さよなら、バカ兄貴   作:みそそ

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ちっぽけな思い

黄金の光が夜を焼き尽くす。

 ギルガメッシュが放つ無数の宝具に対し、ランサーは紅い槍を風車のごとく回し、そのすべてを弾き飛ばしていた。だが、格の差は歴然だった。一本を弾くたびに、ランサーの肉体は削られ、血飛沫が舞う。

(……『友達なんて、僕の横にはいない。いるのは僕の顔色を伺う奴らだけだ』)

 脳裏に、慎二の冷めた声が響く。

 直後、数本の剣がランサーの脚を貫いた。

 ランサーは血を吐きながらも、一歩も退かずに踏み込む。

 かつて、慎二が自分のガサツな食事を見て「羨ましい」と漏らした、あの子供のような寂しげな瞳を思い出す。マナーや伝統に縛られ、一度も愛されたことのない少年の、冷え切った家。

(『父さんと……キャッチボール、したことないんだ』)

 慎二が震える手で投げた、あの日曜日の白いボール。

 その感触を思い出すたびに、ランサーの心には「もう一度あいつとキャッチボールをしてやりたかった」という、戦士にあるまじき未練が生まれる。その迷いを突くように、ギルガメッシュの「天の鎖(エルキドゥ)」がランサーの腕を縛り上げた。

「雑種め、戦いの最中に何を見ている。貴様が背負うには、あまりに矮小な価値よな」

 ギルガメッシュの冷徹な声が響く。だが、ランサーは不敵に口角を吊り上げた。

「矮小だと? ……ああ、全くだ。だがなあ、そのちっぽけな人生に振り回されてやるのも、お節介なサーヴァントの役目なんだよ!」

 咆哮と共に、ランサーは自らの腕を千切らんばかりの勢いで鎖を振りほどき、全魔力を槍の穂先に凝縮した。

 神速の突撃。

 それは、慎二の孤独、羨望、そして「置いていくな」という叫びのすべてを乗せた、渾身の一撃だった。

「――っ!」

 初めて、ギルガメッシュの顔から余裕が消える。

 紅い槍が王の黄金の鎧をかすめ、鈍い音を立ててその表面に深い傷を刻んだ。英雄王の不滅の防具を、ただの「パトス」が打ち破った瞬間だった。

 だが、そこまでだった。

 ランサーの胸を、ギルガメッシュが放った無数の矢が、そして巨大な剣が、容赦なく貫く。

 肺が潰れ、風穴が開いた胸から、命が急速に零れ落ちていく。

「……ハッ、……傷……つけたぜ、王様……」

 膝をつき、槍を杖にしてどうにか体面を保つランサー。

 ギルガメッシュは自らの鎧についた傷を忌々しげに見つめた後、消えゆく戦士へ冷酷な眼差しを向けた。

「……狂犬め。死に際にしては、随分と満足げな顔をする」

 夜の森に、ランサーの荒い、けれどどこか晴れやかな呼吸だけが響いていた。

 彼は待っていた。自分が逃がしたはずの、けれど必ず戻ってくると信じている、あのどうしようもない子供の声を。

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