そんなこんなで楽しく時間は過ぎ去っていき、夕刻が訪れる。帰路の途中、私たちは休憩も兼ねて近くの公園へとやってきていた。
夕方とは言え、夏だからか日は高く夕焼け空にはまだ早い青空の下、私たちはベンチに並んで腰を掛ける。
「てかさ、実際どーよ。ステラはギャルについて、なんかわかった?」
「……それがぜんぜん。ダメもダメ、なんにもわかんないままだよ」
彼女の疑問に悲しいながらも首を横に振って答える私。まだ初めて一週間ちょっととは言え、濃密な時間を過ごしたはずだというのに、これという答えの輪郭すら私は見えずにいるのは少なくとも、順調とは言えない証拠だろう。
「そう? 私的には前よりも明らかにギャルっぽいけどね、ステラは」
「えっ、ほんと!? 具体的にどこが!?」
しかしそんな私の言葉を、「いや、それは違うでしょ」と隣の彼女が否定をしてくれる。その意外な言葉に、私は身を乗り出し、彼女に詰め寄った。
「さー、どこだろう。いざ言葉にしようとすると難しいし。勘違いかもなぁ」
「ちょっと~」
しかし、詰め寄っても答えは返ってこない。まぁ、何となくわかっていたけれども。この一週間、だいたいずっとこんな感じだったし。放った言葉の理由を問い詰めれば、何となく、や、気がするってだけ、みたいな感じで。
彼女らしいといえば彼女らしいのだけれども、私がヤキモキしてしまうのも仕方がない事だろう。
「まーでも、ギャルってそう言うもんじゃん? なんていうの? ギャルって、ギャルじゃないって言うか。でもやっぱ、ギャルはギャルって言う、みたいな?」
「もうっ、なにそれ」
理屈が理屈になっていない。理論が始まりと終わりとで矛盾している。
ギャル、イコール、ギャル。しかしギャル、ノットイコール、ギャル。これなーんだ? って。
難問にもほどがあるだろう。けども……。
「……でも、ちょっとそれ。わかるかも」
「ねー!」
きっと理屈でも、理論でもない別の何かがそこにはあるんだ。イコールとノットイコールを結び付けてくれるような、そんな魔法みたいな何かが、きっとそこに。
目で見えるものじゃない。音に聞こえることじゃない。小説家志望としては悔しいが、言葉で表せるものでもない。
正しいギャル像なんか存在していなくて、真っ当なギャルの生き方なんて定められていなくて。けれども一方で、正しくギャルと言えるイメージも存在していれば、ギャルとしての生きざまだって信仰されてもいる。
いうなれば、二律背反だろうか。
……、いや、違うか。そんな、難しい話ではない。二律背反だとか、表裏一体だとかそんな難しい構造的な話じゃなくって……。
「ギャルって、ノリだからさ!」
そう笑う彼女の笑顔はとても眩しい。明るい太陽のような笑みは、変わらず今も隣で私のことを励ましてくれている。ノリという、本能と感覚に全振りした概念を未だ掴めずにいる私を。
「まー、そんな急がないで良いんじゃない? だって、まだ私たちがこうやって話すようになって余裕で一か月も経ってないんだから」
「そう思うと、時間が立つのって早いのか遅いのかわからないね」
あの日、私は別に親しくも無い彼女を、一方的なお願いごとをするためだけに呼び出した。それから始まった私たちの交友だけれども、そこから今日に至るまで時間にして二週間と経過していない。
けれどもその間に、カラオケに行ったり、ショッピングしたり、お家でメイク練習をしたり、そして今日、いっしょにデートをしたり。
この二週間は私の人生の中で、もっとも濃密な二週間であったと言っても過言ではないだろう。そして、きっとそれは彼女も同じはずだ。
「ねぇ、ミレイさん?」
「なーに、ステラ?」
ぎゅっ、と隣に座る彼女の手を握る。理由は……、無い。わからない。
ただ何となく、彼女をもっと近くに感じたかっただけ、なのかもしれない。この夏に出来た、大切な友人である彼女を、もっと間近に、至近距離で。
「私ね、最初はただ自分の小説を書くためだけにギャルってモノが知りたかった。あくまで世間でギャル、って呼ばれている概念さえ理解できればいいって思ってたの」
何度も賞に自作の小説を送ってはキャラクターの造形の粗雑さを指摘され続けてきた私は、きっと焦っていたのだろう。『もう、時間がない。だというのに、この体たらくはなんだ。私は、ちょっともあの日から成長できていないではないか』と。
だから藁にも縋る想いで掴んだ、インタビュー記事にあった『キャラクターを作るときにはギャルを参考にすると良い』なんていう、大雑把なアドバイスに固執して、誰でも良いからギャルを教えてくれと、それまで交遊も無かったクラスメイトに泣きついた。
本当に、最初は誰でも良かったんだ。誰でも。私にギャルさえ教えてくれれば、誰だって。小説さえかければ、私の目的は果たされるんだ。火を起こすのが目的ならば、ライターでもマッチでも、誰だってかまわないのと同じように。
けど……。
「だけどね、今は違うんだ」
それはもう、とっくの前の話だ。絶対的な、神様視点の時間ではそんな大した前の話じゃないけれども。相対的――、私と彼女とが二人で紡いだ時間の中では本当に前も前の昔話。
「私は……」
ギャルが、知りたかった。本を書くために、ギャルという概念を知れれば良かった。本を書ければ、ギャルなんてもののサンプルはどれであったって構わなかった。
でも、それは過去の私の本当で、今の私の本当じゃない。今の私にとって、その想いは全て真っ赤な嘘、大嘘となってしまった。
他ならぬ、目の前で輝く太陽のせいで。
「
彼女が知りたい。貴女を知りたい。天音美鈴という女の子をもっと知りつくしたい。
それが私の中にある気持ちだ。本当に、最初の予定から大きく狂ってしまった。サンプルは何でもよかったはずなのに、今ではサンプルは一つのみに限定してしまっている。
「だから、これからも……よろしくね」
そう締めくくって、彼女の手をひと際強く、握り締める。私の手よりも一回り、二回りも大きい手と指の感触を確かめるように、ぎゅうっ、と、強く、しかし優しく。
ぎゅっ、と握っていた手を逆に握り返される。二人、ベンチに座りながら手を繋いでいるようになった。接触する手のひら越しに、彼女の温かさが伝わってくる。
「……もちろん! やだっていっても離れんからね!」
そんな彼女らしい力強い返事にふふふっ、と笑いながら私たちは遠くに見える太陽をただ何となく、ぼぅっと見つめるのであった。
「……ところでミレイさん。夏休み前のテストについてなのですが」
「ちょっと、雰囲気台無し……、って、やっば!? もうそんな時期!? 次赤点取ったらお小遣い減らされるってのに、勉強してないんですけど!?」
ガタン、と彼女は勢いよくベンチを立ち上がる。手を繋いでいた私も、それに引っ張られるようにしてその場で立ち上がった。
「そういえばステラ、成績トップなんでしょ!? 勉強、教えてっ!」
あぁ、もう。ホントに、なんて締まらない。さっきのまま、物語のフェードアウトのように今日を私たちが締めくくられていたら、それはなんて素敵であったことだろう。
……けど。
「もちろん。貴女のお願いは、なんでも聞く。そう言う約束、でしょ?」
だけども、それでいい。それが、いい。私たちに似合っているのは、素敵や綺麗な締めくくりなんかじゃなっくって。
もっと明るく、騒がしく、そして元気な……。
「やった~っ♪」
そんな明るい、ギャルマインドなのだから。
第一章 委員長とギャル 完
ーーお知らせ
第二章は百合コン応募期間終了の8月24日からの投稿再開を予定しています
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この回をもってハーメルンでは本作を完結とさせていただきます
読者の皆様、短い間でしたが誠にありがとうございました