ランサーは手入れの届いていない間桐の庭で、一輪の紫色の花を摘み取った。
「よう、ライダー。これ、お前にやるよ。……なんとなく、お前らしいと思ってな」
学校へ向かう準備をしていたメドゥーサに、ランサーは無造作にその花を差し出した。メドゥーサは足を止め、怪訝そうに眉を寄せた。
「……何の真似ですか。毒でも仕込んでいるのでなければ、気味が悪いのですが。……下心でもあるのですか?」
「けっ、下心だあ? そんなもん、お前みたいな堅物に出すわけねえだろ。……そこらで古くなって枯れかかってたから、摘んだんだ。もったいねえだろ、花瓶にでも活けといてくれ」
ランサーは照れ隠しにぶっきらぼうに言い放つ。メドゥーサは手渡された花をじっと見つめ、自嘲気味に口元を綻ばせた。
「古くなった花……。ふふ、確かに、今の私にはお似合いかもしれませんね。摘まれて死ぬのを待つだけというのも、私らしい」
「……はあ? 何言ってんだ、まだ十分綺麗だろ、そいつは」
ランサーが当たり前のように、さらりと言い切った。
メドゥーサは弾かれたように目を見開いた。怪物として疎まれ、長い年月を孤独に過ごしてきた彼女にとって、「綺麗」という言葉は最も遠い場所にあるものだったからだ。
「――っ! ちげえよ! 『花』が綺麗だって言ったんだよ! お前のことじゃねえ、自意識過剰なんだよ!」
ランサーは顔を真っ赤にして叫んだ。英雄として数多の女を口説いてきたはずの男が、今の今になって自分の失言に気づき、少年のように狼狽している。
その様子を見て、メドゥーサはここに召喚されてから初めて、声を立てて笑った。
「……私は何も言っていませんけれど? 勝手に慌てておられるのは、ランサー、あなたの方です」
「うるせえ! ほら、さっさと仕事に行け! 水をやるついでだ、そら!」
耐えきれなくなったランサーは、手近にあったホースを掴むと、シャワーを勢いよくメドゥーサに向けて放った。
「おっと……! ……ふふ、やはりあなたは、デリカシーに欠ける男ですね」
水飛沫を軽やかに避けながら、メドゥーサは花を大切に胸に抱え、そのまま風のように去っていった。
残されたランサーは、びしょ濡れになった芝生の上で「……クソ、調子が狂うぜ」と乱暴に頭を掻きむしった。
「――おい! ランサー、何してんだよ。早く行くぞ!」
物置から古いグローブを抱えて出てきた慎二が、不思議そうにランサーを呼ぶ。
「おう、今行くよ! ったく、今日はどいつもこいつも……」
ランサーは空になった手を一度握り込み、赤くなった顔を隠すように慎二の方へと駆け出した。