※部分の編集
――ガリ、リ。
世界が噛み合わない歯車のように、不快な音を立てて軋んでいる。
視界の端々にはデジタルなノイズが走り、空間そのものが砂嵐に呑み込まれそうに激しく明滅していた。
モノクロームに染まった廃校の廊下。そこには、数え切れないほどの「極彩色の死」が転がっている。アシュド・コモン級、スライム。かつては悍ましく蠢いていた粘液の塊たちは、今やその核(コア)を両断され、霧散するプロセスすら許されずに、時間の止まった彫像のようにそこかしこで沈黙していた。
その死の回廊を、一人の少女が歩いている。
「もしもーし。……あー、やば。これ、通じないタイプのホロウだ」
学園の職員の誰かにでも繋がればと思い、スマホに話しかけていた。白岸幽姫の口から漏れた声には、機械的なハウリング――「ノイズ」が混じっていた。
彼女の透き通るような白い肌には、磁器のひび割れのような黒い紋様が血管のように走り、美しくも不気味な「色彩消失」の進行を物語っている。エアリー感のあるピンク色の髪は、その末端からパラパラとデジタルノイズへと崩れ、背景の白黒世界に溶け込み始めていた。
■■ COLLAPSE RATE: 100% (OVER) ■■
普通なら、立ち上がることさえ叶わないはずの「崩壊」の深淵。
しかし、彼女の瞳は濁ることなく、むしろ魔素の干渉を受けて黄金色に、鋭く、そして神々しく発光していた。
彼女の手には、闇よりも暗い棺型の鞘。『幽虹鳥・零彼岸』。鞘の持ち手部分に施された不死鳥のアクセサリーが、まるで意思を持つ本物の鳥のように羽ばたき、黄金の粉塵を撒き散らしている。
その粉塵が、モノクロの床に落ちるよりも早く、漆黒の闇から分裂を繰り返した数十体のスライムが、一斉にアタックを仕掛けてきた。それは個別の攻撃ではない。リンク状態にある彼らの魔力は一本の巨大な濁流となり、幽姫という「獲物」を押し潰そうとする。
「……えっと、上司に連絡中。邪魔しちゃいけないの、わかる?」
ノイズ混じりの声と共に、幽姫は『幽虹鳥・零彼岸』の重厚な鞘を振り抜いた。抜刀はしない。魔力を内包したままの鞘は、それ自体がアシュドの法則を砕く「棺」の質量を持ってスライムの核を叩き潰す。
##【BATTLE START】##
■スライム(群勢リンク): 残マナ:■つ / 手札数:■枚 / 山札数:■枚 | 残りライフ:■個
漆黒の闇から、分裂を繰り返した数十体のスライムが、一斉にアタックを仕掛けてきた。それは個別の攻撃ではない。リンク状態にある彼らの魔力は一本の巨大な濁流となり、
「……あー、一気に来すぎ。リンク処理追いついてなくて情報バグってるんだけど……」
ノイズ混じりの声と共に、
ガイスト『
バギィィィン! と重厚な衝撃音がモノクロの廊下に響く。実体の鞘と、白く透き通った写し身の刃がスライムの核を叩き潰すが、相殺の反動で写し身が砂嵐のように霞んだ。
■ガイスト・プロセス:【相殺】および【ノック状態】■
『
※再行動不可:残り30秒(コスト6×5s)
これはリンカーの戦いにおける致命的な隙。アシュドの暴力がルールという檻を叩いた際、ガイストが一時的に現実とのリンクを維持できなくなる現象――【ノック状態】。攻撃の勢いを失った鞘はただの重い棒と化し、次のスライムの体当たりを捌ききれない。
「……あー、やっぱり固まるよね。でも大丈夫、
ゾーン『
舞い散る黄金の羽が霞んでいた刃に吸い込まれ、一瞬で『
★スライム側:オーダー『
【効果】コスト4。BP4000以下の相手ガイスト1体を破壊する。
スライムの群勢が巨大な砲弾と化し、無防備な
「壊した? 残念。……それ、私の勝ちパターンだから」
固有効果発動:【輪廻】 ―― 手札の『
再召喚時:【追葬:1】により、さらに新たな写し身が1枚具現化。
■味方フィールド: 『
一連の戦闘プロセスが一周する間に、約12秒が経過。
「……プロセス、継続。マナ回復、確認。ドローもアゲてこうか」
指先を虚空に滑らせ、
無限とも思えるスライムの物量に対し、
相殺しては羽を使い、羽が尽きれば崩壊カードを羽へと変換し、武器を破壊されれば輪廻の炎でさらに増殖させる。黄金の粉塵を撒き散らす三振りの刃が、モノクロの世界で一際鮮やかに、極彩色の粘液を一点の曇りもなく一掃していく。
理央の絶望(崩壊カード)が、
「……まとめて、消えてよ。マジで邪魔」
ノイズ混じりの冷ややかな声が、極彩色の粘液が満ちる空間に響く。
一振りの鞘が空を払い、一振りの写し身が影を断つ。
ピンク色の髪がノイズとなって背景に溶け、肌のひび割れから漏れ出す光が、モノクロの世界を黄金に染め上げる。
最後の巨大な粘液の塊が、断末魔のような不快な音を立てて霧散する。
「…………ふぅ。……ガチで、疲れたんだけど」
周囲を見渡せば、そこには散り散りになった極彩色の核の破片が、あちこちに転がっている。
一、二、三……。
理央を襲っていたあの「統制された三体」を遥かに凌ぐ、合計十体。
それだけの物量を、彼女はたった一人で、それも崩壊の淵で踊りながら、すべて「無」へと還したのだ。
「……ドーナッツ。……甘いもの、食べたい……」
透け始めた指先を見つめ、彼女はノイズ混じりの声で、誰に届くともない独り言を零した。黄金の瞳に宿っていた鋭い光が、安堵と共に僅かだけ和らいでいく。
だが、世界はいまだモノクロのまま。
彼女の戦いは、まだ始まったばかりだった。
現在のステータス
【手札内訳】
『
崩壊カード×2
『
【山札内訳】
崩壊カード×3
【捨て札内訳】
『幽虹の羽』 × 17枚
十体目のスライムが霧散し、ホロウアース特有の重苦しい静寂が再び廊下を支配した。
一息つくように肩で息をする
――
耳の奥を、錆びた針で掻き回されるような不快な電子音。スライムたちが溶け残った黒い粘液が、意志を持つかのように蠢き、廊下の中央に積み上がっていく。
「……また? マジしつこいんだけど」
そこから流れてきた声たちに、幽姫は眉を僅かに動かした。
『――熱い。痛いよ、エルゼロ』
『ねえ、なんで。どうしてマナが動かないの?』
『助けて、苦しい。身体が、溶けちゃう――』
それは、あどけない少女たちの、そして少年たちの声。
白い壁がどこまでも続く、無機質で清潔な「家」だった場所。そこで共に食事をし、共に計算式を学び、共に未来を夢見たはずの――百人の家族たちの断末魔。
「…………」
『あの日、銀色の空から降ってきた「神様」を、君はただ見ていただけだ』
『五百の命が、計算式のゴミみたいに消えていくのを、君は特等席で眺めていた』
『ボクたちが化け物になって、お互いを喰らい合うのを、君はその白い刀で「終わらせた」んだよね』
スピーカーは、あの日、崩壊した研究所に溢れかえった「かつての友達」だったものたちの声を次々と再生していく。
脳が焼き切れるような負の感情。心臓を直接握り潰されるような、あの忌まわしい感触。
他のリンカーなら、狂い叫んで崩れ落ちるほどの精神攻撃。
だが、
「……懐かしいなぁ。あの時の音そのまんま」
彼女の口角が、僅かに上がる。それは自虐でも、狂気でもない。
ただ、自分という器が受け入れた「事実」を、改めて再確認しているだけの、あまりに寂しい微笑。
「君たちが言いたいこと、わかるよ。私が未熟だったから、誰も救えなかった。……私が一番よく分かってるし」
スピーカーは、彼女を絶望させようと音量を上げる。
百人の「元・家族」が、怨嗟の声を上げながら、彼女に縋り付こうとする幻影が空間を埋める。
『友達、百人いたよね?』
『君が殺したんだよ。君を愛していた、百人の家族を。その手で』
「……うん。百人いたけど、百人殺した」
その瞳には、恐怖も後悔も映っていない。ただ、逃れられない業を引き受けた者の、底知れない「受容」だけがあった。
彼女にとって、これらの声は「外から来る攻撃」ではない。
この『
「悪いけどさ、それ。もう私の中で完結してるわけ。今さら外から流されても、ノイズ以上の感想、出てこないよ」
彼女が鞘を軽く振り抜くと、不死鳥のアクセサリーから黄金の粉塵が舞い、物理的な衝撃波がスピーカーの群れを粉砕した。
「――ガ、ギ、……ギギギッ!!」
破壊されるスピーカーが、のたうち回るような断末魔のノイズを上げる。かつての友人たちの怨嗟の声が、電子的な悲鳴となって空間に散っていく。だが、その濁流のようなノイズの最期、消えゆく残響の中に――
『……す、けて……』
それは、過去の記録(ログ)ではない。
今、この世界のどこかで、まさに魂が削り取られている少女の、生々しい「未練」の震え。
「…………っ!」
幽姫の黄金の瞳が、鋭く見開かれる。
あの日引き受けた「百人の死」という完成された過去を、今この瞬間に響いた「一人の生」への渇望が塗り替えていく。
「……拾った。このアシュド、生きてる人間を
L-00――完璧なリンカーとして調整された彼女の感応力は、ホロウアースに満ちる悪意を濾過し、理央の絶望が放つ固有の振動を正確に捕捉した。
「ここの校舎のどこか……いや、もっと下。地層がバグってる場所かな」
幽姫は『零彼岸』を担ぎ直すと、迷うことなく漆黒の闇へと足を踏み出した。
背中の不死鳥が、獲物を見つけた猛禽のように、より一層激しく黄金の粉塵を振り撒き、彼女の往く道を照らし出す。
「……あの時の事は思うところは、あるけどね。……今は、
ノイズ混じりの独白を残し、ピンク色の髪が闇の中に消えていく。
その絶望の顎(あぎと)が、少女の細い喉元に届こうとした、その瞬間だった。
――バ、ギィィィィィン!!
空間そのものが粉砕されたかのような、凄まじい硬質の衝撃音が轟く。
理央を飲み込もうとしていた先遣のスライムたちが、何の前触れもなく、文字通り「圧砕」された。極彩色の粘液がモノクロの廊下に飛び散り、霧散するプロセスさえ許されずに消滅していく。
「……ホロウアースの空間をブチ破って移動する裏技! 良い子は真似しちゃダメだからね」
ノイズ混じりの、どこか場違いなほどに軽やかな少女の声。
理央の焦点の合わない瞳に映ったのは、闇よりも深い「漆黒の棺」だった。巨大な鞘――『
その鞘を掴み、スライムの津波を真っ向から見据えて立っているのは、一機のピンク色の髪をなびかせた少女だった。
「……あー、やば。これ、処理落ち寸前じゃん。君、ガチで限界すぎでしょ」
少女――
理央は見た。透き通るような白い肌を走る、磁器のひび割れのような黒い紋様。末端からデジタルノイズへと崩れ、背景の白黒世界に溶け込み始めている桃色の髪。
そして、魔素の干渉を受けて黄金色に、鋭く、そして神々しく発光するその瞳を。
■■ COLLAPSE RATE: 100% (OVER) ■■
視界に映し出される崩壊状態のステータス。理央と同じ、あるいはそれ以上の深淵に立ちながら、その少女は絶望に呑まれることなく、不敵な笑みすら浮かべていた。
「……白岸、幽姫。一応、これでもクラスメイト……になる予定、かな」
幽姫は『
「……相当ツラそうだね。……じゃ、そこのアシュドたち。分かってるよね?」
数多のスライムが、新たな「獲物」の登場に、一斉に鎌首をもたげた。
絶望の物量。色彩の暴力。しかし、幽姫は黄金の瞳を細め、ノイズ混じりの声で静かに、けれど苛烈に言い放つ。そんな幽姫の言葉に応えるように、周囲を埋め尽くしていたスライムたちの動きが止まる。
その刹那。
遠くから、バタバタという無作法な足音と、切羽詰まった高い声が響いてきた。
「ちょっ、待って待って待って! この粘着率は計算外だって! ボクのライフレベルじゃ、あと一発で『物理的な死』が確定しちゃうんだけど!?」
角から飛び出してきたのは、黄色いボサボサ頭を振り乱し、グルグル眼鏡をズレさせた痩せっぽちの少年――鳴神一機だった。その後ろからは、さらに3体のスライムが、執拗に地面を跳ねながら追いすがっている。
偶然か、あるいは絶望に惹かれたか。
トラブルメーカーの「閃き」は、最悪のタイミングで二人のもとへと辿り着いた。
「あはは、何あれ。カードバトルで鬼ごっこ? 楽しそーなことしてんじゃん」
幽姫はノイズ混じりの声でケラケラと笑い、ひび割れた腕を軽く振った。その周囲を舞う三振りの『
「楽しくないって!? 面白いけど!! 面白いけど、死ぬのは非常に非効率的だよお姉さん!」
一機が叫びながら二人の横を通り過ぎようとした瞬間。
「……どいて。邪魔」
幽姫は、理央を守るように一歩前へ出ると、抜かずの鞘を軽く横に薙いだ。
一閃―――
たった一振りの動作に合わせ、三振りの光刃が交叉するように空間を切り裂く。
一機を追い詰めていた3体のスライムは、アタックの宣言をする暇さえ与えられず、その核を同時に粉砕された。極彩色の粘液が弾け、瞬時にノイズの塵へと分解されていく。
「…………え?」
一機は数メートル先で急ブレーキをかけ、呆然と振り返った。
鼻から一筋の血を流しながら、彼はグルグル眼鏡をクイッと上げ、幽姫のひび割れた肌と、その背後でジト目を向ける理央を凝視する。
「……凄いね。プロセスが省略されすぎてて観測が追いつかなかったよ。君たち、もしかして同じ13組かい?」
「私は白岸 幽姫……ところで、鼻血出てるよ? 大丈夫?」
幽姫は、崩壊限界状態の危うい光を湛えたまま、一機に向かって不敵に笑った。
理央は、一機の騒がしさに「……面倒くさい」と溜息をつく。
「ボクは鳴神一機! いやぁ、助かったよ。ボクのプラズマスターを呼ぶマナが溜まる前に食べられちゃうところだった!」
三人が合流し、束の間の自己紹介を交わしたのも束の間。
現実を食い破るような、悍ましい「音」が空間を震わせた。
――ガ、ギ、ギギギッ!!
空間を裂いて『亡き者のスピーカー』が現れ、そのノイズが物理的な衝撃波となって空気を震わせた。スライムたちの極彩色の粘液が、磁石に吸い寄せられる鉄屑のように、廊下の中央に聳え立つ歪なスピーカーの群れへと殺到する。ドロリとした色彩が、錆びついたスピーカーと融解し、混ざり合い、巨大な「形」を成していく。
それは、無数の叫びを閉じ込めた巨大な「墓標」。
色彩の濁流と、死者の怨嗟。それらが一つに重なった時、ホロウアースの法則(ルール)が最悪の形へと書き換えられた。
「……あ、そうくる―――」
「あはは! 凄いな、これ! 周囲のマナ密度が通常の300%を超えてるよ。法則の書き換えプロトコルが走ってる……見てよ、ボクのスマホのログが真っ赤だ! 最高に興味深いね!」
一機は鼻血を拭うのも忘れ、ノイズで明滅する画面を爛々と輝く瞳で見つめている。恐怖よりも先に、未知のシステムに対する好奇心が彼の「閃き」を加速させていた。
「…………」
モノクロの世界で、極彩色の墓標が三人を嘲笑うように、その悍ましい門を開いた。
【BATTLE PHASE:E▒R█R-011】
▒▒▒ 観測不能 ▒▒▒
【No.11 ■食する█標(プレ■ター・セ■■リー)】
レベル(合計値:█░)
ライフ:■ / █ラプス:3 / █ナ:4 / █ンド:■ / デ█キ:3
ルール改変(エラッタ):[ ░░░ ERROR ░░░ ]
【忘却の█液】: █ンカーの手札に『状█異常カード』が3枚以上存█する場合、█ンカーの■■回復█度はレベル-■(最低1)として扱わ█る。
【静寂の█物】: █ンカーがカ█ドを「破█」するたび、█ンカーの█て札に状█異常█ード『█標』を1枚生█する。
【超█】: 自身の全レ█ルは常に+5と█て扱う。
デ█キ構成:
『肉█の█拝堂』×1
『デッ█・エ█ド・グ█イヴ』×2
『ス█ーカー█棒』×2
『█殖する粘█壁』×3
『怨█の█房』×3
「あはは! ボクのライフレベルじゃ、あと一歩近づくだけで計算上は消滅確定だ! でも、このプロトコルの美しさの前には、生存戦略なんて非効率的なだけだよ!」
彼は逃げるどころか、一歩、また一歩と墓標の方へ踏み出そうとする。一機にとって、眼前の怪物は「死」ではなく、生涯をかけても解けないはずの「究極の難問」として映っていた。
一方、その背後で崩壊の深淵に沈んだままの理央は、ただ人形のように立ち尽くしていた。
三白眼の瞳は墓標を見上げているが、そこに焦点は結ばれていない。
「ちょっと。……死にたいの?」
墓標へと吸い込まれそうになっていた一機の襟首を、
「……計算外の……っ、物理干渉!? 痛いなぁ、お姉さん!」
「黙って見てなよ。君じゃ、今の『これ』の処理速度には耐えられないでしょ」
ノイズ混じりの声は、零下まで冷え切った殺意を帯びている。
彼女はわずかに腰を落とし、闇を凝固させたような鞘――『
バキ、バキバキッ……!
彼女の足元、モノクロの床が蜘蛛の巣状に砕け散る。
周囲に漂っていた黄金の粉塵が、暴風に巻き込まれたように彼女の右腕へと収束し、剥き出しの魔素が高音の悲鳴を上げた。
「気分、アゲてこうか。……エゴライズ」
それは、リンカーに残された唯一にして最後の禁忌。現世の倫理を焼き切り、己の存在そのものを弾丸に変える切り札。
エゴライズ……『
「――いざ」
刹那―――
抜刀の動作さえ観測させない。鞘から解き放たれた「白き刃」が、暗黒の廊下を一瞬だけ、真昼のような絶望の光で塗りつぶした。消滅した羽の残滓が、紅蓮の鳳凰となって空間を翔ける。
放たれた一閃は、巨大な墓標――【■食する█標】の物理装甲、論理障壁、そして内包された怨嗟の声さえも、まとめて断層ごと「無」へと削り取った。
極彩色の墓標が、その絶対的な質量を維持できずに激しくノイズ化する。鳳仙花が弾けるように、漆黒の斬撃から溢れ出した紅い炎が墓標のライフを直接焼き、致命的な亀裂を刻み込んだ。
(幽虹の羽17枚消滅でも削れないライフ―――やっぱりレジェンド級アシュド……)
「エゴライズ!? そんなプロセス知らないよ!? 必殺技!? 少年漫画的なアレなの!?」
一機が鼻血も拭わずにスマホのログと幽姫を交互に見て叫ぶ。観測データには存在しない、論理を力技でねじ伏せる規格外の一撃に、彼の好奇心は完全にオーバーヒートしていた。
「説明は後。アレが体勢を立て直す前にホロウアースから出るよ」
幽姫の声は低く、そして重い。
鳳仙花の獄炎に焼かれ、巨大な墓標が激しいノイズの断末魔を上げている今が、この歪んだ異界を抜ける唯一の「隙」だと彼女の直感が告げていた。
「……っ」
幽姫は燃え盛る墓標に鋭い視線を向け、いつでも次の一撃を放てる構えを維持したまま、じりじりと後方へ下がる。そのひび割れた左手が、背後で虚空を見つめたまま立ち尽くす理央の細い腕を、壊れ物を扱うように、けれど拒絶を許さない強さで掴んだ。
「行くよ、理央ちゃん。……置いていけないから」
崩壊の淵でノイズに溶けゆく桃色の髪をなびかせ、幽姫は力なく引きずられる理央を支えながら、闇の出口へと急ぐ。
「あはは! 了解、お姉さん! 逃走経路の計算なら任せてよ。ボクの『閃き』が、最短の出口を指し示してる!」
一機もまた、狂喜を湛えた瞳で端末を叩きながら、二人の先頭に躍り出た。
背後では、獄炎に焼かれる墓標が、消滅へのカウントダウンを刻むように悍ましい咆哮を上げ続けている。
黄金の光を放つ幽姫の背中が、絶望に沈んだ理央の視界を、わずかに、けれど確かに照らしていた。
離れた位置、鳳仙花の獄炎から火の粉を払い除け、地獄の底から這い上がるようにして再びその悍ましい輪郭を復帰させようとする墓標。その無数のスピーカーが、逃がすまいと怨嗟の重低音を響かせる。
『――逃がさない。理央、お前も「こちら」側だ。親友を殺したその手で、誰を救うつもりだ?』
ひび割れた音の奔流が、理央の意識の最深部を直接引き摺り出そうと牙を剥く。同時に、幽姫の背後からも、かつて百人の家族であった「モノ」たちの歪な笑い声が重なった。
『エルゼロ、君だけが生き残るなんて
「……うるさい。私はともかく、理央ちゃんを傷付けないで」
幽姫は吐き捨てるように呟き、崩壊限界に達した身体で理央を強く抱き寄せた。白光に包まれ、身体が「現実」へと引き戻されていく刹那。
彼女は、闇の奥でこちらを凝視する極彩色の瞳を真っ向から射抜いた。
その胸に渦巻くのは、覚悟か、あるいは執着か。
(……お前は、絶対に。……私が、絶対に壊す―――)
その黄金色の瞳が放つ鮮烈な殺意だけを異界に残し、三人の姿はモノクロームのノイズの中に消え去った―――
☆本日のカード☆
私の、もう一つの姿。心が壊れた時にだけ羽ばたく、絶望の鳥。
『
構築カードのゾーン。コストは……えーっと、15。
ガチで高すぎでしょ。普通のマナレベルじゃ絶対に出せないやつ。
でも、大丈夫。
私のガイスト……『
このカードの最大の特徴は、私が『崩壊状態』の時だけしか出せないってこと。
普通なら、崩壊したら心臓掴まれて終わり。でも、このゾーンがあれば、私は動ける。
本日のスライム戦でガンガン使ってたけど、ワンパン状況で戦ってたとか……我ながら背筋凍る。
効果は……
まず、バトル開始時に私に【幽乱】【幽閉】を付与する。これがないと、他の「太刀」の効果が発動しないから、ガチで重要。そして、この鳥がフィールドにいる間、私はもう『崩壊状態』を解除できない。永遠に、絶望の色に染まったまま。……あはは、ウケる。
でも、その代わり。
私が崩壊して使えなくなったカード……『崩壊カード』を使うたびに、リソースとなる『
つまり、このカードは、私が崩壊した後に始まる、百鬼夜行のためのステージ。
心が打ち砕かれても、私の戦いは止まらない。
だって、私をここまで連れてきてくれたのは、その「絶望」なんだから……。
ひとまず、この鳥の話はここまで。
ガチで、私のすべてが詰まったカード。……重いでしょ?
まあ、とりま皆と会う前にホロウアースに巻き込まれる事案になってたけど、無事に脱出出来てよかった。最後にとんでもない課題を置いてきたケド―――
とりあえず、一機くんと理央ちゃんと仲良くなるプロセスからかな。
……なれるかな。
え? そんな事より、エゴライズって何かって?
あー、はいはい。それもちゃんと話すから。
そんな事よりもともかく、ドーナッツ食べたーい!
こほん……繋がってみる? リンクの果てに―――