【造られた妖精の少年】は、異能学園で“魔”を滅ぼす――ⅩⅢ 現代群像戦線 作:神野あさぎ
会場、
半透明の結界膜が陽光を反射し、ステージ中央には六つの影が向かい合っていた。
観客席の前列から、A組の仲間たちの声援が飛ぶ。
「
「辻! 斬っちゃいな!」
「かじかちゃん、無理はしないで!」
それぞれの声が重なり、アリーナの空気を震わせる。
緊張と興奮が、まるで風のように流れ込んできた。
「賑やかだな。」
焔堂カイが呟く。
その声音には、どこか愉しむような響きがあった。
彼の身体からは、すでに微かな熱が立ち上っている。
風悪は静かに目を閉じ、風の流れを読む。
炎の温度、空気の密度、呼吸のリズム――すべてを“風”として感じ取っていた。
対面する焔堂は炎を纏い、闘志を隠そうともせず笑っている。
隣の凪原リオは両手を組み、冷気を孕んだ水鎖を生み出す準備をしていた。
もう一人、影沼トウヤは床に片手をつき、影の中へと身を沈める準備をする。
すでに三者三様、開戦の構えだ。
「がんばろう。」
辻がぽつりと口にした。
その声音は静かだが、確かな覚悟を含んでいる。
「うん。」
鳩絵が短く返す。
手にはスケッチブック、指先には震えがある。だが、その瞳は真っすぐだった。
「負けられない。」
風悪もまた、翅の奥に宿る微かな光を感じながら応える。
胸の奥で、風がざわめく。
(風は熱をはらむ……だが、風が吹けば炎は揺れる。やれる──)
その言葉を心の中で繰り返した。
審判役である教育庁異能管理局の職員が手を上げる。
静寂が訪れ、空気が張りつめる。
「――決闘、開始!」
合図と同時に、影が走った。
影沼トウヤが床の影に沈み込み、姿を消す。
凪原リオの掌からは水の鎖が現れ、音もなく地面を這う。
焔堂カイは両腕を広げ、赤熱を帯びた大地が鳴動した。
次の瞬間、炎の波動が爆ぜる。
床一面が焼け焦げ、空気が一気に熱を帯びた。
風悪は反射的に両手を掲げ、風を操る。
瞬間、目に見えぬ風壁〈風障壁〉が展開。
炎の熱波を受け止め、気流を捻じ曲げて受け流す。
しかし熱気で空気が歪み、視界が揺らいだ。
背後で辻が風を纏い、爪を変形させる。
爪先が鋭利に伸び、鎌状の風刃となって迸った。
その風刃が焔堂へ向けて放たれ、炎の中で弾け散る。
牽制――だが確かに、熱の壁を一瞬だけ切り裂いた。
そのさらに後方で、鳩絵がペンを走らせていた。
スケッチブックの上に、流れるように描かれる線。
描かれたのは“翼を持つ風の鳥”。
次の瞬間、絵が淡く光を放ち、ページから飛び出した。
半透明の鳥が羽ばたき、風悪の周囲を旋回する。
「かじかが補助するよ!」
鳩絵の声が響く。
具象化の描写――彼女の異能が顕現した瞬間だった。
風の鳥が空を裂き、炎の渦に突っ込む。
鳴動、爆ぜる熱、唸る風――
炎と風が、アリーナ中央でぶつかり合った。
凪原が掌を前に突き出す。
空気中の水分が一瞬で集まり、鎖の形を成して凍りついた。
冷気を帯びた水の鎖が、蛇のように蠢き――風悪の足元を絡め取る。
凪原の異能〈
結晶の鎖がきしみながら締めつけ、風悪の動きを封じた。
「動きを止めたところを、燃やす!」
焔堂の叫びと同時に、彼の掌から爆炎が迸る。
炎が咆哮を上げ、空気を震わせ、衝撃波を伴って爆ぜた。
鳩絵が慌てて防壁を描き始める。
ペンが走り、紙の上に風の盾が形作られる――が、
その瞬間、熱気が押し寄せ、スケッチブックの端が焦げ始めた。
「ちょ! 熱すごい!」
鳩絵の悲鳴。
立ち上る熱波に視界がゆらめく。
風悪は足を拘束されたまま、瞬時に判断する。
両腕を振り抜き、風圧を一点に集中させた。
――爆発の圧力を外へと逸らす。
風の奔流が壁のように広がり、鳩絵と辻を庇った。
爆炎がアリーナの外縁で弾け、轟音が響く。
その直後。背後の影が揺らぐ。
床に映る風悪たちの影――その中から、人影が飛び出した。
影沼トウヤ。異能〈
影から影へと潜行し、死角から奇襲を仕掛ける能力だ。
影の刃のような蹴りが、辻の背後を狙う。
辻は振り向きざま、風を纏った爪を振り抜いた。
風圧が弧を描き、刃となって影沼を弾き返す。
「後ろは任せて、風悪」
短い言葉に、風悪はうなずきで応えた。
影沼は舌打ちし、再び影の中へ溶けていく。
闇が波紋のように揺らぎ、消えた。
観客席の前列。
「かじかちゃん……」
隣で
「信じましょう」
二人の声は届かずとも、仲間たちの想いは確かにステージにあった。
アリーナ中央。
鳩絵が新しい紙を取り出し、風悪の姿を描き始めた。
筆の動きが速く、線が迷いなく走る。
そして――描き終えると同時に紙を裂く。
その瞬間、絵から風が噴き出し、描かれた“もう一人の風悪”が立ち上がった。
半透明の風の分身。
それは主の命令を待たずに動き出し、凪原の〈水縛〉を両手で掴み裂いた。
鎖が砕け、冷気が霧散する。
「合わせるぞ! 辻!」
「うん!」
二人の息が重なった。
風悪が風流を形成する。
流れを織り成すように空気を操り、渦を巻かせる。
その風に辻の風刃が重なり、
旋風と刃が合わさって一筋の斬撃となった。
疾風が焔堂の前を駆け抜け、炎の壁を真っ二つに裂いた。
朱色の火柱が、真白な風の線に貫かれる。
観客席がどよめく。
目の前の光景に、誰もが息を呑んだ。
「やるな!
焔堂は笑った。
その笑みは驚きではなく、むしろ嬉しそうだった。
次の瞬間、彼の炎がさらに膨れ上がる。
空気が焼け、足元の石がひび割れる。
焔堂は指を鳴らした。
「楽しくなってきたな……じゃあ、少しだけ本気で行くか!」
その言葉と同時に、彼の胸の奥が赤く輝く。
炎とは異なる光――紅い“心核”が脈動を始めた。
「まさか、〈
凪原が驚愕の声を上げる。
焔堂の背後から噴き上がる紅蓮の柱。
ステージ全体が朱に染まり、空気そのものが燃えるような熱気に包まれる。
風悪の翅が光を帯び、白風が対抗するように吹き荒れた。
炎と風――紅と白。
その衝突の予感が、会場全体を震わせる。
闘技の演壇が、今まさに沸騰しようとしていた。