半妖の青年は“五つの異能”で理不尽を覆す。神と悪魔の運命に挑む【SIN】 作:神野あさぎ
デュオラスは自らの脆弱な肉体を維持する為、背中に複数の医療用の管を繋ぎ、身体の調整を行っていた。
そのデュオラスのもとへ、妹のルリが訪ねた。
「そういや、どうして持たせたのさ兄よ」
ルリはデュオラスへ問う。
デュオラスは
デュオラスは少し沈黙した後、静かに口を開いた。
「あの地には、太陽神の一人が封印されている」
デュオラスの言葉によれば、参の国には太陽の能力──シンを与えられた人間の一人が封印されているということであった。
ここでルリは、デュオラスの言い回しに一つの疑問を抱いた。
「封印ね……ってか、『の一人』ってどういうこと!?」
「……」
ルリは、太陽神という存在が複数人いるかのような前提に違和感を覚えたのだ。
デュオラスは言葉を選びながら説明を続ける。
「太陽神はチカラが巨大すぎるが故に、一人に一つの『シン』ではなく、何人かに分散させてあるんだ」
デュオラスは体調不良をこらえながら解説した。
この世界の神とは、神格化された超越者などではなく、単に『オリジナルのシン』を持つ人間に過ぎない。
通常、神のシンは一人につき一つである。
ただし、太陽神と呼ばれる役職を担う者達だけは例外であり、分割されたシンを複数人の人間で共有していた。
「だから太陽神は複数人存在している」
「それは知らなんだ~」
デュオラスが事実を告げ、ルリは右手の人差し指を顎に当てて応じる。
しかしここで、ルリの脳内に新たな疑問が浮かび上がった。
「でもなんで封印されてるの?」
ルリは首を傾げる。
他の神と呼ばれる人間達は、各地で各々の目的のために活動している。
ならば何故、太陽の能力者達だけが封印措置を受けているのか。論理的な理由が存在するはずであった。
「……昔の伝承にもあるんだけど──……」
「?」
デュオラスはルリを見据え、過去の記録に基づく説明に入る。
『その昔──いくつもの太陽が同時に空に出てしまった』
太陽の能力を持つ人間は、全部で十人。
それまでは彼らが交代で、一人ずつ表舞台に出て活動していた。
しかしある時、十人の能力者が同時にその能力を解放してしまった。
『大地が干上がり、雨が降らなくなった事件が起きた』
十人分の発する異常な熱量により、物理的に大地の水分が蒸発し、地面が干ばつによってひび割れた。
『そこで人々は太陽を一つだけ残し、残りを射落とした』
一人の太陽の能力者を残し、残る九人の人間は物理的な手段によって討ち取られた。
これが、後世に伝わる伝承の真実であった。
「この世界でも太陽神は複数存在する……けれど周囲への影響力もあって、そのほとんどは封じられている」
分割したシンを複数人へ渡し、複数の太陽の能力者が存在することとなった。
しかし、彼らの発散する熱エネルギーはあまりに強大であり、周囲の環境や人体への影響が大きすぎる。
そのため、安全装置として意図的に封印を施された者がいた。それがデュオラスの導き出した結論であった。
「そんなに影響力があるの?」
ルリは床に転がり、うつ伏せになりながらデュオラスに問う。
「まあ、一人くらいならそこまではないけど」
弛緩した態勢のルリを見下ろしながら、デュオラスが冷静に答える。
「吸収して完全体にでもなられたら──……」
デュオラスは目を伏せ、複数のシンが一人に統合された場合の最悪の事態を推測して言った。
「……ん!?」
ルリは身体を起こし、思わず声に出す。
同系統のシンを他者から吸収し、出力を増大させる。そのような事象の書き換えが可能なのかと驚愕した。
「兎に角……
デュオラスは目を開け、横目でルリを見ながら懸念を口にする。
辛もアヴェルスも金属生成の能力者であり、それを主軸に戦闘を組み立てている。
極限の熱を操る人間が相手では、金属の融点を容易に超えられてしまい、物理法則の観点から極めて不利な戦いを強いられる。
「だから持たせたんだよ『アレ』を……」
ゆえにデュオラスは、その論理的相性を覆すための対抗策として、モドキにある物を持たせたのであった。
◇
参の国。
エンと対峙する辛達。
周囲の空間は散乱する瓦礫と、異常な高熱に支配されていた。
「ほら、どうした?」
エンは叫び声を上げながら右手を振り、炎を自在に操る。
灼熱の業火が三人を目掛けて殺到する。
辛は地を蹴って回避行動をとる。
と同時に、左手で金属生成の能力を励起させながら敵へと肉薄した。
即座に刀の形状へと金属を凝固させ、その切先でエンの肉体を切り裂こうと刃を振るう。
しかし、エンに物理的なダメージを与えることは叶わなかった。
辛が生成した刀は、エンの周囲を覆う圧倒的な熱量によって融点を超え、液状化して刀身の形を維持できなくなっていた。
「金属が溶けた……」
後方で炎を避けた
酸じゃない、熱か……。
辛は液状化して崩れ落ちる刀身を見ながら冷静に思考する。
以前、王水を操る敵と交戦し金属を溶かされた経験があるが、眼前の敵は明確に炎を操っている。
金属が熱エネルギーによって融解したという物理的事実に、辛は瞬時に考え至った。
「水に、金属使いか」
エンは余裕の表情を浮かべ、辛を見据えて言った。
辛は警戒を強め、後ずさって間合いを取り直す。
「残念だが、相性が悪いようだ」
エンは両手を広げ、自らの能力の優位性を誇示するように言い放った。
辛と爪戯の背筋を、冷たい汗が伝い落ちる。
次の瞬間、大気を震わせる巨大な爆発音が鳴り響いた。
辛と爪戯がエンとの交戦状態に入る中、
分散した戦力を一点に集約させるため、セーブルのもとへと駆け続けていた。
「なんとか抜け出せたけど……あの二人大丈夫かな?」
凪は後方に残してきた辛と爪戯の身を案じる。
「っても私、治療くらいしか出来ないけど……」
凪は自らの能力が後方支援に特化している事実を噛み締め、小さくため息をつきながら呟く。
瓦礫が散乱し土煙が舞う悪路の中を、彼女は懸命に走り続ける。
やがて、彼女の視界に、参の国の軍人達が大量の血を流して倒れ伏している凄惨な光景が飛び込んできた。
その死の海の中央に、一人の影が立っていた。
「おや?」
凪の接近に気付いた燦秋が、軽く口を開く。
凪の顔に冷や汗が浮かんだ。
「キミは?」
燦秋は興味深そうに問う。
「あ、あんたこそ何よ……」
凪は最大限の警戒心を抱きながら問い返す。
燦秋は凪の姿をまじまじと観察した。
「もしかしてセーブルの仲間?」
燦秋は論理的な推論を口にした。
凪は驚きに目を見開く。
「セーブル、あ……眼帯の人か。じゃあ、あんたがなんとかって奴?」
「ん? 何それ」
凪は燦秋の正確な名前を記憶しておらず、目の前の人物がセーブルの言っていた元凶かと確認するつもりで言ったのだが、燦秋は不思議そうに首を傾げる。
凪は少しだけ自らの呼吸を落ち着かせ、意を決した。
「あんた、何をしようとしているの?」
凪は真っ向から問い質した。
参の国における国家転覆の目論見、セーブルやヴァートを巻き込んだ理由、そして太陽神と呼ばれる能力者の復活。
その全ての行動原理となる真の狙いを。
「別に。す~っと前から故郷を壊してみたかったんだよね~」
燦秋は狂気すら感じさせる満面の笑顔で、あっさりと答えた。
「ただそれだけ、悪い?」
一切の罪悪感も悪びれる様子もなく、燦秋は平然と言い放つ。
凪は、あまりにも身勝手で倫理観の欠如した返答に面食らった。
論理的な反論の糸口すら見つからず、ただ沈黙するしかなかった。
「あとはまあ……神の御遣いを果たしただけ。ってな訳で」
燦秋の足元から、突如として奇妙な魔方陣が浮かび上がる。
そしてそれは、能力の励起を終えたかのように徐々に虚空へと溶けて消えていった。
「丁度良いや。肩慣らしにキミらでも壊そうかな」
燦秋は一切の感情を排した冷たい瞳で凪を見下ろし、そう宣言した。
凪の頬を、一筋の冷や汗が伝い落ちた。