【造られた妖精の少年】は、異能学園で“魔”を滅ぼす――ⅩⅢ 現代群像戦線   作:神野あさぎ

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第九十九話 雷、筆を奔る

 切ノ札(きりのふだ)学園チーム戦、二勝。

 無名学園チーム戦、二敗。

 

 この時点で、切ノ札学園一年の部の勝利はすでに確定していた。

 だが、この体育祭の本質は勝敗ではない。

 目的は――学生異能制御能力の観測、そして他校との交流。

 

 ゆえに、三回戦・個人戦は予定通りに行われる。

 

 会場にはまだ歓喜の余熱が残っていた。

 観客席では歓声がこだまし、興奮の波が絶えず揺れている。

 

 だが、A組だけは妙に静かだった。

 まるで、嵐の前のように。

 

四月(しづき)の個人戦……」

 

 風悪(ふうお)が喉を鳴らした。

 緊張とも期待ともつかぬ声。

 

「これ、むしろ相手が……」

 

 辻が途中まで言いかけて、口を閉じる。

 皆、その先を言わずとも分かっていた。

 “相手のほうが気の毒だ”――そういう空気だった。

 

 四月レン。

 ⅩⅢ(サーティーン)の現役メンバーであり、切ノ札学園の中でも異質の存在。

 教師陣ですら、彼女の“全力”を見た者はいない。

 

 彼女が静かにステージへと歩み出た。

 無駄のない所作。無表情。

 それでいて、何か得体の知れない“気圧”を纏っている。

 

 観客席のA組の視線が、一斉に彼女へと注がれる。

 その姿は、まるで戦場に立つ制裁者。

 

 対戦相手――無名学園代表、霜月ミオ。

 氷のように冷たい瞳をした少女が、四月の正面に立つ。

 

 異能〈氷葬〉。

 空気中の水分を瞬間凍結させ、氷の鎖を作り出す能力。

 接触したものをも凍らせる、攻防一体の力。

 

「――あんた、ⅩⅢなんだって? ⅩⅢなんてただの監視屋じゃない」

 

 霜月はステージに足を踏み入れるやいなや、挑発めいた声を放った。

 その声音は澄んでいるのに、棘を含んでいる。

 

 四月は何も答えなかった。

 ただ、薄い唇が小さく動いた。

 

「……それは、始まってから確かめるといい」

 

 その瞬間、アリーナに緊張が走る。

 教育庁異能管理局の職員が、審判台から手を上げた。

 

「それでは第三回戦、個人戦――決闘、開始!」

 

 号令と同時に、氷の結晶が弾けた。

 霜月が冷気を展開し、ステージ全体が一気に白く染まる。

 

「冷たさの恐怖を、教えてあげる」

 

 霜月の足元から氷が這い、瞬く間にステージを覆い尽くしていく。

 気温が急激に下がり、観客席の結界が淡くきしんだ。

 

 四月は電撃を放って応戦する。

 雷鳴のような音が一瞬走る――しかし、彼女は一歩も動かない。

 

 霜月が瞬時に氷の盾を形成。

 電撃が触れた瞬間、電流が盾の表面を流れ、地面へと逃げる。

 

 氷の中を走る電流が、青く光って消える。

 

「――あんたの電気じゃ、私のは届かない!」

 

 霜月が勝ち誇ったように叫ぶ。

 

 観客席前列。

 王位が腕を組みながら、冷静に分析した。

 

「上手く電気を逃がしてる」

 

 その声に夜騎士(よぎし)が頷く。

 

 だが、風悪だけは目を細めていた。

 四月の指先が、まだ“動いていない”ことに気づいていたからだ。

 

 嵐の中心は、まだ静かだった。

 

 四月はわずかに腕を動かした。

 袖の中から、一本のペンが指先に滑り出す。

 それを軽く弾き上げ、宙へと放った。

 

 観客が息をのむ。

 空中でくるくると回転するペンが、光を受けて瞬く。

 

 四月はアームカバーを巻いた左腕をゆっくりと上げる。

 その掌に、青白い電流が走った。

 

 ――次の瞬間、空が鳴った。

 

 雷鳴。

 

 電撃がペンを貫き、ペンを通して刃のように光が伸びていく。

 ペンを媒介にして、雷が形を得た。

 

 一本の、雷の大剣。

 

「ペンを媒介にした、あれは! 宿泊研修で見た……!」

 

 黒八(くろや)が興奮気味に叫ぶ。

 あのとき四月は、五本のペンに電気を通し、雷の“爪”を作っていた。

 だが今は一本。――出力が、まるで違う。

 

 四月は無言のまま、腕を振り下ろした。

 

 まるで、ゲームやアニメで見る、光を放つ大剣を振り下ろすかのように。

 けれど、現実のそれは音も衝撃も桁違いだった。

 

「ッ!!」

 

 雷撃が走る。

 霜月の氷盾は一瞬で粉砕され、霜月の身体を雷光が貫いた。

 アリーナ全体が閃光に包まれ、轟音とともに煙が舞い上がる。

 

 観客の悲鳴が遅れて響く。

 

 煙の中に立つ四月。

 彼女の髪が微かに揺れ、瞳が冷たく光る。

 

「出力は調整してある。死にはしない」

 

 その淡々とした声が、静まり返ったアリーナに響いた。

 煙の向こうで、霜月ミオは気絶したまま崩れ落ちていた。

 

 審判が慎重に近づき、手を上げる。

 

「勝者――切ノ札学園チーム!」

 

 一瞬の沈黙。

 次の瞬間、観客席が爆発するような歓声に包まれた。

 

「ご愁傷様すぎる……」

 

 五戸(いつと)が冷や汗を流しながら呟く。

 

「つっよ……」

 

 妃はそれしか言葉が出なかった。

 

「……あんなこと出来んの、四月って……」

 

 夜騎士が目を見開き、感嘆の息を漏らした。

 

 A組の面々はただ立ち尽くしていた。

 あの雷撃は、まるで“天の裁き”のようだった。

 

 無名学園の生徒たちは言葉を失い、ステージを見つめる。

 

 四月は振り返らずに歩き出す。

 雷剣が消え、彼女の手には再び一本のペンだけが残った。

 

 そのペンを静かに胸ポケットへ戻し、

 彼女は何事もなかったように、観客の歓声の中を去っていく。

 

 ――雷鳴はすでに止んでいた。

 けれど、誰の心にも、あの閃光の残像だけが焼きついていた。

 

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