「お母さんね、実は元TS魔法少女だったの」 作:性癖でバトルしようぜ!
この身体に作り変えられて、唯一マシだと思える点がある。
それは身体能力が、もはや人間を辞めているレベルで向上したことだ。
『朝日、そろそろだよ』
「うん。近いね」
周囲の人々が、クモの子を散らすように逃げ惑っている。
その逆方向へと迷わず突き進めば、そこに怪人がいるはずだ。
辺りが不気味な静寂に包まれると共に、視界に入る建物はどれも酷い有様だった。
「うわ、今回の怪人は相当ヤバ目なんじゃ……?」
『朝日、気を引き締めるんだ』
遠くに見えるビルは大きく抉れて崩壊している。
まるで文明が滅んだ後の映画を観ているようで、ちっとも現実味がない。
警戒しながらゆっくりと足を進めていくと、前方で人影が動いた。
あれは──人だろうか。
小さな体躯ですぐに子供だと判別できる。
逃げ遅れた一般人かと思ったけれど、向こうもこちらに気が付いたようだ。
少女が静かに振り返り、僕らを認識する。
「同業者……かしら?」
「あ──」
燃えるような深紅の双眸が、射抜くような鋭さでこちらを見据えた。
身に纏っているドレスのような衣装も、鮮やかな赤が目を引く。
幼い外見に反して、他者を容易に組み伏せるような威圧感を放っていた。
『あれは……魔法少女だね』
「魔法少女……」
じゃあ味方ってことか。
母さんの話から、魔法少女は複数存在することは察していた。
魔法少女モノでも複数キャラが存在していたし。
けれど、まさかこんなに早く実物と出会うなんて。
赤い魔法少女である彼女の足元には、事切れた怪人の亡骸が転がっていた。
よほど熾烈な戦いだったのか、肉体の欠損が激しくて正視に堪えない。
「え、えっと、僕は……」
「遅すぎなのよ。怪人は、この私がとっくに片付けたわ──……って」
少女が短く、不可解そうに声を漏らす。
ぴょんっと軽やかな足取りで近づいてくると、僕の周りを回りながら観察し始めた。
自分よりも年下の少女に、じろじろと値踏みされるこの状況。
「──この場所に今居るのは、魔法少女か怪人のどっちかだけ。私が認める魔法少女が、あんたみたいにノロマなわけないし」
満足いくまで観察を終えたのか、彼女はポツリと独り言のように呟いた。
その瞬間、ぞわりと背筋に悪寒が走る。
「あ、あのさ」
「怪人は私がたった今ブチ殺したけど……まだ一匹、仕留め損ねた『害獣』が残ってたみたいね」
彼女から放たれるプレッシャーが、一段と跳ね上がる。
息苦しさの中で、血液が沸騰するかのような猛烈な緊張感が僕を襲った。
『待て、オイラ達に敵意はない! 同じ魔法少女のバディだよ!』
その殺気に耐えかねたのか、ノエルが僕の肩へと飛び乗る。
「魔法少女? 冗談も休み休み言いなさいよ! 私の目が節穴だとでも思ってるわけ?」
『オイラ達のような妖精が魔法少女の相棒なのは、常識のはずだろう!』
「妖精? パートナー……? ふん、そんな生き物を連れ歩いてる時点で、あんたが怪人の仲間だって証拠じゃない!」
ふと、僕の本能が最大級の警笛を脳内で鳴らした。
同時にノエルも喉を震わせて叫ぶ。
『跳べ! 朝日!』
「ッ!!」
──僕が居た場所を、荒れ狂う灼炎が焼き尽くす。
鼻を突く焦げた臭いと、熱波が顔面を容赦なく叩いた。
ちょ、待っ──なんでいきなり攻撃されてんのォ!?
「なっ!? なん、で……!」
『どうやら、何か致命的な勘違いをしているようだね!』
「ま、待って待って! 僕は味方……話せばわかる──うわぁ!?」
そんな悠長な交渉、させてくれそうにない!!
横に飛び退くと、再び背後で爆風が吹き荒れる。
視線の先には、絶賛戦闘態勢の魔法少女が。
「……その、最高級の赤ワインに泥水を一滴だけ垂らして、強引にかき混ぜたみたいな──吐き気を催すほど『歪な魔力』を垂れ流しながら魔法少女を名乗らないでくれる?」
不機嫌そうに眉を細める赤い魔法少女。
ひ、酷い言われよう……。
彼女の周囲を衛星のように浮遊している人魂のような灼炎が数個。
あれが彼女の固有能力、魔法としての顕現なのか。
「それから、そこの生意気に喋る猫も。この私、魔法少女『フレイメリア』が直々に消してあげるわ。光栄に思いなさいよね!」
『おかしい。魔法少女と妖精のバディは周知の事実のはず……。まさか、現代の魔法少女はそれすら忘却したのか……?』
「ブツブツ言ってないで、この状況をどうにかしてよ!」
向こうは正義の魔法少女、こっちは魔法少女を自称する一般人。
本来なら敵同士のはずではないのに、目の前の少女は僕を怪人と認識して明確な殺意を隠そうともしない。
逃げようにも彼女の放つ威圧感は、逃げ道を塞ぐ鉄格子のようにつきまとって離れなかった。
『朝日も魔法少女だと、力で証明するしかないよ』
「どうやって……!? 物理でわからせるしかないの?」
『……変身するんだ』
デスヨネー!
知ってたけど、肝心のやり方がさっぱり分からないんだよ。
こういう時はお決まりのフレーズがあるはずだけど、母さんは確か──。
『朝日! 来るよ!』
「ああもう! 考える時間すら、与えてくれないわけ!?」
爆ぜるコンクリートを蹴って、僕は必死に空中へと逃れる。
だが、そんな回避運動すら彼女にとっては、計算機で弾き出された予定調和に過ぎなかった。
灼炎の一つが、空中で身動きの取れない僕の脇腹へ正確にめり込む。
メリメリと嫌な音を立てて、鈍い衝撃が内臓を直接かき回した。
不思議と熱さは感じなかったけれど、その威力は僕の身体を木の葉のように吹き飛ばすには十分すぎる。
「ぐ、ぁ──ッ!」
隣のビルへと叩きつけられ、僕は鈍い音を立てながら悶絶する。
さっきの怪人とは比べものにならない……!
この魔法少女、本気で僕を「駆除」しにかかってきているんだ!
「クソ! やってやるよ!」
折れそうな心を叩き起こし、僕はなんとか姿勢を正した。
不敵に微笑む彼女を見据えて、あの言葉を唱える。
「──コネクト・オン!」
母さんが変身の際に口にした、あのセリフ。
実際に口に出すのはこっ恥ずかしいが致し方ない。
だが、周囲の空気はピクリとも動かない。
いや、嘘でしょ! ここで不発とか、笑えないって!
変身するには専用のアイテムとか、もっと派手なポーズが必要だったりするのか!?
「ッ!?」
けたたましい轟音を響かせ、追撃の灼炎が迫りくる。
分厚いビルの壁を紙細工のようにぶち抜き、僕の命を刈り取らんと殺到した。
くそ! 紙一重で避けてはいるけれど、こんなのただの延命措置だ!
これ、本気で絶体絶命じゃないか……!
完全には避けきれず、掠っただけでも皮膚が裂けて鮮血が舞う。
視界が赤く染まっていく中で、僕は必死に喉を鳴らした。
「はぁっ、はぁ! ノエル、できないじゃん!」
『……おかしいね』
「やっぱり、僕は変身できないってこと!?」
必死に死のダンスを踊る僕の横で、ノエルは神妙な顔をして考え込んでいる。
『魔法少女なのに柔らかすぎる脆すぎる』
「いま僕のことディスったよね!? こちとら必死に避け続けて、道路にぶちまけられたジャムよりも無様に血を流してるんだけど!?」
真面目な顔をしていると思ったら、ただの辛辣なダメ出しだった。
そんな無駄口も、全方位から迫る熾烈な猛攻によって強制終了させられる。
壁を突き抜け、空間を焼き払い、炎の弾丸が僕を包囲した。
「まだ死なないわけ? もういい加減、この不毛な追いかけっこにも飽きたんだけど」
僕を完全に追い詰めた魔法少女が、満身創痍の僕を冷たい瞳で見下ろしている。
彼女が優雅に指先で虚空をなぞると、炎は忠実な下僕のようにその周囲へ集った。
「ゲホッ、ゴホッ……!」
噎せ返るように咳き込むと、地面にどろりと鮮血が広がる。
その瞬間、ドクンドクンと全身を巡る血流の音が、奇妙なほど鮮明に──
まるで、それが手足のような感覚。
⸺ああ、そういうことね。
僕は残った力を振り絞り、あえて目の前の鉄筋へと自分の額を叩きつけた。
鈍い衝撃と共に、ドロリとさらに鮮やかな赤が視界を濡らす。
『朝日、ついに気でも狂ったのかい!?』
「ふぅ。大丈夫、頭を冷やせた。ノエル、もう一度だ」
ノエルが悲鳴のような声を上げるけれど、僕の意識はこれまでにないほど澄み渡っていた。
もっと。もっとだ。全身の血液を巡らせろ。血を、滾らせるんだ!
「──コネクト・オン! 」
次の瞬間、僕の身体から溢れ出した眩い光が、夕闇を真っ白に塗り潰した。
そうだよ。魔法少女といえば、やっぱりこの光がなくちゃ始まらないよね!
やがて光が収縮していくと、新たな自分の姿が現れる。
『朝日、その格好は……』
ノエルの驚愕をよそに、僕は自分の身体を包む「重み」を噛み締めていた。
母さんのようなフリフリで可愛らしいドレスを想像していたけれど、現れたのはその真逆。
漆黒をベースに鮮烈な赤のラインが走る、ナポレオンコートに身を包んだ姿。
控えめなフリルと翻るケープは、まさに深夜アニメの強キャラが着ていそうな「ミリタリーロリータ」と呼ばれるもの。
可愛らしさは申し訳程度にあるフリルのスカート部分のみ。
逆にそれは男だという自尊心にとって、これ以上ないほどの救いである。
「あ、ありえない! そんな禍々しい……そんなの、魔法少女と認めない!」
変身すれば話が通じると思っていたのに、目の前の彼女は逆に錯乱して目を剥いていた。
何かを呪うようにブツブツと呟きながら、やたらめったら火の玉をこちらへ射出させてくる。
ようやく変身できたと思ったら、むしろ事態が悪化しているのはどういうこと!?
「ノエル!?」
『向こうはパニックで対話ができる状態じゃない、やるしかないよ!』
迫り来る灼炎の弾幕を、僕は紙一重の制動で滑るように避けていく。
変身の恩恵か、先ほどまで死を覚悟した爆音も今ではただの騒音程度にしか感じられない。
ノエルを肩に乗せたまま、僕は崩落し始めたビルの屋上から夜空へと力強く蹴り出した。
背中に意識を集中させると、半透明な赤黒い翼が顕現し重力を無視して宙を舞う。
物語の主人公のように「なんとなく使い方が判る」というのは、お約束だけれど最高に気持ちがいい。
『朝日、やっぱり物理でわからせるしかないみたいだね』
「結局そこに行き着くの!? ……むっ?」
必死に追いすがってくる赤い魔法少女の様子が、明らかに不自然だった。
彼女が操る灼炎は主人の制御を離れて狂ったように明滅し、黒い煤を撒き散らしている。
それはまるで、機械の歯車が噛み合わずに火花を散らしているような危うい光景だった。
スタミナ切れ……?
「くっ、この……! 私の言うことを聞きなさい……っ!」
『なんだかよく分からないけれど、絶好のチャンスだよ!』
ノエルの合図と共に、僕は空中でギュンと姿勢を反転させて急降下へと移行する。
向こうも必死に制御を立て直したのか、再び猛烈な火力が僕の進路を塞ごうと殺到した。
「ああもう! そっちがその気なら、付き合ってあげるよ!」
下降速度を落とさず、僕は左手に身の丈ほどもある巨大な大鎌を顕現させた。
その刃は、まるで深海の底で凝固した鮮血のように、不気味な赤黒い光を放っている。
魔法少女としての超常的な剛腕は、その巨大な質量を羽毛のように軽く振り回すことを許していた。
向かってくる灼炎を、一閃、また一閃と冷徹に斬り伏せていく。
爆炎を突き抜け、一気に懐へと飛び込んだ僕の視線が、彼女の見開かれた瞳と正面からぶつかった。
戦意を喪失したのか、彼女はただ、呆然と立ち尽くして震えている。
だけど──。
「少し……頭を冷やしてもらうよ」
「こ, こんなこと……本当に、貴女は魔法──」
言い終えるより速く、僕の内に眠る膨大な魔力が大鎌を伝って一気に爆発した。
それは意志を持つ深紅の奔流となり、逃げ場を失った彼女の全てを圧倒的な質量で飲み込んでいく。
女の子が 大きい武器振り回すの 好きです
性癖の開示、楽しいね