今年の五月祭も、盛大に行われました。大きなかがり火を燃やして、今年の豊穣を祈ったのです。もちろん御馳走とお酒もたっぷりとつきましたよ。普段は質素な田舎暮らしだから、こういう時はがんばるのです。
それで酔いつぶれて寝てたら、突然爆音がして、何事かと思ったら世界を放浪してた妹がヘリコプターで帰ってきたのです。マウリアをロバに乗って旅していたら現地の元王族の富豪の娘と仲良くなって、一緒に自家用ヘリコプターで世界を回っているのだとか。これから夏にかけてエルフィンドを旅するそうで、まずは村の白銀樹に挨拶に来たわけです。
えぇ、若い二人で白銀樹に挨拶ですよ。外国の皆さんにどうお伝えすればいいのかな。恋人というかつがいというか、まぁ要するに、そういう関係になる宣言ってやつです。そういうわけで朝からまた宴会第二ラウンドが始まったというわけです。今日の朝まで続いてたので眠いですが、この喜びを皆さんにお伝えしたくてがんばってタイプしてます。片手でタイプしているのにもう反対側の手で目をこすれないのがもどかしいです。やっぱり右手は必要だったのだ。
それから、ヘリコプターには別のお客さんも乗っていました。サライヴォズナの元義勇兵さんです。もう40年も前の戦争ですからしわくちゃのおじいちゃんが来るのかと思ったら、エルフより美しい金髪の妙齢の女性がいらっしゃいました。詳しい年齢は皆さんにお伝えしませんが、10代の早いうちに軍に志願されたそうです。ふふふ、姉様たちが色っぽい表情してたのを私はちゃんと見てましたからね。
彼女が軍服で来られたので、私たちも慌てて昔の制帽をかぶって敬礼をしました。何せ中佐の階級章をつけられてたんですよ。うちの氏族長より偉いんです。残念ながら私たちの軍服は逃避行の最中にうしなわれてし今いましたから、制帽と認識票だけが軍歴の証明です。何せ私たちは逃亡兵なので。
そうです、私たちは逃亡兵なんです。このことが皆さんから資金を募らねばならない理由にもつながってきます。いえ、資金の方はマウリアのお嬢様が気前よく持ってきてくださったので当面大丈夫になったのですが。とりあえずおばばの家の屋根の修理と井戸掘りの資金は解決しました。皆様今までありがとうございました。
それで話を戻すと、私たちは軍務の途中で逃亡して村に戻ってきたわけです。戦争が終わってからしばらくしてオルクセン軍に投降して、エルフィンド軍からはみんな揃って不名誉除隊となりました。そういうわけで私たちには軍人傷痍記章も傷痍軍人年金もありません。
戦後エルフィンドの町中にあふれていた物乞いの傷痍軍人が姿を消したのは、オルクセンのディネルース王妃が傷痍軍人の名誉を汚すべからずと年金を王室費から出し、社会復帰支援を手厚く行ったからなのですが、逃亡兵である私たちはその恩恵にあずかれなかったわけです。まぁ名誉よりも命を優先した軍人失格の我々ですから、名誉に伴う手当が受けられないのは当然のことです。それでも我々は名誉より命を選んだことを後悔していませんよ。
それで、ここからは暗い話です。思い出すのもつらいですが、村の全員で話し合って皆様にお伝えすることに決めました。そうです、ファルマリアの街を逃げ出した後のことです。
一人の少将に率いられてエルフィンド軍はファルマリアから撤退しました。ちゃんと整然とした撤退だったんですよ、列の先頭の方は。ところが私たちは弱小氏族の寄せ集め中隊にいたので、隊列のずいぶん後ろの方に回されました。本隊が出発し、避難民が後に続き、そのさらに後ろです。最後尾より少しばかり前の方、といったところでしょうか。
ですからファルマリアの街を出たのは、もうじき夜が明けそうな時刻になってからでした。夜が明けては敵に気付かれますから、みな歩調は速くなります。普通の行軍ではそう自由に速度を決められないものですが、なにぶん先行する隊からおいていかれそうでしたから、眠気も空腹もこらえて必死で歩きました。それで夜が明けてファルマリアの街がだいぶ遠くに見え、あぁ何とか助かったかと胸をなでおろしたころに銃声が聞こえてきました。
最初は、ついにオルクセン軍がファルマリアに攻め込んだのだと思ったのです。何せその時の銃声は大隊が一斉射撃をしたような轟音の連続だったのですから。そうです。グラックストンです。今となっては戦史に詳しい方以外はご存じありませんかね。まぁ重機関銃の始まりみたいなやつです。その頃は連発銃なんて見たこともありませんでしたから、連続する銃声を聞いて大部隊の一斉攻撃だと思ったわけです。
それで戦場から早く離れねばとさらに歩みを早めようとしたわけですが、後方から断末魔の叫びが聞こえてきたわけです。声は通じない距離ですが、魔術通信であれば届きます。しかもそれが何度も波のようになりながら、だんだん私たちに近づいてきたのです。
それでようやく、隊列の後方が襲撃されていることに気付きました。小隊長だった姉様は中隊長に味方の救援に戻るべきだと意見具申しましたが、行くなら勝手に行けと言われてしまいました。中隊長を責めても仕方のないことです。彼女も氏族の部下たちを故郷に返す責務があったのですから。
それで姉様は私たちの小隊を集めて、逃げたいものは中隊長に従うようにと言いました。私たちは勇気を取り戻したというわけではなく断末魔を無視する良心の呵責に耐えらえなくなっていましたから、皆で姉様と行動することに決めました。
こうして私たち45人は撤退する隊列を離れ、逃げてきた道をファルマリアに向かって引きかけしていきました。そして結果的には、これが私たちの命を救うことになったのです。
駆け足で道を引き返していく途中、壊走して逃げていく集団とすれ違いました。彼女たちは負傷した仲間どころか、戦闘中の友軍すら見捨てて逃げてきたのです。そのまま本隊の方に走っていきましたが、助かったかどうかはわかりません。えぇ、本隊はそのあとアンファングリアの襲撃で壊滅しましたから。
一方さらに後方へと戻っていった私たちは、壊走の途中で力尽きた死体をいくつか目にしました。護符だけは回収しようと近づいたところ、私の愛しいねぇ様が異様な傷に気付いたのです。それは明らかに、ダークエルフの山刀によるものでした。
実をいうと私たちの氏族も山刀を使うのです。白エルフですが山奥の狩猟民でもありますから。と言ってもダークエルフのようなモリム鋼のものではありませんけどね。しかしねぇ様はモリム鋼の山刀を持っていました。ロザリンドの時に肩を並べて戦ったダークエルフの戦友の遺品でした。私たちも狩猟を生業の一つにしていますから、昔は彼女らと同じく猟兵として従軍していたのです。
それで追撃してくる部隊はダークエルフ、つまりアンファングリアだとわかりました。ロザリンド帰りの姉様方は、それはそれは肝が冷えたそうです。肩を並べて戦ったのだから、その恐ろしさはよくわかっていたのです。ベレリアント戦争が初の従軍だった上等兵の私は、その時はまだピンと来ていませんでしたけどね。しかしそのあとすぐに思い知らされました。
アンファングリアと交戦したのです。私たちは道を外れ、地形に身を隠しながら街道沿いに後方へ向かいました。彼我の索敵の魔術波と、友軍の断末魔を逆探知しながら進むのは困難でしたが、私たちはやってのけました。友軍がアンファングリアと交戦しているすぐ近くまで、気づかれずに近づいたのです。
そして小隊長の号令の下、遠距離での狙撃を行いました。エルフィンド軍のマルティニ小銃は伏射のできない欠陥品だと物の本には書いてありますが、あれはうまく使えばいいものでした。何せオルクセン軍の小銃より射程距離が長く威力があるのですから。猟師であった私たちは、ヘラジカ猟の要領で岩や木立に身を隠しながら狙撃を行いました。ロザリンドのダークエルフと同じようにやった、と姉様たちは言っています。
今は敵味方とはいえロザリンドでは肩を並べた仲間です。ですから私たちは騎兵の馬に狙いをつけて撃ちました。馬を倒せば騎兵は無力化できると思っていたのです。それで3頭の馬を仕留めたところで、アンファングリアは撤退してきました。
問題はそのあとです。私たちは安全なところにいますが、傷を負って倒れている友軍兵士の救出に行かなくてはいけません。彼女らはもうまともな統率もとれておらず、私たちの援護射撃で騎兵が後退するとほとんどが負傷兵も武器も捨てて逃走してしまいました。その後の彼女らの行方は分かりません。私たちのようにどこかで生き延びていることを願っています。
ともかく、問題は負傷兵の救出です。遠目にも息があることはわかりましたし、それに何とか踏みとどまったものが魔術通信で救援を求めていました。しかしまだ近くに敵軍の、しかも騎兵がいるのです。小隊全員で突撃して全滅してしまっては、ファルマリアを捨てて逃げた意味がなくなってしまいます。そう、氏族の滅亡です。
ですから小隊長は決死隊を募りました。そしてそれを率いたのは、副官の中尉であったねぇ様でした。あぁ、私の愛らしくも凛々しいねぇ様。ねぇ様の指揮の下、総勢20人が救出に向かいました。残念ながら最年少の私は残留組でした。経験の足りない若者でしたから。しかし残った私たちにも、決死隊を援護し背後を守る重要な任務がありました。
こうして果敢に向かった決死隊は、負傷兵のところにたどり着いたところでアンファングリアの再びの攻撃に遭遇しました。彼女たちの側も、愛馬の下敷きになり身動きの取れない騎兵の救出をしなくてはならなかったのです。
そして二度目の交戦では、私たちは敵の兵士を狙って射撃せざるを得ませんでした。かつて肩を並べた仲間を、です。
指揮をとっていたねぇ様は真っ先に狙われました。えぇ、白かろうが黒かろうが、エルフの猟兵は指揮官を狙うものです。恨みはありません。決死隊は私たちと負傷兵の間を二往復し、24人の友軍を連れ帰りました。この二往復で10人が戦死し、残りも大きなけがを負いました。そして殿を務めていたねぇ様は頭を撃ち抜かれて戦死しました。
後頭部に受けた銃撃でしたが妹として恥じるところはありません。負傷した足で走り転んだ友軍の兵士に覆いかぶさって銃撃を受けたのですから。その時ねぇ様が助けたのがわが村自慢のファッションデザイナーですよ。へへ、これでもうセーターをクソダサだなんて言わせませんからね。
それで私はというと、倒れたねぇ様の護符を回収しに行ったところを狙撃されて右腕を失うけがをしたのでした。でもいいですよ。私の片腕よりねぇ様の護符を白銀樹の下に還すことの方がはるかに大事ですから。
私たち残留組の中で私を含めて6人がこの護符回収で負傷しました。こうして私たちの小隊は、10人が戦死し、16人が負傷、そして連れ帰った友軍が24名で負傷していないのは2名のみ。このうち私たちの小隊から2人、友軍から5人がほどなく命を落としました。
ですからたった21人だけの五体満足な将兵で、私を含む31人の負傷兵を村に連れ帰らねばならなくなったのです。ことときにはすでに、救出した友軍兵士も村に連れて帰ることは当然だと思うようになっていました。氏族の仲間に見捨てられた彼女たちには、行き場はほかにないのですからね。
こうして総勢52人と、戦死者を出しているのにもとより数の増えてしまった私たちは、もやは完全な逃亡兵となることを決意しました。本隊がいるはずの方向から、とてつもなくけたたましい断末魔の魔術波が響き続けていたからです。そして本隊が襲撃されている間は少なくとも敵軍の大半はそちらに向かっているはずですから、私たちが逃げるにはまたとない機会であったわけです。
最低限の装備だけ持ち、私たちは戦場から遠くへ遠くへ、少しでも遠くへと去っていきました。敵軍にはもちろん、友軍にも見つかってはいけません。敵前逃亡は銃殺です。ですから早々と山に入り、狩りで仕留めた獲物を村に持ち込んで平服と交換してもらいました。
村の牝たちは私たちが逃亡兵であることは当然わかっていたでしょうが、それでも武装した一団を敵に回すのは危険と思ったのか、それとも単に哀れんだのかわかりませんが通報せずに先へ進ませてくれました。
村へと向かう逃避行は厳しいものでした。ファルマリアから北の山奥の村までひたすら歩くのです。負傷したものは怪我が悪化して命を落とし、戦場で負傷しなかったものも険しい山道の中で負傷し命を落としました。それでも護符だけは全員分回収しました。
開戦直後の星暦876年10月に始まった逃避行が終わったのは、翌年の4月21日のことでした。そうです。ディアネン包囲戦が始まったまさにその日です。もっとも私たちはそんな戦況など無縁の山中を通り続けていましたから、ディアネンが包囲されていることを知ったのは5月8日のことでした。
ははは、終戦の翌日になってやっと知ったんですよ。村には電信線も通っておらず、魔術通信の口伝えでやっとやっと。それで終戦を知ったのは5月も半ばになってからでしたよ。本当に田舎ですね。今こうしてインターネットをしているのがウソみたい。
そんなわけで故郷に帰ってきた私たちは、戦後しばらく周りの村と関係もたって暮らしていたわけです。逃亡兵なのがばれたらどうなるかわかったもんじゃないですからね。終戦から一年以上たって、オルクセンの進駐軍がうちの村にも調査に来てそれでやっと投降して武装解除を受けた次第です。ですから私たちの戦争が終わったのは、878年の夏なんですよ。
さて、今回はついつい長くなってしまいました。でも、これでもう終わりだからいいんです。このブログは役目を終えましたから。
はい、支援が受けられることになったんです。私もさっきこれを書き終わるころに聞かされたんですけどね。あ、マウリアのお嬢さんからじゃないですよ。子供からは巻き上げられない。サライヴォズナの元義勇兵の方です。
オルクセンの軍部にも顔が利くらしく、私たちも軍人傷痍記章と傷痍軍人年金をもらえることになったのです。ファルマリアでの虐殺の非をオルクセン政府として認めることになったからだそうです。
しかも昨日私たちの昔語りを聞いた元義勇兵さんがいたく感動され、友軍を決死の覚悟で救った功績を評価するように軍と政府に掛け合ってくれたのです。なんと軍人としての名誉も回復され、みんな一階級昇進だそうです。氏族長もこれで念願の少佐ですよ。私も伍長です。この私が下士官! エルフィンド軍はもうないけれど、この村が私の所属部隊です。
というわけで私のブログはたった四回目にして終わることになりました。皆さん、読んでくれてありがとう。北半球の皆さん、夏を楽しみに。南半球の皆さん、雪遊びもいいですよ。宇宙基地の方々も読まれていると伺いました。この星はきれいですか。
戦場帰りの皆さん、穏やかな日々を送られてください。戦場の皆さん、勇敢であっても命は惜しんでください。私たちのことを思ってくれた親切な皆さんに心からの感謝を。ありがとう。さようなら。そしていつかこの村で会いましょう。さようなら、さようなら、さようなら。
追伸:私たちはこれから宴会の第三ラウンドです。盛り上がっていくぞ~!