原作:グランブルーファンタジー
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その出会いは、騎士としての誓いと「守ること」の意味を問い直していく――。
これキャラの扱い違うじゃないか!とかのおかしい点とか見つけたら直すかも
プロローグ:眠れる星の残滓
[遥か古・星の民の工房]
星の民の科学者A
「……検体番号:ナノ。出力値、依然として安定せず」
星の民の科学者B
「境界(バウンダリ)との接続は確認されましたが、精神回路が脆弱すぎます。個体としての自我が術式を汚染している」
星の民の科学者A
「『感情』など、兵器には不要な不純物だ。……結論を出そう。これは、我々が求める『正解』ではない」
星の民の科学者B
「了解。これより検体ナノを『失敗作』と定義。魂の凍結処理を開始します」
ナノ
「…………」
(石棺の中で、微かに指先が動くが、やがて静止する)
星の民の科学者A
「おやすみ、失敗作。次なる個体のための、良きデータとなるがいい」
(SE:石棺が閉まる重い音。画面が暗転し、数千年の月日が流れる演出)
[現在・アマルティア島 秩序の騎空団・執務室]
リーシャ
(机に広げられた地図と資料を睨みつけ、深く溜息をつく)
「……アガルタの再出現から数日。依然として、内部の状況は不透明なまま……」
モニカ
「リーシャ。あまり詰めすぎるなと言ったはずだぞ。貴公の顔、まるで三日徹夜した後の私のようではないか」
リーシャ
「あ、モニカさん……。恥ずかしいところを」
モニカ
「フン、隠しても無駄だ。背中がガチガチだぞ。……ヴァルフリートが不在だからと、一人で全てを背負い込もうとするな。第四艇団の団員たちも、貴公のその気負いを見て不安がっている」
リーシャ
「……分かってはいるのです。ですが、アガルタは『秩序』の根幹を揺るがしかねない禁忌。父さんや団長さん達が創り上げたこの平和を、壊させるわけにはいきません」
モニカ
「真面目すぎるのも考えものだな。……で、アガルタ周辺の調査隊からの報告はどうなっている?」
リーシャ
「それが……。先遣隊として向かった数名の反応が、昨夜から途絶えています。私が行くしかないようです」
モニカ
「……やはりか。嫌な予感がするな。ただの遺跡浮上にしては、漂ってくる魔力の質が悪すぎる」
リーシャ
(立ち上がり、愛剣の柄を強く握る)
「モニカさん。私に行かせてください。行方不明者の捜索を行いたいです」
モニカ
「……止めても無駄だろうな。分かった。ただし、深追いは厳禁だ。少しでも危険だと判断したら即座に撤退しろ。これは『命令』だぞ、リーシャ」
リーシャ
「はい! 碧の騎士の名にかけて、必ずや」
[アガルタ周辺空域・調査船の甲板]
秩序の騎空士A
「おい……見ろよ。あの巨大な岩塊。あの中に入った連中、一人も戻ってきてないんだろ?」
秩序の騎空士B
「余計なことを喋るな。俺たちはリーシャ代行が来るまでここを死守するんだ。……しかし、さっきから妙な音が聞こえないか?」
秩序の騎空士A
「音……? 風の音だろ」
???
(……たすけて……だれか……)
秩序の騎空士A
「!? 今、誰かの声が……!」
秩序の騎空士B
「馬鹿を言え、通信は死んでるんだぞ。……おい、見ろ! アガルタの外壁が光って――」
(SE:激しい放電音と共に、アガルタから蒼い衝撃波が放たれる。画面が白くフラッシュする)
第1話 邂逅
1-1
[アガルタ外殻・崩落した回廊](画面:暗く、青白い光が時折走る古代遺跡の内部。ガレキが散乱している)
秩序の騎空士A
「……おい。足元に気をつけろ。音を立てるなよ」
秩序の騎空士B
(震える手で魔導ランプを掲げながら)
「わ、分かってます。……班長、本当にこのまま進むんですか? 通信もさっきから完全に死んでます。本部の連中との連絡もつかないんじゃ……」
秩序の班長
(足を止め、周囲を鋭く警戒する)
「……ここは……まだ危険だぞ。本部からの指示は慎重に、となっていたはずだが……」
秩序の騎空士B
「そうですよ! 一旦引き返して、リーシャ代行の到着を待つべきじゃ――」
秩序の班長
「……いや。指示には『状況に変化あれば即座に確認せよ』ともあった。あそこを見ろ」
(画面:回廊の奥、壁面の一部が不自然に脈動し、紫黒色の「何か」が滲み出している)
秩序の騎空士A
「なんだありゃ……。岩が……生きてるのか?」
秩序の班長
「アガルタが再浮上してから、遺跡の防衛システムとは別の『何か』が混じっている。……これを放置して戻れば、後でどんな被害が出るか分からん」
秩序の騎空士B
(周囲を見渡し、肩をすくめる)
「……しっかし、気味が悪いな。さっきから誰かに見られてるような……。なあ、さっきから後ろで変な音がしてませんか?」
秩序の騎空士A
「音……? 何も聞こえねえぞ。お前の心臓の音だろ」
???
(キィィィィィン……と、耳鳴りのような高周波音)
秩序の騎空士B
「ひっ!? い、今、確かに聞こえた! 何か来る、こっちに来ますよ!」
秩序の班長
「総員、散開! 剣を抜け! ……自力で切り抜けるぞ!」
(SE:金属が擦れ合うような嫌な音と共に、影から「防衛型機械人形」が這い出してくる)
秩序の騎空士A
「くそっ、囲まれた!? こんな数、聞いてねえぞ!」
秩序の班長
「(歯噛みして)……ここまでか。おい、お前だけでも逃げて報告に――」
(SE:突如、頭上の天井が爆散する轟音。蒼い衝撃波が敵を吹き飛ばす)
[アガルタ内部・戦闘区域]
???
「――そこまでです。秩序の騎士が、容易く背を見せてはいけませんよ」
(画面:マントを翻し、剣を構えたリーシャが着地する)
秩序の班長
「り、リーシャ代行……!?」
リーシャ
(鋭い眼光で機械人形を射抜き、剣を構え直す)
「各員、負傷者の救護を。……残敵の排除は、私が引き受けます!」
1-2:
[アガルタ内部・戦闘区域]
(SE:機械の装甲を断ち切る鋭い音)
防衛型機械人形
「ガガッ……侵入者……排除……排除シマ――」
(SE:爆発音と共に機械人形が沈黙する)
リーシャ
「ふぅ……。――これで最後ですね」
(SE:剣を鞘に納める音。リーシャ、調査隊の班長に歩み寄る)
秩序の班長
「た、助かりました、代行……! あと一歩遅ければ、全滅するところでした」
リーシャ
「無事で何よりです。……ですが、独断での深入りは感心しません。本部の指示は『慎重に』だったはずですが?」
秩序の班長
「は、はい……仰る通りです。しかし、先行隊の安否が気にかかり、つい……」
秩序の騎空士B
「代行……! あ、あの、ここ、やっぱりおかしいですよ。なんだか……『声』が聞こえるんです。泣き声みたいな、震えるような……」
リーシャ
「……声?」
(リーシャ、廃都の奥へと視線を向ける。わずかな沈黙)
リーシャ
(……。確かに、私もさっきから感じている。魔力の揺らぎではない……もっと、直接意識に触れてくるような、この感覚は……)
リーシャ
「……。班長、皆さんは負傷者を連れて、ただちにこの空域から離脱してください。本部まで戻り、状況を報告するんです」
秩序の班長
「なっ……! 代行はどうされるのですか!? まさか、お一人で奥へ……?」
リーシャ
「碧の騎士として、この異変の正体を見極める責任があります。……それに、この奥で『待っている』者がいる。そんな気がしてならないのです」
秩序の騎空士A
「し、しかし……」
リーシャ
(厳しい表情で)
「これは命令です。……皆さんの命を預かる者として、これ以上の犠牲は許しません。……いいですね?」
秩序の班長
「…………。了解しました。……どうか、ご武運を」
(SE:調査隊たちが退却していく足音。リーシャ、一人残される)
[アガルタ・深層へ続く大回廊]
(SE:リーシャの軍靴の音だけが響く)
リーシャ
(……空気が重い。まるで、空間そのものが何かを拒絶しているような……)
???
(…………ママ…………?)
リーシャ
「!? 今……誰の声ですか!?」
(リーシャ、剣の柄に手をかけ周囲を見渡すが、誰もいない)
リーシャ
(聞き間違い……? いいえ、確かに聞こえた。幼い子供のような声が。……気のせいだと言い切るには、あまりに『痛い』ほどに切実な声だったわ……)
リーシャ
(行かなくては。……理屈じゃない。何かが、私を呼んでいる。この先に、私が放っておいてはいけない『何か』がある……!)
(SE:リーシャが意を決して走り出す音。廊下の突き当たり、ひときわ眩い蒼い光が漏れ出す扉が見えてくる)
1-3
[アガルタ・最深部「魂の揺り籠」]
(画面:部屋全体が淡い紫の粒子に満たされ、中央に巨大なクリスタルの石棺が浮かんでいる)
リーシャ
(息を呑む)
「……ここが、アガルタの最深部……? 廃都の不気味さが、ここには微塵も感じられない……」
(SE:コツ、コツと軍靴の音だけが響く中、リーシャが石棺に歩み寄る)
リーシャ
「これは……石棺? いえ、まるで……眠るための、ベッド……?」
(画面:石棺の中がクローズアップされる。銀髪の少女が静かに横たわっている)
リーシャ
「っ……女の子……? こんなところに、どうして……」
(リーシャ、石棺の縁に刻まれた古代文字を見つける)
リーシャ
「古代文字……ええと、『検体番号:ナノ』。……『出力不適合』……『失敗作につき、永久凍結を推奨』……?」
リーシャ
(驚愕に目を見開く)
「失敗作……ですって? こんなに幼い子を、そんな言葉で縛り付けて……ずっとここに……?」
リーシャ
(……。どうしてかしら。この子の名前を見た瞬間、胸が締め付けられるように痛い。……忘れられて、捨てられて、独りぼっちで……)
リーシャ
(他人事とは思えない。私も……父さんの背中を追いかけて、届かなくて……自分は『碧の騎士』として不完全なんじゃないかって、何度も……)
???
(……こわい…………くらい…………だれか……)
リーシャ
「……! 貴女なのね。私を呼んでいたのは……」
(SE:リーシャがそっと石棺の表面に手を触れる。蒼い光が強く明滅する)
リーシャ
「…………もう大丈夫ですよ。……貴女が何のために作られたのかなんて、関係ありません」
リーシャ
「私が、貴女をここから連れ出します。……もう二度と、暗い場所で一人になんてさせない。私が、貴女を守りますから……!」
(画面:リーシャが強く石棺を抱きしめるように寄り添う。ナノは眠ったままだが、微かにその表情が和らいだように見える)
[数分後・アガルタ内部]
(SE:崩落の地響き)
リーシャ
「……施設が不安定になっている? 早くここを離脱しなければ。……ナノ、少しだけ我慢してくださいね」
(画面:ナノを背負い(または抱きかかえ)、走り出すリーシャ)
リーシャ
(私は、正しいことをしているのかしら。……いいえ、今はそんなこと、どうでもいい。私は、この子を助けたい。ただ、それだけ――!)
1-4
(騎空艇のベッドに横たわる小さな少女の様子を、リーシャが少し離れた椅子から静かに見守っている)
リーシャ
「(外傷はないようだけど……あんな危険な遺跡の深部に、どうしてこの子が……。それに、この微かに感じる不思議な気配は……)」
(少女が、ゆっくりと無機質な瞳を開く)
リーシャ
「あっ……気がついた? 大丈夫? どこか痛むところはないかしら」
ナノ
「……」
リーシャ
「(……怯えているのね。無理もないわ)
……怖がらなくても大丈夫よ。私は『秩序の騎空団』のリーシャ。あなたを保護したの。もう安全だから、安心して」
(リーシャ、騎士らしく優しく、しかしどこか堅苦しい笑顔で微笑みかける)
ナノ
「……」
(ナノ、起き上がると、じっとリーシャの顔を見つめる。そして、首をこてんと傾げて――)
ナノ
「……ママ?」
リーシャ
「……え?」
ナノ
「ママ」
リーシャ
「…………はい?」
ナノ
「(無表情のまま、両手をぱたぱたと広げて)……ママ、だっこ」
リーシャ
「マ、ママぁっ!?」
(リーシャ、思わずガタッ!と勢いよく立ち上がり、椅子をひっくり返す)
リーシャ
「ちょ、ちょっと待って! 人違い、いえ、認識違いよ! 私は秩序の騎空団第四騎空艇団の団長代行で、結婚はおろかお付き合いしている殿方すらいない独身――って、どうして私がこんな言い訳を!?
……こほんっ!と、とにかく、私はあなたのお母さんではありません!」
ナノ
「……ママ、ちがう?」
リーシャ
「違います! 年齢的にも不可能ですし、そもそもあなたは……その、星晶獣ですよね!?」
ナノ
「……。(シュンと俯き、目からポロポロと涙をこぼし始める)
……ママ、ナノのこと、いらない……?」
リーシャ
「あっ! 待って、泣かないで! 泣かせてない! 私は何もひどいことは言ってないはずよ!?」
ナノ
「(リーシャの腰のあたりにギュッと抱き着く)
……ママぁ……!」
リーシャ
「ひゃああっ!? だ、抱きつかないで! 待って、服! 服が鼻水で!
ああっ、もう! 誰か! 誰か助けてーっ!!」
(客室に、碧の騎士の情けない悲鳴が響き渡る)
2-1
【シーン:アマルティア島・秩序の騎空団 第四艇団執務室】
(窓から柔らかな陽射しが差し込む午後。デスクに向かい、山積みの書類と格闘しているリーシャ。そのすぐ脇のソファに、ナノがちょこんと座っている)
リーシャ
「(上層部からの命令は『正体が判明するまで監視下に置くこと』。危険な星晶獣かもしれない以上、私が責任を持って面倒を見ないといけない……とはいえ)」
(リーシャ、ふうとため息をつき、書類から顔を上げる。視線の先では、ナノが空中に浮かぶホコリを、無表情のまま目で追っている)
リーシャ
「ナノ。退屈してない? もう少しで書類仕事が終わるから、そうしたら中庭に……」
ナノ
「……(じっとリーシャの顔を見る)……ママ、おしごと、がんばる?」
リーシャ
「(即座に)ママじゃありません。リーシャです。……でも、ええ、頑張っているわ」
(最初の頃こそ全力で否定していたリーシャだったが、数日経った今ではすっかり『お約束のやり取り』として処理できるようになっていた)
ナノ
「……リー、シャ……?」
リーシャ
「そう、リーシャよ」
(ナノはこてんと首を傾げた後、するりとソファから降りて、リーシャのデスクの横までとてとてと歩いてくる。そして、背伸びをして机の上の書類を覗き込んだ)
ナノ
「……これ、なに?」
リーシャ
「これは報告書よ。こうやって文字を書いて、本部の人たちに『今日はこんなことがありました』って伝えるの」
ナノ
「……ほうこくしょ。(羽ペンを指さして)……これ、なに?」
リーシャ
「ふふっ、それはペン。これで文字を書くのよ。……ナノは、色々なことに興味があるのね」
(保護された当初は、言われた場所にただ座り続けるだけの人形のような状態だったナノ。しかし、アマルティアでの穏やかな時間の中で、彼女は少しずつ周囲の環境に『疑問』を持つようになっていた)
ナノ
「……。(ナノの視線が、不意にリーシャの横顔で止まる)」
リーシャ
「ん? どうしたの、私の顔に何かついて……」
(ナノが、小さな両手を伸ばし、リーシャの頬をぺたっと挟み込む)
リーシャ
「えっ……ナノ?」
ナノ
「……あったかい」
(ナノのガラス玉のように無機質だった瞳の奥に、ほんの微かな光が灯る。それは、プログラムされた反応でも、星晶獣としての機能でもない――間違いなく『感情』の芽生えだった)
ナノ
「……ママの、お顔……ぽかぽか、する。……ここ(自分の胸を指さして)、なんか、ふわふわ、する……」
(言葉はおぼつかないものの、ナノの口元が、ぎこちなく、けれど確かに『小さな微笑み』の形を作る)
リーシャ
「……っ」
(その無垢な笑顔を見た瞬間、リーシャの胸の奥で、騎士としての『責任感』が、別の何かに塗り替えられていくような感覚が走る)
リーシャ
「……そうね。今日は、とても暖かいものね」
(リーシャはペンを置き、頬に添えられたナノの小さな手を、自分の手でそっと包み込む。そして、優しく頭を撫でた)
ナノ
「……えへへ」
リーシャ
「(……失敗作の星晶獣だなんて、報告書には書かれているけれど。この子はただの……温もりを知らないだけの、普通の女の子じゃない)」
(頭を撫でられて心地よさそうに目を細めるナノを見つめながら、リーシャは自然と、母親のようなひだまりの笑顔を浮かべていた)
2-2
[アマルティア島・中庭]
(画面:緑豊かな庭園。ベンチに座り、読書をしているダーント。その足元には数匹の猫が丸まっている)
リーシャ
「あら……。あそこにいらっしゃるのは、ダーントさん?」
ナノ
「……だーんと。……あれ、なに? ふわふわ、してる」
リーシャ
「猫ですよ。……とても自由で、愛らしい生き物なの。ダーントさんはその猫たちと共に旅をされている哲学者ですね」
ダーント
(本から目を上げ、静かに二人を見る)
「……やあ、碧の騎士。それに……そこの小さきレディ。陽光を浴び、命の洗濯をしていたところだ」
ナノ
「……れでぃ。……ふわふわ、さわりたい」
ダーント
「構わんよ。……だが、猫というものは気高い。彼らの魂が許可を出せば、の話だがな」
リーシャ
「ふふ、ナノ、優しく触るのですよ? ……ダーントさん、失礼しますね」
(画面:ナノがとてとてと歩み寄り、一匹の黒猫の前にしゃがみ込む)
ナノ
「……ふわふわ。……えい」
(SE:撫でる音。ナノが恐る恐る、猫の喉元に手を伸ばす)
黒猫
「……ゴロゴロ、ゴロゴロ……」
ナノ
「!? ……っ!」
(SE:ナノ、驚いてパッと手を引っ込める。目を見開いて自分の手を見つめる)
リーシャ
「どうしたの、ナノ!? 引っ掻かれたの!?」
ナノ
「……ちがう。……ふるえてる。この子、ふるえてる……! ママ、たすけて、こわれてる……?」
ダーント
「……フフ。壊れているのではないよ、小さきレディ。それは『ゴロゴロ音』……猫が満たされている時に奏でる、幸福の調べだ」
ナノ
「……こうふくの、しらべ? ……こわれてない?」
リーシャ
「ええ、そうよ。喉を鳴らしているのは、ナノに撫でられて気持ちがいいっていう合図なの。……ほら、もう一度触ってみて?」
ナノ
「…………(おずおずと、もう一度手を伸ばす)」
黒猫
「ゴロゴロ……ニャ〜ン……」
ナノ
「……。……ほんとだ。……びりびり、する。……あったかくて、びりびり。……不思議」
ダーント
「掌から伝わる振動。それは、命がそこに在るという証明だ。……理屈や言葉ではない。君の指先が、その猫の魂に触れたのだよ」
ナノ
「……たましい。……びりびり。……これ、すき」
リーシャ
(微笑んでナノの頭を撫でる)
「よかったわね、ナノ。……この子は、ナノのことが気に入ったみたいよ」
ナノ
「……。……うん。……えへへ」
リーシャ
(……。アガルタの冷たい石棺の中で、この子はこういう『温かな震え』を一度も知らなかったのね……)
リーシャ
(……。……あ。今、自然に頭を撫でちゃったわ。……いえ、これはあくまで星晶獣の情緒教育の一環として……そう、教育よ! 決して私がナノを可愛いと思っているからでは……!)
ダーント
「……碧の騎士よ。君からも、猫に劣らぬ温かな『音』が聞こえてくるが? 慈しみの調べ、とでも言うべきか」
リーシャ
「なっ、なんですって!? わ、私からはそんな音は出ていません! 私はただの監視役で……!」
ナノ
「(リーシャの服を引っ張って)……ママ、これ、おうち、つれてかえる?」
リーシャ
「えっ!? それは……さすがにダーントさんの猫ですし、宿舎で飼うのは規律が……!」
ナノ
「……だめ? (ウルウルした瞳でリーシャを見上げる)」
リーシャ
「うっ……! そ、その……検討……検討しますから、そんな顔をしないでちょうだい……!」
ダーント
「……クク。秩序の壁も、小さきレディの願いの前では脆いものだな」
2-3
(画面:木漏れ日が差し込む回廊。アンリエットがハープ(琴)を奏でている)
ナノ
「……。……きれいな、音」
リーシャ
「ええ。アンリエットさんの奏でる音楽は、聴く人の心を癒やしてくれるの。……少し、近くに行ってみましょうか」
アンリエット
(演奏を止め、穏やかに微笑む)
「ふふ、いらっしゃい。……その子が、噂の『小さなお客様』ですね?」
ナノ
「……ナノ、です。……さっきの、ぽろん、って音。……ふわふわ、した」
アンリエット
「まあ……『ふわふわ』ですか。素敵な表現ですね。……音楽は形のないものですが、心で触れることができるんですよ。ナノちゃんも、一緒に奏でてみますか?」
ナノ
「……奏でる? ……ナノ、がっき、持ってない」
アンリエット
「楽器がなくても大丈夫。貴女の喉も、立派な楽器です。……私の音に合わせて、声を乗せてみてください」
ナノ
「…………? (小首を傾げてリーシャを見る)」
リーシャ
「鼻歌……ハミングというものよ。言葉はいらないわ。……アンリエットさんの音を真似するように、声を出してみて?」
(BGM:穏やかなメロディが再び流れ出す)
アンリエット
「さあ、力を抜いて……。ふふーん、ふふーん……♪」
ナノ
「……ふふ、……ん。……んん、……んー……♪」
(SE:ナノがぎこちなく、けれど音程をなぞるように歌い始める)
ナノ
「……んー、……ふふー、……ん。……ママ、これ、……たのしい」
リーシャ
(ハッとして胸を押さえる)
「っ……!(今のハミング、なんて透明で、綺麗な響きなの……!)」
アンリエット
「素晴らしいわ。……ナノちゃんの声は、濁りがなくて、まるで生まれたての泉のようです。……リーシャさんも、ご一緒にいかがですか?」
リーシャ
「えっ、わ、私ですか!? 私はその……あまりそういう風雅な嗜みは……」
ナノ
「……ママも、いっしょ。……ぽろん、しよ?」
リーシャ
「う、うう……分かりました。……は、恥ずかしいけれど……。……ふふ、ふふーん……♪」
(画面:三人が寄り添い、アンリエットの演奏に合わせて穏やかなハミングが重なっていく)
リーシャ
(……。こうしていると、この子が恐ろしい力を持つ星晶獣だなんて、本当に信じられない。……この穏やかな時間が、ずっと続けばいいのに……)
リーシャ
(……。……あら? また私、ナノに『ママ』って呼ばれて返事しちゃったわ。……いえ、これは合唱を乱さないための高度な判断よ! そう、音楽的判断だわ!)
ナノ
「……えへへ。……ママの、お歌。……ちょっと、はずかしそう。……かわいい」
リーシャ
「!? な、ナノ! そんな言葉、どこで覚えたの!?」
アンリエット
「ふふ、子供の感性は鋭いですね。……でもリーシャさん、今の貴女の心拍、とても優しく響いていますよ」
2-4
[浮遊廃都アガルタ・中枢区画]
(画面:青白いノイズが走る古代のモニター群。砕け散った石棺の残骸)
キョウ
「……チッ。もぬけの殻かよ。せっかく『門』が開く予兆があったってのに、これじゃあ目も当てられねえな」
(画面:鋭い眼光を持つ青年・キョウが、苛立ちを隠さず石棺の破片を蹴飛ばす)
ハイネ
「落ち着け、キョウ。……床に残された残存魔力、そしてこの鮮やかな剣筋。……間違いなく、秩序の騎空団の仕業だ」
(画面:冷静沈着な佇まいの青年・ハイネが、リーシャが剣で切り裂いた跡を指先でなぞる)
キョウ
「秩序の連中だと? ったく、あいつらはいつも余計なことばっかりしやがる。……で、どうするんだ? 『ナノ』はあいつらにとっちゃ、ただの危険な星晶獣だ。最悪、解体されちまうぜ」
ハイネ
「……いや。あの個体は『境界』へと至るための唯一の鍵だ。星の民が失敗作と断じた理由も、その過剰なまでの感応能力(エモーション)にある。秩序の連中が正しく扱えるはずもない」
キョウ
「ハッ、正義の味方サマが、人造兵器の『心』をケアしてやるってか? 笑えねえ冗談だ。……おい、ハイネ。場所は割れてるんだろ?」
ハイネ
(虚空に浮かぶ魔導端末を操作し、アマルティア島の座標を表示させる)
「……ああ。反応はアマルティア――秩序の騎空団、第四艇団の拠点で止まっている。……今頃は碧の騎士様の手元で、おままごとでもしている頃だろう」
キョウ
(肩を鳴らし、得物を手にする)
「決まりだな。……あんなガラクタの山に、俺たちの希望を預けっぱなしにはできねえ。力ずくで奪い返すぞ」
ハイネ
「……待て、キョウ。正面突破は非効率だ。……『シア』に連絡を。彼女の能力で、内側から揺さぶりをかける。秩序という名の強固な檻も、中から錆びれば脆いものだ」
キョウ
「へっ、相変わらず陰湿なやり方だな。……まあいい。結果さえ出れば文句はねえ。……ナノ。待ってろよ。お前を『正しい場所』へ戻してやる」
ハイネ
(冷徹な瞳で、地図上の第四艇団拠点を凝視する)
「……全空の秩序を守る騎士か。……その信念、ナノという劇薬を前にしても、果たして保てるかな?」
(画面:ハイネの背後で、アガルタの巨大な動力源が不気味に明滅し、轟音を上げる)
キョウ
「行くか。……獲物を狩る時間だぜ」
ハイネ
「ああ。……碧の騎士、リーシャ。君が守ろうとしているものが、どれほど危うい均衡の上に成り立っているか……教えてあげよう」
(SE:二人の影が、加速してアマルティアへと向かう)
3-1
【シーン:アマルティア島・見晴らしの良い公園】
(青い空を背景に、休暇中のグラン、ルリア、ビィ、そしてナノの楽しそうな声が響いている。リーシャは少し離れたベンチで、彼らのおやつが入ったバスケットを抱えながら、その光景を眩しそうに見守っていた)
ルリア
「見てください、ナノちゃん! このお花、とっても綺麗ですよ!」
ナノ
「……きれ……。あか、あお、たくさん」
ビィ
「へへっ、こっちには珍しい虫もいるぜ! ほら、オイラが捕まえてやんよ!」
(ルリアに手を取られ、色とりどりの花畑を歩くナノ。その足取りは以前よりずっと軽やかで、時折、隣のルリアの真似をして小さく飛び跳ねたりしている)
リーシャ
「(……よかった。団長さんたちが来てくれて。私の前ではまだ緊張しているみたいだけど、同年代……に近いルリアさんたちと一緒なら、あんなに子供らしい顔を見せてくれる)」
(リーシャの表情が、自然と柔らかく綻ぶ。それは「監視役」としての安堵ではなく、一人の「保護者」としての喜びだった。しかし――)
グラン
「手伝うからあそこの岩に乗ってみる?」
ナノ
「……ん。……パパ」
リーシャ
「(即座に立ち上がって)パパじゃありません! 団長さんです!」
(思わず叫んだリーシャのツッコミを笑い飛ばしながら、グランがナノの小さな手をそっと握り、岩の上へ引き上げようとした、その瞬間だった)
ナノ
「…………」
(グランの指先がナノの肌に触れた刹那、ナノの身体がビクンと小さく震える。
そして、さっきまで花を愛でていた少女の瞳から、一瞬にして光が消え去った。
ルビーのように輝いていたはずの瞳は、底の見えない、冷たく無機質な**「深淵」**へと変貌する)
リーシャ
「っ……!?」
(リーシャの視力は、それを見逃さなかった。
グランという「特異点」に触れたことで、ナノの深層に刻まれた**「兵器としての回路」**が、外界の刺激を強引にシャットアウトし、冷徹な演算モードへと切り替わったかのような――そんな異様な光景)
グラン
「どうしたの?」
ナノ
「…………。(瞬きを一つすると、また元の瞳に戻る)
……なんでも、ない。……だんちょう、さん。……あったかい」
(何事もなかったかのように、再び無邪気な笑顔でグランの手を握るナノ。しかし、ルリアやビィが気づかないその一瞬の「バグ」を、リーシャの心は鋭く捉えていた)
リーシャ
「(今の……何……? まるで、心がそこにはない、ただの鉄の塊に戻ったような……)」
(胸の奥に、冷たい針で突かれたような鋭い痛みが走る。
どれだけ言葉を交わしても、どれだけ温もりを共有しても、彼女の根底には変えられない「造られた目的」が眠っている。
それを突きつけられた気がして、リーシャはバスケットを握りしめる手に、無意識に力を込めた)
リーシャ
「(嫌よ……。あんな目、二度とさせたくない。この子は、もう……ただの道具なんかじゃないんだから……!)」
(楽しそうに笑う一行の背中を見つめながら、リーシャの瞳には、かつての「碧の騎士」としての冷徹な警戒心ではなく、愛する者を失うことを恐れるような、悲痛な決意が宿り始めていた)
3-2
【シーン:秩序の騎空団 アマルティア支部大議務室】
(かつてナノと穏やかな時間を過ごした執務室とは対照的な、冷たく高い天井が響く重厚な部屋。重いカーテンが閉じられ、部屋の中央には長机が置かれている)
モニカ
「……すまないな、みんな。休暇中だというのに、こんな場所へ集まってもらって」
(上座に座るモニカの表情は、いつになく険しい。その隣には、心配そうにナノの肩を抱くルリアと、表情を硬くするグランの姿がある)
ダーント
「……空気の重さが、昨日までとはまるで違うな。自由を愛する猫ならば、真っ先に窓から逃げ出すほどの不穏さだ」
アンリエット
「ええ……。島全体を包んでいた柔らかな旋律が、今は不協和音に掻き消されているようですわ」
(ダーントは静かに猫を撫で、アンリエットはハープの弦に触れることもなく、入り口の扉を凝視している。リーシャは、ナノの隣で背筋を正し、拳を強く握りしめていた)
リーシャ
「(大丈夫……。ナノはアマルティアで何の問題も起こしていない。それどころか、島の人たちとも打ち解け始めている。その実績を説明すれば、本部の査問官だって……)」
(その時、重厚な扉が左右に開き、規則正しい軍靴の音が石床を叩く。
入ってきたのは、白を基調とした、アマルティアの団員たちよりも一段と装飾が華美で、それでいて血の通わぬ冷徹さを感じさせる制服の男たち――)
査問官
「――秩序の騎空団『カルエス・グランデ』本部、特別監査委員会だ。座ったままでいい、碧の騎士(代行)」
(先頭を歩く、眼鏡をかけた初老の査問官が、手元の書類を無造作に机に叩きつける。彼は一度もナノを見ようとはせず、ただリーシャだけを「欠陥品を預かっている担当者」として冷ややかに一瞥した)
リーシャ
「……ご足労、痛み入ります。第四艇団団長代行、リーシャです。今回の星晶獣『ナノ』の経過観察について、報告書に目を通していただけましたでしょうか」
査問官
「報告書か。あぁ、読んだよ。……『猫と戯れた』『音楽に反応した』。失笑を禁じ得ないな。我々が求めているのは、そんな平和な観察日記ではないのだよ」
リーシャ
「なっ……! 彼女の精神的な安定と、人間に近い情緒の芽生えは、今後の共存において最も重要な指標です!」
査問官
「共存? ……思い上がるなよ、辺境の騎士風情が」
(査問官は鼻で笑い、冷酷な宣告を突きつける)
査問官
「本部は、その『失敗作』を更生させるつもりなど毛頭ない。我々がここに居るのは、その兵器としての残滓を安全に解体し、再利用可能かを見極めるためだ。……感情など、ノイズに過ぎん」
(部屋の空気が、一瞬で氷点下まで凍りつく。リーシャの背中に、かつてないほどの激しい怒りと、それ以上の**「恐怖」**が駆け抜けた)
3-3
(査問官の言葉に、モニカが机を叩き、激昂して立ち上がる)
モニカ
「解体だと……!? 貴様ら、現場の報告を無視するつもりか! ナノは暴走の兆候もなく、むしろ対話による制御の可能性を示している。それを一方的に処分するなど、秩序の理に反する!」
査問官
「口を慎め、モニカ提督。ヴァルフリート殿がプロクルスの後処理で不在なのをいいことに、少々羽を伸ばしすぎではないか?」
(査問官は、手元の分厚い資料を忌々しげにパラパラと捲り、冷笑を浮かべる)
査問官
「『アマルティア支部』……。近年の貴公らの失態には目を見張るものがある。ガンダルヴァによる反乱、星屑の町での失策……。そして今回のアガルタ再出現。すべては貴公らが『温情』などという甘えで、火種を放置し続けた結果だ」
リーシャ
「それは……! 私たちは、最善を尽くして……!」
査問官
「最善? 笑わせるな、リーシャ・代行。君はいつもそうだ。父親譲りの正義感を振りかざすが、その実、目の前の私情に流されているだけではないか。……今回の『母親ごっこ』も、その最たるものだ」
査問官
「これ以上の不祥事は、本部の、延いてはヴァルフリート殿の汚点となる。よって、本委員会は最終決定を下した。――星晶獣『ナノ』は、本時刻より24時間以内に完全解体処分とする」
ルリア
「そんな……ひどいです! ナノちゃんは、一生懸命生きようとしているのに!」
査問官
「口を慎め部外者風情が。……リーシャ、これは命令だ。明日の同時刻までに、対象を本部の執行班へ引き渡せ。もし拒むようなら、貴殿を『反逆罪』に問い、第四艇団そのものを解体対象とする」
リーシャ
「っ……! 第四艇団を、人質に取るというのですか……!?」
査問官
「秩序を守るための、正当な手続きだよ。……行こう。これ以上、この辺境の澱んだ空気を吸うのは御免だ」
(査問官たちは、一顧だにせず部屋を去っていく。重厚な扉が閉まる音が、まるでギロチンの刃が落ちたかのように静まり返った室内へ響き渡った)
ビィ
「な、なんだよあいつら! 言いたい放題言い出しやがって……!」
ダーント
「……。組織という名の巨大な歯車が、一人の少女を、そしてリーシャの心を握りつぶそうとしている。これは、自由を愛する者への宣戦布告だな」
(アンリエットが震える手でハープの弦を押さえる。部屋を包むのは、怒りよりも深い、底なしの絶望感と重圧。
リーシャに父が創り、自分が命を懸けて守ってきたはずの「秩序」が、今、最大の牙となって自分とこの子に襲いかかっている。
その矛盾に、彼女の心の中で、何かが音を立てて砕け散ろうとしていた。
3-4
[夜・アマルティア島 秘密の離着陸場]
(画面:激しい雨の中、照明を落としたグランサイファーが静かに停泊している。タラップの下には、フードを深く被ったリーシャと、その手を引くナノの姿がある)
リーシャ
「……団長さん、ルリアさん。無理を言って申し訳ありません。ですが、もう……彼らには預けておけません」
ルリア
「リーシャさん……。いいんです、謝らないでください。ナノちゃんは、私たちの友達ですから!」
ビィ
「そうだぜ! あんな冷てえ連中にナノを渡すなんて、オイラたちが許さねえ!」
リーシャ
(ナノの肩を抱き寄せ、震える声で)
「……私は、碧の騎士として失格です。父さんの創り上げた秩序を、自らの手で汚そうとしている……。でも、一人の人間として、……この子の『母親』として、これだけは譲れないんです」
ナノ
「……ママ? ……どこいくの? おふね、のるの?」
リーシャ
「ええ。……この人たちと一緒に、遠いところへ。……ごめんなさい、ナノ。私は一緒には行けないけれど、ここよりずっと自由で、温かい場所へ……」
(SE:突如、空間を切り裂くような鋭い金属音が響く)
???
「――自由、か。相変わらずおめでたい思考だな、秩序の騎士サマは」
(画面:闇の中から、ハイネとキョウが姿を現す。キョウの剣が雨を弾き、ハイネの魔力が不気味に揺らめいている)
リーシャ
「っ……! アガルタの!? どうしてここが……!」
ハイネ
「内側から錆びれば脆いと言っただろう。……査問会の連中が君を追い詰めてくれたおかげで、連れ出す手間が省けたよ」
キョウ
「へっ、もたもたしてんじゃねえよ! そのガキをこっちに渡しな、碧の騎士!」
(SE:キョウが凄まじい速度で突進する。リーシャが剣を抜き、それを受け止める)
リーシャ
「渡さない……! この子は、貴方たちの道具でも、本部の素材でもないわ!」
グラン
(剣を抜き、リーシャの加勢に入る)
「 ルリア、ナノを連れて船の中へ!」
キョウ
「邪魔すんじゃねえ、特異点! ……オラァッ!」
(SE:激しい剣戟の火花。しかし、ハイネが放った不可解な魔導術が、ルリアとナノの足元を爆発させる)
ルリア
「きゃあっ!?」
ナノ
「……う……あぁぁぁっ!!」
(画面:爆煙の中、ナノの瞳が「無機質な深淵」へと切り替わる。共鳴現象により、ナノから溢れ出した紫紺の魔力が周囲を弾き飛ばす)
ハイネ
「今だ、キョウ! ……ナノを確保しろ!」
キョウ
「分かってる! ……ぐっ、あぁぁぁっ!?」
(SE:ナノから放たれた暴走エネルギーの直撃を受け、キョウが激しく壁に叩きつけられる。その際、彼の右脚から嫌な破砕音が響く)
ハイネ
(冷徹にナノの腕を掴み、魔導拘束具を装着させる)
「……安定化(スタビライズ)。眠れ、鍵の乙女」
ナノ
「……あ……マ……マ…………」
(SE:ナノが力なく崩れ落ち、ハイネの腕の中に落ちる)
リーシャ
「ナノ!! 放しなさい!!」
ハイネ
(倒れ伏し、動けなくなったキョウを一瞥する)
「……キョウ。君はここまでだ。秩序の追手もすぐそこまで来ている。……駒としての役割は果たしたよ」
キョウ
「……っ、おい! ハイネ、待てよ……! 俺を見捨てるのか!? ……ハイネーッ!!」
(画面:ハイネはキョウの叫びを無視し、ナノを抱えたまま闇の中へと転送、消失する)
リーシャ
「待って……! 行かないで!! 嫌っ……ナノーーーッ!!」
(SE:遠くから響く、秩序の騎空団の警笛と軍靴の音。照明が一斉にリーシャたちを照らし出す)
秩序の査問官
「――そこまでだ、反逆者リーシャ。敵対勢力と共謀し、重要機密を外部へ流出させようとした現行犯。……および、アガルタの刺客との接触」
(画面:雨に濡れ、絶望に顔を歪ませるリーシャ。その傍らには、見捨てられ、秩序の兵たちに取り押さえられた満身創痍のキョウ)
査問官
「碧の騎士の名も、今日までだ。……総員、連行しろ。……ヴァルフリート殿への、良い土産話になる」
リーシャ
(……あぁ。……あぁ……。……ナノ。……ナノ……っ。私のせいで……。私が、弱かったから……!)
(画面:リーシャが力なく膝をつき、雨の中にその悲鳴が掻き消されていくところで暗転)
4-1
[アマルティア島・地下監獄]
(画面:冷たく湿った石壁。松明の炎が不気味に揺れている。部屋の中央には、碧の甲冑を脱がされ、薄汚れた囚人服だけを纏ったリーシャが膝をついている)
査問官
「……以上を以て、全空の調停者たる『碧の騎士』の称号、および騎士団第四艇団団長代行の職権を剥奪する。……異議はあるか、リーシャ・ヴァルヴィング」
リーシャ
(俯いたまま、力なく首を振る)
「……ありません。……すべては、私の不徳の致すところです」
(SE:金属が床に転がる鈍い音。査問官がリーシャの愛剣を無造作に、床に置かれた彼女の鎧の上に放り投げる)
査問官
「ふん、殊勝なことだ。……だが、解せないな。君のような規律の権化が、単独でこれほど大胆な脱走計画を立てられるはずがない。……『特異点』の一行も共犯だろう? 白状したまえ。そうすれば、君の刑期も多少は考慮してやらんでもない」
リーシャ
(顔を上げ、査問官を真っ直ぐに射抜く。その瞳だけは、まだ死んでいない)
「……何度言えばわかるのですか。団長さんたちは関係ありません。私は彼らを……第四艇団の権限を利用して、騙したのです。彼らは私の独断に巻き込まれた被害者に過ぎません」
査問官
「ほう……あくまで自分一人のエゴだと?」
リーシャ
「ええ、そうです。……ナノを逃がそうとしたのも、命令に背いたのも、すべては私の個人的な感情による暴走です。全責任は私にあります。……ですから、どうか……彼らには手出しをしないでください」
査問官
「……やれやれ。父親の顔を泥で塗り、部下や友人を守って自分だけが地獄に落ちるか。……反吐が出るほどの英雄気取りだな、君は」
(SE:鉄格子が重く閉まる音。査問官たちが去っていく軍靴の音が遠ざかる)
[数刻後・独房]
リーシャ
(壁にもたれかかり、自身の両手を見つめる)
「(……。鎧がないと、こんなに身体が軽いのね。……そして、こんなに冷える……)」
リーシャ
(……。ごめんなさい、父さん。私は……秩序を守るどころか、自らそれを壊してしまいました。……ごめんなさい、皆さん。……私の我が儘で、みんなを傷つけてしまった……)
リーシャ
(……でも。……ナノ。……貴女の、あの温もりだけは……間違いじゃなかったと信じたい。……失敗作なんかじゃない。……あんな冷たい奴らに、貴女を渡したくなかった……!)
(リーシャ、壁に頭を打ち付け、声を殺して泣き崩れる)
???
「……おい。……うるせえよ。シケた面して泣いてんじゃねえ。……耳障りだぜ、騎士サマ」
リーシャ
(ハッとして顔を上げる。隣の独房から聞こえてきた、聞き覚えのある不遜な声)
リーシャ
「その声……。……キョウ、なの?」
(画面:隣の独房、影の中から満身創痍のキョウが這い出してくる。右脚は不自然な方向に曲がり、応急処置すらされていない)
キョウ
「へっ……。笑えねえな。……一方は裏切られてボロ雑巾。一方は正義を貫いてドブネズミだ。……お互い、散々なザマだな」
リーシャ
「……。……そうね。……皮肉なものだわ」
キョウ
「……なあ。……あのガキ……ナノは、あんな場所に帰っちゃいけねえんだ。……ハイネの野郎は、ナノを『道具』としてしか見てねえ。……俺は、それが……気に入らねえんだよ」
リーシャ
(キョウの言葉に、わずかに瞳に光が戻る)
「……。……貴方も、あの時の……ナノの笑顔を知っているから、なの?」
キョウ
「……。……さあな。……だが、このままここで腐って死ぬのは、もっと御免だ」
4-2
[浮遊廃都アガルタ]
(画面:無数の管に繋がれ、液体で満たされたカプセルの中に浮かぶナノ。その周囲を、ハイネと、白衣を纏った冷徹な研究者・カーサが囲んでいる)
カーサ
「……驚きましたね。まさか、たった数日でこれほどまでに『不純物』が混じるとは。精神回路に、強烈な依存対象のログが刻まれています」
ハイネ
(カプセルを見上げ、冷ややかに)
「碧の騎士の影響か。……無意味なことだ。兵器に愛を与えれば、出力が乱れることなど、星の民の時代に証明されている」
ナノ
「……ん……あ、……ぁ……」
(SE:泡が弾ける音。カプセルの中でナノが苦しげに顔を歪める)
ナノ
「(……。くらい。……つめたい。……ここ……どこ? ……ママ、は……?)」
カーサ
「ふむ、まだ覚醒状態(ウェイク)にありますね。……ハイネ様、これより情動回路の全消去(フォーマット)を開始します。よろしいですか?」
ハイネ
「ああ。……『鍵』として機能すれば、中身など空洞で構わん。……アガルタを真に再起動させるには、彼女の純粋な出力だけが必要だ」
カーサ
「了解しました。……精神抑制剤、最大出力。――再調整、開始」
(SE:激しい放電音と、ナノの脳内に直接響くような不快なノイズ)
ナノ
「――っ!! ぁ、あぁぁぁぁぁぁぁ!!」
(画面:ナノの瞳に、アマルティアでの思い出が走馬灯のように駆け巡る。ルリアと見た花、猫のゴロゴロ、そして――リーシャの笑顔)
ナノ
「(……いや。……消さないで。……この『ぽかぽか』……捨てたく、ない……!)」
カーサ
「ふむ、抵抗値が高いですね。……対象は『リーシャ』という固有名詞に強く執着しています。これを最優先で切除します」
ハイネ
「……。無駄な抵抗だ、ナノ。君は、誰の子供でもない。星の民が作り、我々が利用する……ただの『現象』に過ぎないのだから」
4-3
[浮遊廃都アガルタ・中枢調整室]
カーサ
「……順調ですね。まもなく最深部の情動領域に到達します。――これより、『リーシャ』に関連する全ログを消去……」
ナノ
「……ぁ、……あ……っ!」
(SE:心音のような重い重低音。画面が激しく揺れる)
ハイネ
「……? 出力値が急上昇している。どうした、カーサ」
カーサ
(焦った様子で端末を叩く)
「おかしい……! 削除プロトコルを実行した瞬間、個体内の魔力が逆流しています! 彼女の深層意識が、このデータを消去することを拒絶して――」
ナノ
「(……いや。……いやだ。……ママ。……リーシャ……!)」
ナノ
「――ナノから、とらないでえええええええっ!!」
(SE:ガラスが粉々に砕け散る轟音。カプセルが内側から吹き飛ぶ)
ハイネ
「なっ……!? ぐあああっ!!」
(画面:カプセルから溢れ出した紫紺の魔力が、光の奔流となって室内を飲み込む。調整室の機材が次々と爆発していく)
カーサ
「ひ、悲鳴……!? 術式が、制御不能……っ、ぎゃあああああ!!」
(SE:激しい衝撃音。カーサが壁に叩きつけられ、沈黙する)
ハイネ
(片腕で顔を覆いながら踏みとどまろうとするが、魔力の嵐に身体を焼かれる)
「くっ……バカな……! 情動を封じるための拘束具が、逆に彼女の感情を燃料(トリガー)にしているというのか……! ぐはっ……!!」
(画面:ハイネもまた、ナノから放たれた衝撃波に吹き飛ばされ、床に転がって動かなくなる。室内は煙と火花に包まれる)
ナノ
「…………はぁ、はぁ、……ぅ…………」
(画面:立ち込める煙の中から、ぼろぼろになったナノが這い出してくる。その瞳は左右で色が異なり、全身から制御しきれない魔力がバチバチと放電している)
ナノ
「……リー、シャ……。……ママ……。……たすけて……」
(SE:ナノの足元からアガルタの床が侵食され、黒い結晶が広がっていく)
ナノ
「…………ナノ……こわれちゃう……。……ぜんぶ……消えちゃう…………」
(画面:ナノがふらふらと歩き出し、無意識のうちにアマルティアの方角……リーシャのいる場所へと手を伸ばす。だが、その手からは破壊の波動が漏れ出し、周囲の壁を削り取っていく)
[数分後・大破した調整室]
ハイネ
(吐血し、壁にもたれかかりながら)
「……ハァ、ハァ……。……仕損じたか。……『失敗作』などではない。これは……星の民さえ恐れた、純粋なる『拒絶』の化身……」
ハイネ
(遠ざかるナノの、狂ったような魔力の余韻を見つめる)
「……このままでは、彼女がアマルティアに辿り着く前に……あの島ごと、すべてが消滅するぞ。……碧の騎士……君は、これでも彼女を救おうとするのかな……」
(画面:気を失ったままのカーサと、重傷を負ったハイネを残し、アガルタの深淵から「紫紺の災厄」が解き放たれる)
4-4
[アガルタ・大破した中枢調整室]
(画面:煙が立ち込める中、調整室は跡形もなく破壊されている。カプセル
の破片が散乱し、天井からは瓦礫がぶら下がっている)
ナノ
「…………はぁ、……はぁ、……ぅ…………」
(SE:ナノがふらふらと、しかし確かな足取りで煙の中から歩み出てくる)
ナノ
「……ママ。……リー、シャ。……ナノ、いくよ。……「……ママ。……リー、シャ。……ナノ、いくよ。……ぜんぶ、こわして……ママの、ところへ……」
(画面:ナノの瞳からは感情が消え、左右で異なる色の光だけが淀んでいる。彼女が踏み出すたび、アガルタの床が紫紺の結晶に侵食され、崩れ落ちていく)
(SE:ナノが調整室の壁を破壊し、外へと消えていく音)
[同・調整室跡地]
ハイネ
(吐血し、壁にもたれかかりながら、ナノの去った方向を見つめる)
「……ハァ、ハァ……。……仕損じた。……あれは、『鍵』などではない。……アガルタを、全空を、無へ帰す『災厄』そのものだ……」
ハイネ
(隣で気を失っているカーサを一瞥する)
「……カーサ。……すまない。……我々の……理想は、ここで……」
(SE:コツ、コツと、瓦礫を踏みしめる規則正しい軍靴の音。ハイネの駆動音とは異なる、生身の、しかし冷徹な足音)
ハイネ
(ハッとして顔を上げる)
「……だ、誰だ……? 秩序の追手……にしては、気配が……」
(画面:煙の中から、一人の男が姿を現す。ハイネたちと同じアガルタの制服だが、その纏う雰囲気は、ハイネさえも凌駕する強大な圧迫感を持っている。男の名前は――エイゲン)
エイゲン
「……やれやれ。随分と派手にやられたものだな、ハイネ。……アガルタの再起動を任せたというのに、このザマか」
ハイネ
(驚愕に目を見開く)
「……エ、エイゲン……閣下……!? どうして、貴方がここに……! 」
エイゲン
(ハイネを見下ろし、冷酷な笑みを浮かべる)
「……君が『鍵』を暴走させてくれたおかげで、私の目覚めも早まった。……感謝するよ、ハイネ」
ハイネ
「……くっ、ぐはっ……! 閣下……どうか、ナノを……あの子を、止めて……! このままでは、アガルタが……!」
エイゲン
「止める? ……なぜ? ……あれは、私の『食料』として、最高の状態に仕上がっているというのに」
ハイネ
「……食料……? な、何を……」
(SE:エイゲンが静かに手をかざす。彼の掌から、黒い霧のような魔力が滲み出し、ハイネとカーサを包み込む)
エイゲン
「……君たちの役割は終わった。……アガルタのために捧げたその命、……最後は私の血肉となれ」
ハイネ
「……あ、あぁぁ……! 閣下……! 貴方は……我々を……裏切……っ!!」
(画面:エイゲンの魔力が、ハイネとカーサの身体から、蒼白い光の粒子――魂を強引に引き剥がしていく。ハイネの瞳から光が消え、カーサの身体が塵となって崩れ落ちる)
(SE:魂がエイゲンの掌へと吸い込まれていく音)
エイゲン
(満足げな笑みを浮かべ、二人の魂を吸うように、深く息を吸う)
「……ハァーッ……。……フフ。……悪くない。……長き眠りの後の、最高の前菜だ。……アガルタの理想に殉じた魂は、実に……甘美だな」
[同・瓦礫の物陰]
(画面:シアが、物陰からエイゲンの凶行を、恐怖に顔を歪ませて見つめている。恐怖で乱れ、周囲の瓦礫を微かに震わせている)
シア
(……あ、あぁ……。……ハイネ様が。カーサ様が。……エイゲン……あの人、本当に……?)
シア
(……あんなの……ただの、化け物じゃない。……ハイネ様の計画なんて、最初から利用されていただけ……。……逃げなきゃ。……ここにいたら、私も……!)
[同・調整室跡地]
(画面:エイゲン、シアが逃げ出した方向へと視線を向ける。彼の表情は、狩りを楽しむ捕食者のものだ)
エイゲン
(表情差分:微かに口元を歪め、シアの去った方向を見つめる)
「…………。……シア、か。……ハイネの『駒』だった女だな」
エイゲン
(……。恐怖に染まった魂も、それはそれで味わい深いが……)
エイゲン
「……まぁ、いい。……今は、前菜よりも、メインディッシュだ。……あの暴走する『災厄』こそ、アガルタの真の遺産。……私が、美味しく頂かなければな」
(画面:エイゲンの背後で、アガルタの巨大な動力源が、彼の目覚めに呼応するように不気味に脈動し、轟音を上げる)
5−1
[アマルティア島・地下監獄]
(画面:薄暗い独房。リーシャは壁に背を預け、冷たい床を見つめている。かつての輝かしい甲冑はなく、薄汚れた囚人服が彼女の境遇を物語っている)
リーシャ
「…………」
(SE:遠くで響く水滴の音。彼女の心拍のように、規則正しく、そして空虚に響く)
リーシャ
(……。私は、間違っていたのかしら。……規律を破り、組織を裏切り……。その結果、ナノを守るどころか、あの子を深淵に突き落としてしまった……)
(SE:重い鉄扉が開き、軍靴の音が近づいてくる)
秩序の看守
「おい、4番房。……メシだ。最後くらいはマトモなもんを食っておけ」
(画面:牢獄の隙間から、質素なトレイが押し込まれる。それを持ってきたのは、やる気のなさそうな目をした中年男――マッコイだった)
リーシャ
「……マッコイ、さん。貴方が看守を……?」
マッコイ
(周囲をそれとなく警戒しながら、トレイを置く)
「ああ。……本部の監査委員会からのお達しでね。元『碧の騎士』様の最後のお世話を仰せつかったのさ。……ほら、さっさと食え。冷めると味が落ちるぞ」
リーシャ
「……ありがとうございます。ですが、食欲が……」
マッコイ
(声を潜め、リーシャの耳元で囁くように)
「……いいから食え。……特にその、真ん中の硬いパンだ。……よく噛んで、『中身』を確かめるんだな」
リーシャ
「え……?」
(SE:マッコイがわざとらしく鍵を鳴らし、扉から離れる)
マッコイ
「……。……今の時代、一周回ってこういうのが通りやすいんだ。……上層部のジジイ共のやり方は、どうも性に合わなくてね」
リーシャ
(驚き、手元のパンを割る。そこには、監獄のロックを解除するための特殊な『鍵』が仕込まれていた)
リーシャ
「これ……! ……マッコイさん、貴方は本部の……。どうして、私を助けるような真似を……?」
マッコイ
(背を向けたまま、不敵に笑う)
「……勘違いするな。私はただ、面白くないだけさ。……ガキ一人を兵器として解体しようって連中の片棒を担ぐのは、私の『秩序』に反するんでね」
マッコイ
「……脱獄後の手配はしてないぜ。……あとは、君のその細い腕一本で、何を守れるか証明してみせろ。……碧の騎士、リーシャ・ヴァルヴィング」
(SE:マッコイが立ち去り、再び静寂が訪れる)
リーシャ
(……。……。……マッコイさん……)
(画面:リーシャ、鍵を強く握りしめる。彼女の瞳に、絶望ではない、鋭く燃えるような意志が宿る)
リーシャ
「……。……そうですね。……私はまだ、何も終わらせていない。……ナノ。……待っていて。……次こそは、何があっても貴女を離さない……!」
(画面:リーシャが立ち上がり、鍵を差し込む。重い扉が静かに開き始める)
5−2
[アマルティア島・地下監獄 廊下]
(画面:重い鉄扉から、リーシャが静かに這い出す。囚人服姿の彼女は、周囲を警戒しながら足音を殺して歩き出す)
リーシャ
「(……。ここまでは順調。……でも、ここから先はどうする? 武器もなければ、アガルタへの道も……)」
(SE:低い、嘲笑を含んだ声が隣の独房から響く)
キョウ
「……おい。……自分だけおさらばかよ、騎士サマ」
リーシャ
(足を止め、隣の鉄格子の中を見つめる)
「……キョウ」
(画面:暗闇の中から、負傷した脚を引きずり、キョウが鉄格子に縋り付くようにして姿を現す)
キョウ
「……へっ。いい面構えになったじゃねえか。……そのマヌケな囚人服、案外似合ってるぜ」
リーシャ
「皮肉を言いに来たのなら、相手をしている暇はないわ。私は、ナノを助けに行かなければならないの」
キョウ
「……なら、俺も連れて行け」
リーシャ
「なっ……!? 貴方はアガルタの刺客よ。……私が貴方を逃がす理由なんて……」
キョウ
「理由ならある。……一つ、俺はハイネに捨てられた。あいつの面を拝んで、文句の一つでも言わなきゃ死んでも死にきれねえ。……二つ、貴様はアガルタへの行き方も、内部の構造も知らねえ。……だが、俺は知ってる」
リーシャ
「…………」
キョウ
「……三つ。……あのガキに、『ぽかぽか』なんて教えやがった貴様の責任だ。……あいつをあんな暗い場所に一人でいさせんのは、……俺も、癪なんだよ」
リーシャ
(驚きに目を見開く。キョウの瞳には、かつての凶暴な光だけでなく、居場所を奪われた者の渇きと、ナノへの奇妙な執着が混じっていた)
リーシャ
「……。……貴方を信じてもいいの?」
キョウ
「信じる必要はねえ。……俺と貴様は、目的が重なっただけのクズ同士だ。……ナノを奪還するその時まで、一時休戦といこうぜ」
リーシャ
(……。今の私には、騎士の誇りも、守るべき規律もない。……あるのは、あの子を抱きしめたいというエゴだけ……)
リーシャ
「……わかったわ。一時休戦よ、キョウ。……ただし、ナノを傷つけようとしたら、その時は私が貴方を斬る。……いいわね?」
キョウ
「へっ……。言ってろ。……さあ、開けろよ。……アガルタへの最短ルートを教えてやるぜ」
(SE:リーシャがキョウの独房の鍵を解除する。重厚な扉が開き、キョウがふらつきながらも廊下へ踏み出す。リーシャは、迷うことなくその肩を貸した)
リーシャ
「行きましょう。……秩序を超えて、ナノの元へ」
(画面:並んで歩き出すリーシャとキョウ。その背後は、かつて彼女たちが囚われていた「秩序」の檻が、冷たく暗闇に沈んでいった)
5−3
[アマルティア島・裏路地〜港湾エリア付近]
(画面:夜霧に包まれた裏路地。負傷したキョウの肩を借り、リーシャが影を縫うように進んでいる)
キョウ
「……おい、止まれ。……『番犬』どもの匂いだぜ。……チッ、包囲されてやがる」
リーシャ
「……っ。……やはり、そう簡単には行かせてくれませんか」
(SE:多数の軍靴の音。前方から、松明を持った秩序の騎空団員たちが次々と現れる)
秩序の騎空士A
「――見つけたぞ! 反逆者リーシャとアガルタの刺客だ!」
キョウ
「……へっ、ここまでかよ。……おい、騎士サマ。死に花くらいは派手に咲かせてやるぜ」
(SE:キョウが懐から壊れかけの短剣を取り出し、殺気を放つ)
リーシャ
「待って、キョウ……!」
秩序の騎空士B
(剣を抜こうとするキョウを制し、周囲を素早く見渡す)
「……静かに。……我々以外の追手はまだこちらへは来ていません」
リーシャ
「……え?」
秩序の騎空士A
(一歩前に出て、リーシャに向かって深く敬礼する)
「……代行。……いえ、リーシャ団長。……グランサイファーは、第3港の隠しドックに停泊しています。……団長さんたちが、今も貴女を待っています」
キョウ
「あぁ……? 捕まえに来たんじゃねえのかよ」
秩序の騎空士B
(キョウを睨みつけ、激しく警戒する)
「貴様……! よくも代行の隣に……! ……代行、どういうことです、その男は! そいつはナノを奪った敵のはず……!」
リーシャ
「……。落ち着いてください、皆さん。……彼は今、一時的な味方です。……ナノを……あの子を助け出すために、今は彼の力が必要なのです」
秩序の騎空士A
「しかし、そいつはアガルタの……!」
リーシャ
「(毅然とした声で)――武器を収めなさい! ……これは、私の『独断』です。責任はすべて私が取ります。……今は一刻を争うのです。通してくれませんか」
秩序の騎空士A
「…………」
(SE:秩序の騎空士たちが顔を見合わせ、やがて一斉に剣を鞘に納める)
秩序の騎空士B
「……分かりました。……代行がそこまで仰るのなら、我々はそれに従うまでです。……本部の査問官どもが何と言おうと、我々の団長は貴女だけだ」
秩序の騎空士A
「それと、これは志を共にする団員たちからの差し入れです。……どうか、これを」
リーシャ
「皆さん……。……ありがとうございます。……恩に、着ます」
キョウ
「……へっ。……騎士サマも、隅に置けねえな。……部下にここまで慕われてるとはよ」
秩序の騎空士A
(リーシャの目を見つめ、震える声で)
「……代行! ……いいえ、リーシャ様! ……行ってきてください! そして、必ず……必ず無事で帰ってきてください!」
秩序の騎空士B
「アマルティアの秩序は、我々が必死に誤魔化して時間を稼ぎます。……ですから、どうか……あの子を……ナノちゃんを、連れ戻してあげてください!」
リーシャ
(瞳を潤ませながら、力強く頷く)
「……ええ。……約束します。……必ず、あの子と一緒に、ここへ戻ってきます!」
(SE:リーシャとキョウが走り出す足音。背後では、部下たちが追っ手を攪乱するために、わざと反対方向へ叫び声を上げながら散っていく)
キョウ
「……熱いねぇ。……ったく、調子が狂うぜ」
リーシャ
「(……。独りじゃない。……私は、独りじゃないんだわ。……待っていて、ナノ。……みんなが、貴女の帰りを待っている。……今、助けに行くわ……!)」
5-4
[夜・グランサイファー 甲板]
(画面:夜空へ飛び立つ直前のグランサイファー。タラップを駆け上がってきたリーシャが、負傷したキョウの肩を貸しながら甲板に降り立つ)
ビィ
「お、おいリーシャ! 無事だったか! ……って、なんでそいつが一緒なんだよ!? アガルタのキョウだろ!?」
ルリア
「リーシャさん……! その、お怪我は……」
(画面:囚人服のまま、鋭い眼差しで前を見据えるリーシャ。その背後には、いつの間にか艇に乗り込んでいたマッコイが、壁に背を預けて煙草を燻らしている)
マッコイ
「よお、揃ってるな。……彼女の『我が儘』に付き合ってくれるっていうお人好しは、あんたらか?」
アンリエット
「……リーシャさん。貴女の奏でる旋律が……変わってしまいましたね。かつての揺るぎない正義の音ではなく、激しく、燃えるような……」
ダーント
「……。猫は、子を守るためなら己より大きな獣にも牙を剥く。今のあんたからは、騎士の規律ではなく、愛する者を奪われた母の渇望を感じるな」
リーシャ
「(静かに、しかし断固とした声で)……碧の騎士は、地下牢に置いてきました。今の私は、あの子を……ナノを連れ戻したいだけの、ただの身勝手な女です」
ビィ
「身勝手なんて……お前、そんなこと言うなよ!」
リーシャ
「(ルリアを見つめ、少しだけ表情を和らげる)……ごめんなさい。でも、綺麗事だけではあの子を救えないと分かったの。……キョウは案内役として、そしてアガルタを揺さぶるための協力者として連れてきました」
キョウ
「(皮肉げに笑う)……ククッ。協力者、か。……ずいぶんと優しい言い方をしてくれるじゃねえか、騎士サマ。……いや、『元』騎士サマだったな」
マッコイ
「……まあ、毒を以て毒を制すってやつだ。本部のジジイ共を敵に回してまでここに来たんだ。手段を選んでる余裕はないだろ?」
アンリエット
「……。たとえ旋律が乱れていても、その根底にあるのはあの子を想う慈しみ。……私は、その音を信じます」
リーシャ
「……。団長さん。私はもう、組織の人間としてではなく、私の意志であの子を助けたい。……連れて行って、くれませんか?」
グラン
「……。断る理由がない」
リーシャ
「……ありがとうございます。……本当に」
(SE:エンジン音が一段と高まり、グランサイファーが夜空へと浮上する)
ビィ
「よっしゃあ! 出発だ! アガルタの野郎どもに、目に物見せてやろうぜ!」
(画面:アマルティアの街明かりが遠ざかる。リーシャは一度も振り返らず、暗雲に包まれたアガルタの空をじっと睨み据えていた)
モニカ
「あの馬鹿者め本当に自分だけの秩序を貫くつもりか」
その様子をモニカがただ一人遠くで見ていた
第6章:紫紺の決戦
6-1:静寂の再会
[浮遊廃都アガルタ・外縁部デッキ]
(画面:夜のアガルタ。かつての不気味な駆動音は止み、淡い蒼の月光が、崩れた白い石壁を優しく照らしている。驚くほど静かで、穏やかな空気が漂っている)
ルリア
「……静かですね。あんなに激しい爆発のあとなのに、まるでここだけ時間が止まったみたい……」
ビィ
「不気味なくらいだな。……おい、キョウ。案内の方は大丈夫なんだろうな?」
キョウ
「……へっ、黙ってついてきな。……俺の体には、この腐った街の地図が刻まれてるんだよ……ぐっ……」
(SE:キョウ、負傷した脚を庇いながらも一歩前へ出る)
???
「……。……その、声……」
(SE:瓦礫の陰から、小さな影が飛び出してくる)
シア
「キョウ様……!? キョウ様なの!?」
キョウ
(目を見開く)
「……シア? お前、無事だったのか……!」
(画面:シアがキョウに駆け寄り、その胸に飛び込む。キョウは一瞬驚いた表情を見せるが、すぐに怪我をしていない方の腕で、ぎこちなくシアの背中を叩いた)
シア
「よかった……! ハイネ様もカーサ様も、あの化け物に……。……キョウ様までいなくなっちゃったかと思って、私……」
キョウ
(表情を和らげ、いつもの尖った口調ではない、静かな声で)
「……悪かったな。……死にぞこなっただけだ。……それより、お前こそよく隠れ通したな。偉いぜ」
シア
「……。……えへへ。……キョウ様が、生きててくれた……」
リーシャ
(その様子を静かに見守り、微かに微笑む)
「(……。彼らもまた、組織の駒としてではなく、互いを想い合う一人の人間だったのね……)」
リーシャ
(……。ナノも、あの幸せだった日々の中で、誰かとこうして笑い合いたかったはず。……救わなきゃ。必ず)
アンリエット
「……美しい調べですわ。恐怖に震えていた魂が、再会という共鳴で癒やされていく……」
マッコイ
「……。さて、感動の再会に水を差すようで悪いが。……シア、と言ったか。中の様子はどうなってる。あの『災厄のガキ』と、化け物じみた新顔(エイゲン)はどこだ?」
シア
(ハッとしてリーシャたちを見上げ、表情を曇らせる)
「……。……ナノちゃんは、最深部の『玉座』へ向かいました。……でも、今のあの子は、もうあの子じゃありません……」
シア
「エイゲンは、それを追いかけていきました。……あいつ、ナノちゃんの魂を『食べる』つもりなんです……!」
リーシャ
(拳を強く握りしめる)
「……食べさせるもんですか。……あの子は、私たちの大切な家族よ」
6-2
[アガルタ・星の遺構 回廊]
(画面:夜の静寂が支配する回廊。シアはキョウの服の裾を強く握りしめ、震える声でリーシャたちを見上げる)
シア
「……。……私は、エイゲンを……アガルタを、裏切ることはできません。……ひどい人だけど、私にとっては、居場所をくれた……家族だから」
シア
「でも、ナノちゃんを……あんな風にするのは、間違ってる。……だから、皆さんに……運命を、託します。……もし、皆さんが生きて戻れたら……。……アガルタは、もう二度と空を脅かさない。……和平を結ぶことを、約束します」
リーシャ
(シアの瞳を真っ直ぐに見つめ、一歩踏み出す)
「……シア。……運命なんて不確かなものにすがらず、皆で生き延びましょう。」
リーシャ
「和平の約束も、貴女一人が背負う必要はありません。……生きて、自分のしたこと、アガルタがしたことに……最後まできちんと、責任を取ってください。 私も、そうしますから」
シア
(目を見開く。その言葉に、絶望で凍りついていた心が微かに解ける)
「……責任……。……はい……。……リーシャさん、貴女は本当に……」
キョウ
「……へっ、相変わらず説教臭えな。……おい、シア。……ハイネの野郎はどうした。あいつ、逃げ足だけは速いんだろ?」
シア
(表情が急激に凍りつく。大きな瞳から、涙が溢れ出す)
「……ハイネ様も、カーサ様も……。……さっき、エイゲンに……魂を、吸い出されて……。……もう、いないの……」
キョウ
(息を呑み、壁を拳で強く叩く)
「……っ!? ……あの野郎……! 冗談じゃねえぞ!!」
ルリア
「そんな……ひどすぎます……。……仲間だったはずなのに……」
ビィ
「……。……マジかよ。……エイゲンって野郎、本物の化け物じゃねえか……」
リーシャ
(動揺を抑え込み、剣の柄を強く握りしめる)
「(……。ハイネたちが……。……ナノ、今すぐ助けに行かないと、貴女まで……!)」
リーシャ
「シア。……案内をお願いします。……これ以上の犠牲は、一秒たりとも許しません!」
シア
(涙を拭い、決然とした表情で頷く)
「……はい。……こっちです。……最深部、『虚無の玉座』へ……! ナノちゃんの……悲鳴が聞こえる方へ!」
(SE:一行が走り出す足音。背後で、アガルタの不気味な心音が一段と大きく鳴り響く)
[アガルタ・中層通路]
マッコイ
「……。……しかし、死んだ連中の魂を食って力を増すたぁ、最悪の相手だな。……リーシャ。……覚悟はできてるか?」
リーシャ
「……ええ。……騎士としての誇りではなく、一人の女の執念を……あの化け物に見せつけてやります!」
6-3
[アガルタ最深部・虚無の玉座
(画面:巨大な魔導回路の結晶が天に伸びる玉座。その中央で、無数の光の触手に絡め取られたナノが、魂を削り取られながら宙に浮いている。玉座に座るエイゲンは、溢れ出す紫紺の魔力を浴び、陶酔した表情を浮かべている)
エイゲン
「……来たか、泥に塗れた秩序の諸君。……これぞ星の民が残した至高の炉。……少女の『心』を燃料に、空のすべてを我が手に収める力が、今まさに完成しようとしているのだ!」
たリーシャ
た「――黙りなさい!! あの子を……ナノを、今すぐ解放しなさい!!」
グラン
「ナノを取り戻すんだ!!」
(SE:激しい戦闘の開始)
ダーン「……命の鼓動を侮蔑する者に、猫の慈悲はない。――行くぞ!!」
(画面:ダーントが錫杖を地面に突き立て、闘気を纏った拳でエイゲンの障壁を粉砕する。巨大な衝撃波が室内に走る)
アンリエット
「この不協和音、私が浄化してみせます! ……皆さんの魂に、勇気の旋律を!!」
(画面:ハープの弦が光を放ち、グランたちの武器に聖なる加護が宿る)
マッコイ
「……。チッ、硬えな! だが、銃弾一発で穴が開かねえ『秩序』なんてのは存在しねえんだよ!!」
(SE:マッコイが死角から精密な連射を浴びせ、エイゲンの魔力供給路を遮断する)
エイゲン
「ふん、小癪な……! ならば、まとめて私の糧となるがいい!!」
(SE:エイゲンから放たれた黒い衝撃波が一行を襲う)
キョウ
「……クソっ……あいつ、ナノの力を直接引き出しやがって……! このままじゃ、近づく前に全員消し飛ぶぞ!!」
シア
「……。……キョウ様。……私たちが、あの魔力を『中和』します。……アガルタの力なら、一瞬だけ……道を作れる!」
キョウ
「……。……そうだな。……おい、騎士サマ!!」
リーシャ
「キョウ!? 何をするつもりなの!?」
キョウ
「(不敵に笑う)……借りを返すだけだ。……あのガキに、『外の世界』を見せてやると約束したからな……!!」
(画面:キョウとシアが、暴走する紫紺の炎の中へ飛び込んでいく)
シア
「――私たちの魂を、アガルタの『鍵』に!!」
キョウ
「――うおおおおおおおっ!!」
(SE:凄まじい閃光。キョウとシアの二人が光の柱となり、エイゲンの絶対防御を内側から食い破る)
エイゲン
「なっ……何だと!? 捨て駒風情が、私に牙を剥くかぁぁぁ!!」
キョウ
(光の中で崩れ落ちながら、背後のリーシャへ叫ぶ)
「……行け、リーシャ……!! 必ず勝て……!! ナノを……あいつを……頼んだ、ぞ……」
リーシャ
「キョウ!! シア!! ……あぁぁぁぁぁっ!!」
(画面:リーシャが剣を閃かせ、キョウたちが作った「道」を駆け抜ける。エイゲンの胸元を斬り裂き、拘束されていたナノをその腕に抱き留める)
リーシャ
「……ナノ! ナノ、しっかりして!! ……今、助けたわ。もう大丈夫、帰りましょう……!」
ナノ
「…………」
(画面:リーシャの腕の中にいるナノ。だが、その瞳には光がなく、手足は氷のように冷たい。どれだけ呼びかけても、視線はどこか遠くを彷徨ったまま、ピクリとも動かない)
ルリア
(震える声で)
「……そんな……。……ナノちゃんの『魂(こころ)』が……どこにも……感じられない……」
リーシャ
「……嘘……。……ナノ? 目を開けて。……ねえ、ナノ……!!」
6-4
[アガルタ最深部・崩壊する虚無の玉座]
(画面:エイゲンの放つ禍々しい魔力の奔流に、グラン、ダーント、アンリエットたちが次々と弾き飛ばされる。中央で膝をつき、抜け殻となったナノを抱きかかえて庇うリーシャ。その背後に、エイゲンが冷酷な死の追撃を振り下ろそうとしている)
エイゲン
「消え失せろ、秩序の残滓よ。……貴様の魂ごと、その娘を喰らってやろう!!」
リーシャ
(心の声)
「(……。もう……限界……。ナノを、守れない……。私は、また大切なものを失ってしまうの? 父さん……団長さん……みんな……ごめんなさい……)」
(SE:すべてがスローモーションになる。絶望が彼女の視界を黒く染めようとした、その時――)
ナノ
「……マ、マ…………」
リーシャ
「っ!? ナノ……!?」
(画面:リーシャの手が、無意識にナノの頬に触れる。その瞬間、戦場に異変が起きる)
グラン
(激しい光に包まれながら)
「……繋ぐんだ、その想いを!!」
リーシャ
(……。……あぁ、そうか。……私はもう、独りじゃない。……あの子が、ここにいる。……特異点である団長さんが、道を照らしてくれている……!)
(SE:キィィィィンという鋭い共鳴音。ナノの胸の奥、空っぽだったはずのコアが、リーシャの体温とグランの存在に呼応し、青白い「涯ての光」を放ち始める)
エイゲン
「な、何だこの光は……!? 抜け殻が、なぜ再起動する!?」
(画面:ナノから漏れ出した「涯ての光」が、リーシャの腰にある短剣『リユニオン』へと吸い込まれていく。凄まじいエネルギーに耐えきれず、刀身がガラスのように粉々に砕け散る。だが――)
ナノ
「……ママを、傷つけさせない……!!」
リーシャ
「ナノ……! ……ありがとう。私も、貴女を守るために戦うわ。……一緒に、強くならなきゃ!!」
(SE:ドォォォォォン!! という爆発音。砕け散ったリユニオンの破片が、ナノの赤い魔力、涯ての蒼い光、そしてリーシャの碧い意志と混ざり合い、再構築されていく)
[最終上限解放:お披露目]
(画面:眩い紫紺の光の中から、新たな姿となったリーシャとナノが手を取り合って現れる。リーシャの纏う外套は星空のように煌めき、その手には、黄昏の光を纏い、紫紺の刀身へと生まれ変わった『新生・リユニオン』が握られている)
エイゲン
(驚愕し、たじろぐ)
「馬鹿な……! 涯てへのアクセス権限を、ただの人間が制御しているというのか!? ありえん、そんな道理は空の理(オーダー)には存在しないはずだ!!」
リーシャ
(新生リユニオンを真っ直ぐに構え、気高く言い放つ)
「いいえ、これはアクセスなんかじゃない。――これは、**『約束』**です!!」
リーシャ
「碧の騎士として……いいえ、秩序の騎空団として。そして、何よりこの子の『母親』として――大切な人を守るため、貴方を断罪します!!」
ナノ
「……いくよ、ママ! ……ナノたちの……ちから!!」
(画面:リーシャが地を蹴る。紫紺の残光を引き連れ、光速を超えた一撃がエイゲンの闇を真っ二つに切り裂く)
ドラマチックバトル
エピローグ
[アガルタ最深部・虚無の玉座]
(画面:紫紺の光を纏ったリーシャとナノ。二人が手を取り合い放つ一閃が、空間そのものを切り裂き、黄昏の境界を消失させる)
リーシャ・ナノ
「――これで、終わりです!!」
(SE:次元が砕けるような轟音。エイゲンの禍々しい魔力が一瞬で浄化され、彼自身もまた、虚無の彼方へと消えていく)
エイゲン
「……。……そうか。……これが、絆という名の……新たな理……か……」
(画面:エイゲンの消滅と共に、アガルタを覆っていた不気味な雲が晴れ、夜空に星々が戻り始める)
[エピローグ-1:戦いの跡]
(画面:崩れゆく玉座の間。力のすべてを使い果たしたリーシャが、糸が切れたかのようにゆっくりと倒れ込む。だが、その身体が冷たい床に触れる前に、温かな手が彼女を支えた)
???
「……まったく、危なっかしいやつだな。貴公は」
リーシャ
(微かに目を開け、自分を支える人物を見上げる)
「……モ、モニカ……さん……?」
モニカ
(優しく、しかし誇らしげに微笑みながら、リーシャの背中を支える)
「もう終わっているではないか。……わざわざ援軍を連れて駆けつけたというのに、私の出番はなさそうだな」
モニカ
(再構築され、紫紺の輝きを放つリユニオンを一瞥して)
「……それが貴公の……いや、リーシャ、貴方の見つけた『秩序』か。……よくやったな。誇りに思うぞ」
リーシャ
「……はい。……ありがとうございます、モニカさん……」
(画面:リーシャの腕の中では、ナノが安らかな寝息を立てている。その姿に、一行は安堵の溜息を漏らす)
[数日後:浮遊廃都アガルタ]
(画面:アガルタの市街。かつての殺伐とした空気はなく、生き残った民たちが再建に向けて動き出している。シアが事前に遺した和平への手引きと、彼女を信じた穏健派の働きにより、アガルタは空の世界との新たな対話を始めていた)
マッコイ
「……。あの『揺さぶり』の娘、死に際に随分と粋な根回しをしてくれたもんだな。おかげで本部のジジイ共も、ここの領有権を主張するのに苦労してるぜ」
アンリエット
「……。彼女たちの犠牲が、不協和音を鎮め、新しい旋律を紡ぎ出したのですね」
[グランサイファー・甲板])
(画面:アガルタを離れ、悠々と空を往くグランサイファー。夕闇が迫る中、リーシャは手すりに寄り添い、遠ざかるアガルタに向かって静かに目を閉じる)
リーシャ
(心の声)
「(……。キョウ、シア。……ハイネ、カーサ。……貴方たちが望んだ未来とは違うかもしれないけれど。……私は、この子が笑える空を、守り続けていきます)」
(画面:リーシャの隣には、グラン、ルリア、ビィ、そして目覚めたばかりのナノが並んで立っている。皆、言葉はなく、失われた命と、手に入れた平穏へ、静かに祈りを捧げていた)
ナノ
「……ママ。……あのお花、また……見に、いける?」
リーシャ
(目を開け、ナノの小さな手を強く握り締める)
「ええ。……明日には、あのアマルティアのお花畑に帰りましょう。……みんな、一緒に」
(画面:祈りを終えた一行を、明日への希望を予感させる黄金色の夕陽が包み込んでいく)
エピローグ2
モニカ
「……。全く、これだけの不祥事を起こしておいて、保護観察処分と監視付きの復帰で済んだのは奇跡だと思え。私の胃にどれだけの穴が開いたと思っているんだ、貴公は」
リーシャ
「……すみません、モニカさん。本当に……ご迷惑をおかけしました」
モニカ
「分かればよろしい。……いいか、ナノの保護観察は貴公の責任だ。公私混同は許さん。……だが」
(画面:モニカが立ち止まり、リーシャの肩を軽く叩く)
「……。……母親としての貴公の顔は、嫌いではなかったぞ。……さあ、行け。あのお節介な連中が、首を長くして待っている」
リーシャ
「(微笑んで)……はい。行ってきます、提督!」
(SE:軽やかな足取りで、港へと続く大階段を駆け下りる二人)
[アマルティア 第1港・グランサイファー前]
ビィ
「おーい! リーシャ! こっちだこっちだー!」
ルリア
「リーシャさん! ナノちゃん!!」
リーシャ
(グランの前まで辿り着くと、一度立ち止まる。そして、溢れ出しそうな涙を堪え、一点の曇りもない清々しい笑顔を浮かべた)
(画面:リーシャ、背筋を伸ばし、迷いのない所作で真っ直ぐに右手を掲げる)
リーシャ
「秩序の騎空団第四艇団団長代行、及び碧の騎士――リーシャ・ヴァルヴィング! 只今を持って、戦線に復帰いたします!!」
リーシャ
「これからもよろしくお願いします! 団長さん!!」
グラン
(最高の笑顔で頷き、右手を差し出す)
「おかえり、リーシャ!」
(画面:その横で、ナノがリーシャの姿をじっと見つめている。そして、自分も仲間に入りたいと願うように、一生懸命に背伸びをして、左右の手を間違えそうになりながら不格好な敬礼をした)
ナノ
「……ナノも……ただいま! ……けいれー!」