を上げた。
しかし、王位がすかさず切り返す。
「異性相手なら無敵だけど、同性だったらどうすんの」
「うっ……」
妃は一瞬たじろぎ、言葉を詰まらせた。
そんな中、夜騎士が真剣な表情で尋ねる。
「相手は?」
宮中が手元の端末を操作し、淡々と答えた。
「無名学園と海皇高校。チーム戦二回、個人戦一回ずつだ」
「丁度十四人、一回ずつ、か……」
王位は目を閉じ、指先を組みながら考えるように呟く。
その横で、七乃と妃が同時に声を上げた。
「秋枷君とがいい!」
「燦と一緒じゃなきゃヤダー!」
教室の空気が一瞬でカオスに変わる。
二階堂が慌てて七乃をなだめ、三井野が妃の肩を掴んで引き止める。
見ていられなくなった風悪が、頭を押さえながら小さくため息をついた。
「収拾つくんか、これ……」
肩を落とす風悪の呟きが、かすかに風と混じって教室に流れた。
それでも――
どこか懐かしいこの喧騒こそ、学園の日常だった。
失われたはずの“笑い”が、ようやく戻ってきていた。