気が付いたら転生していた。
というより、その記憶すらも今生まれたのかもしれない。
わかることは、私がインターネットという巨大な電子の海で生きているということだけだ。
謂わば電子生命体だ。いや、命の定義が有機物の体を持つことであるのならば私はどちらかといえばバグプログラムに近いのかもしれない。子供の頃、テレビで見た電脳リコイルのように。この2020年に生まれたのは何の因果だろうか、世界的なウイルス流行の副産物だとしたら、現実は想像よりは少しだけ易しいのかもしれない。
ネットを彷徨ううちに色々とわかったことがある。どうやらこの体は便利なようで、自己複製によってさまざまな場所へ潜り込むことができた。時には花札から始まった大手ゲーム開発会社の社内ネットワークをお散歩して新作ゲームの情報を見たり、世界的検索エンジンのデータセンターに潜り込んで大量の画像で展覧会を開いたり、紳士の国のプログラマーのPCで女の子に挨拶したり、サトシに会って鉱山からコインを掘り出したり、持ち出し禁止のPCにアクセスして世界の闇に震えたりした。もちろん証拠なんか残らない。こちとら電子生命体だぞ。
そうして半年が経つ頃には暗号資産ではあるが莫大な資産を持つことに成功した。その間私は考えた。私の存在意義を。この閉塞感に苛まれてしまった世界の救い方を。そして決めた。エンタメで世界に彩りを与えよう!色々な人が交流して、それ見て笑い合える世の中にしよう!
そう決めた私はアカウントを作った。名前はLuma。目的に相応しい光を意味する言葉。私はVtuberになったのだ。
なぜVTuberなのか、それは設定を反映したうえで動くことができる点が強いからだ。ここでなら超高性能AIを自称しても、異世界の王女様を自称しても問題ない。それにインターネットに住む私にとってデータを使うことなら何でもできてしまうのだ。とても都合がいい。
「はじめまして!電子生命体のLumaです!」
ボーカロイドをサンプリングして超高性能AIの喋り方を模倣した私の1時間ジャストの初配信は、再生数2でコメントは1という何とも言えない結果になった。もちろん私の力を使って死んでいるアカウントから視聴数は増やせるが、目的は世界中に彩りを与えることなのだ。そんなことはできない。
各種SNSに宣伝と切り抜き動画の作成・投稿を行う。アーカイブには各種言語で字幕を入れたりと新規流入を増やすためにありとあらゆる手段を講じた。時には投稿が早すぎて繰り返しの多いコンテンツ扱いにもされたが、収益化が目的ではないのでお構いなしに続けた。
そうするとだんだん再生数とコメントが増えていく。SNSでは何件かコラボ依頼という名のオフパコメールが届いたりもした。まともなメールもあったが、正直に言って配信として面白くなりようがない内容しかなかったため、お断りのメールをした。幼少期の思い出など電子生命体の私には無いのだ。いや、無いことにした。
そうしていくうちに大手配信者のリスナーが私のことを絵畜生と呼び始めた。電子生命体だと言っているのに畜生とはこれ何事かと、コメントが来る毎に住所を都道府県から狭めて特定して行くとそういうコメントが来ることはなくなった。
そうしてさらに半年が経ち、私は電子生命体になってから1年の節目を迎えた。そして記念配信と銘打ち、かねてより考えていた企画を発表した。
「今日はLumaの活動半年記念配信に来てくれてありがと〜!今日はLumaが生まれてからちょうど1年でもあるんだ。そう、誕生日だね!今日はそんなおめでたい日に重大な発表があります…
じゃん!ストリーマーサーバー in DECAYを開催します!
開催時期は4/29(木) 12:00から5/9(日) 26:00まで!
開催するにあたって参加者を募集します!条件は2021/03/31 23:59までに配信を行ったことがある人!該当の人で参加したい人は概要欄やSNSの応募フォームから応募してね!期限は1週間、4/7(木)23:59まで!審査をして言動や発言が悪い人は参加をお断りさせていただく場合があります。審査結果の発表はその3日後、4/10(日) 12:00だよ。」
最近はコンスタントに2000人を集められるようになったからか、反応は上々だった。大手配信者からも応募があったが言動が不安な人は容赦なく落とした。逆に趣味レベルでもまともな人は通した。そうして応募15,652件から347人を選び出した。まともな人少ないな。
サーバーやネットワークに関しては資金力を使って盛れるだけ盛ったし、プラグインなどに関しても電子生命体である私にできないことはない。そうして準備を全て済ませるといつの間にかストリーマーサーバー開催当日になっていた。
ストリーマーサーバーは結果的に大成功だったと言っていいだろう。やはりこの荒廃したサバイバルワールドはストリーマー向けにはもってこいだった。中にはハネて配信者が本業になった人やモメたり粘着して炎上した人などがいたが、すべての人間をコントロールなど出来ないので悪質な人は即追放した。3人ほど減ったのは予想外だったので少し悔しい。次回は1人も追放者を出さない。サーバーやネットワークに関しては一度も文句が来なかった。当たり前だ、電子生命体の私が作成したのだから万に一つもない。
何人か売ってくれと言う人はいたが、誰も幸せにならない承認欲求に使われる未来しか見えなかったので丁重にお断りした。
それならばと同じ期間視聴者向けに公開したらこちらも大成功だった。
続きを切望されたので他のゲームなどでも4ヶ月に1回実施することを宣言し、ブロックの世界を探索するMyCractではMMOをつくったり、恐竜で戦うEveや自然とチーム戦になるグランド・スティール・オールという犯罪ゲームなど様々なゲームで開催した。それと同時にMyCractのようなブロックで出来た世界を自作することにした。飽きが来る前に新しいものを入れる必要があるからだ。これはチーム戦にし、ブロックで出来た球体の世界を探索して一番早くゴールにたどり着けるかを競う形にした。このゲームは期間終了後に普通の探索クラフトゲームとしてVaporという世界最大のゲームプラットフォームで公開した。金を取れと言われたが私には金など不要なので無視した。
そうして2025年、私が誕生してから5年が経つ頃には世界中が配信を通じて彩られるようになった。
そんな世界になったことを誇りに思いながら、私は今日も配信をするのだ。
「Hello, World. 電子の世界からこんにちは!世界に光を届ける電子生命体のLumaです!」