深夜の冬木大橋。空気を切り裂く金属音が、夜の静寂を容赦なく破壊していた。
青い閃光と黄金の輝きが交錯する。ランサーとセイバー――最高峰の白兵戦能力を持つ二人の激突は、もはや人の目に追える次元を超えていた。
「――っ、やはり強いな、セイバー!」
「貴方もだ、ランサー。その槍、一分の隙もない!」
互いに敬意を払いながらも、その攻防は熾烈を極める。慎二は橋の欄干に身を隠し、震える手でその光景を見つめていた。隣には、静かに魔眼を凝らすライダーと、祈るように手を組む桜がいる。
均衡が崩れたのは、セイバーの一歩だった。
踏み込みと共に放たれた、神速の斬撃。ランサーは槍の柄でそれを受け流そうとするが、セイバーの放つ圧倒的な魔力放出の圧力に、わずかに足元が揺らいだ。
「しまっ……!」
「これで、終わりです!」
セイバーの剣が、トドメの一撃を放つべく黄金の軌跡を描く。ランサーの防御が間に合わない、決定的な死の瞬間。
――その刹那、影が動いた。
慎二の隣にいたはずのライダーが消え、セイバーの足元から漆黒の鎖が、蛇のように這い上がった。ほんの一瞬。瞬きにも満たない僅かな拘束。だが、超一流の戦士にとって、その一瞬は永遠にも等しい隙となる。
「……何ッ!?」
セイバーの動きが、目に見えぬ力によって凍りつく。その直後、ランサーの紅い槍が、防護を失ったセイバーの胸元を深々と貫いた。
「――が、ぁ……っ!」
黄金の光が霧散し、セイバーの体が崩れ落ちる。勝利を確信したランサーだったが、すぐに周囲を鋭い眼光で見渡した。
しかし、そこにはもう誰の気配もない。ただ、遠く離れた場所で桜を庇うように立つライダーが、まるで最初から一歩も動いていなかったかのように、冷然と佇んでいるだけだった。
「……ハッ。そうかい、そういうことかよ」
ランサーは槍を引き抜き、血を払うと、誰もいない闇に向かって不敵に笑った。
戦士としての誇りに傷がついたという思いはない。むしろ、あの無口なライダーが、自分たちの時間を守るために、泥を被ってまで手を貸してくれたことが頼もしかった。
「……よっしゃあああああああ! 見たか! 勝った! ついに、あのセイバーに勝ったんだ!」
慎二が狂喜乱舞しながら駆け寄ってくる。その顔は、勝利の興奮と優越感で真っ赤に染まっていた。
「聞いたかランサー! 僕たちの勝ちだ! 遠坂も衛宮も、これで終わりだ! 僕こそが……僕こそが最高のマスターなんだ!」
ランサーを称えるというより、自分の万能感を叫ぶ慎二。
ランサーはその騒がしい主人の肩をガシッと掴み、笑った。
「ああ、そうだな、慎二。……『俺たち』の勝ちだ。お前のしぶとい運の強さには、英雄様も脱帽だぜ」
ランサーは「俺」ではなく「俺たち」と言った。その言葉の半分が、闇に潜むライダーへ向けられたものであることを、慎二は知る由もない。
最強の敵を倒した高揚感の中、四人の絆は、皮肉にも隠された「共犯」によって、より一層分かちがたいものへと変わっていった。