最初は敵として出てくるタイプの魔法少女 作:てんぷらのちぎり
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
見知らぬ部屋。白い部屋。
私は天ケ瀬さん達の組織が所有している建物に軟禁されていた。
「では、全て自分の意思で犯行を行ったと?」
「はい」
「父親に脅されていたりは?」
「していません。パパは……私に期待なんてしてなかったから」
決まった部屋、決まった時間に事情聴取をされるだけ。
食事はきちんと出されているし、聞けば学校の様子とかも教えてくれる。
どうやら、今は私は風邪を引いて休んでいることになっているみたい。
「……頑なだな」
「本当のことですから」
「自分から捕まってくれたのにか?」
「はい。私の目的は、達成されたので」
あの日、研究所が倒壊した後。
私は、天ケ瀬さん達に投降した。
パパが目的を達成して、研究所もなくなった。
もう、私が戦う意味はなくなったから。
「……一言、君が父親のせいでしたと言ってくれれば。解放できるんだが」
「嘘を言う気はありません」
今私を尋問しているのは、天ケ瀬さんのお兄さんの、天ケ瀬良助さん。
根が真面目で優しい人なのが質疑応答から伝わってくる。
何とかして、私を解放しようと、答えを誘導しようとしてくるから。
「困ったな。マギデバイスも君専用で、他の人には使えない。かといって、従順な君を捕まえておくのは、リソースが無駄になるんだが」
「そういえば、私が嘘を言うとお思いですか」
「――言わないだろうな。君程自責心が強い子は早々いない」
自責している。
それは、当然のことだ。
私はパパの言うがままに、非道を行った。
天ケ瀬さん――小春ちゃんを、殺そうとした。それも、何度も。
許されるわけがない。許されていいわけがない。
私は罰を受けるべきなのだ。
「なら、早く裁いてください」
「だがなぁ。今回の件を司法に持ち出すのもできんし、真っ当な法で君を裁くことはできないんだ」
黒鎌の魔女の一連の事件は、闇に葬られることになったみたい。
真実を知らせることの社会的影響を考慮した結果、らしい。
一人の科学者が、国家的な犯罪を起こせてしまう事実は、あまりにも不都合だとか。
そうだよね。
たった一人の手によって国家が脅かされるなんて。
あってはならないことだ。
「だからこそ、私は裁かれなければならないんです」
そう。だからこそ、私は許されてはいけない。
私のしたことの大きさを把握しているからこそ。
どうか、許さないでほしい。
こんな邪悪を、許してはいけない。
「……はぁ。この手は使いたくなかったが」
「何ですか?」
「入ってくれ、小春」
……え?
ひょっとして、ここの壁って。
向こう側から見えるタイプの壁だったりする?
今までのやり取りは全部見られてて聞かれてるみたいな。
ちょっと、それは想定してなかったかも。
部屋の戸がノックされる。
お兄さんが立ち上がって、そっと扉を開ける。
そこには、小春ちゃんが立っていた。
「結奈ちゃん」
「天ケ瀬、さん」
数日ぶりにみた小春ちゃんの姿は、まるで変わらない状態で。
でも、とても悲しそうな表情をしている。
「聞いたよ。もう一週間もずっとこうしてるって」
「……」
「ねぇ、どうして? 結奈ちゃんは悪くないよ」
小春ちゃんはこういってくれるけれども。
私は、私を許せない。
パパの悲願を叶えるために、私は全てを犠牲にした。
その犠牲には小春ちゃんも含まれるところだった。
なのに、どうして。
どうして小春ちゃんは、そんな顔で私を見るの?
「逆に、どうして天ケ瀬さんは私を許せるの?」
「え?」
「私は……天ケ瀬さんを。アークライトを、何度も殺そうとしたんだよ?」
小春ちゃんが生きてるのは偶然に過ぎない。
本当に、道中で死んでいてもおかしくはなかった。
そのぐらいの攻撃をしたし、殺すつもりでもあった。
知らなかったとは言え、到底許せることではない。
「許すよ!」
はずなのに。
「私は! 結奈ちゃんを許すよ!」
どうして、あなたはそうやって一歩を踏み出せるの?
「どうして?」
「だって、今こうしていられているから!」
言いながら、彼女は私の手を取る。
「私は死んでない。結奈ちゃんもこうして生きてる。それが全てじゃ駄目?」
「駄目……じゃないけれど」
「それに、結奈ちゃんがここにい続けると、お兄ちゃんたちが少し困ることになるんだよ」
私がいることで困らせてる?
それは、問題だ。
「だから、ほら! 私と一緒に魔法少女、しない?」
……うん?
話の流れが、いきなり変わった気がする。
「お兄ちゃん曰く、今後もあの怪物が出てくる可能性があるの」
「それで、私を?」
「うん。一緒に戦ってほしい」
でも、私がもう一度マギデバイスを手にするだなんて……。
お兄さんが、深くため息を吐いた。
「君が父親に操られているのであれば、責任問題として君に咎はない。だから、マギデバイスを再び手にしてもらうことも可能になるんだ」
「お兄ちゃんは遠回しすぎるの!」
私が、もう一度戦う?
あの怪物を倒すために?
「……それは、パパのせい、なんだよね」
「まあそうなるな。枢木櫃間博士の研究の名残ともいえるだろう」
「そうだよね」
……パパは、ママに会えたんだろうか。
話を聞いた感じ、次元間ポータルからあの怪物が出てきたのなら。
パパは、あの怪物に殺されたのだろうか。
「……これは私の憶測なんだが」
「お兄ちゃん?」
何だろう。急に。
「君のお父さんは、生きている可能性がある」
「っ!? それは、どういうことですか」
「櫃間博士がポータルに入った直後、ポータルで激しい変色が起こった。あれはつながった次元が変わったという仮説が立てられる」
つまり、怪物が出てきた次元と、パパが向かった次元は別ってこと……?
それなら、パパは無事にママと出会えた可能性も、ゼロじゃないってことだよね。
胸につっかえていた何かが、ポロリと取れた気がした。
「……もし」
「もし?」
「私にできる罪滅ぼしが怪物退治であるならば」
「やってくれると?」
黙って頷く。
もしも、私のしたこと全てが無駄ではなかったのなら。
そう思えるのなら。
少しは、前を向いてもいいのかもしれない。
「じゃあ! 私と一緒に魔法少女だね!」
「……なんで魔法少女なの?」
これはずっと気になっていた。
私は魔法少女を名乗ったことはない。
マギデバイスを使って魔法少女を名乗り始めたのは、小春ちゃんが初めてだ。
「だって、魔法少女はみんなを救うヒロインなんだよ! 私たちにピッタリでしょ?」
花咲くような笑顔で、彼女は答えた。
ああ、何というか。
想像通りだ。
「あ、でも魔法少女をやるなら、名前が必要だよね。私がアークライトだから――」
「カローン」
「え?」
名前なら、決まっている。
あの日に、決めた名前が。
「私の魔法少女の名前は、カローン」
これは冥府の船の渡し守の名前。
立ちふさがる者どもを、まとめて。
冥府と現世を明確に隔てる、番人として。
私は、魔法少女になる。
一旦これで一区切りです。続きを書くかは……まあ未定という事で。