今日、俺の家に天使が降ってきました。
「…………なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ようやく定期テストが終わり、あとは終業式だけとなった今日、家に帰ってくれば屋根がへしゃげているのが見え、慌てて家の中へ入ると物が散乱していた。
も、もしかして強盗か!? 屋上から入ろうとして失敗して屋根を突き破ったとか!
ビクビクしながら玄関に置いてあった金属バットを握りしめ、リビングから順番に部屋を除いていく。
リビング……無し。トイレ……無し。残るは俺の部屋のみ……。
ごくりと生唾を飲み込み、緊張からか額から流れ出てくる汗を制服の袖で拭って階段を上って2階へと上がると1階に比べて木片などの散乱具合がひどく、ここに落ちていることは明白だった。
部屋の前へとたどり着き、大きく息を吐き、意を決して部屋の扉をけ破り、バットを振り上げた瞬間!
「…………なんですとおぉぉぉぉぉぉぉ!」
目の前のあまりの光景にバットを握る手から力が抜け、バットが落ちてしまった。
ま、待て待て待て……良く考えるんだ。ほら、どっかの偉人も言ってたじゃねえか。考えれば考えるほど泥沼にはまっていくって。
「ってそれダメじゃねえかぁぁぁぁぁぁ! この状況考えてもわかるかぁぁぁぁ!」
俺が叫ぶのもまあ、無理はないと思う。なぜなら俺の目の前に薄桃色の翼をはやしたそれはとても美しい女性が俺のベッドに横たわっていたからだ。
が、俺にはなぜこのような状況になっているのか全く分からん。
「ハァ……何故に仮装姉ちゃんが屋根突き破ってきてんだか」
何故かどっと疲れてしまい、眠っている仮装姉ちゃんの近くにへたり込んだ。
今まで17年間生きてきたけど屋根を突き破って仮装した美少女が降ってくるなんて経験したことねえよ。
と、そんなことを思っていると薄い桃色の翼がピクッと動き、美少女の動向に注目していると翼が意思があるかのようにブルブルと震え、翼にかかっていた塵などを振り落すと今度はむくっと美少女が起き上がり、
寝ぼけ眼のまま俺の方を見てきた。
「……ほぇ? 貴方誰?」
「こっちが聞きたいわ! 君は何で翼をはやして我が家に落ちてきたの」
「……分かんない。覚えてないの」
記憶喪失かよ。屋根からベッドに落ちた時に打ちどころでも悪かったのか。にしても……この美少女を見れば見るほど本当に俺と同じ人間か怪しくなってくるな。
背中から生えた薄桃色の翼、眠たそうな目、美しい白髪、そして美少女の足元に落ちているタブレットのようなデバイス。
「どこから来たわけ? 名前は」
「……分かんない。でも、誰かを護れってことは覚えてるの」
益々わからん。名前も分からない、出身地も分からない。挙句の果てには変なことだけ覚えている。
「とりあえずそのデバイス貸して」
「はい」
美少女からデバイスを受け取り、電源ボタンを探してカチッと押してみるが画面が表示されることはなく、恐らく充電が切れているのか、はたまた落下した際の衝撃でイカレタのか。
とりあえず俺の家のスマホの充電器でも挿してみるか。
「さ、挿さった! しかも充電できた!」
デバイスの下の方にある小さな穴に充電器を差し込むと画面が表示された。
すげえな。これどこの国産だよ。
とりあえずそんなことは放っておいて画面をタッチし、進めていくとホーム画面に辿り着いた。
機体修理、武装変換、武装修繕……なんじゃこりゃ。このデバイスの持ち主はマシンゲームが大好きすぎて攻略情報を小分けにファイル保存してデスクトップに保存してる人っすか~。ていうか明らかにそんな人だろ……でも、なんでそんな人が持っているッぽいタブレットがこの美少女の足元に落ちてるんだよ。
『10時だよ! 10時だよ!』
「きゃっ!」
振り返ると美少女が棚に置いてあったあるニュース番組のマスコットキャラクターの姿をした目覚ましのアラームに驚き、しりもちをついていた。
「あぁ、もう。分からないものは勝手に触るなよ」
「ご、ごめんなさい。旦那様」
「……旦那さまって俺?」
鳴り響くアラームを止め、そう尋ねると美少女はハッとした表情を浮かべ、少し考えても分からなかったのか首を傾げた。
「どうして今私旦那さまっていっちゃったんでしょう」
こっちが聞きたいわ! とりあえず今のところあいつのことを知る手がかりはこのデバイスにしか無いみたいだけど充電が空っぽだかとりあえず50%くらいまで充電されるまで待つしかないか。
充電器のコードの長さに気を付けながらデバイスを机の上に置き、改めて美少女の方を向いた。
「とりあえず俺の自己紹介はしとくわ。俺は笹間実。17歳だ」
「よ、よろしくお願いします」
美少女はオドオドとしながら小さく頭を下げた。
「名前も分からない。出身地も分からないとなるとどうにもできねえぞ」
「はいぃ……ただ本当に誰かを護れってことは覚えてるんです」
「その誰かは覚えてないの?」
俺がそう尋ねると美少女は一気にテンションが下がり、彼女の周りの空気が3℃くらい下がったかのような冷たい空気へと変わってしまった。
「ごめんなさい。何も覚えてなくて」
「……とりあえず散歩行こうか。何かに詰まったら散歩に行くと気分が転換されるぞ」
「はいっ!」
さっきの沈痛な表情が一瞬で消え去り、満面の笑みになった。
彼女を連れて階段を下りていき、靴を履いて扉を開けようとしたところでふと、あることが気になり、振り返ると俺の後ろにニコニコと笑みを浮かべた彼女が立っていたが俺の視線は彼女の表情ではなく、彼女の背中から生えている薄桃色の翼に向けられている。
「その翼、どうにかなんねえ?」
「ん~どうでしょう。んんんんー! あ、小っちゃくなりました」
まるで大便の時に気張るように顔に力を入れると薄桃色の翼がみるみる小さくなっていき、彼女の長い白髪の中の埋もれて隠れてしまうほど小さくなった。
マジでどんな原理でこうなったんだ。
「ま、まあとりあえず散歩行くか」
「はいっ! 旦那様」
な、なんか旦那さまっていわれると恥ずかしいな。
俺が通う高校は周りが山に囲まれた中にある田舎の中にある高校だから周りは畑や田んぼがいっぱいあり、ここだけ時間が止まったかのような錯覚をしてしまうほど長閑で平和な場所だ。
昔ながらの駄菓子屋、作りすぎて余った食材を隣の住民にもお裾分けをする。都会じゃもう見られなくなった光景がここでは毎日のように見られる。
もちろん高層ビルなんかもないから周りは自然に囲まれており、季節ごとに葉っぱは衣替えをする。
勉強とかいろんなことで詰まったらここで散歩して息抜きするんだよな~。
「どうだ? 気持ちいいだろ?」
「ん~快感は感じられません」
「いや、そっちの気持ちいいじゃなくて心が癒されるだろって意味」
「心が癒される……ですか」
そう言い、首を傾げながら考え始めてしまった。どうやら抽象的なことは分からないらしい。
「すみません。私には心が癒されるという状況がわかりません」
「そっか。ま、その内分かるってっ!?」
そう言いながら歩き出そうとしたその時、目の前で何かが一瞬ピカッ!と光ったかと思えば焦げ臭いが下から漂ってきたので恐る恐る下を見てみると葉っぱが数枚ほど焦げていた。
な、なんだ今の閃光。いったい何が飛んできたんだよ。
驚きながら周囲を見渡すが辺りには見慣れた木々以外には何もなく、誰かが立っていると言う事もなかった。
「エネミー検知。AXシリーズと判明。反応……上空3キロ上です」
突然、機械的にそんな言葉を吐き出したかと思えば上を見上げ、俺もそれにつられて上を見てみると太陽を背に横長に翼のようなものをはやし、何か銃のようなものを持った人物が何もない空中に浮かんでいた。
「詳細解析開始―――終了。エネミー・AX・F1と判明」
「お、おい! どうしたんだよ急に! しっかりしろよ!」
肩を揺さぶりながら彼女に話しかけるがさっきまでの人間溢れる声はどこへ消えたのか目の色もどこか生気が失っているように見え、話し方も機械的になっていた。
「見~つけた。殺戮対象・笹間実。世界に牙をむく前に消滅あるのみ!」
「うわっ!」
肉眼でその姿をとらえられ鵜ほどの距離にまで降りてきた相手が俺に銃口を向けた瞬間、制服の襟の部分を誰かに捕まれたかと思えば一瞬にして相手よりも高いところへ浮かび上がり、それよりも一瞬遅れて相手の銃口から閃光が放たれると地面にベコォ! と小さな穴をあけた。
う、嘘だろ。あんなもん食らったら風穴どころか全身バラバラに吹っ飛ぶぞ! ていうか宙に浮いてる!?
「お、お前本当に人間か?」
「答えは否定。私は――――――。----ために送られてきました?」
彼女が話している所々が音がなくなったように声として俺の耳に届くことはなかった。
「エネミー敵意確認。回避します」
「うわぁぁぁぁぁ!」
彼女がそう呟いた瞬間、右に左に大きく動いたかと思えば様々な方向からさっきの閃光が俺たちを貫かんと俺の目には一瞬、光ったようにしか見えない速度で放たれてくる。
い、いったい何が起きてるんだよ!
「はぁ? なんであんたそいつ護ってるわけ? あんたもアクロスでしょ」
「……理解不能。情報が欠損しています」
「あ~なるほど。あんた欠陥機か。アクロスってのはね、Angel・Xの略称よ。そして私達AXは今、あんたが掴んでいる人間・笹間実を殺すために天界から送られてきたんじゃない。その欠損してる部分に情報補完してろ、ポンコツ」
「了解……情報補完完了。ですが質問があります。何故、彼を殺すのでしょうか」
「そ、そうだそうだ! 俺は善良な一般学生だぞ!」
「知らないわよ。ある日、突然上から命令が来たのよ。あんたほんとポンコツね。良いわ、どのみちあんたみたいなポンコツ野郎が処分されるんだし、私が処分したげるわ!」
そう笑みを浮かべながら銃口を向け、引き金が引かれ、銃口の奥の方が一瞬光った瞬間、突然俺の視界が真っ暗になったかと思えば目の前で爆発音が鳴り響いた。
な、なんだ!? 一体全体何が起きてんだ!
「な、なあ! お前もなんか武器ねえのかよ!」
「検索中……召喚機がないため不可能」
「しょ、召喚機!? なんなんだよいった……もしかしてあのデバイスか! おい! 今すぐ俺の家まで戻ってくれ! もしかしたらあいつと戦えるかもしれない!」
「了解」
彼女がそう言うと凄まじい速度を出して俺の自宅へと向かうがその後ろから奴が追いかけてくる。
「旦那様」
「なに!?」
「この速度で行けば旦那様の腕が飛びます」
「えぇぇぇ!? じゃあ、お前がとってくれよ!」
「了解」
そのまま凄まじい速度穴が開いている屋根に突っ込むと一瞬、静止し、机の上に置いてあったデバイスを手に取って穴から出るとまたすさまじい速度で移動し始め、敵の攻撃を避けていく。
えっと! どこかにあるはずなんだ! そう言うプログラムが! 機体修理、違う! 武装修繕、違う!
武装変換、これだ!
デバイスの画面中央にあるフォルダをタッチした瞬間、画面にBATTLE MODE ONと大きく表示されたかと思えば、風が止み、彼女を見てみると動きを止めていた。
「何? 降参するわけ? じゃ、遠慮なくポンコツと笹間実を殺戮!」
「うぁっ!」
一瞬の閃光が銃口から放たれた瞬間、目を瞑ったと同時にバサッ! という音が聞こえ、恐る恐る目を開けてみると俺の視界に薄桃色の羽が落ちてゆくのが見え、上を見上げると翼を大きく広げた彼女の姿が見えた。
……すげえ。
翼を広げた彼女の姿はどこか神々しい何かのように見えた。
「旦那様。武装を」
「お、おう。えっと」
デバイスへ目を移すと様々な単語が並んでいるがとりあえず試しに1つ押してみた。
『Canon・Transmission』
そんな音声がデバイスから流れたかと思えば彼女の手の周りに光の粒子が集まりだし、彼女の手にバズーカを細長くしたような銃器が出現した。
「行きます」
彼女がそう呟き、引き金を引いた瞬間!
「うわっ!」
銃口から極太のレーザーのようなものが放たれ、相手めがけてまっすぐ飛んでいくが相手が上空に上がったことで直撃はしなかった。
……こんな非現実的なことがあっていいのか?
「ポンコツの割には考えたじゃない。人間に武器を出してもらうなんて……ポンコツの証ね」
そう言うと相手は腕を横に伸ばすと彼女の手の中に一本の剣が現れた。
「あたしみたいなエリートはね。あんたみたいなポンコツとは違って自分で武器を出せるのよ!」
「旦那様」
「わ、分かってるって! 次はこいつでどうだ!」
『SWORD・Transmission』
デバイスに表示されている単語の1つをタッチするとさっき出したキャノンが光の粒子となって消滅し、その粒子が今度は一本の剣となって彼女の手の中に納まり、振り下ろされてくる相手の剣を防いだ。
何か他にないのかよ! えっと……ユニオン? よく分かんねえけどこれで行け!
『SWORD・Canon・Union』
「っっ!」
「つっ!」
さっき出した剣と1つ前のキャノンが合体し、銃剣となると相手の剣を払いのけ、そのまま引き金を引き、極太のレーザーを放つと相手の肩をかすった。
『Cancellation』
「行けぇぇぇぇぇぇっぇ!」
『Canon・Burst!』
「嘘でしょっ!」
剣とキャノンの合体が一瞬で解除され、空中で動きが止まっている相手めがけてさっきの十倍以上の太さのレーザーが銃口から放たれると相手は何もできないまま、そのレーザーに飲み込まれ、大爆発を起こした。
「ふぅ」
『BATTLE MODE OFF』
デバイスからそんな音声が響いたかと思えば大きく展開されていた薄桃色の翼が小さくなって長い彼女の髪の毛の中に消えた。
「だ、大丈夫ですか!? 旦那様!」
「お、おう。俺は大丈夫だけどお前は大丈夫なのかよ」
「はい、私はなんともありません」
結局、あいつがなんで俺たちを襲い掛かってきたのか、こいつはいったい何者なのか、分からずじまいか。
ふと、デバイスの画面を見てみると1つの文字が表示されていることに気づき、その文字を見てみると画面には大きくAX-P1と表示されていた。
もしかしてこいつの識別番号か何かか……。
「……結局、名前は思い出せないのか?」
「はい。すみません」
「いいよ……じゃあ、今日からモモでいいか?」
「……?」
「薄桃色の翼だからモモ。簡単だけど」
「モモ……分かりました。今日からモモは旦那様をお守りいたします!」
そう言いながらモモは満面の笑みを浮かべた。
かくして俺―――笹間実の家に正体不明の美少女が居候することになりました。